2019.08.20
新宿ゴールデン街で40年間続くバー「しの」を知ってますか?
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文/秋山 都 撮影/菅野 祐二
新宿ゴールデン街、昭和が遺した最後の魔境
終戦後、闇市として発展した新宿区歌舞伎町1丁目の飲食店街は、ほとんどの店で女性に客を取らせていた通称青線(吉原、玉ノ井、鳩の街など風俗営業許可を取った赤線に対し、飲食営業のみで非合法に売春を行っていた)地帯。


老舗バー「しの」ママが語る、街の変遷

で、ご縁があってここへ店をだしたわけ。昭和40年代のゴールデン街ってのはまだ青線の気配が残っててね。まずキャッチがいるのよ。あら、キャッチ知らないの。呼び込みだよ。なんて呼ぶのかって? そんなの知らないよ。「お兄さん、ちょっと寄ってって」てなもんじゃないの。
この辺を歩けばわかると思うけど、建物のつくりはみんな一緒なの。マッチ箱みたいな3階建ての長屋がくっつくようにひしめきあってる。これはね、(青線時代に)1階が商談をする場所、2階は(行為を)いたす場所、3階は手入れが入ったときに「それ」ってんで逃げていく場所だったんだってさ。

有名な店っていうと今はもうないけど「まえだ」。中上健次(作家)とか田中小実昌(作家)とか内藤陳(俳優)とかね、有名な作家や役者が来るから編集者もたむろするようになって、その頃からゴールデン街っていえば文化人が飲みにくる場所みたいになった。
うちは有名なヤツも無名なヤツもおかまいなしだよ。みんな平等。でもよく来てくれたのは太地喜和子(女優)とかね。西江雅之(文化人類学者)なんて、おだやかで、場を和ませる、いい酒の飲み方をするひとだった。
どこの店にも偉いヤツや金持ちはくると思うけど、そんなのと若くて金がないのが同席するのがこの街の面白さ。自然に応援してやろうと一杯ご馳走してやることもあるし、人生相談にのってやることもある。そんなんでチャンスをつかんだひとも多いと思うしね。

え、怖い? いまはもうほとんどボル店もないから大丈夫よ。ボッてもビール1本5,000円くらいじゃないの。たいしたことないよ(笑)。ってのはまあ冗談だけど、ほんとみんな安全になっちゃった。
心配ならどこかひとつ信頼できる店から紹介してもらって、次から次へ、はしごしていけばいいんじゃないの。昔「唯似庵(ユニアン)」って店におきよって名物ママがいてね、よく、おきよが健全な街なんてつまらないって言ってたけど、ほんとその通りになっちゃった。
マレンコフって名前の流し(ミュージシャン)もいたけど彼は10年くらいまえに引退したのかな。今はもう流しはひとりもいないし、すっかり特徴のない街になった。ちょっと怪しげな街をくぐりぬけて(安全な)店にたどりつくから面白いんだ。
すべてに光があたる街なんて平坦でつまらないでしょう。暗部があるから魅力がひきたつ。私もすっかり古手になったし、いつまで店やるかわからないけど、ゴールデン街はちょっぴり怪しげな街であり続けてほしいね。

◆ しの
住所/東京都新宿区歌舞伎町1-1-9 新宿ゴールデン街
営業時間/18:00~翌5:00
定休日/日曜・祝日
お問い合せ/☎03-3200-8044