なぜ、いい女はダメ男に惹かれるのか？　名画を観たら理由がわかった

いい女がダメ男に惚れる。これは昔からよくあるパターン。甘え上手で生活能力はまるでないけど才能あふれる芸術家タイプとか、ちょっと不良っぽくてケンカっ早いんだけど、純粋で一途とか。まぁ、こればかりは、男としても、なろうと思ってなれるものではありません。が、そんなダメ男に惹かれる“理性では割り切れない”女心の綾を知るのも意味なきことではありますまい。というわけで、「いい女がダメ男に惚れる」古今の映画をご紹介。ただのダメ男とモテるダメ男の違いをお考えいただく、よすがとなれば幸いです。

まずは、最近のフランス映画『モン・ロワ　愛を巡るそれぞれの理由』から。学生時代に密かに憧れていたレストラン経営者のジョルジオ（バンサン・カッセル）と、ナイトクラブで再会した女性弁護士のトニー。すぐに恋に落ちたふたりは結婚します。ところが遊び人の男には常に女の影が。激しくぶつかり合う男女の10年を描く愛の傑作です。

遊び人のジョルジオには危険な匂いがぷんぷん。それでも女たちが放っておけないのは、全身から溢れ出る圧倒的な野性味と自信ゆえでしょう。このタイプに容姿の良さはあまり必要ありません。ただし、外見を補うものとして有効なのが自信を裏付ける財力、社会的成功、そして野性味です。以前、監督と話した際、森の王様、オオカミをモチーフに男を描いたと教えてくれました。絶対王者（ロワ）よろしく堂々と振る舞い、肉食動物さながらに支配してくる力強さには、自立したいい女だってついひれ伏してしまうのかもしれません。

こちらは大人の恋をシニカルに描く名人、ウディ・アレン監督の2008年公開の作品『それでも恋するバルセロナ』。慎重派のヴィッキーと、恋愛体質のクリスティーナは、アメリカを離れひと夏を過ごすバルセロナで、セクシーな画家ファン・アントニオ（ハビエル・バルデム）に出会います。彼に惹かれるふたりですが、美しく激しい気性の元妻まで現れて……。

まったく性格の違う3人の美女を魅了するファン・アントニアは、元妻に刺された挙句、泥沼離婚したダメ男。でも、人生のすべてを肯定できる自由でポジティブな一面と、美を素直に称賛できる芸術家らしいロマンチシズムが魅力です。彼の武器は、呼吸するように繰り出される甘い口説き文句。愛や人生についての小粋な会話を通して女をドキドキさせるのです。ハンサムじゃないけど、セクシーなのはそのせい。彼を怪しんでいた知性派ヴィッキーですらメロメロにするのは、反論にも耳をかたむけ丁寧に人生の楽しさを伝え、彼女の殻を破るから。楽しいことが嫌いな人などいないのです。

『グラン・ブルー　完全版』は、素潜りで深海“グラン・ブルー”を目指すフリーダイビングの世界を舞台にした物語。実在の天才ダイバー、ジャック・マイヨール（ジャン＝マルク・バール）をモデルに、彼と彼を愛してしまった保険調査員のジョアンナとの切ない愛の物語が描かれます。監督はリュック・ベッソン。

ジャックの魅力は、少年のような純粋さと孤高性です。彼の頭の中は、海のことでいっぱい。競技近くなると、ジャックの目には何も映らなくなるのです。何歳になっても自分の世界をもち続け、そこには誰も寄せ付けない。そんな孤高の男が、時折自分に向けてくれる優しい笑顔は、どんな女性にも「自分だけはこの人にとって特別かも」「自分だけに心を開いてくれる」と優越感を覚えさせます。彼の笑顔は、誰にでも愛想のいい男のそれとは別格。ちやほやされ慣れている恋愛経験が豊富な美女ですら、うっかり心を奪われてしまうのです。

ここで日本映画史に名を遺す、名匠・成瀬巳喜男監督による『浮雲』をご紹介。戦争中、ベトナムで出会った農林省役人の富岡（森 雅之）とタイピストのゆき子（高峰秀子）。恋仲になったふたりですが、男は妻帯者。帰国後、独身となって女と再会することを約束します。戦後、東京で再会すると、男は妻と別れておらず……。

富岡の魅力は、ずばりフェロモン。しかも辛辣な言葉で注意を引き、女心をかき乱すという高度な技も合わせもっています。場当たり的に気に入った女と関係を結ぶズルい男ですから、悪事を繰り返され、女だって手を切りたいと願っています。それでも別れを決意するたび上手く甘えてくるので、ほだされてしまう。別れきれない最大の理由は、抗えないほどの身体の相性の良さ。もう理性崩壊です（笑）。他人に何と言われても本能が相手を求めてしまう。理屈では説明できない、そんな関係もあるのです。

最後は作詞作曲家、シンガー、画家、映画監督、小説家、カメラマンと多彩な顔をもった鬼才セルジュ・ゲンスブールが生前に残したコメントを集めたドキュメンタリー映画『ノーコメント by ゲンスブール』
です。ブリジット・バルドー、ジェーン・バーキン、愛娘シャルロット、バンブーも登場。

LEON読者にもおなじみ、いい女に愛されるダメ男の象徴として、今も君臨し続けるゲンスブールは、フィクションのはるか上を行く華麗な恋愛劇を数多く披露してくれました。この映画にも描かれる多くの無頼派エピソードを遺し、醜男と言われながらも伝説的美女たちに愛されたのは、唯一無二の才能ゆえ。愛する女性をミューズと崇め、傑作を捧げてくれるのですから、彼女たちが惚れてしまうのも当然です。タブーを恐れず創作と愛に突き進む姿もクールだし、繊細なのに挑発的、知的なのに反逆的というギャップも神秘的。これぞ美女たちが愛した究極のダメ男の生き様。下手にマネするよりは、ただ伏して拝むしかありません。

以上、5本の作品をご紹介しましたが、それぞれに魅力的なダメ男を見るにつけ、モテないイイ男よりはモテるダメ男を目指すという選択肢もアリかな、なんて思ったアナタ、すでにダメ男の素質十分ですよ！　心してダメ男道に励んでくださいませ。