2021.06.26
「楽しみを先送りしない、やりたいことを今やる」のがニューノーマル!
コロナ禍で、平日は頑張って仕事・土日にリフレッシュというライフスタイルが過去のものに。休日に期待しない、平日に非日常な贅沢時間を楽しみ、その日のストレスを翌日以降にもち越さない人が増えているんです。
- CREDIT :
文/大川 将(SEEDATA チーフフューチャリスト)
こうした中、企業のマーケティングや事業開発において、コロナ禍において人々が身体的、精神的、そして社会的に良好な状態であるかどうか、いわゆる「ウェルビーイング」のあり方をどう捉えるか、ということに注目が集まっています。コロナによってストレスが増える中、人々がこれに対処しつつ、いかに幸福を維持するかが変化する可能性を見越してのことでしょう。
私は「Futurist(フューチャリスト)」という肩書で、これからの人々の価値観の変化を洞察することを生業にしており、若者からシニアまでさまざまな人々へのインタビューを日々行っています。そうした中で、この1年間は人々のウェルビーイングに対する考え方には顕著な変化があったと感じています。
つまり、いかにストレスと向き合うか、リラックスや幸福を感じる時間をどのように取り入れるか、という考え方が変化しているのです。今回は、インタビューを通じて見えてきた実際の変化について紹介します。
コロナで「土日への期待」が薄れた
これは、コロナ後の生活の変化についてインタビューしていたときの発言です。28歳会社員のMさんは、コロナ禍以降土日への期待が薄れたと言い、その分、平日のリラックスや贅沢時間が増えたと言います。
具体的には、昼休みに友人が配信しているオンラインのピラティスに参加したり、朝のシャワー入浴から夜に浴槽にしっかり浸かる入浴への切り替えなど。また、平日にわざわざ一から出汁をとってお手製のラーメンを作って食べてみたり、平日の楽しみ方に大きなバリエーションが出てきたとも話していました。
これまで、生活の中で抱えるストレスと、それに対するリフレッシュやリラックスという考え方は、暗黙のうちに1週間、あるいはそれ以上の中長期的なタームで設計されてきていました。「花金」という言葉に代表されるように、平日の仕事や家事、育児で抱えたストレスを、休日のバーベキューや旅行で解消するというのが通常でした。
ところがコロナ禍で休日への期待値が下がったことによりその均衡が崩れ、「休日にリフレッシュが望めないのならば平日に解消するしかない」というマインドを醸成しているのです。この考え方の変化を、私たちは「Weekly Well-being(ウィークリー・ウェルビーイング)」から「Everyday Well-being(エブリデイ・ウェルビーイング)」への変化と呼んでいます。
「月曜日の朝からノンアル」という贅沢
象徴的だったのは、「月曜日の朝からノンアルビールを飲む」という会社員のTさん(32歳)の発言です。
「普段平日の昼間からビールを飲む機会なんてない。なので、月曜の朝からノンアルのビールを飲むことで、ささやかな背徳感を楽しむことが贅沢感につながっている」
こういった発言をもとに考えれば、エブリデイ・ウェルビーイングにおける平日の贅沢感の作り方とは、ある行動の時間や場所を本来あるべきところからずらすことによって生み出されるケースが多いことがわかります。
休日にするべき行動を平日に、夜にするべき行動を朝に。もしくは、部屋ですべきことをお風呂で、ということもあるでしょう。こうした不規則な変化を生活に取り入れることで、土日に期待できない平日の過ごし方を、うまくプレミアム化することを試みていると考えられます。
また面白いことに、その日のうちにストレスを解消し、翌日以降にリフレッシュの期待を残さない、という価値観はさらに細分化され、1日の生活設計にも影響を及ぼしている場合がありました。ある女性が「コロナ禍以降もデリバリーレストランを使わない理由」として、以下のようなことを言っています。
「(デリバリーは)フレキシブルさを奪われることが嫌なんですよね。突然コーヒーを飲みたいと思って出かけるかもしれないし。そのときにデリバリーがくるからといって諦めるのが嫌。やりたいことをやりたいときにやりたいので、それを阻害することは極力排除したい」
IT企業で働くSさん(28歳)は、コロナ禍以降とくに、自分のこの後の行動を制限されないことに意識的になったと言います。同様の理由で洗濯機を乾燥機付きのものに変えた人もいましたが、その理由も「このあと干す行動が決められている状態を回避したい」というものでした。
コロナ禍以降、デリバリー利用は全体的には飛躍的に伸びているため、デリバリーはあくまで個別具体的な一事例ですが、その日、もしくは数日後の自分の行動を、今の時点で制限したくないと考える人は、体感的に増えていると感じます。
アルコールをやめて、ノンアルに
「仕事の終わりにお酒を飲むのではなく、寝る前に本を読んだり、勉強したりする可能性を残すために、ノンアルのビールやノンアルカクテルを飲んでいます」
これも先ほどのデリバリーや乾燥機付き洗濯機の事例と同様に、「この後の自分の状態を制限しない」という価値観の表れだと捉えられるでしょう。アルコールを飲んでしまうと酔ってしまい、その後にできることが限られてしまうかもしれない。だとすると、自分が本を読みたいと思い立っても、行動に移せなくなってしまう。そこで、いつでも普段どおりの自分に戻れる、ノンアルの可逆性を生かしたリラックス方法を取り入れているのでしょう。
この価値観の背景には、やはりエブリデイ・ウェルビーイング的な考え方が影響していると考えています。前述のとおり、コロナによって人々は休日やその先の暮らしにストレスのはけ口を期待しなくなっています。多くの場合、これは平日と休日のバランスの変化につながっていますが、一部の人には数時間後の自分の状況にですら期待を持たず、「今やりたいことは、今済ませておきたい」という考え方をもたらしているのではないでしょうか。
私たちはこの考え方を「アドリブ型行動」として注視しています。来週の日曜日に旅行に行く、金曜日の晩に飲み会がある、といった娯楽を事前に準備して期待して暮らす、いわば計画型の行動から、その日、その瞬間にやりたいことを解消していくアドリブ型の行動に変わっているのです。
いつでも、すぐにできる体験が重要に
その代表が、このコロナ禍で人気を圧倒的なものにしたニンテンドースイッチでしょう。ゲームフリークから一般層までを虜にするソフトウェアラインナップは当然としても、ポータブルでテレビを必要とせず、どこでも今すぐに楽しめるアクティビティーとして、コロナ禍以降の価値観にフィットしたとも考えられます。
コロナ禍における生活では、これまで以上に「いかにストレスと向き合うか」が重要になりました。そもそもコロナでストレスのかかる暮らしを強いられている中、そのはけ口となるような遊びの場も強く制限されています。
こうした中で、人々が自ずと導き出した解決策が、これまでに説明したようなエブリデイ・ウェルビーイングやアドリブ型の行動です。休日やこの先に期待できないからこそ、その日の中でストレスと楽しみのバランスをとっておく。楽しみは先送りにせず、今ここで消費しておきたい。そのためには、自分の先の行動を制限してしまうものを利用しない。こういった考え方を汲み取り、商品やサービスの設計に生かしていくことが、ニューノーマル時代におけるマーケティングや商品開発のカギとなるでしょう。