2021.07.03
山田孝之主演『全裸監督2』を絶対に見逃せないワケ
Netflix日本オリジナル最大のヒット作とも言えるのが、2019年8月に配信された山田孝之主演の『全裸監督』。完結編のシーズン2が、この6月に全世界独占配信されました。アダルトビデオ業界の頂点に立った村西とおるが地に落ちていく全8話を、最後まで見届けてみませんか?
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文/長谷川朋子(コラムニスト)

バブルが崩壊する1990年代に突入
シーズン2はというと、バブルが崩壊する1990年代に突入していきます。描かれるのは91年から94年の3年間。時代性を色濃く反映したシーズン1と比べて短期間な分、人間ドラマに軸足が置かれています。そのため、登場人物1人ひとりの関係性も復習したほうがより楽しめます。村西役を演じる主演の山田孝之はもちろん続投し、脇を固める布陣も同じ顔触れが多く、世界観そのものはシーズン1から途切れません。
人間ドラマの見どころとしては、シーズン1のラストでヤクザの世界に身を落とした村西の相棒トシ(満島真之介)と、村西が求めるエロスに最も理解を示すサファイヤ映像社長の川田(玉山鉄二)の切っても切れない村西との三角関係は外せません。3人が不器用にぶつかり合えば合うほど、村西の人間性があぶり出てくるのです。

さらに、シーズン2から登場する乃木真梨子(恒松祐里)という名の新たなヒロインは村西の意外な一面を見せるカギに。ほか、吉田栄作、伊原剛志、宮沢りえ、石橋蓮司、室井滋といったベテランから、渡辺大知、MEGUMI、西内まりやら日本のエンタメ界で活躍する役者たちが演じる役柄はどれも個性的。多様な人々との関わり合いの中で村西の人生は作られていることを表現しているかのようです。

「空からエロを降らせる」という夢

「日本全体がダメになったことを村西とおる1人に背負わせて、時に物笑いのネタのようにも扱われますが、実は誰もが笑えない話。程度は違えど、誰もがどこかで経験しているはずです」
つまり、自分ごととして村西を感じることができるからこそ、絶望の生々しさが伝わってくるというのです。これは没頭できる作品に共通する点でもあります。
「“全裸監督”は決して特別な人間ではないんです。野心を持つ人ほど、頑張っても堕ちていく場合があります。あなたにも身に覚えない? あなたの両親はそうじゃなかった? 家族や隣に住んでいる人もそうじゃない? そう問いかけることができる人間ドラマを作っています」
運にも周りからも見放される村西がとことん追い込まれていく姿は最大の見せ場でしょう。「村西が最も恐怖におびえる瞬間」を作り出すことは武監督がシーズン2でこだわった点だと言います。演じた山田自身が「孤立を感じた」と話していたそうで、それがなお一層リアリティを生み出していたのだと思わずにはいられません。
「もう一度シーズン1を観たくなる」

「ラストカットを観たら、もう一度シーズン1を観たくなるように、そう作っているんですよ。シーズン1はあくまでもイントロダクションであって、村西やトシ、川田、黒木らをドラマとして見せていったのがシーズン2なんです」
村西に限らず、働くこと、生きることに自己投影できた登場人物がいればいるほど、まんまと制作の狙いにハマってしまうかもしれません。シーズン2では玉山鉄二が演じた川田や伊藤沙莉が演じた順子が視聴者との距離を縮めさせる役柄だと思います。
気になるラストのシーンは「無事に撮影を完了させる」という想いが集約された場面でもあることがわかりました。というのも、撮影途中の3月の時期に世界中が新型コロナウイルス流行に伴ってロックダウンに見舞われたことが影響し、万全な予防対策体制を構築するまで一度、撮影中止に追い込まれたことがあったからです。その後、Netflixが世界に向けて打ち出した対策ガイドラインを指標にしつつ、日本独自のガイドラインを決めたことで、撮影が再開された経緯があります。30年のキャリアの中でも「これほど緊張感が途切れず長く続いた現場はなかった」と武監督が話す言葉を聞くと、接触するシーンが多いだけに実現できたことに驚きすら覚えます。
「コロナの時代にこんなことをしているのは地球上で俺たちぐらいだよ」と、キャスト、スタッフに武監督が呼びかけ、撮影が始まったというラストのシーン。そこで山田が渾身の演技で放つ劇中の台詞はなんとも憎い。見届けないわけにはいきません。
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