色とりどりのジャージーに身を包んだ選手たちの姿。ヘリコプターの空撮から見えるよう、『Vive le Tour!(ヴィーヴ・ル・トゥール!=『ツールよ永遠に!』の意)』の大きな文字が飾られた農場。沿道の観客から選手たちへの「アレ、アレ、アレ!(行け、行け、行け)」のかけ声。フランス人にとってはそのすべてが、バカンスの楽しい思い出や、夏休みがすぐそこに迫ったわくわく落ち着かない気持ちとつながっているのだ。
それは日本人にとって、甲子園の応援歌や金属バットの打音や試合終了のサイレンが夏を強く思い起こさせるものであることに、似ているかもしれない。
実際にレースが通過する時間より何時間も前から陣取り、ピクニックをしたり、庭でバーベキューをしたり、村の広場に設営されたパーティー会場で盛り上がりながら、まずはレースより数時間前にやってくる「キャラバン隊」のパレードを待つ。これはスポンサー企業がポップにカラフルに趣向を凝らして改造した宣伝車のパレードで、160台ほどの車両がグッズを配りながらレースのコースを行進していくものだ。お菓子や洗剤ミニパックやキャップなど他愛のない品ではあるが、観客たちはかなり真剣で、時には熾烈な争奪戦になるときもある。
沿道の多くの観客たちが、ツール関係者の車(ステッカーで判別がつくのと、レースの日は公道が封鎖されるため、コースを走ってくるのはすべて関係者の車ということになる)に向かって笑顔で手を振り、歓迎してくれる。車に乗っているこちら側も、お返しに手を振り返す。手を振ったり振り返したりというこのやりとりが、何十キロ、ときには百キロ以上にわたって、毎日続いていくのだ。そこには、ツールのために同じ場所に集まった者たちの、ツールを介しての不思議な一体感がある。
それはツールが、スポーツという枠組みを超えてフランス人の心に根づいているのだ、ということを実感する瞬間でもある。
EU最大の広大な国土面積を誇るフランスの気候や風土は極めて変化に富んでいて、フランスという国をめぐっていく「ツール」の醍醐味は、レースとともに旅をしながら、その変化を感じることでもある。だからツール・ド・フランスの放映は、空撮やモトカメラが美しい風景をたっぷりと映すし、レースが行われている地方の気候や風土、歴史や特産物について、解説者もしっかり時間を割く。
フランスのラジオが2016年に調査を行ったところ、ツールを観る第一の理由は、フランスという国の自然美や文化的遺産風景を楽しむためであるという回答が50%に上った。ツールを通してフランスという国の魅力を発見し、その見どころをめぐる旅をヴァーチャルに体験できることも、ツールが「スポーツ」という枠にとどまらない、と言われる理由のひとつかもしれない。
スタート地のノワールムティエ島からゴールのシャンゼリゼ大通りまで、21日間のレースの総走行距離は3351km。レースについていえば3週目のはじまりを目前にして、21日間全体を通しての総合優勝をめぐる争いは日々ヒートアップしている。ピレネー山脈を舞台にした数日間や、華やかに幕を閉じるパリの最終ステージなど、まだまだ見どころはたっぷり。ぜひ、ツールを通して、フランスという国の魅力と美しさを発見してほしい。
<ツールを楽しむために知っておきたい、基本ルール>
1)ツール・ド・フランスでは、毎日1ステージずつ21日間レースが行われるが、21日間全体を通して競われる成績だけでなく、1日ごとにも優勝が争われ(ステージ優勝)、順位もつく(ステージ順位)。成績は、ゴールまでの所要時間と順位によって決まる。また、毎日その日までの成績を累積した暫定成績が計算され、これも表彰される。
2)選手たちは8人1チームでレースに参戦するが(8人x22チームで176人の選手が出場)、成績は個人につく。(チームにつく成績もあるが、より主要な賞は個人の成績につく)。各チームにはいわゆる「エース」がいて、多くの場合チームメートは自分の成績を犠牲にして、エースのサポートに徹する。
3)レースは、その日の地形や天候によってがらりと性格を変える。たとえば、起伏のない平坦なステージで優勝を争うのは、瞬発力に富んでガッチリとした「スプリンター」(短距離のスプリントからついた名前)。一方、山岳のステージで登坂を得意とするのは、ほっそりとして身軽な「クライマー」。そのどちらでもない選手もたくさんいる。丘陵地帯のように少し起伏のあるコースが得意な選手もいれば、雨や風などの悪条件に強い選手などもいる。
4)途中でケガをして完走できなかったり、優勝者の時間を大幅にオーバーしてゴールしてしまうと、翌日以降出場を続けることはできない。
◎ ステージ優勝(ジャージはチームのジャージのまま)
◎ 総合優勝(黄色のジャージ) 21日間全体で、走破タイムが最も小さい選手(21日間の全ルートをもっとも早く走り終えたことになる)
◎ スプリント賞(緑色のジャージ) 各ステージのゴール順位によって与えられるポイントと、ステージ途中に設置された「中間スプリントポイント」の通過順位によって与えられるポイントの合計が最も大きい選手。
◎ 山岳賞(白に赤の水玉のジャージ) 峠の頂上の通過順位に応じて与えられるポイントの合計が最も大きい選手
◎ 新人賞(白色のジャージ) 25歳以下の選手の中で、21日間全体の走破タイムが最も小さい選手
※ 最終成績が確定するまでは、その日までの暫定成績で最上位の選手が毎日表彰され、その色のジャージを着用して翌日のステージを走る。