2018.12.11
投資の要は2つ。ロマンとそろばんの両立【vol.07】
シンガポールを拠点にアジアを巡るエンジェル投資家、加藤順彦ポールさん。この10年、東南アジアを中心に周る中で得た、投資の知識や処世術、そして関わるひととの熱いドラマを展開します。
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文/加藤順彦
投資に必要な要素とは?
投資参画先Skype英会話の「ラングリッチ」の教務拠点がフィリピンのセブにあり、同社社長に紹介されて当時インターン生として来ていた深田さんの事業案を伺いました。
その際、僕はけっこうなダメ出しをしました。深田さんに限りませんが、僕のエンジェル投資の判断基準は……。
第一にお金が儲かる(儲かりそうな)こと。
第二に事業を通じて誰が幸せになるかが明らかなこと。
“ロマンとそろばんの両立”です。
深田さんはビジネスやテクノロジーを通じて貧困問題を解決したい、社会課題解決に現地で取り組みたい、という思いで起業を志していましたが、その折りのプレゼンでは、アイデアが実現したとしても、いかにして儲けることができるのか、が僕には伝わらなかったのです。
翌月再びセブに行ったところ、一度断ったにも関わらずなんと再び深田さんからプレゼンがしたいと。しかし二度目はよく練られた収益化のアイデアが混ざっていました。
日本に貢献する日本人起業家を育てたい
僕はその考えをネットメディアやインタビューで意識して発信するようにしていたのですが、深田さんがそれを読んで、プレゼンのなかで彼自身が成功のロールモデルになりたい、との発言があったのです。
感動した僕は、彼のプランの当初リスクを負うことをその場で決めました。DeNAは1999年の設立直後にエンジェル投資した会社ですが、同社出身の方から起業のプレゼンを受けたのは始めてで、彼の粘り腰をなんだか嬉しく感じたことも覚えています。
同年10月、「YOYO Holdings Pte Ltd」をシンガポールに設立。僕は深田さんら創業役員の出資から20日遅らせて10倍の株価で出資しました。
実際の開発と事業の地はフィリピン首都のマニラにしました。フィリピンは東南アジアでも英語が第一言語で、人口は一億と多く、今後の経済の大伸長が期待できるからです。また深田さんの問題意識の根底にある壮絶な貧困がフィリピンには顕在していました。
それでもシンガポールに本社を置いたのは、フィリピンの会社ではカントリーリスクが大きく、かつ流動性が低く、日本の事業会社やVC(ベンチャーキャピタル)が非常に出資しにくいからです。これは僕がエンジェル投資している他のシンガポールに本社を置く会社においても同じ意図からです。
同社は2015年の新経済連盟NES のピッチコンテストで優勝したプロダクト「PopSlide」を軸に幾度か大幅な仕様変更を経て、2018年2月に3度目の第三者割当増資を実施。
僕個人も設立時に続き2度目の投資(フォロー投資)を最初とほぼ同じ金額を被せました。これまで累計で70社ほど投資をしてきましたが、 もともと出資していた会社に追加で被せて2度目の出資をするのは、都合で3度目。
僕は、この自らの行為を「根性焼き」と呼んでいます。YOYOを含め、3度いずれもその前後の脈絡や第三者割当の経緯に僕自身が深く関係しており、「加藤さんが被せるならば、ウチも乗っかります」という文脈なので、根性焼きと。
粘り強さが成功をたぐり寄せる
深田さんはとにかく粘り強い人です。自分の拘りにも筋が通っていて呆れるほど頑固です。これは2015年7月の彼への取材記事ですが、今も根っこが全くぶれていません。
自分に超厳しく、他人にもわりと厳しいかなぁ。笑
もし数年後、深田さんの手がある程度空くことになったら、少しでも力を貸してほしい参画先がいくつかあるんです。というか何年も前から、深田さんがもう少し余裕のある立場にならないかな、と思っているんですけど……困ったことに全くそうはならない。
深田さん、恐らくこの6年で今が最もフル回転しているんじゃないかな。いや、いつだって全力疾走してきたかな。
● 加藤順彦ポール(事業家・LENSMODE PTE LTD)
ASEANで日本人の起業する事業に資本と経営の両面から参画するハンズオン型エンジェルを得意とする事業家。1967年生まれ。大阪府豊中市出身。関西学院大学在学中に株式会社リョーマの設立に参画。1992年、有限会社日広(現GMO NIKKO株式会社)を創業。2008年、NIKKOのGMOグループ傘下入りに伴い退任しシンガポールへ移住。2010年、シンガポール永住権取得。主な参画先にKAMARQ、AGRIBUDDY、ビットバンク、VoiStock等。近著『若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録』(ゴマブックス)。