2019.06.17
なんでこうなるの!? 好意のつもりが、セクハラになるワケとは?
恋愛に年齢は関係ありません。それはそうなんですが、仕事を通じて知り合った年下の彼女に突然セクハラで訴えられる! なんてことも最近はあるようで。あなたのその気持ち、本当に彼女に通じていますか? 一方的な純愛は危険ですよというお話です。
- CREDIT :
文/紺野美紀
それって勘違い!? 単なるうぬぼれ!?
これ、自分としては相手に惚れていて、相手も自分に気があると思って積極的な行動に出たら、実は相手にその気がなくて、逆にセクハラで訴えられるというパターン。本人としてはかなりショック!ですよね。でも実は、この手の問題が、最近増えているのだそう。
企業のパワーハラスメントやセクシャルハラスメント事案に関する調査を多く担当してきた弁護士の渡邉宙志さんにお話を聞きました。
「疑似恋愛型とはずいぶん優しい言い方。それよりも、“うぬぼれ型”もしくは“勘違い型”と言うべきですね」とのっけから厳しい渡邉さん。
その典型的な“勘違いセクハラ”の例を聞くと。
「例えばかなり地位のある上司がだいぶ歳の若い部下からセクハラで訴えられたとしましょう。酔った勢いで女性を自宅に連れ帰ったとして、訴えられた男性が『あいつは自分のことを好いていた』と言い出したとしても、これはほぼ間違いなく勘違いです」
これに対して渡邉さんの答えは、
「真実がどうであろうと、それなりの地位にある方がこのような訴えを受けた時点で社会的にアウトです。お酒で記憶が曖昧だとか、女性が積極的だったと言われても、本人がそれを否定した以上、誰が男性の言い分を信じることができるでしょう。仮に、女性が好意を寄せているとしても、それは、仕事上の尊敬の気持ちであって、男女のそれではないんです」
そんな身も蓋もないことを……と思われるかもしれません。
が、社会学者の牟田和恵さんは著書『部長、その恋愛はセクハラです!』の中で次のように語っています。
「中高年男性が(自分を)仕事のできる上司、頼りになる先輩、尊敬できる先生と思ってもらえるのですからうれしくないわけはありません。しかもそれが若く可愛い女性なら格別でしょう。そういう女性の態度を『ひょっとして俺に気があるのかな』と錯覚するまでは、ほんのちょっとです」
メールやLINEも錯覚を助長するツールだといいます。若い女性から「今日は楽しかったです♡」といったハートマーク付きのLINEを受け取ること、よくありますよね(笑)。普通はそれだけでのぼせ上るほどウブな大人はいないと思いますが、そんな小さなことが繰り返されていくうちに、大いなる勘違いに発展する危険性もあるということ。
ふたりの気持ちではなく、第三者からの目
セクハラとは相手が嫌がっているにもかかわらず性的なことを言ったり、行為をしたりすることと思いがち。ですが、この“疑似恋愛型”では、女性が嫌がっているようには感じ取れないパターンがよくあるといいます。それで男性側は「なんで?」となるわけです。
「実際に恋人関係であったとしても、気持ちは突然変わることだってあります。その時に、突然セクハラで訴えられることもありえます。誤解を恐れずに言えば、お互いに恋愛感情があったかどうかは関係ありません。まずは先ほど言ったようなふたりの現在の関係性をきちんと認識することです。そのうえで、どのような発言をしたか、どのような行為をしたかということ。自分の行動を客観的に見た場合に、他人が眉をひそめるようなことをしていたとすればセクハラになると思うべきですね」
そこまで厳しく考えなくても……と思いますか? でも実際にそれで訴えられる事例が増えているという事実は覚えておくべきでしょう。
そもそもセクハラの定義はとても曖昧です。
「明確な線を引くことは逆にとても危険です。じゃあ、ここまでならOKだよねと誰も判断することはできません」
では、もしセクハラで訴えられた場合、どのような対処をすればいいのでしょうか。
「セクハラは強制わいせつや強姦にあたるような一部の悪質な行為を除いて、即有罪、犯罪者であるというレッテルを貼られるわけではありません。ですが、男性が過剰反応してしまい、頑に事実を認めないことで事態を悪化させることが往々にしてあります」
これはもう、素直に謝るしかないようです。そのつもりが無かったと言うのなら、それも含めて謝るのが賢明です。女性側だって、コトを荒立てたいわけではないのですから。
職場恋愛は通常以上に誠実さと配慮が必要
渡邉さんは「とにかく自分を客観視することですね。相手が自分に好意を抱いているように感じても、まずお互いの立場、関係性を冷静に考えることです。そのうえで謙虚に相手方の真意を確認することです」
牟田和恵さんも著書の中で、デートに誘うときに気をつけるべき3カ条を上げています。
(1)仕事にかこつけて誘わないこと
「新プロジェクトの話をしたいから、この後もう一軒行こう」というのは絶対にNGです。
(2) しつこく誘わないこと
断りづらい場合、女性は「その日は予定があって」などと言います。にもかかわらず「じゃあ、来週は?」などと誘い続けるのは無神経というものです。
(3)腹いせに仕返しをしないこと
好意に応えてくれない場合、顔を合わせるのも気まずいかもしれません。だからといって、プロジェクトから外すといった行為は間違いなくセクハラになります。
渡邉さんによれば
「職場恋愛をしている人がみんなセクハラで訴えられるわけではありません。正直言って、セクハラで訴えられる人は残念な人、器の小さい人が多いような気がしますね(笑)。最初に“疑似恋愛型”ではなく“うぬぼれ型”と言ったのは、そういうことです」
そこまで言われると、逆に「職場恋愛上等! やってやろうじゃないの」と燃えてしまう男性もいるかもしれませんが(笑)、まさに男としての度量が問われるのが「職場恋愛」と考えてよさそうです。
特に「me too」の運動などで、女性が声を上げることが出来るようになった昨今。企業側もハラスメントには敏感で、被害者が声を上げた場合には徹底的に調査をし、被害者が不利益を被らないよう最大の配慮をしています。
そんななかで幾多のリスクを勘案しながらも、じっくりと愛を育み、素敵なカップルになれれば、これはお見事というほかありません。虎穴に入らずんば虎児を得ず。恋はハードルが高いほど実りも多いと言います。LEONとしても、そんなアナタを応援したい。ただし、慎重のうえにも慎重に、が鉄則ですよ!
● 渡邉宙志(わたなべ・たかし)
弁護士。「プロアクト法律事務所」所属。企業内の役職員向け研修、危機発生時における記者会見実施の支援や、風評被害対策など、企業の健全な管理と活動を総合的に支援。危機時の実務対応における社内、社外の豊富な現場経験を踏まえて、社内調査や顧客対応、当局対応といった現場対応など幅広く支援する。パワーハラスメントやセクシャルハラスメント事案に関する調査業務も数多く担当。
※参考書籍『部長、その恋愛はセクハラです!』牟田和恵著。集英社新書刊。