2022.01.18
ハーバードとジュリアードを首席卒業。世界が注目するバイオリニスト廣津留すみれの思考法とは?
世界の最難関校であるハーバード大学とジュリアード音楽院を共に首席で卒業し、現在バイオリニスト、起業家としても活躍する廣津留すみれさん。人並外れた実績の裏には一つひとつの作業を丁寧にこなしていく積み重ねがありました。その学び方の極意とは?
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文/牛丸由紀子 写真/椙本裕子
地元大分県の公立高校から塾に通うことなく、ハーバード大学に現役合格。首席で卒業すると、さらに子供の頃から続けていたバイオリンを極めるべくジュリアード音楽院へ進学。こちらも首席で卒業し修士号を取得後は、演奏活動をしながら、ニューヨークで音楽コンサルティング会社を起業と、若い(現在28歳)ながらも大活躍の廣津留さん。まさにこれまでの常識を超えたニューエリートです。
ハーバードで学業は当たり前。プラスで何をしたいのか?
廣津留 私は3歳からバイオリンを習っていて、小・中・高では学業とバイオリンを両立することが一番の目標だったんです。バイオリンでは、高校1年の時にイタリアの国際コンクールに出場し、グランプリをいただきました。その副賞で高2の時に全米で演奏ツアーをすることになり、最後の会場がニューヨークのカーネギーホールだったんです。
廣津留 まったくそうではありませんでした。そもそも日本の大学もまだ見ていなかったので、初めての大学見学だったんです。だから最初は「ハーバードって本当にあるんだ」という感じでした(笑)。でもとにかく学生がみんなワクワクしていて、目がキラキラしているのを見て「いいな」と感じました。例えばシェイクスピアの演劇の舞台袖では論文を読んでいるけど、照明が当たれば一気に役にのめり込んでいったり、ボートチームなら早朝にめちゃくちゃ練習して、9時からは完璧に切り替えて授業に集中していたり。学業は当たり前で、プラスで何をしたいのか、みんな明確に分かっているんですよね。
── でもそれほどのバイオリンの技術があれば、普通は音大に進むことや、プロの音楽家になることを考えそうですが、その選択肢はなかったのでしょうか?
廣津留 やっぱり幅広い分野を知りたいというのがまずありました。アメリカの大学は学部を決めて受験するわけではないので、学びたい分野は入学後に選び放題。私は何か新しいことを学ぶのがすごく好きなので、そこに魅力を感じたのは大きかったです。またそれまでずっと学業とバイオリンを両立していたので、突然、音楽だけになるという選択肢はなかったですね。
とにかく時間管理が大事。タスク解決はすべて5分間の集中で
廣津留 英語も授業レベルとなると大変だし、先生のレクチャーも進度も速い。さらに毎日多くの課題に追われているので忙しすぎて、ホームシックになる暇もなかったです(笑)。あと、向こうでは友達(人脈)作りのための社交がとても大事。だから土日はパーティーに行かなければならないのですが、パーティーなんて大分県人からしたら初めてのことばかりで、見よう見まねでこなしていました(笑)。
だから、とにかく時間管理が大事。与えられた機会は逃したくないので、それを詰め込むと毎日のスケジュールがテトリスのように埋まっていきます。そこでToDoリストを作り、1つのタスクにはとにかく5分間集中して、必ず終わらせる。その“5分間メソッド”を繰り返して、やるべきタスクを効率的に片づけるようにしていきました。バイオリンの練習もやはり5分単位のタスクにして取り組んでいましたね。
廣津留 当時は1日24時間じゃ足りなくて、やらないと睡眠時間がない! という感じでこなしていましたが、気づけば自分自身のリミットをいつの間にか広げられたと感じています。
廣津留 人との関わりが一番ですね。もちろん習った知識も大事ですが、とにかくお互いを尊敬しあう環境がもう素晴らしくて。なぜ尊敬しあえるかというと、一人ひとりが必ずなにか自信ある分野をもっていたから。Webビジネスで起業していたり、子供の脳にかなり詳しい人がいたり、ドラゴンフルーツに特化したビジネスを立ち上げていたり。みんなまったく異なる分野の最先端を研究しているので、寮で話していてもとにかく学ぶことばかり。自分ももっと頑張らなきゃという気持ちになるし、みんなが高め合う環境にいたことは、本当に貴重な体験だったと思います。
他人には絶対負けない、自分を語る“ツール”をもつことが自信に
廣津留 自分の得意分野はひとつだけではなく、やっぱりいろいろあった方がいいとは常に思っていて。特に今の時代は、なおさらそう思います。一つだけに賭けていても、明日何が起きるかわからないですから。そしてその中で、一本の軸を決める。
── 自分を語る何か“ツール”を持つべきということでしょうか?
廣津留 何か一つ、これは絶対負けないというものがあれば、どんな人と話していても絶対語ることができますよね。自分を人に語れるということは、すごく自信にもなる。人のことを羨んだりするのは、自分に自信がないことの現れ。ハーバードで自分が感じたように、自分に自信があれば、人のことも尊敬できると思うんです。
廣津留 何でもいいと思います。「ゲームがめちゃくちゃ得意」でもいいし、「家庭菜園が大好き」でも。あるいは自分の仕事でもいい。大切なのは、なぜ自分がそれをやりたいのか、どれだけのパッションをもっているかをいかに熱く語れるかですよね。
── 今はなくても、これから新しく見つけることもできる?
廣津留 そう思います。例えば将来イタリアに移住してビーチで過ごしたいと思えば、イタリア語を極めるとか、もうちょっとイタリアンファッションを研究してみようとか。物事を学ぶのに遅すぎることはないので、
私も新しいことを次々にやってみたいです。
大事なのは、今、できないと思う理由に向きあうこと
廣津留 例えば今、時間もお金も心にも余裕があるという前提なら、きっとやりたいことってたくさん出てくるはず。今は「でも○○があるから…」と自分の中で言い訳して、できない理由を見つけている人も多いのではないでしょうか。
だから一度、お金や時間など足かせになっている条件をすべて取り払ったら、という前提で考えてみると、本当にやりたいことが見えると思いますね。
── やりたいことが見つかっても、一歩が踏み出せない。特に年齢を重ねると躊躇しがちになることも。
それと大事なのは、できない理由が何なのかを一度ちゃんと考えてみること。なぜできないのか、その理由を洗い出してちゃんと向き合えば、「言い訳してるだけだった」と気づいたり、実は解決できることも多いと思うのです。
私は毎日To Doリストを作るんですが、終わったら必ずご褒美じゃないけど、楽しみになるものも作っておきます。Netflixを観るでもコンビニデザートを食べるでもいいし、ちょっといいワイン飲もうとかでもいい。これがあるから今日頑張ろう、1週間終わったら週末はこれがあるから頑張ろうと、それだけで乗り越えようという活力になりますから。
私の場合は“寝る”というのもご褒美です。1週間で半日ぐらいはちょっと完全オフを作りたいなと思って、オフ日は午前中しっかり寝て頭をクリアにしています。
廣津留 頭が回転している時は、途中で止めてしまうとまた動き出すのが大変なので、平日は集中して、休日、自分で決めた時間だけはゆっくりする。そう決めておけば寝ていても罪悪感もない(笑)。それこそGoogleカレンダーに「寝る」って入れてもいいですよね(笑)。
「知らない」と言えることは、次への興味のスタートに
廣津留 やっぱり自分の芯を持っているというか、自分にはこれがあるからと自信を持っている人は素敵だなと思います。
── それは一歩間違えると、自慢になってしまう人もいるような……。
廣津留 それは残念ですね(笑)。「誰々と知り合いだ」とか「何とか賞を取った」とか、いろいろ説明されるのは、まだ“自信”になってないのだろうと思います。自信があるなら、余計な説明はなくてもいいはず。そこが自慢との違いだと思います。
それから、ひとつのことをとことん掘り下げられる人は、すごいなと思います。(取材用レコーダーを指して)例えばこのICレコーダーはなぜここにマイクが?という疑問に、「そんなのどうでもいいよ」で終わるより、「確かに、じゃあここに付いてたらどうだろう?」とか、ちょっとしたことでも、何か自分の疑問や興味に繋げられる。常に好奇心とか学びがある人は、素敵だと思います。
廣津留 そうですね。変にカッコつけずに、面白いことは面白いと言えるし、わからないことはわからないと言える。特に大人になると、「知らない」ってなかなか言えないですよね。でも知らないからこそ、次への興味へとつながっていく。だから疑問や興味を自然体で言える人、やりたいと思ったことに全力を注げる人はカッコいいなと思います。
過去の目標は古い情報。常に今の自分の直感を信じて
廣津留 今が幸せです。コロナ禍で突然日本に帰ることにはなりましたが、一番自分がやりたい演奏活動にも集中できていますし、大学講師の仕事もTVの仕事も楽しいですしね。もちろん必ずしも簡単なことばかりではないですが、だから緊張感も勉強のしがいもある。自分が慣れた快適な環境、コンフォートゾーンを超えていくことこそが楽しい。自分のリミットを押し上げてくれる今の環境が幸せだと思います。
実は、私はあまり先の計画を立てないんです。1年くらいのスパンではそこそこ計画を立てますが、それ以上の先まで決めてしまうと、せっかく面白いことが起こってもその場で対応できなくなりそうでイヤなんです(笑)。ガチガチに決めず、常にチャンスを掴む準備をしておきたいですね。
廣津留 その時はもうその直感を信じます。目標を決めたのは数カ月前の古い自分ですから、半年前にいいなと思ったことも、今はそうではないかもしれない。常識はどんどん変わり続けるもの。途中で得たインスピレーションには柔軟に対応した方が、もっと違う道を開けるのは間違いない。だから、常に今その瞬間の自分を信じたいです。
●廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)
1993年、大分市生まれ。高校在学中にNY・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学(学士)・ジュリアード音楽院(修士)を卒業後、NYにて音楽コンサルティング会社を起業。世界的チェリスト、ヨーヨー・マと度々の共演を果たしたのを皮切りに、米国にて演奏活動を拡大。The Knightsのメンバーとして録音したギル・シャハムとの最新アルバムがグラミー賞2022にノミネート。演奏の傍ら、英語セミナーSummer in JAPANの開催や「講演演奏会シリーズ」の企画など多方面で活動中。 著書に『超・独学術』(KADOKAWA)等。テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』金曜レギュラー。成蹊大学客員講師・国際教養大学非常勤講師。
【廣津留すみれ 講演演奏会 Vol.9】
今年も絶対目標叶える! 実践ワークショップ&ほっと温まるウィンターコンサート
【日 時】 2022年2月16日(水)
19:00~20:45(開場18:30)
【会 場】 汐留ホール(日仏文化協会内)
【定 員】 65名
【参加費】 大人(高校生以上)/6600円 (税込)
小・中学生/4400円(税込)
HP/https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01nkahgr9b221.html