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2022.02.11

鈴木保奈美「誰のママとか誰の奥さんとカテゴリーで呼ぶのは、もういい加減にしようよって思う」

かつてのトレンディドラマで一世を風靡し、可愛いだけじゃないカッコいい女性の代名詞ともなった女優の鈴木保奈美さん。その後、結婚、子育てを経て、今また女優として精力的に活躍を続ける保奈美さんの素顔は、さらにシャープさを増したカッコいい大人の女性でした。インタビューの後編をお送りします。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリスト/犬走比佐乃 ヘアメイク/福沢京子

佐藤琢磨
今回の特集では、既成概念にとらわれず、その行動によって時代を切り拓いてきた「カッコいい大人」たちが登場。かつて一世を風靡したトレンディドラマで、確固たる自分を持ち、欲しいものは自分から手に入れるヒロインを演じ、新しい「いい女」像を体現した鈴木保奈美さんは、その筆頭です。

4月には、25年ぶり2度目の舞台『セールスマンの死』に挑戦。後編(前編はこちら)では、久々の舞台に臨む思いや、これからの50代をどう過ごしていきたいかについても伺いました。カッコいい保奈美さんが考える「カッコいい大人」とは?

やっと舞台の面白さがわかるようになってきて

── 4月にパルコ劇場で上演される舞台『セールスマンの死』に、かつて敏腕セールスマンだったウィリー(段田安則)の妻で、専業主婦のリンダ役で出演されます。なぜ今舞台なのか、出演を決めた理由を伺えますか。

鈴木 実はここ数年、「舞台やってみたいんだけど」といろんなところで言っていまして。ずっと出たい、出たいと思っていて、やっと声をかけていただけたんです。『セールスマンの死』というのは有名な作品で、なんとなくは知っていたのですが、作品や内容ということよりは、「パルコ! 段田さん!! やります!!!」という感じで即決でした(笑)。

── どちらも、俳優さんにとっては願ってもないチャンスだと?

鈴木 お芝居を仕事としていて、パルコ劇場に立つというのは、望んでもなかなかできることではないですし。しかも、25年もブランクのある自分が立たせていただけるのは、それだけでありがたいことです。段田さんは、説明の必要もなくとても素敵な方で、ご一緒することで学べるものがいっぱいあると思います。今回、一カ月間のお稽古からご一緒できるので、こんなにいい機会はないと思いました。

── ここ数年で舞台をやりたいと思うようになったのはなぜですか。

鈴木 若い頃は、舞台を見に行っても、見方がわからないというか、どう見れば、どんなふうに楽しめるのかがよくわからなかったんです。けれど、40代、50代になって、仕事で共演する俳優さんから舞台のお話を伺ったり、その方が出ている作品を見に行ったりするうちに、やっと面白さがわかるようになってきて。自分もやってみたいな、と思うようになりました。
佐藤琢磨
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── 『セールスマンの死』は約70年前のアメリカが舞台ですが、ご自身は、現代に共通するテーマを感じてらっしゃるそうですね。

鈴木 あまり認めたくないことではありますが、やはり年を取っていくことのネガティブな意味や、格差というものが徹底して描かれていると思うんです。脚色前の台本を一読した感じでは、専業主婦として家族に尽くす(保奈美さんが演じる)リンダをはじめ、女性の描き方や、男性の描き方もわりとステレオタイプです。それは、好ましいか否かに関わらず、現実としてはそうであり、残念なことに70年経ってもあまり変わってないというのは非常に感じました。

ですけど、それをイギリス人のショーン・ホームズさんという演出家がそのまま作品にしていくのか、何かそうじゃない視点を持ち込むのかはもう演出家次第だと思っています。2月の稽古までにはエディットされた台本が届くので、今はそれをとっても楽しみにしている状況です。

妻や母という役割じゃない“リンダ自身”を見つけたい

── ウィリーもリンダもその息子たちも、輝かしい理想と厳しい現実の間で折り合いがつかずに苦悩しているように見えます。理想を持たないと前に進めないけれど、持ちすぎても現実は理想通りにいくとは限らない。保奈美さんご自身は、人生の理想と現実みたいなものを感じることはありますか。もしあるなら、それとどう向き合おうと思っていますか?

鈴木 私自身は、理想と現実という考え方を、あまりしたことがない気がします。理想が上の方にあって、自分はまだここで、乖離してるみたいな感覚は、あまりないというか……。私のイメージする理想って、もっと現実離れしたもので、本当に夢のような、ありえない形っていうのかな。例えば、私はいつも、歌がうまく歌えたらいいなと思っているんです。JUJUさんとか、絢香さんとか、いきものがかりぐらいに歌えて(笑)、ばんばんミュージカルとかに出られたらいいなぁっていう。

でもそれは夢みたいなことですし、そうじゃない現実の自分と折り合いがつかないからどうしようっていう話ではないですよね。なので、そういう意味では「こうなりたい」みたいな夢を、実はあまり見てないのかもしれません。
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佐藤琢磨
── なるほど。では、作品におけるリンダの役割みたいなものは、どう感じていますか。

鈴木 今、思い浮かぶことは2つあって。ひとつは、私は子どもがいることもあって、リンダと息子2人との、母と子の関係が面白いなと思っていて。そこをどう膨らますかによって、彼女の役割も見えてくるだろうなと思っているんです。そして同時に、リンダは一見、男たちが暴走するのを一生懸命調整しようとしているように見えますが、本当のところはどうなのかなと。妻や母という役割じゃない“リンダ自身”を見つけたいなと今は思っています。

── 当時は今以上に、女性が自分を確立させるのが難しかった時代ですよね。

鈴木 この作品もそうですが、特に時代劇で戦国ものなどをやっていると、いくら調べても、女の人は本当にその人自身の記録が残ってないんですね。まず苗字がないし、誰々の娘として生まれ、誰のところに嫁に行き、子どもが将軍になったとか、そういう記録しかなくて。70年前どころか、たぶん、700年とか800年前から、相変わらず同じことをやってるんだなと思うんです。

そして今も、世界でも日本でも、女の人が「誰のママ」とか「誰の奥さん」というカテゴリーで呼ばれることはまだまだ多くて。私はそういうやり方は嫌だし、もういい加減にしようよって思うんですけれども。とはいえ、私自身も、若い頃はそれを疑問に思わず、そういうものだと思っていたし、男性も女性の側もそう思ってきている方がたくさんいるのは仕方のないことで。

だからこそ、こういうところで少しでも、「ウィリーの妻」とか「息子たちの母」じゃない、“リンダはリンダ”っていう描き方ができたらいいんじゃないかなと思います。小さな一歩ですけれど、この錚々たる男性陣の中で私ができることって、もしかしたらそういうことかなと思います。
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面白そうなものにはすぐ乗っかれる自分でありたい

── 25年ぶりの舞台ですが、この仕事に期待することはなんでしょう。

鈴木 もちろん、何かとても大きなものをいただけると思うし、もしかしたら失うものもあるかもしれないし、それはやってみないとわかりません。さっきの理想の話もそうですけど、「このへん」って目標値を定めてそこに向かっていくとか、この仕事を終えた時にこんな自分になっていたいからやっていくということではないと思うので。

段田さんをはじめ、錚々たる俳優さんたちが集まって、みんないったいどんなことをするんだろう!? って思うし、映像の現場と違って、何度もトライ&エラーができる期間があるのもとても楽しみです。こんなすごいキャストの方々と一カ月間お稽古をして、本番を経験したら、どう考えても予測がつかないことをうるでしょうし、それは想像すらできないです。
── さらなる挑戦が続く50代を、どんなふうに過ごしたいですか。

鈴木 あんまり考えていないですね。ただ、どんなお仕事やどんな役がきても、面白そうなものにすぐ乗っかれるように、柔軟な精神と、いつでも動ける体力はキープしたいなぁとは思います。

── ヨガやピラティスに通われ、白湯を携帯し、玄米食を長年続けるなど、体作りにも気をつけてらっしゃいますよね。

鈴木 あまり病気もしませんし、基本的には丈夫なんですけど、せわしない感じが続くとやっぱり、あ~、なんか疲れたなぁとか思う今日この頃でもあるので(笑)。いくら食べても、いくら飲んでも、いくら動いても疲れないっていうふうにホントはなりたいって思いますけど、そうなれる決定打はどう考えてもないので。「あ、ちゃんとご飯食べよう」とか、「ちゃんと睡眠時間をとるようにしなければ」とか、結局そんなことに気をつけるしかないんです。

── そんな保奈美さんが考える、カッコいい大人とは?

鈴木 う~ん……いつまでも向上心がある人、かな。

── 年齢とか関係ない? ですよね、きっと。

鈴木 はい。年齢に関係したら何がどうなるんだ!? って、あまりよくわからないですね。

── この年だからもうこうしなきゃ、みたいな発想って、あまりないのかなって。

鈴木 ああ~……はい。そんなものは誰が決めたんだって思いますし、そういう発想に対しては逆に、この年なのにこんなことしてるよね、っていう人になりたいかも。

● 鈴木保奈美(すずき・ほなみ)

1966年、東京都生まれ。84年、芸能界デビュー。91年に出演したドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)の赤名リカ役が社会現象となるまでの大ヒットとなり、一躍人気女優に。主な出演作にドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(NHK)、『愛という名のもとに』『この世の果て』『恋人よ』『総理と呼ばないで』『家族ゲーム』『ノンママ白書』『SUITS/スーツ』(すべてフジテレビ系)、『おんな風林火山』(TBS系)、『主婦カツ!』(NHK BS)、映画『ヒーローインタビュー』(1994年)『いちげんさん』(2000年)『のぼうの城』(2012年)『プラチナデータ』(2013年)他。1998年とんねるずの石橋貴明さんと結婚、三女をもうける。2021年7月、離婚を発表。著書に「獅子座、A型、丙午。」(中央公論新社)がある。

『セールスマンの死』

過激な競争社会、若者の挫折、家庭の崩壊を描き、トニー賞、ニューヨーク劇評賞、ピューリツァ賞を受賞した近代演劇の金字塔となるアーサー・ミラー作による作品。舞台は1950年代前後のアメリカ、ニューヨーク。かつて敏腕セールスマンとして鳴らしたウィリー・ローマンも、も63歳。得意先も次々と引退する中、思うようにセールスの成績もあがらない。妻のリンダは夫を尊敬し献身的に支えているが、30歳を過ぎても自立できない2人の息子達とは過去のある事件により微妙な関係だ。仕事にも家庭にも夢破れたウィリーは、ある決断を下す……。演出/ショーン・ホームズ、出演/段田安則、鈴木保奈美、福士誠治、林遣都、前原滉ほか。4月4日~PARCO劇場他。
HP/セールスマンの死 | PARCO STAGE -パルコステージ-

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