2022.02.10
鈴木保奈美の矜持。「何事も人のせいにはしない。まず自分が動けばいい」
かつてのトレンディドラマで一世を風靡し、可愛いだけじゃないカッコいい女性の代名詞ともなった女優の鈴木保奈美さん。その後、結婚、子育てを経て、今また女優として精力的に活躍を続ける保奈美さんの素顔は、さらにシャープさを増したカッコいい大人の女性でした。
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文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリスト/犬走比佐乃 ヘアメイク/福沢京子
今回の特集では、既成概念にとらわれず、その行動によって時代を切り拓いてきた「カッコいい大人」たちが登場。赤名リカに翻弄され、強烈に魅了されたLEON世代にとって、永遠の憧れである保奈美さんはまさにその筆頭です。
4月には、25年ぶりとなる舞台『セールスマンの死』に挑戦。いくつになっても前を向き、挑み続ける保奈美さんは、仕事やご自身とどう向き合っているのでしょうか。前編では、彼女が考える仕事とプライベートの在り方について伺います。
悶々と待っているのではなく、まず自分が動けばいい
鈴木 昔も今も、好きでやっていることに変わりはないのですが、若い頃はいろいろ不自由もあり、好きな仕事だけれど、自分のやりたいことが思い通りにできないというジレンマはとてもありました。だけど、じゃあ、やりたいことをやるためにはどうすればいいのか、自分には何が足りなくて、誰に頼んで前に進めればいいのかという、改善法なり対処法をあまり考えられていなかった気がするんです。結果、うまくいかないと誰かのせい、周りが変わればいい、と思っていた部分があったと思います。
それが今は、こういうことをやりたいと思ったら、ただ待っていたり、悶々としているのではなく、まず自分が動けばいいし、その方面に明るい人に助けを求めればいいんだと思えるようになってきました。つまり、うまくいかないことがあったら、それは誰のせいでもなく、自分が変わればいいんだというふうに。
鈴木 特に大きなきっかけがあったということではなくて、徐々にですよね。年を取ってきて、経験も増える中で、いろいろ考えられるようになったから(笑)? もちろん、やりたいことができなくて悔しい思いをしたこともあります。でも、仕事をやり続けたいのを無理してやめたわけでは決してなく、子どもが生まれたら子育てをやらなくちゃいけないから、とりあえずこっちを今やろう! っていう感じだったんです。
── 子育てが落ち着いて、仕事ができる状況になったらまた戻ればいいのだと?
鈴木 そんなに長いスパンで物事を考えられる状況ではなかったですし、私自身、あまり先々のことを常に考えているわけではなく、今やるべきことはとりあえず今やろうっていう形です。何事も意味があってのことだと思いますし、その時その時で、自分がやりたいと思ったことや、自分にできることをやり、状況が変われば、またそれに従うというだけですね。
仕事とプライベートはバランスよくコントロールなんかできない
鈴木 それは、お風呂掃除はしますけど、自分の中では全然バランスもとれてないですし、コントロールなんかできることではないです。勝手にそういうイメージを持たれているだけで、実際はもうその都度、その都度、てんやわんやです(笑)。
鈴木 それも、あったりなかったり、もうその都度違います。けっこう、行き当たりばったりなので(笑)、今の状況を俯瞰して、きちっとコントロールするみたいなことはあまりしていなかったと思います。
── さまざまな場面で核心を突いたひと言をさらりとおっしゃるので、わりと普段から、人のこともご自分のことも冷静に客観視しているのかと…。
鈴木 ああ~。それ、だまされてると思います(きっぱり)(笑)。
お弁当なんか作らなくても、子どもは育ちます
鈴木 たぶん、私はまだまだ古いタイプの人間で、「お母さんだからちゃんとやんなきゃ」みたいに思ってやってきましたけど、そんなことはないなって今はとても思っていて。私、お弁当を20年間、実際に作っていたので、作っていましたと言いますが、別にそれは自慢でもなんでもないし、あまりそれを言うと、そのほうがいい母親だみたいな主張に映るのがとても嫌なんです。
私はたまたまそうしましたけれども、そうしなくちゃいけないことはまったくないし、そんなことが母親のプレッシャーになるなんて、最悪だと思います。私自身、そういうことを言い過ぎてはいけなかったなっていうふうに、今反省している部分でもあるんです。お弁当なんか作らなくても、子どもは育ちます。
鈴木 私はこういう職種だからかもしれませんけれど、結局、何をしていても「仕事に使えるな」と思うんです。たとえば、趣味で映画を見ていても、「あ、この監督って、あの時お目にかかった方だ」とか、何かしら仕事につながったりするんです。でも人間ってそうじゃないですか? 何時からは私は仕事の人、とか、何時から私はプライベートの人ってきっぱり分けられるものでもないというか。
もちろん、お仕事をする場所が決まっていて、会社に出社したら仕事モードに切り替わり、職場を出たら俺はもう仕事はオフなんだって思われる方もいらっしゃるでしょう。ただ、私の中では、プライベートで何をしても最終的には仕事につながっているので、あまりバランスをとろうとも思ってないですし、もっと言えば、もはや仕事とプライベートを分けてるつもりもないです。
それでも、若い頃は分けようと思っていたこともありました。でも、私が「今はプライベートです」と言っても、それは私一人が勝手に思っていることで、周りは誰もプライベートって思ってくれないじゃん(足を組みふてくされポーズで)、っていうのがあったから(笑)。そんなことを言い出しても仕方がないなぁと思っている部分はあります。
※後編に続きます。
●鈴木保奈美(すずき・ほなみ)
1966年、東京都生まれ。84年、芸能界デビュー。91年に出演したドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)の赤名リカ役が社会現象となるまでの大ヒットとなり、一躍人気女優に。主な出演作にドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(NHK)、『愛という名のもとに』『この世の果て』『恋人よ』『総理と呼ばないで』『家族ゲーム』『ノンママ白書』『SUITS/スーツ』(すべてフジテレビ系)、『おんな風林火山』(TBS系)、『主婦カツ!』(NHK BS)、映画『ヒーローインタビュー』(1994年)『いちげんさん』(2000年)『のぼうの城』(2012年)『プラチナデータ』(2013年)他。1998年とんねるずの石橋貴明さんと結婚、三女をもうける。2021年7月、離婚を発表。著書に「獅子座、A型、丙午。」(中央公論新社)がある。
『セールスマンの死』
過激な競争社会、若者の挫折、家庭の崩壊を描き、トニー賞、ニューヨーク劇評賞、ピューリツァ賞を受賞した近代演劇の金字塔となるアーサー・ミラー作による作品。舞台は1950年代前後のアメリカ、ニューヨーク。かつて敏腕セールスマンとして鳴らしたウィリー・ローマンも、も63歳。得意先も次々と引退する中、思うようにセールスの成績もあがらない。妻のリンダは夫を尊敬し献身的に支えているが、30歳を過ぎても自立できない2人の息子達とは過去のある事件により微妙な関係だ。仕事にも家庭にも夢破れたウィリーは、ある決断を下す……。演出/ショーン・ホームズ、出演/段田安則、鈴木保奈美、福士誠治、林遣都、前原滉ほか。4月4日~PARCO劇場他。
HP/セールスマンの死 | PARCO STAGE -パルコステージ-