2022.01.28
ウーマン村本「テレビは自主規制でさまざまなタブーを避けている。それは不健全……」【前編】
社会問題を独自の視点で切り込むウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。その芸風からテレビ出演が激減しながらも、独自のお笑いの路線を貫く彼の信念とは? ファンの心を掴み続ける情熱を伺いました。
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文/木村千鶴 撮影/トヨダリョウ

至極まっとうでありながら、今の日本のテレビでは過激すぎるとレッテルを貼られたことで、地上波放送への出演は激減しました。それでも村本さんは、より自由な発言ができるライブへと活躍の舞台を移し、コアなファンを獲得。今もライブは大盛況が続いています。
2020年に刊行された著書『おれは無関心なあなたを傷つけたい』(ダイヤモンド社)でも舞台同様、鋭い洞察力と遠慮のない言葉で、読者に大きな気づきを与えてくれます。
この春からは日本に見切りをつけて、活躍の場をNYに移すとのこと。芸人として独自の路線を生きる村本さんの信念に迫りました。
俺にはガソリンはある。あとは英語という機体があればいい
村本大輔(以下、村本) 僕、41歳になるんですが、先日、眉毛に白髪が生えてることに気づいたんですよ。それでね、「あ、今かな」って(笑)。渡米の理由はやっぱり、アメリカのスタンドアップコメディ、コメディアンという存在を知ってしまったからです。
子どもの頃、ダウンタウンさんや明石家さんまさんをテレビで観ていた、あの時の衝撃や感動が今はなくなって、自分の中ではアメリカのコメディに対する感動やドキドキの方が強くなったんです。今、僕がやっているのは、お笑いではなく、コメディだと思っています。
── 言葉も通じない、地盤があるわけでもない国でチャレンジするのは大変なことだと思います。怖くはないですか。

今の僕の主な仕事は、テレビの中では表現出来ないネタをマイクの前で自由に喋り倒すというものなんですが、40歳を過ぎてからは舞台の上で落ち着けています。言葉も自分の所有物みたいに思うように出て、仕事もあって、ファンもついてきてくれている。
それを捨てて、ゼロになるわけです。言葉も喋れない、相方もいない、価値観や歴史も違う土地で、41歳になった自分がコメディをやる。なんかね、そうすると、もっと良くなりそうな感じがしてね。
── 村本さん、正直、英語力は今どんな感じですか。
村本 ひどいもんですよ(笑)。BJ FOXっていう、イギリスからこっちにやってきてコメディアンやってる友達がいるんですが、彼から「アメリカに行ったら何とかなると思っちゃダメだ。なんとかなるというのは、ある程度の基礎がある人の話で、村本さんは小学校の基礎からやらなきゃいけないレベルだよ」と、30分近く説教されたくらいひどい。
── アハハ。
村本 でも僕には、頭の中で話をつくるという“ガソリン”はあるんですよ。で、言葉を乗り物に例えたら、今の僕の英語は“紙飛行機”ぐらい。それでもここから言葉を覚えていって、ゆくゆくは“ジェット機”に変えて、どんどん高いところまで飛んでいけそうな気がしてます。
怒りが溜まってネタに昇華できた時、怒りは“お気に入り”に変わる

「海外に行くと日本人は”ゴジラ!ゴジラ!”って言われるけど、ゴジラは核実験で生まれたから、お前らが作ったものなんだよ」っていうネタをアメリカでやったことがあるのですが、その時は「オ〜!」という声の後にワーッと拍手が来て、お客さんが「クリティカルだね」と言ってくれた。
クリティカルな笑いっていうのは、コメディでブッ刺すみたいな感じなんですね。これは日本に欠けてるところかなって思います。
── 村本さんのお笑いの根源には、悲しさや怒りがあるように思うのですが、しかし一方で、そういった感情を冷静にネタに変換していますよね。ある種のアンガーマネジメントというか……。そのコツはあるのでしょうか?
村本 お笑い自体がそういうものと言いますか。例えば、最近ムカついた話なんですけど、僕ね、動物のナマケモノが好きで、よく動画とか見てるんですけど。あいつらは天敵に襲われる時もあのスピードで、あの速さが本気なんですよ。それを“ナマケモノ”って名前をつけたヤツ、どういう性格しとんねんって。だったら、サササっと素早く走るゴキブリのことは“頑張り屋さん”って名前をつけろよと、そう思うわけです。
── ゴキブリを頑張り屋さんと(笑)!?
村本 そうそう(笑)。でも、そんな疑問や怒りが湧いてきても、すぐには出さない。ず~っと考えて、考えて、怒りが溜まって、ネタに昇華できた時、怒りは“お気に入り”に変わっていくんですよね。自分の中での怒りが作品になり、俯瞰で楽しめるようになるって感じでしょうか。
“ある”ものを“ない”ふりして生きたくない
村本 以前アメリカに行った時、一緒にいた日本人の友達がロスでタクシーの運転手に「アメリカのコメディは人種差別のネタが多いよね」って言ったんです。そしたら運転手は「だって、あるからだよ」って答えました。このひと言が結構ガツンときて。
じゃあ日本にはないのかなって考えたら、あるんですよ。ニュースでも見ているけど、ないふりをして生きている感じがするんです。
その後、在日朝鮮人の方に会った時に、彼らが選挙権を持っていないことを知りました。人種によってまったく違う扱いをする、かつて女性や黒人の方たちに選挙権を与えなかった国や政策のように、今の日本で在日朝鮮人に対してそれをしているんじゃないかと。
ちょっと話は逸れますが、東日本大震災や熊本の被災地は、今も相変わらず大変です。まだ終わってないんです。でもみんな「大変でしたね」って被災者のかたに過去形で声をかけるんです。ニュースは時が過ぎると報道されなくなってしまうから、終わったように感じるかもしれない。でも、あるものは、今もある。コメディにはそれを取り上げる義務があるような気が、僕はするんですよ。

村本 それも面白さだと思っています。日本の漫才のネタとテーマって、会話の劇といいますか、何の意見もなく、空虚なものがとても多いような気がしています。
「THE MANZAI」には、今も年一回出させていただいてるんですけど、その中でも、このネタはやめて欲しいとか、これは使えない、などと言われます。事実や意見、願いなのに、それを言っちゃいけないと。
日本では、お笑いの中で主義主張をしないもの、みたいな認識がある気がする。なんか空港の保安検査場で色々確認されるみたいなね。これ危ないからやめてくださいって、なるべく安全なものを詰め込むような感じで、10分間のセンターマイクのまえに通されている感じがするんです。
タブーはコミュニティと人に宿っている。誰かが決めているものではない
村本 今はテレビを見ていないのでなんとも言えません。でも、自主規制するみたいにあれもダメ、これもダメという風潮になってきているのは感じます。
── テレビの中の生ぬるさ、現状に対する不満などから、スタンドアップコメディへの関心に繋がったんでしょうか。
村本 テレビに限らず、日常の中で「それ言ったらあかんで」とか「その発言危ないな」ってよく言われるんです。僕はそれが謎でね。誰が決めてるわけでもないんですよ。タブーってのは、コミュニティと人に宿っている。
例えば、フランスでムハンマドをネタにするのはデリケートな問題だし、大変なことになるかもしれないからタブー、というのはわかります。でもテレビの中って、何となく無数にあるタブーを、自主規制をかけて避けている気がする。それが凄く不健全な空気を作りあっているんだと思います。
── ライブなど生の舞台ではそれがない、と。

そうやって、「ワクチン打ってないやついる?」とか「朝鮮人はいるかい?」なんて聞いて、話をしていると、どんどん空気が柔らかくなっていくんです。自分を隠さなくていい場所になる。
そういうのが世界であれ、日本であれ場所として存在すれば、みんなもう少し楽になるんじゃないでしょうか。コメディの役割ってそういうことでもあると思ってます。
後編に続く

● 村本大輔(むらもと・だいすけ)
1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ、興味をもちはじめたことをきっかけに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を取り上げた漫才を作り、フジテレビ系「THE MANZAI 2017」で披露。劇場を主な活動の場にしており、積極的に全国で独演会を開催している。SNSでも積極的に発信。今春からは活動の舞台をNYに移すことを発表している。