2022.03.06
【第16回】松本まりか(女優)
女優・松本まりかは「内なる魔物を飼い慣らす戦い」を続ける人
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる女性に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第16回目のゲストは、女優の松本まりかさんです。ドラマ「ホリデイラブ」でブレイク以来、一躍人気者となった松本さんですが、実はその女優人生は決して順風満帆ではなかったそうで……。
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ 文/井上真規子 スタイリスト/乾 千恵 ヘアメイク/板垣美和
今回のゲストは、いまブレイク中の松本まりかさんです。2000年放送のドラマ「六番目の小夜子」でデビュー後、劇団員などを経て、2018年にドラマ「ホリデイラブ」の狂気を孕んだ井筒里奈役で一躍注目の存在に。
以来出演作に恵まれ、2021年には「それでも愛を誓いますか」、「向こうの果て」、「愛に叫べば」など主演ドラマが相次いで公開。「ORICON NEWS 上半期ブレイク女優ランキング」で1位にも輝きました。
公開中の短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS Season2」中の作品『The Little Star』では、山田孝之さんと21年ぶりの共演を果たした松本さん。その制作秘話から、松本さんの波瀾万丈な俳優人生まで樋口さんがたっぷり伺いました。
「孝之くんの本気で怯えた目はものすごいインパクトで」(松本)
松本まりか(以下:松本) こちらこそありがとうございます。お正月にたくさん寝ました。数年ぶりに目覚ましをかけない生活をしたんじゃないかな(笑)。
樋口 数年ぶりですか! それは最高の贅沢……。でも、本当にずっと走り続けてこられたんですね。そして、今回「MIRRORLIAR FILMS Season2」のオムニバス作品『The Little Star』拝見しました。
松本 ありがとうございます。
樋口 松本さんは、娘を亡くした母親という役どころで、夫役の山田孝之さんと鬼気迫るシーンを演じられました。出演時間は少しでしたが、その中で集中力を高めて、感情を溜めて炸裂させるところにグッと掴まれました。
松本 本当ですか。ありがとうございます!
樋口 撮影日数はどのぐらいあったんですか?
松本 1日でしたが、刺激的な撮影でした。
松本 今回、脚本には「口論する」とあるだけで、セリフはほぼアドリブでした。紀里谷監督とセリフに起こすかどうか話をしたのですが、起こさないでいくということになって。ならばとことん空っぽでいこうと。そういられる状態を作ることに集中した上で、相手と対峙してみた時にどんなことが起こるのか。そこにかけてみる価値が、今回はあるんじゃないかなと。
樋口 それは相当の度胸がないとできないですね。紀里谷さんから演出はありましたか?
松本 監督の演出は、ご自身がアメリカで、アクティングのトレーニングも経験されてたみたいで、俳優のように、もしかしたらそれ以上にエモーショナルで。空っぽの身体にダイレクトに染み込んでいくような、洗脳されていく感じというか。とても面白い体験でした。
樋口 洗脳!! 山田さんと久々に共演していかがでしたか?
松本 ゾクっとした瞬間がありました。人の本気で怯えた目というものを初めて見ました。ものすごいインパクトで。ああいう演技を超えた表情を出せるのは、究極だなぁと思いました。
樋口 さすが百戦錬磨の山田さんですね。それはすごい!
「演技をやりたい!ってビビビと雷に打たれた」(松本)
松本 共演は21年ぶりなので、戦友というより、私が孝之くんの活躍を見てきたという感じですね。
樋口 連絡を取ることはありますか?
松本 他愛もないやりとりは、ちょこちょこします。私が「た」って送ると、「ま」ってかえってくるみたいな(笑)。
樋口 仲良いですね(笑)。松本さんは21年前に山田さんと共演して、その後ブレイクするまでに時間がかかった印象です。もともと役者志望だったのですか?
松本 全然考えてなかったです。この世界に入ったのは、14歳の頃に原宿でたまたまスカウトされたのがきっかけ。その翌年に「六番目の小夜子」に出て、はじめて自分は演技をやりたいんだ! って、ビビビと雷に打たれたようになって。ただ、もともと演じることは好きでした。小学校の学芸会の舞台に立つのもすごく楽しかったですから。その時だけ、生きた心地がしてましたね。
松本 自分の人生がどうなっていたか、考えると怖いですね(笑)。
樋口 スカウトの理由は聞きましたか?
松本 光るものがあった、と。若さゆえだと思いますが(笑)。人生の中で輝く瞬間って、きっと誰にでもあると思うんです。私はその時がその瞬間だったんだろうなって。
樋口 いまはもっと輝いていると思いますけど!
松本 そんなことないです。でも、これから歳を重ねるにつれ、若さ以上に輝けていけたら素敵ですよね。
「33歳の無名女優をよく起用してくれたなって思います」(松本)
松本 元々、友達に連れられて、よく遊びに行ってたのが始まりで。松田家で過ごす毎日は、とても充実していて。学びも、安心も、愛情もあるこの家に自然と帰りたい、と思うようになりました。美由紀さんは友達でもあり、本当の母娘でもあり……みたいな関係でした。
樋口 すごい経験ですね! アドバイスをもらったりは?
松本 今のままでいいの? とはよく言われていました。仕事の面では認められていなかったと思います。そこは厳しかったですね(笑)。
松本 はい。会話の端々に自分自身と向き合うきっかけをもらっていました。若い頃にそういう環境に身を置けたのは、今に生きています。一方で、自分と松田家は家族としては近いけど、仕事では、いる世界が違うという劣等感は常にありました。
樋口 しばらくそういう生活をする中で、オーディションを受けたりも?
松本 そうですね。落ちる一方でしたが。でも20代前半で「劇団☆新感線」に出会って、大きな舞台には恵まれていました。とてもありがたかったけど、アイドルのかたが主演の舞台が多くて、その中で迷いも生まれてきて。毎回満席で、作品も素晴らしいけれど、結局みんな主演のスターを見にきている。女優としての自分は替わりがきく存在だし、これでいいのかなって。このままは続かないと思って留学を決意しました。帰国後は小劇場と出会い、それが「ホリデイ・ラブ」に出演するきっかけになりました。
樋口 松本さんが“あざと可愛い”でブレイクした作品ですね。
松本 プロデューサーさんが、舞台を見て声をかけてくださって。テレビに出る機会もなかった33歳の女優を起用していただいて、それをきっかけに一気に世界が変わりました。本当に感謝しています。
樋口 あれはハマり役でした。鬼気迫るキレっぷり、ヤバさ加減が炸裂してました! あのドラマの一番美味しいところですよね。不倫モノというと、僕が高校生の時に見た映画『危険な情事』でマイケル・ダグラスが相手の女性に追い込まれていく様が強烈でしたが、松本さん演じる里奈はその時の女優、グレン・クローズを超えてましたね。
松本 なんと……、ハリウッド女優ですか(笑)。
樋口 僕は今、結婚7年目で浮気をしたことはないですが、あんな感じで人妻に「帰りたくない」って言われたら貞操の危機です! でも、最終回を見たらゲス不倫はやっぱりダメだって思いました。
松本 アハハ(笑)。
「生きていることを確かめるために、演じているのかもしれない」(松本)
松本 私はどんな役でも楽しいですよ。「それでも愛を誓いますか」の純役とか、いたって普通の役を演じるのもすごく楽しい。ただ、飽きっぽいので全然違う役をやる方がいいですね。私にとっては、演技で相手とキャッチボールしてつながることが楽しいんだと思います。
樋口 相手と心が通じ合うような感覚ですかね?
松本 素の自分だとなかなかキャッチボールできないけど、演技ならどんな相手とも対等にキャッチボールできて、心が動いたりする。それこそが生きてるって感じられる瞬間なんです。生きていることを確かめるために、演じているのかもしれないです。口にするとちょっとパンチがある言葉ですけど(笑)。
樋口 それは天職だなぁ。ちなみに、忘れられないキャッチボールだったなと思う作品や相手を教えてください。
松本 一生忘れられないだろうと思うほど強烈に価値観を変えられたのは昨年末にやったABEMAの「松本まりか24時間テレビ」。24時間生で1本のドラマを撮影するという企画で。6人の俳優さんを相手に演じたのですが、生放送で一発勝負の掛け合いはヒリヒリしましたし、感動が沢山ありました。スタッフさんにも恵まれて、挑み終わった時のあの達成感は、何ものにも変えがたい、一生の宝物になりました。
松本 この2年間は本当に忙しすぎて、自分の中で限界が来ていたんです。すべての作品の準備に時間がかけられなくて、いつも現場インしてから必死に覚えて、みたいなことが続いて。クオリティも落ちるし、周りに迷惑もかけるし、そんな状態で芝居なんかやっちゃダメだって思って。
樋口 はたから見る限り、松本さんはたくさんの作品に恵まれてすごく輝いていました。そこまでつらかったとは。
松本 準備なしでも絶対にミスを犯さず、いい芝居をするんだと決心して臨んだのが24時間テレビでした。終わってみて、死ぬ気で頑張ればできるんだって自分自身に証明できたかなって。そこで自分は変わったと思います。
樋口 松本さんは意思が強いし、本当にストイックですね。
「男性に依存するとか、恋をするとか、そんなこと言ってられない」(松本)
松本 どう思ってるんですかね(笑)。根性はあるかな。自己批判はしつつも、根拠のない自信はずっとあって、何かできる気がするって思っていて。“好き”を追い求めて時間はかかったけど、ようやく今たくさんお仕事があって、主演もやらせていただいて、やっと自分の居場所を見つけられた気がしています。根性あってよかったです(笑)。
樋口 遠回りしても結局ここに来ていますからね。それにしても、こんなにいっぱいいっぱいで、松本さんは大丈夫なのかな? って心配になります。プライベートではちゃんとネジをゆるめられていますか?
松本 どうでしょう……(笑)。この2年間は忙殺されて、何も考えられなくなっていたけど、2022年は忙しさに負けたくない! その中でも素晴らしい演技をするのが役者の使命ですから。孝之くんも、他の俳優さんたちも皆大変な時期を乗り越えていますし、とにかく自分自身に勝ち続ける。それは簡単な事じゃないけど、できない事ではないと思うんです。自分に勝つのも負けるのも自分次第ですしね!
樋口 すごい激しさだ! 今までお会いした俳優さんの中でも、一番の激しさを僕は今日受け取りました。
松本 アハハ。激しさと共に、自分に対する厳しさも常に持ち続けられるように頑張ります。今年はもうひとつ上の段階にいかないと、って思ってます。
樋口 ゆるい恋話とかしようと思ったけど、そんな隙全然なかったです!(笑)
松本 すみません(笑)。弱ってる時こそ、恋はいりません。男性に頼りたくないですし。ひとりで乗り越えた先でいい恋愛をしたい。猫の手も借りたい時だからこそ、今はいいかなって(笑)。
樋口 アハハ(笑)。今日は、楽しかったです! 松本さんは僕の予想のはるか上を行く人でした。こんなに面白い人なんだ! って驚きました。
松本 よかったです! でも日々、言うことは変わりますから。フニャンとしてる時は「ゆるく行きたい〜」とか言っちゃうんで。作品とか、モードとか、気分もありますから、明日には「あ~恋愛したい」とかいってるかも(笑)。
【対談を終えて】
● 松本まりか (まつもと・まりか)
1984年、東京都生まれ。B型。2000年、NHKドラマ「六番目の小夜子」でデビュー。2018年、ドラマ「ホリデイラブ」(テレビ朝日系)で演じた井筒里奈役の「あざと可愛い」キャラクターが注目され、ブレイク。以降、数々の作品に出演。2021年、ORICON NEWSの「2021年 上半期ブレイク女優ランキング」にて1位に輝く。2021年はドラマ「向こうの果て」(WOWOWプライム)、「それでも愛を誓いますか」(ABCテレビ)、「東京、愛だの、恋だの」(テレビ東京)、「奪い愛、高校教師」(テレビ朝日)など、数々のドラマで主演、もしくは重要な役を演じた。「松本まりかクリスマス24時間生テレビ ~24時間で恋愛ドラマは完成できるのか!?~」(ABEMA)も話題に。
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● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter
愛する者を失った男の物語 『The Little Star』
山田孝之、阿部進之介、伊藤主税らが、自由で新しい映画製作の実現を目指して立ち上げた短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」。総勢36人の監督が「変化」をテーマに制作した短編をオムニバス形式で4シーズンに分けて公開する。2月18日から順次公開中のSeason2には監督として阿部進之介、紀里谷和明、志尊淳、柴咲コウ、三島有紀子、山田佳奈らが参加。
松本まりかさんが出演するのは紀里谷和明監督の作品『The Little Star』。電車の中、パンダの着ぐるみを着た血まみれの男。悲しみ、後悔、怒り、贖罪の感情が複雑に絡み合う主人公を山田孝之、その妻を松本さんが演じる。
HP/短編映画制作プロジェクト | MIRRORLIAR FILMS
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e.m. PRESS ROOM 03-6712-6798
●大原櫻子「褒められたら終わり。芸能界に染まらないようにと思ってきました」
●松本穂香「女優はいい意味で力を抜いて演じる方が健康的」
●鷲見玲奈「話していて楽しい人が好き。美人は3日で飽きるって言うけど、イケメンも同じかなと」