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2022.04.09

クズ芸人!? ナダル「“いい人”でいることに疲れた人に楽になってもらえたら」

学生時代、正義感が強すぎて友達がいなくなってしまったナダルさん。クズ芸人キャラは、「いかに人に下に見られるか」という技術を磨いた結果だそう。「人に本音が言えなくてしんどい思いをしている人が楽になれたらな、という感じはあります」

CREDIT :

文/ラリー遠田(作家・ライター、お笑い評論家)

記事提供/東洋経済ONLINE
「何でも経験になりますからね。全部のことを嫌だなと思って向き合わずにやるよりは、嫌なことでもやって自分の経験にしたほうがいい」と語るのは芸人のナダルさん。

自身の本音を包み隠さずにつづった新刊『いい人でいる必要なんてない』が話題のナダルさんに、「新しいことに挑戦できずモヤモヤする人」に向けて、アドバイスをしてもらいました。
コロコロチキチキペッパーズのボケ担当・ナダル
▲ 「コロコロチキチキペッパーズ」のボケ担当・ナダルさん。(撮影/尾形文繁)

「テレビでは僕の悪いところしか使われない」

── 出版社の方から「本を書きませんか」という話を最初に聞いたときにはどう思われましたか?

僕の本音の部分を書かないといけないということだったので、ちょっと迷いはありましたね。いつかそんな日が来るかもしれないとは思っていたんですけど、いま出していいものなのか、とか。それで相方の西野(創人)にも相談したら「やったほうがいい」と言ってくれたので、引き受けることにしました。

1年前ぐらいまでは、こういう取材を受けたときにも、どこまで本音を言って、どこまで芸人として答えたらいいのか、迷っていた部分はあったんです。でも、最近はコンビでYouTubeをやっていて、そこでは素に近い部分を見せるようになったんです。それで西野も「これだけYouTubeで全部出すようになったら、みんなわざとやっている部分もあることをわかったうえで笑ってくれているから、別に(本音を書いても)いいんじゃないですか」と言っていたから、書いてもいいのかなという感じになりました。

── そろそろ本当のことを言ってもいい時期じゃないかと思ったんですね。

テレビでは僕の悪いところしか使われないので、テレビだけ見ている人はこの本を読んだら驚くかもしれないですけど、YouTubeも見てくれている人は、そうだろうね、ぐらいの感じなんじゃないですか。

── 「クズ芸人」として意識的にキャラクターを作っていることも赤裸々に書かれていますが、そういうのを表に出すと芸人としての活動に影響が出る可能性もあると思うんですが、そこに葛藤はありませんでしたか?

正直、それはありました。まだしばらくこの感じでいく予定だったので。でも、この本を出したからといって仕事がなくなるわけじゃないですし、新しい人も次から次へと出てくるじゃないですか。そういう意味では、そこに小さくまとまるよりも、もっと自分自身の面白さを追求する機会なのかなと思いました。

たとえば、この本を読んで「わざとやってたんかい」とか思う人もいるかもしれないですけど、それ以上に面白いリアクションができたり、面白いことが言えたりしたら、別に関係ないかなと。

── 本を書く過程でご自分の人生を改めて振り返ることになったと思うんですが、それをやってみた感想はいかがですか?

結局、真面目に育てられたので、真面目な部分もめっちゃ出ているなと思います。タイトルでは「いい人でいる必要なんてない」って言っているんですけど、振り返るたびに「これ、タイトルと違うことになってないか? 大丈夫か?」みたいなのはありました。でも、担当の方に相談したら「それも人間じゃないですか」と言ってくれて、助かったという感じですね。
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「あっ、俺、これやってるな」

── 子供の頃は家でお笑い番組を見せてもらえなかったそうですが、芸人としての今のキャラクターはお笑いの世界に入ってから身につけたものだったんですか?

でも、ほんまのこと言うと、芸人になる前に狩野英孝さんをテレビで見たときに「あっ、俺、これやってるな」って思ったんです。もともと僕は正義感が強くて、人の悪いところを注意したりしていたんです。でも、それで友達がどんどんいなくなってしまったので、大学生ぐらいからは「いかに人に下に見られるか」という技術を磨いていったんです。

しょうもないやつみたいに振る舞って、しゃべりかけやすいような空気を出すようにしました。そうすると、僕が仕掛けているわけじゃないですけど、みんなが僕のことを面白いと言ってくれるようになったんです。似たような感じで芸人にイジられている狩野さんをテレビで見て「僕でもいけるかも」と思った部分はあったかもしれないです。

── 今では狩野さんとも少し違う独特のキャラクターを確立されていますよね。

僕はもともとは真面目なので「このぐらい図太いやつになれたら良かったな」と思っていたことを、芸人としてのキャラクターに投影して演じているようなところはありますね。

── なるほど。「クズ芸人」としてのナダルさんは、ご自身がなりたかった自分の姿でもあると。

僕もプライベートではこんなにできないですけど、人に本音が言えなくてしんどい思いをしている人もいると思うので、そういう人がちょっと楽になれたらな、という感じはあります。

── 今後は漫才やコントをしっかりやっていきたいというお気持ちがあるそうですが、「クズ芸人」のキャラクターが広まることで、ネタを見せるのに支障が出ることはないですか?

西野はそれを気にしていたときもあったんですけど、それでウケが減っているかというと、そういうことはないですからね。特にコントは役柄を演じているので、あんまり関係ないんですよね。あとはやっぱり、圧倒的な演技力(笑)。先輩方にも「めっちゃ上手いな」と言っていただけたりしたので、そこは自信があります。ただイジられるキャラだけじゃなくて、ちゃんとネタもやってるっていうのは、だいぶ気持ちに余裕を持っていられますね。

── 世間ではまだナダルさんには「クズ芸人」のイメージが強いと思いますが、それもナダルさん自身にとっては通過点にすぎないのかもしれないですね。

そうですね、ほんまそのとおり。その部分もあったうえで、別の部分もあるぞ、それだけじゃないぞ、っていうのを見せていけたらと思いますね。

あとは、西野も出てきたらまた話が変わってくるとは思うんですけどね。西野はMCも上手いし、僕のことをわかってくれてますから。この人にこのタイミングでパスを出したら面白くなるとか、そういう技術が高い気がするので、西野と一緒にいろいろ出られるようになったらいいですね。

── コンビとしてお互いのことを信頼して認め合っているんですね。

そうですね。普段は西野にイジられて「西野、もうええって」とか言ったりしてますけど、根底の部分には尊敬があります。それがなかったらたぶん口きいてないと思います。コンビってやっぱり尊敬してないとできないですよ。
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やらない後悔のほうがデカい

── ナダルさんは、「クズ芸人」と言われながらも開き直って強く生きている人というイメージがあるんですが、『いい人でいる必要なんてない』という著書のタイトルは、そんなナダルさんに憧れている人へのメッセージでもあるんでしょうか。

そうですね、僕が人間として、芸人としてこういうふうに考えているっていう部分を、ちょっとでも生き方の参考にしてもらえたらありがたいです。誰でもできるだけ波風立てたくないというのは当たり前だと思うんですけど、そのことで小さくなって、しんどい思いをしている人もいっぱいいますよね。

波風立てなくてもそのまま日常を過ごすことはできるかもしれませんが、それ以上のものを得ることはないですからね。僕はもともと大学を卒業してから漬物屋で働いていたんですが、そのときにも会社の人とは仲良くやっていました。

でも、そこから一歩踏み出して、芸人になって芸能界に入ったら見える景色が増えたんですよね。別にそのままでいい人はいいと思うんですけど、ちょっとでもくすぶっているものがあるんやったら、僕の本を読んでもらって、一歩踏み出すきっかけにしてもらえたらいいですね。1回きりの人生ですから、モヤモヤしたまま生きんでもええかな、と思います。

何でも経験になりますからね。全部のことを嫌だなと思って向き合わずにやるよりは、嫌なことでもやって自分の経験にしたほうがいい。僕らの仕事でも、いろいろなことをしているので、嫌な思いをすることもあるんですけど、あとから考えるとやっぱりどんなことも無駄じゃなかったな、と思うんです。

── そこで「一歩踏み出すのが怖い」とか「波風立てて人に嫌われたくない」と思う人も多いと思うんですが、ナダルさん自身はなぜ踏み出すことができたんでしょうか。

僕の場合は、やらない後悔のほうがデカいかなと思ったので。せっかく生まれたんやったら、やりたいこと全部やったほうがいいじゃないですか。失敗しても死ぬわけじゃないじゃないから、思い切って踏み出してみてもいいんじゃないかと思います。

『いい人でいる必要なんてない』

テレビ番組で見せるクズ芸人っぷりも事実。お金にがめついのも事実。中学時代に壮絶ないじめに遭ったのも事実。多くの芸人仲間から親しまれているのも事実。いつも舞台袖から芸を見学するほどお笑いへの探求心が強いのも事実。何気に企業タイアップが多いのも事実。

「相手や環境によって大なり小なり自分のキャラが変わるのって、生きてく上で普通ですよね。そこにいちいち負い目とか感じとったらしんどいじゃないですか」というナダルさんの言葉に、心がすっと軽くなったことを覚えています。

今やSNSはインフラとも呼べるくらい情報過多な昨今。日本人特有の生真面目さも相まって、“気疲れ"がデフォルトになっている人が多いのではないでしょうか。いい意味で忖度せず、人間誰しも心の奥に秘めていることをズバッと言い切るナダルさん。

実は現代において、ある意味最も心が楽になる生き方ではないかと思い、出版をオファーさせていただきました。本書を通して、“いい人"でいることに疲れた人の肩の力を少しでも抜いてあげられたら幸いです。

ナダル・著 KADOKAWA 1540円(税込)
※書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

コロコロチキチキペッパーズのボケ担当・ナダル

● ナダル

1984年、京都府出身。吉本興業所属のお笑いコンビ「コロコロチキチキペッパーズ」のボケ担当。「キングオブコント2015」優勝。テレビ朝日「アメトーーク! 」の名物コーナー「ひんしゅく体験! ナダル・アンビリバボー」やTBSテレビ「水曜日のダウンタウン」のドッキリ企画などで人気を博す。クズ芸人として名を馳せながらも、SNS社会やコロナ禍において「本音を隠さない正直さ」「忖度しない芯の強さ」といった生き方に多くの共感を呼んでいる。YouTube「よろチキチャンネル」はチャンネル登録者数26万人を超える。

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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