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2022.04.24

渡辺謙×伊藤英明 対談。『TOKYO VICE』でハリウッドが描いた90年代の東京が凄い!

巨匠マイケル・マン監督の下、90年代の東京を舞台に警察、ヤクザ、新聞記者の壮絶な戦いの物語を描いた日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE』。ストーリーのカギを握る刑事を演じた渡辺謙さんと伊藤英明さんにドラマの舞台裏を伺いました。

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/トヨダリョウ スタイリング/馬場順子(渡辺)、根岸豪(伊藤) ヘアメイク/筒井智美(渡辺)、佐藤光栄(伊藤)

『ヒート』のマイケル・マン監督はじめ、ハリウッド最高峰のスタッフ陣が集結して制作された、HBO MaxとWOWOWの日米共同制作ドラマ『TOKYO VICE』が、4月24日よりWOWOWで独占放送されます。

ドラマの舞台は1990年代の東京。日本の大手新聞社に就職し、警察担当となったアメリカ人青年ジェイク(アンセル・エルゴート)が、特ダネを追いかけるうちに片桐刑事(渡辺謙)と出会い、忠告を受けながらも危険な闇社会へと入り込んでいく……というスリリングな展開の物語。そのすべての撮影は“世界で最も撮影が難しい都市”と言われる東京とその近郊で行われ、海外制作チームが独自の視点で切り取った映像美と、飽きさせないストーリー展開はまさに圧巻。

注目のドラマの裏側について渡辺謙さんと、同じく刑事・宮本を演じた伊藤英明さんに話を伺いました。

伊藤くんはアンセルとズブズブです(渡辺)

── 渡辺謙さんと伊藤英明さんはこれまで共演されたことはあったのですか。

渡辺 いえ、今回が初めてなんですよ。でも、うちの坂口(憲二)と一緒に遊んでるのは知っていたので、おぉ筋肉バカかと思ってましたけど(笑)。

伊藤 そんなご縁でプライベートでは自分がグリーンカードを取得する時に謙さんにリコメンドを書いていただいたりして。

── 実際に共演されるということになっての感想は?

伊藤 僕はもちろん謙さんのことは幼い時から拝見していて、本当に偉大な先輩で。謙さんって、今日もそうですけど、絶対人に緊張感を与えないんですけど、気遣いがあって、迫力があって、凄みもあって、優しさもある……。

渡辺 あんまり言うとね、無礼になるよね(笑)。

伊藤 いやいや(笑)。でも本当に俳優として最も尊敬できる人で、今回もご一緒できてすごくうれしかったです。

── 謙さんは伊藤さんにどんな感想を?

渡辺 彼は真面目で努力家だし、内に秘めたエネルギーは強いものがあるんで。まぁそういうのも感じたので、海外でもう少しトライしてみたいというのを聞いて、OK、OKって。もちろんサイズがあるし、顔もね(笑)、これなんで、本当にどんどん(海外に)出て行ってほしいなと思う俳優のひとりですよね。
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── ちなみに今回は主演が『ウエスト・サイド・ストーリー』(S.スピルバーグ監督)のアンセル・エルゴートさん。彼とも初めてのお仕事だと思いますが、おふたりは彼と理解を深めるために何か特別なことはしたのでしょうか?

渡辺 僕は少しずつ、ね。撮影がまだ1話が終わった頃、お正月の休みの時に彼が僕のいる長野まで遊びに来てくれました。でも、ほとんど仕事の話はしない。お互いの人間性を確認するくらいで、役についてはあまり話さなかったな。

── それは、徐々に距離を縮めていく、リアルを役に反映させるために調整するということですか。

渡辺 そう、やっぱり僕らは動物だからさ、役はまだ親しくもないはずなのに、そのシーンで尻尾だけ振れちゃったりするんですよ。お互いに“この人いい人なのかわからないな”って状態をどこかでキープしなくちゃいけないと思ってるから。

── なるほど。伊藤さんはどうですか。

渡辺 彼はズブズブですよ(笑)。

伊藤 はい、仲良しです(笑)。アンセル自身もいろんな体験をしたい、人と関わりたいってことだったので、僕の地元の岐阜に遊びに来てもらって、うちの親父とも会ったし、岐阜城にも連れていったし、いろいろ交流できました。
(C)HBO Max _ James Lisle
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とにかく撮影の規模がデカくてビビりました(伊藤)

── そして今回は監督があの『ヒート』や『マイアミ・バイス』のマイケル・マン。撮影もハリウッドのチームということで、通常の国内制作のドラマとはかなり違ったと思うのですが。

渡辺 まず、ストーリテリングの巧みさ、それぞれのキャラクターの背負うべき人生みたいなものの描き方が見事だよね。それがあるが故に、よく見る伊藤英明でも、よく見る渡辺謙でも、菊地凛子でもない、何かそこにある役、人間というものが炙り出されてくるんです。それをマイケル・マンという、非常にリアリズムな監督が、ある種執念深く切り込んでいる。そのプロセスは、向こうのドラマとしてもかなり秀逸だと思いますよ。

伊藤 東京は世界一ロケが大変だって言われています。だけど多分国内での作品だったらこうは切り取れないだろうというスケール感を感じました。彼らが撮った東京って、メトロポリス感がすごくて、未来都市みたいな感じもするんです。

渡辺 東京って本当に世界にないよね。海外から帰ってくると、「なんじゃこのダイバーシティ(多様性)は」って思いますよ。あまりみんな気づいてないかもしれないけど、デカいし、広いし、マンハッタン以上だよ。今回の映像は切り取り方も魅力的だと思うな。
── マイケル・マン監督のリアリティにこだわった演出といえば、今回の作品でもロケ場所から小道具や衣装なども非常に細かいこだわりがあるように見えます。特に印象に残るエピソードはありますか?

渡辺 対象になるものに対してのリサーチや表現に関しては徹底していますね。最初のシーンで、アンセル演じるジェイクと僕が演じた刑事の片桐がヤクザに呼ばれてホテルを訪ねるんだけど、監督は片桐のネクタイを「それじゃない」って、現場で選び直したんですよ。フィッティングですればいいことなんだけど、違うのよ。その場所で、いろんな並びを見て決めたいんですね。そこまでやるかと。

── ネクタイ一本も監督がこだわり抜くんですね。

渡辺 しかも、その場所は取り壊す寸前のホテルオークラの旧館で撮影させてもらって。やっぱり豪華な映像になってますよね。
伊藤 僕もとにかく撮影の規模がデカくてビビりました。渋谷の一角を借り切って撮影したんですが、良い悪いじゃないんですけど、例えば日本のドラマだと、路上マナーとかルールに従ってリアルさは多少犠牲にしても合理的にやりながら進むことも多いんですね。でも、このドラマでは、変えてはいけないところは変えない、妥協せずに取り進めていくところは凄いなって思いました。
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脚本家がほとんどの現場に来るのってもの凄い贅沢(渡辺)

── 舞台は1990年代の東京ということで、今とは違う時代の世相もあると思いますが、そこがまた興味深いですね。

渡辺 1990年代ってさ、近いようでいて結構昔。アナログからデジタルに本格的に移行する過渡期であって、それはテクノロジーだけじゃなくて、ある種、日本の精神構造や社会構造が大きく変革しようとする頃だったと思うんですね。その頃のカオスな、ある意味面白い時代を題材にしているなと思いましたね。

── 伊藤さんは、歌舞伎町で楽しそうにしているところも画面一杯に映し出されていましたが(笑)。

渡辺 お前真面目にやってんのか(笑)⁉  90年代って英明が一番悪かった頃じゃない?  毎日飲んだくれて、六本木でワイワイしてた頃だろ〜(笑)。

伊藤 そ、そうですね(笑)。でも自分が今まで見てきたもの、経験したこと、六本木で遊び呆けていたこととかも、この役だったからこそですけど(笑)、隠して役を演じるのではなく、反映させられたなと。自分の良い部分も悪い部分も、全部出していいんだと思えました。

── おふたりは警察側の役ですが、そのあたりも当時のリアルを求めて入念な準備がされたんですか。日本の警察の協力もあったんでしょうか。

渡辺 それは現役を退かれた、90年代をよく知っている元マル暴の4課の方が監修に入っていて、必ずトークバックをもらっていました。それでも一般の方に理解してもらえない警察用語はダメなので、わかりにくい言葉は変更していく部分もありましたね。

何より凄いのは、脚本家がほとんどの現場に来るんですよ。多少の直しが入るところでも、脚本家が全体を通して見たうえで、ここは変更出来るところ、出来ないところってジャッジしてその場で書いてくれる。並々ならぬ熱意を感じました。そういうのって、もの凄く贅沢なことですよね。贅沢で大事なことでした。
(C)HBO Max _ James Lisle
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僕にこの役をくれれば、ナーバスじゃない芝居ができる(伊藤)

── 監督からは役作りについても細かく指示が入るのですか。

伊藤 役作りに関しては、これ言って良いのかどうかわからないけど、僕がオーディションに受かって最初に言われたのは宮本(刑事)の役だったんですが、2回目のコールバックは、笠松(将)くんが演じた佐藤(ヤクザ)の役だったんです。その後に山下(智久)くんが演じたアキラ(ホスト)もやって、最後で宮本に戻って……。

渡辺 一面的に見ないんだろうね。役もそうだし、伊藤英明という俳優のことも、内にある可能性を色々探ったうえで適役はここだと決めていく。そのプロセスもさ、なかなかのもんじゃない?

伊藤 それがあったからこそ、役に厚みをもたせられたのかなと。いろんな顔で、いろんな役を演じられた。さまざまな角度から見た宮本ができたと思います。

── 謙さんは演技については何か監督とお話しされましたか?

渡辺 監督はね、僕らが作ってきたものはプロとして尊重してくれるんですよ。ただやっぱり、それをどう撮るかは凄くこだわっていますよね。日本だったら「もう1回」って言われると、それがNGなのかなって思うけど、「このエモーションは撮れたから、違う切り口でやってみてくれ」って、彼が腑に落ちるまでやる。アンセルも、“この表現は違うかな”って思っても、突然笑ってみたり、真逆なことしてみたり。とにかくトライアンドエラーなんだよね。
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伊藤 僕は、監督が“このフィールドの中で、その役の、自分なりの人生を生きなさい”って言ってくれていると感じました。撮影していても、どこから撮ってるかわからないんですよ。ず~っと長回しで、その間、僕はカウンターにもたれながら女の子を眺めたり、酒を飲んだり。それでトイレ行って戻ってきても、まだ撮ってる(笑)。でも、こうしろああしろ、こう動いて、というのはほとんどなくて。こういうやり方は初めての感覚でしたね。

── 謙さんも伊藤さんも絵のスケールにハマっている、しっくりきているなと思いました。今回の作品が自分の感覚にフィットしたなと思うようなところはどこでしたか。

伊藤 なんていうのかな、自分の自信のなさも役に反映できたというか。マイケル・マンに言われたんです。オーディションを4回やって、すぐ役が手に届くところになると、緊張してナーバスになって、パフォーマンスが落ちたように見えたんですね。すると「なんでナーバスになってるんだ。なぜ1回目に俺に会った時みたいに、明るくエネルギッシュにできなくなったんだ」って。それで「全部を完璧に演じようとすると、何も生まれてこない。ひとつ決めよう。ここに入ってくる瞬間、去る瞬間、ひとつでも輝く瞬間があれば俳優として魅力的に映るんだ」って言ってくれて。

渡辺 いい話だね。

伊藤 「君はどうしたらナーバスな気持ちを取り除いて芝居ができるんだ」って聞かれたので、「僕にこの役をくれれば、ナーバスじゃなく真剣に芝居ができる」って答えました。そしたら「See you on set(現場でお会いしましょう)」って。えっ、これって決まったの? 決まってないの? ってわからないまま、返事が来るまで1カ月くらいかかりましたけど(笑)。

渡辺 あのおっちゃんカッコいいな! カッコいいんだよね〜(笑)。

伊藤 撮影中はとにかく毎日が夢のような時間だったし、自分の捉え方ですけど、マイケル・マンに選んでもらって、謙さんと同じ舞台に立って、作品に出られた。それは自信になりました。

── 謙さんはどうですか。

渡辺 僕は基本的には自由にやらせてもらった感じだったんで、そんなにナーバスにはならなかった(笑)。ただ、マイケルの最後の撮影日に「お前は本当にムービースターだ。画面で見たらわかるよ」って言ってくれて、それはうれしかったです。

伊藤 最高のホメ言葉ですね!
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● 渡辺 謙(わたなべ・けん)

1959年10月21日生まれ、新潟県出身。1987年にNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で主演を務め、一躍全国的な人気を博す。2003年に映画『ラストサムライ』でハリウッドデビュー。第76回アカデミー賞助演男優賞、第61回ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされる等、高い評価を得る。代表作は映画『明日の記憶』、『硫黄島からの手紙』(共に06)、『インセプション』(2010)、『怒り』(2016)など。

● 伊藤英明(いとう・ひであき)

1975年8月3日生まれ、岐阜県出身。1997年より本格的に活動を始め、2001年、映画『Blister』で高崎映画祭新人賞を受賞。2002年のNHK大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』で前田利長を演じて脚光を浴びると、2006年の映画『LIMIT OF LOVE 海猿』が大ブレイク。以降、『海猿』シリーズをはじめとする映画やドラマ、ドキュメンタリー、CMなどで活躍。2014年、映画『WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~』で第38回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。

■『TOKYO VICE』

巨匠マイケル・マンが全編オール日本ロケで描く、日米スター共演の超大作ドラマ・シリーズ。1990年代の東京アンダーグラウンドを舞台に新聞記者、ヤクザ、警察が入り乱れるリアルで凶暴な裏世界が描かれる。
出演/アンセル・エルゴート、渡辺謙、菊地凛子、伊藤英明、笠松将、山下智久  

ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」
4/24(日)WOWOWにて独占放送スタート
WOWOWオンデマンドにて第1話配信中

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