2022.07.13
災害時にも安心!? ひと目で空き状況が分かる、画期的なサービス知っていますか?
出かける先のトイレやレストランの空き状況がひと目で分かったら便利ですよね。実はそんな画期的なサービスがすでにあるんです。空きが分かることで、社会に無駄をなくし、世の中を少しだけハッピーにする、そんな会社バカンを率いる河野さんにその発想の源泉を伺います。
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ スタイリング/小野塚雅之 文/木村千鶴 取材協力/漆畑慶将
今回はあらゆる場所・空間の空き状況がわかるサービスを提供する、株式会社バカン代表取締役・河野剛進さんにお話を伺いました。
リアルな空間の今の状態を「見える化」するサービスを提供
河野 レストランからトイレまで、ありとあらゆる場所の空き状況が見られるようにするサービスを提供しています。会社名のバカン(VACAN)とは、Vacant=空いているという意味からきています。
外出先でトイレやレストランが混雑していて困ってしまうことってありますよね。そういった時に予め混雑状況がわかったうえで、行く先を考えられれば、少し心に余裕が持てて、他の人にも優しくなれるんじゃないかなと。そういう優しい世界を作りたいという思いで、このビジネスをスタートしたんです。
── 確かにその2箇所は、行きたい時に行けないと本当に困ってしまう場所ですね。すでに多くの場所でサービスを開始されているようですが、ちなみに、どういう仕組みで空き状況がわかるんですか?
河野 はい、おかげさまで商業施設や百貨店、駅、空港、オフィスなどで広がってきました。仕組み自体は、センサーやカメラなどでリアルな空間の“今の状態”をウォッチして解析にかける、というものです。その空間に人はいるのか、どこにいてどんな並び方をしているのか、などのデータをもとに混雑状況や待ち時間を予測し、スマートフォンやデジタルサイネージと言われる、駅にあるような電子看板にリアルタイムで空き/混雑情報を配信していくんです。
── それは便利ですね! 利用者は何かの会員になる必要はないんですか?
河野 はい、登録の必要はなく、どなたでも見れば1秒でわかるような分かりやすいインターフェイスにしているつもりです。
河野 はい、最近増えてきたのは自治体との契約です。災害時に避難所に指定されるところは、体育館や公民館など、普段は別の使われ方をしている場所を利用する場合が多いですよね。
さらに地震なのか台風なのか災害の種類や規模によっても、どの場所を何カ所避難所にするかが変わるし、費用もとてもかかるので設営が非常に大変なんです。
さらにコロナの影響でソーシャルディスタンスを取らなければならず、一箇所あたりの受け入れ人数も減らさなくてはならなくなり、住民が避難してみたら受け入れられなかったとケースが頻発していたんです。
── 避難所に行ったけれど入れなかったという報道もありましたね。
河野 はい。それを避けるために、2020年の8月にある自治体が初めて我々のサービスを導入してくれたんですが、その直後に台風10号が来て、九州では『避難所のたらい回し』という事態がおきて大問題になりました。
でも我々のサービスを導入した地域では問題が起きなかった。それを機に多くの自治体に興味を持っていただき、今では全国200自治体以上、場所で言うと15000カ所くらいに導入されています。
── それは素晴らしいですね!
河野 本当にみなさんが困っていたので、避難所については当初無償で提供したんです。自治体って予算編成の都合で、期の途中では契約が難しいんです。だったら自分たちが掲げたミッションに基づき、いち早く必要な人たちに使ってもらうことが先決だと考えました。これで自分たちのことを知ってもらって、違うところで課金してもらえたらいいかな、と。
河野 これまでは職員の人たちも、どこの避難所が空いているかをリアルタイムでは把握することが非常に困難だったので、そういう意味ではお役に立てたと思っています。ただ避難所の場合、これまでの施設とは違う難しさもありました。そのひとつが避難所では給電されなくなることが想定されるということです。
そこで、スマホやタブレットなど、現地にある端末のどれかひとつでもバッテリーが生きていたら使えるような仕組みを考案して導入したんです。この仕組みのおかげで、どんな時でも空き状況が職員間で滑らかに共有できるようになりました。万が一空きがなくても、住民の方にQRコードさえ渡せば、職員と同じ情報が見られるようにもしました。
河野 空きがなければ、どんなに素晴らしい施設でもサービスを受けられないですからね。日常から非日常まで、様々なシチュエーションの中で、空きがあるかどうかをあらかじめ知るということは、非常に基礎的かつ重要なことなんだと、改めて思いました。
そこをしっかりと「見える化」すれば、みんなが時間を無駄にすることなく、その場所で提供している優良なサービスを受けられる。これは社会に必要なサービスなのかなと思っています。
妻から家庭の損益計算書を出すように言われました(笑)
河野 ありがとうございます。このサービスで起業を考えたきっかけは、昔、家族で商業施設に出かけた時の経験がもとになっていまして。休日の商業施設ってとても混んでいますよね。
そこで、ランチができるところを探しているうちに子供がぐずり出してしまい、妻と相談して結局、家に帰ったんです……。そんなことが何度かあり、もう外出自体が億劫になっちゃったんですね。
その頃からトイレも授乳室も駐車場もそうですけど、使いたい時にサービスが使えないってとても不便だなぁと考えるようになったんです。そんな経験から来た思いが、バカンを立ち上げるきっかけになりました。
── なるほど。実体験での体験が、起業のきっかけになったんですね。でも、それまでは収入が安定した会社員だったと思うんですが、ご家族からは反対されなかったんですか。
河野 妻とは学生時代からの付き合いで、その頃から起業する話はしていたので、ついにきたか、という感じで、反対はされませんでした。
昔の僕は猛烈に働いていたんですが、結婚して子供が産まれてからは家族と過ごす時間をとても大事に思うようになり、ふたりの価値観も変化していたんだとも思います。起業する時にも、妻にはとても助けられました。
── 奥様はどのように手助けしてくださったんですか?
河野 家庭の損益計算書を2年分出すように言われました(笑)。確かにそれは必要だと思い、作成した書類をふたりで見て、「このジムって行く意味あるの?」とか、嫁から指摘を受けながら“これなら2年間死なない”という形にまでふたりで練り上げていき、起業へと動き出したんです。
── 素晴らしいご夫婦での二人三脚ですね! 河野さんは学生の頃から起業を考えていたと仰ってましたがそれはなぜですか?
河野 大学生の時に起業家の人たちと話す機会がありまして、その人たちは、本気で世の中を変えようという思いを持って、仕事をしていたんですね。話を聞くうちに「自分は今まで何をやっていたんだろう、これから何ができるだろう」という気持ちが湧いたんです。
自分も彼らと同じように会社を作れば、それによって雇用が生まれ、サービスによって誰かに喜んでもらえるかもしれない。そうすれば日本の中にしっかりお金が落ちて、僕が大好きだった田舎にもお金を落としていける、そういう循環構造が作れるんじゃないかと。それが最初に起業を考えたきっかけでした。
大学で専攻していたのは、画像認識というシミュレーションなどをやる分野で、その技術を基点にして経営する視点を持ちたいと思い、東京工業大学大学院に進学して、金融工学を学びました。大学院では実際に金融工学をメインにしながら、知的財産についてや、経営戦略もまとめて学べたので、今に繋がっています。
── その思いを持って、まずは就職された。
河野 はい、まずは『ここであれば経済を含め、日本全体を俯瞰できるんじゃないか』と思い、三菱総合研究所というシンクタンクに就職しました。その後GREEという会社に転職し、その後バカンを立ち上げたという形です。
創業直後は文化祭前夜が続いているような日々でした
河野 僕はIT系のバックグラウンドはあったんですが、ものを作るバックグラウンドはなかったので様々な難しさを味わいました。初期のうちはセンサーをどこにどう設置するかもわからず、試行錯誤しながら毎日脚立を持って移動する、という生活をしていました(笑)。
雨の日なんかは脚立を入れた段ボールの箱が雨で溶け出して、客先に着いた時にはずぶ濡れでどろどろの段ボールまみれだったことも(笑)。今となってはいい思い出ですけど。
── 最初のうちはわからないことだらけでしょうし、大変なことも多いですよね。
河野 そうですね、これがサービスとして成り立つのかどうか、ちゃんと使えるものができたかどうかの検証も必要なので大変でした。
当時手伝ってくれた仲間と一緒にセンサーを作って、設置することになっていた当日の1時間前に出来上がるということもありました(笑)。
── それはヒヤヒヤしますね!
河野 はい(笑)。それで急いで一緒に設置しに行ったんですが、なんかメンバーがソワソワしてるんですよ。どうしたのかなって思ってたら、「できてはいるんだけど、電池が3日しか持たないです」とその場で暴露されまして(笑)。
── あららら!
河野 それから毎日、深夜に電池交換に入るってことを1カ月くらいしていました。でも1カ月後には電池で3年持つように劇的に改良してくれてて。今となってはいい思い出ですね。
河野 まさに文化祭の前日がずっと続くみたいな感じでした(笑)。そこから徐々に事例ができて事業が伸びていくと、またそれはそれで壁があって。
初めの頃は、組織的な関係性ではなくフラットな文化が良くて、全員が横並びのスタンスにしてたんです。みんな大企業とかからきたメンバーだったんで、組織なんていらないって思ってたから。
でも人数が増えると、意思決定を誰がするかが明確じゃなく、迷ってしまうタイミングがあるんです。全員フラットだと、例えば50人全員と調整しないといけなくなるわけで。意思決定をする人間が決まっている“組織”って、大事だなと改めて思いました。
── やってみて改めて気づくことってありますよね。では、軌道に乗り始めたなと気付いたのはどんな時でしたか。
河野 エンジェル投資家の方(元DeNA春田真氏)が仲間に入ってくださったことは、一番の大きな変化に繋がりました。
なんとなくサービスは作ったことあるけど、資金調達をどうしようとか、組織化ってどうするんだっけとか、色々なところで問題が起きるんですけど、誰に何を聞いたらいいのかわからないというのが、僕たちスタートアップの創業時の悩みだと思うんです。
そういった時に、経験者の方からアドバイスをいただけたのは大きな変化点でした。本当に一緒になってアイデアを膨らませ、心からの応援をしてくださっています。とてもありがたく思っています。
河野 日本全体にこのサービスを普及させたいのはもちろんのこと、まずはAPAC(アジア太平洋経済協力)で、僕たちのサービスが当たり前に使われている状態を、3年〜5年くらいで生み出していきたいなと思っています。
その後は世界中に、ちょっとした時間の価値をより上げていけるようなもの、喜んでもらえるサービスを届けられるようにしたいです。
── では最後に、河野さんにとって、カッコいい大人ってどんな人ですか。
河野 自分の中に世界観を持ち、何かを生み出していける大人に凄く憧れます。ファッションでも、僕らのようにサービスを作るのでも、コンテンツを生み出している人でも、新しい価値を生み出し続けている人はカッコいいです。
いつまでも夢を持ち続けている大人が、新しい楽しみや希望を与えられるのかなって思っています。
● 河野 剛進 (かわの たかのぶ)/株式会社バカン 代表取締役
1983年生まれ。東京工業大学大学院修了(MOT)。 画像解析や金融工学のバックグラウンドを背景に、株式会社三菱総合研究所で金融領域における研究員として従事。グリー株式会社、ベンチャー企業勤務を経て2016年に株式会社バカンを設立。
■ お問い合わせ
トヨダトレーディング プレスルーム 03-5350-5567