2022.07.18
吉岡里帆「新しい扉を開ける鍵を見つけるために」
本格的な女優業を開始してから10年、初主演舞台パルコ・プロデュース2022『スルメが丘は花の匂い』の上演が決まった吉岡里帆さん。仕事に対する思いと、これからの人生について伺いました。
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文/木村千鶴 写真/トヨダリョウ
7月22〜31日には吉岡さんの初主演舞台となるパルコ・プロデュース2022『スルメが丘は花の匂い』が、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演されます。
物語の舞台は、シンデレラや浦島太郎など童話の登場人物が生まれる不思議な世界にある「スルメが丘」。そこに迷い込んだ、吉岡里帆さん扮する主人公の縁緑(えにしみどり)と、ちょっと変わった価値観の住民たちとのふれあいが描かれます。作・演出を手掛けるのは岩﨑う大(かもめんたる)さん。初主演舞台にかける意気込みとともにお話を伺いました。
う大さんの頭の中にしかないものを、みんなで再現しようとしています
吉岡 まだ座長という感覚がそこまで芽生えていませんが(※)、座組みの皆さんが、優しくて面白い方たちばかりなので、平和で楽しくて、個性的なチームになるんじゃないかと思っています。
吉岡 やっぱり“笑い”ですね。笑いの部分に関しては、う大さんの頭の中にしかない唯一無二のものを、みんなで再現しようとするわけですから、一番難易度が高いと思っています。自分の普段のテンポ感よりも、う大さんの頭の中を探る、その感覚を稽古しながら一緒に掴みたいなと思っています。
吉岡 WOWOWのドラマで、又吉直樹さん書き下ろしの作品に出演させていただいた時、初めて共演させていただいたんです。そのご縁でお話をいただいて。そのドラマはずっと2人でボソボソと、道を歩きながら話していくような会話劇でした。お互いすごく変な役だったんですが、不思議な空気感といいますか、“一緒に殻を破れる感覚”みたいなものがあったんです。
── う大さんの独特な笑いのセンスは吉岡さんご自身に刺さる部分が多いんでしょうか。
吉岡 私は関西出身で、好きなお笑いもわかりやすいものって言うとアレですけど(笑)、たぶん今まで、う大さんの笑いって、通ってきていないと思うんです。でも、“出会わなかったはずの方と一瞬何かが交差して出会った”という偶然に、凄く運命的なものを感じています。一緒に面白いものを作れそうなタイミングというのが、今なんだろうなと。今回の公演で、私が持ってるものをプラスに扱ってくださったらありがたいなと思いますし、私もしっかり歩み寄って一緒に作っていきたいという心持ちでいます。
難しい方へ、難しい方へと舵を切って挑戦し続けてきました
吉岡 私にはできないと思っちゃいます。演出の仕事は難しいものだと思っているので、演出家の方には尊敬の気持ちしかありません。でもいつかやってみたいなって思っている企画はあって。
先日、日本のお化け屋敷を大成功に導いた、お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんに出会いまして。今、五味さんに凄く興味があるんです。私、劇場に入った時に全員が着席していて、真っ暗な空間から幕が開く、あの瞬間に幸福感といいますか、エンタメ性みたいなものを感じて凄く好きなんです。ホラー作品を見るのは苦手ではあるのですが、それがめちゃくちゃホラーと相性がいいんじゃないかと思っていて(笑)。だからいつか五味さんと一緒に、和風のホラー作品を舞台でやりたいなって思っています。
吉岡 お客さんとしても舞台や映画やドラマ好きなんだと思います。その好きという気持ちが原動力でしょうか。そして仕事をすればするほど面白みに気づいたというところもあるし、一緒に仕事をしてる方たちの期待に応えたいし。やっぱりこの仕事が大好きなんです。だから、悩みながらも常に前向きな気持ちで、希望を持ってやってこれたのかなと。
あとはファンの方の力も大きいと思います。Instagramをやっているので毎日コメントを見るんですけど、ファンの方の応援してくださる熱量がすごく響いて。「あ〜悩んだり、ウジウジしたりしてる場合ではないな」と、いつも背中を押してもらっています。
── 今はファンの方の応援の声が明確に見える時代ですものね。
吉岡 そうなんです。だからこそ、私に目を向けていただいたことで「こんな面白い作品に出会えた」と思っていただけたらいいなという気持ちがあり。自分自身も挑戦をやめずに常に難しい方へ、難しい方へと力強く舵を切ってきた部分もあります。こんなジャンルもありますよ、と。
挑戦した分だけ新しい扉を開ける鍵を手に入れる
吉岡 デビュー当時は映像作品を中心に出させていただいていました。でも2、3年前ぐらいから舞台に力を入れ出して、ラジオも雑誌にも出させていただいている。それぞれに“それだけが好きだ”と言ってくれる方がいて、一方で、私のファンになってくださったことで、これまで興味を持たなかったジャンルに触れる機会を持ったと言ってくださる方もいる。どれかひとつに注力するのではなく、今の自分の中ではすべての仕事が同じだけ大切なんです。楽しみにしてくれる人がいたら、その人に向けて、体力が許す限りは全部やれるだけやろうって思っています。
吉岡 そうですね、舞台で教えていただいたことが映像に生きるし、映像で学んだことが舞台に生かせるということもたくさんあるので、やっぱり繋がっていると感じます。色々なことに挑戦した分だけ、新しい扉を開ける鍵を手に入れるような感覚があって。私も今、挑戦真っ只中って感じなんです。
吉岡 私は物語の中でも特に群像劇が好きなんですが、その好きな理由って、役者同士がお互いをリスペクトし合ってお芝居を積み重ねていくことで、奇跡的な瞬間が生まれることがあって。そういうチームワークみたいなところに凄く惹かれているんです。今回は、稽古を重ねていく瞬間に偶然笑いが生まれるとか、そこにたまらないカタルシスみたいなものを感じます。
舞台はお客さんが入ってから完成するものだと思うので……だから、こちらが狙ってやったところが当たらないこともあるでしょうし、想像していなかったところで反応が返ってくることもあります。そんな風に意外なコミュニケーションが生まれるってことに、一番グッと来ています。
これまで積み重ねてきたことが土壌として豊かになってきた
吉岡 美味しいものが好きなので、合間を縫っては、どこかに美味しいものがないかを探してます(笑)。あとは何も考えない時間を、1日の中に設けています。本当に何も考えない。やらなきゃいけないことがあっても、今日はやらなくていいよって自分に言ってあげる。自分のことを許してあげる時間を最近はつくるようにしています。
── 来年30歳を迎えるとのことで、30代はどんな人生にしたいですか。
吉岡 実は、やっと30歳になれる! という気持ちもありまして。20代はめちゃくちゃ大変な思いをしようって自分で決めて、スケジュールも詰め込んでやってきたんです。でも、これからはもう少しだけ、自分が興味のあること、好きな時間みたいなものに寄せてもいいかなと思っています。それと、本当は凄く旅が好きなんですが、20代は結構我慢していたんです。行ってみたい場所もたくさんありますし、開拓者になりたいです(笑)。
吉岡 そうですね。積み重ねてきたことが、だんだん土壌として豊かになっている感覚もあるので、それを活かせる場所はどこなのか、もう少しだけ精査してもいいかなと思います。
吉岡 やっぱり包容力と、どんな状態に対してもフラットに物事を見る力がある。あとはバネのように折れない心ですかね。特に今回は、座長ですから、「みんなが前向きな気持ちで仕事をするにはどうしたら良いか」ということも考えていかなければいけない。そのためには、自分が誰よりもタフで優しい人でありたいって思います。あとは、面白いこと探しをやめない、そういう気持ちが大事かなと思います。
● 吉岡里帆(よしおか・りほ)
1993年1月15日生まれ。京都府出身。NHKテレビ小説『あさが来た』(2016)で注目を集め、以降多くの話題作に出演。映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(2019)、主演映画『見えない目撃者』(2019)で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。最近の主な出演作品は映画『ホリック xxxHOLiC』(2022)、『ハケンアニメ!』(2022)、『島守の塔』(7/22(金)公開予定)。ドラマでは『カルテット』(2017)、ドラマ初主演となった『きみが心に棲みついた』(2018)、『レンアイ漫画家』(2021)、『しずかちゃんとパパ』(2022)。舞台では『ベイジルタウンの女神』(2020)、『白昼夢』(2021)、劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』(2021)など幅広く活躍中。
『スルメが丘は花の匂い』
2013年にキングオブコントで優勝した実力派コント師でありながら、自ら『劇団かもめんたる』を率いる劇作家・演出家としても近年注目を集める岩崎う大による書き下ろし作品。岩崎がプロデュース公演の作・演出を手掛けるのは、今回が初。主演は、近年多くの舞台にも出演し評価の高い女優・吉岡里帆。その初主演舞台となる。
シンデレラや浦島太郎など童話の登場人物が生まれる不思議な世界に迷い込んでしまった、会社員の縁緑(吉岡里帆)。緑は「スルメ姫」という物語の主人公として生まれた少女クロエと出会う。緑の登場により混乱していく「スルメ姫」の物語。物語を成立させようと必死な登場人物たち。一体どんな結末を迎えるのか? 果たして緑は元の世界へ戻ることができるのか? 本作は、童話の世界を舞台に、少女たちの交流が描かれる唯一無二の「岩崎う大流」ファンタジー・コメディ。
出演/吉岡里帆、伊藤あさひ、鞘師里保、岩崎う大、牧野莉佳、もりももこ、小倉大輔、ふせえり
東京公演/2022年7月22日(金)~31日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 同年8月巡演(大阪・福岡・広島・高知・愛知・福島)
企画・制作/株式会社パルコ
HP/スルメが丘は花の匂い