2019.12.07
ラグビー日本代表の司令塔・田村 優はなぜモテるのか?【前編】
「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が、ホスト国の日本だけでなく世界のラグビーファンを虜にしたのは記憶に新しい。2大会連続でW杯出場を果たし、日本を史上初のベスト8に導いた立役者のひとり、田村 優選手が、LEON.JPに現在の心境を語り尽くしてくれた。
- CREDIT :
写真/片桐史郎(TROLLEY) スタイリング/伊達祐輔 ヘアメイク/田中徹哉 インタビュー/石井 洋(LEON.JP編集長) 文/鳥海美奈子
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「できることはすべてやり切ったという感じです」
田村 優(以下:田村) 少しずつ、気持ちの整理がついてきたという感じです。自分たちが何をやり、何を成し遂げたのか、やっと実感が湧いてきました。ベスト8の試合が終わったばかりの頃は、自分の置かれている状況もよくわからなくて、どこかふわふわしていたんです。実はこの1週間、沖縄で久しぶりにゆっくりとオフの時間を過ごしたんですけれど、周囲の人たちの僕に対する反応を見て、あ、自分たちは大きなことを成し遂げたんだな、とようやくわかってきました。そういう状況をつくれたことは、今回W杯に関わった人間として幸せだったと思います。
田村 うれしかったですよ。当初はまったく注目されていなかったので、ものすごく危機感がありました。これでチームが結果を残せなかったら、ラグビーが今後、浮上できる機会はゼロになってしまう、と。ただファンが増えても、代表選手たちは浮かれることもなく、自分たちの目標に向かって集中して、できることはすべてやり切ったという感じです。
「僕らのなかに、何か大義のようなものが存在しました」
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石井 国籍なんて関係なく、全員がONE TEAMで目標に向かっていたのが印象的でした。主将のリーチ・マイケルさんがW杯の合宿で、『君が代』を知らない若い選手や外国出身選手たちに「さざれ石」を見せたとか、全員が誇りをもって国家を歌うことが大切だと語っていましたよね。ある意味、ラグビー日本代表は、日本人が今後進むべき道を提示して見せてくれたのではないかと。
田村 日本の全部を変えるとか、そういうことはもちろんできないとは思いますけれど。でもどこの国籍か、日本人か日本人ではないかなんて、関係ないんですよ。人と人として向き合う。もっとシンプルなことなんです。
「キックの瞬間は、僕だけの時間」
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田村 はい。司令塔はゲームを組み立てていく立場だから、勝てば凄かったと言われる代わりに、負けるとバッシングがきます。そういう状況になると、自分だけではなく家族にも影響が及ぶのではないかと心配していました。僕はW杯の前回大会にも出場しているから、それ以上の成績を残さなければいけないというプレッシャーもありましたし。そういうことを全部乗り越えて、戦う必要がありました。
石井 田村さんの場合はキックもありますしね。決めればヒーロー、外せば戦犯扱いという。スタジアムは超満員だし、視聴率も高いし、ましてや世界中が観ているなかで蹴る時って、何を考えていらっしゃったんですか?
田村 特に何も考えていないんです。とにかく自分のリズムだけを信じてやろうと、その瞬間を100%楽しんでいましたね。キックの瞬間は、僕だけの時間なので。
田村 はい、僕の中では完全に音は止んでいます。それでも日本は騒いでいるお客さんもいて、スタジアムは決して静かな感じにはならなかったですね。海外だと、観客もいっさい話を止めてキックの瞬間を見守っています。
石井 観客のほうも試合の見方がわかっているんですね。
田村 そうですね。日本も今後、そうなっていくとより良いラグビー文化が花開くかなと思います。
「どういう状況でも集中モードに入れるよう、訓練しました」
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田村 はい、ラグビーは高校からです。
石井 蹴るというのは、やはりサッカーと繋がりはありますか?
田村 どうなんですかね。ただ蹴り方にクセがあると言われて、克服するためにずっと訓練を積んできました。それでも蹴るという行為や動作そのものにスッと入っていけた部分はあると思いますね。
「僕、目標がないと頑張れないんですよ」
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田村 オファーがあれば、どこでもいいです。パフォーマンスはきちんと維持しつつ、40歳まではプレーをしたい。
田村 今回のW杯では、攻撃をプランニングするアタックコーチで、トニー・ブラウンという人がいたんです。彼はいずれオールブラックスのコーチになるのではないかと言われているくらい、世界的にも有名で。彼とは感覚も似ていて、一緒に仕事をするなかで、ゲームのプランニングをするアタックコーチは面白そうだなと、興味を持ちましたね。
石井 僕は素人的な見方しかできませんが、昔はまずはスクラム、というイメージがあったと思います。でも今回のW杯ではキックが多用されていて、展開もとてもスピーディで。戦術とか戦力、技術力はこれからますます上がっていくんでしょうね。
田村 そうですね。今回の日本のラグビーは、ヘッドコーチのジェイミーとトニー・ブラウンが作り上げたものです。僕は攻撃、つまりアタック専門ですが、アタックは日本が今回のW杯のなかで一番と言ってもおかしくなかったと思います。ニュージーランドと同等くらいだったかな、と。
田村 チェスと同じく味方を動かす、さらには相手を動かす部分もありますし。すごく美しいスポーツだと思います。自分がやりたいように周囲を動かせるのは楽しいですね。
石井 日本代表のプレーは攻撃も多彩で、観ていて本当に楽しいラグビーでした。ありがとうごさいました!
田村 優(たむら ゆう)
1989年1月9日、愛知県生まれ。ポジションはセンター、スタンドオフ。小学校・中学時代はサッカーに専念していたが、國學院栃木高校に入学後、ラグビーを始める。明治大学を経て、NECグリーンロケッツへ。2012年に初代表入りを果たし、2015年のW杯に出場。2019年のW杯では初のベスト8入りに貢献した。現在はキャノンイーグルスに所属。181cm、92kg。
協力
ダンヒル 03-4335-1755