2022.07.30
クレイジーケンバンド・横山 剣「せめて音楽の中だけは自由でいさせてよ」
「イイネ!」や「俺の話を聞け」といった決め台詞とダンディでゴージャスな世界観で我々を魅了し続けるクレイジーケンバンドの横山 剣さん。ニューアルバムの聴きどころを伺うと、常に柔軟で今を大切に生きるカッコよさの基準が見えてきました。
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文/松永尚久 写真/トヨダリョウ
バンドの中心的存在である横山 剣さんは、実は過去にLEONイベントで熱唱していただいたことも。アルバムの聴きどころを伺ううちに、常に柔軟で今を大切に生きようとする姿勢、つまり現代の「カッコよさ」の基準が浮き彫りになりました。
横山 密な活動ですね。常にスケジュールで埋まっていて、振り返ったり、悩んだりする時間がなくて。心を亡くすと書いて忙しい。つまり、いい意味で「心を亡くす」ことで走破できた25年と言えます。
隙間恐怖症なんですよ(笑)。音楽活動をしていない時間もクルマのレースに参戦したりして、今では、遊びと仕事の境界線がない感じ。そもそも音楽も、趣味の延長で続けていますからね。そうしないと楽しんで取り組めないところはあります。最近は年下のミュージシャンから多くの刺激をいただいたりも。
—— ちなみに、注目している年下のミュージシャンは?
横山 娘の影響ですが、藤井 風が好きです。音楽はもちろんですし、醸し出すムードも色っぽい。見ていて目の保養になりますよ(笑)。また娘も、昭和のオールディーズな音楽にも興味を示していて、それを教えたりとか。音楽を通じて、親子の良いコミュニケーションがとれている状況ですね。
『樹影』は、曲づくりしていた喫茶店の名前で、僕の原点
『樹影』 クレイジーケンバンド
通常盤[CD]3300円、初回限定盤[CD+DVD]7480円(8月3日発売)/ユニバーサルシグマ
22作目の、ラジオ番組のような構成の全18曲。初回限定盤のDVDには、昨年中野サンプラザにて行ったライヴ映像を収録。
横山 『樹影』は、僕が10代の頃に横浜・本牧で働いていたガソリンスタンドの近所にあった喫茶店の名前なんです。休憩時間になると、そこでいつも歌詞やメロディを考えていたというか。自分の将来を思い描いていた、原点と言える場所。また、言霊というか、文字霊が強い気がして、このタイトルにしました。
—— その喫茶店がなければ、今の横山さんは存在しなかった?
横山 そうかもしれないですね。お店自体は80年代に閉店してしまったのですが、店内はボタニカルな雰囲気もあって、それが印象的で、60年代にセルジオ・メンデスが発表したアルバム『マシュ・ケ・ナーダ』のイメージも重ねてジャケットを制作しました。
—— 今回のアルバムでは、どんな音を追求したのですか?
横山 昨年はカバーアルバムのリリースのみだったので、アイデアのストックがたくさんありました。だから、堰を切ったようにいろんな楽曲が生まれて、その勢いのままアルバムが完成していったという感じ。なので、コンセプトとかはなくて、2022年仕様のクレイジーケンバンドをそのまま表現した作品と言えますね。
—— CKBらしいスウィートでソウルフルな旋律を保ちながらも、モダンな雰囲気も漂う印象でした。
横山 例えば、コンビニで働いている外国人に恋をしてしまうとか、現実にあるような物語をモチーフにしながらも、幻と現実の狭間を漂う感じ。過ぎてしまった時間は、あっという間に「過去」になってしまう。それが放つ、儚さや美しさを留めた楽曲を収録できたように思います。
—— ここ最近の社会が失っていた、人の繋がり・温もりも伝わってきました。
横山 「ステイホーム」が続いた2年でしたからね。そういう思いが自然に強くなっていって、人と触れ合うという、これまでだったら何でもない出来事が実は大切であるという実感がこもった楽曲が多くなったのかもしれません。
何かとうるさい社会。せめて音楽の中だけは自由でいさせてよ
横山 アーモンドを齧る時の「カリッ」てサウンドからヒントを得て生まれた曲です。海外でのっぴきならない状況下にあって、なかなか帰国できずにいる男が、眼前の太平洋を見つめながら、好きな女への想いをメロディに変換してる、そんなストーリーです。
—— 海を越えて、続く楽曲「ドバイ」に辿り着く訳ですね。
横山 ヴァーチャル技術を駆使して、ドバイへ魔法の絨毯ならぬ「魔法のお布団」で飛んでいくという。ちょっと官能的な要素もある楽曲に仕上がりました。
—— 次の楽曲は、実際にドライブで向かう「強羅」!?
横山 「強羅」もまた文字霊が強いですよね。ワケありな感じがするというか(笑)。箱根の旅館へ、キャデラック CT6で滑り込んでいくというイメージを表現。ジャジーなムードもが漂ってます。
—— 「強羅」は大人の秘密基地な印象(笑)。よく行く場所なのですか?
横山 そうですね。僕自身も、地元(横浜)からちょうどいい距離なので、足を運ぶ場所の1つではありますが、実際の日常生活はこじんまりしてますよ(笑)。せめて音楽の世界だけでも、ゴージャスでありたいし、リスナーの方々にも味わっていただきたくて、この楽曲を制作した部分はありますね。
横山 昔に比べると、いろいろと行動や発言に対して問われることの多い社会になりましたよね。でも、音楽だけは治外法権というか。音楽からは、何を感じても自由なんです。せめてそこだけは好きにさせてよ、という思いがアルバム全体に流れているはず(笑)。
—— 恋愛のかけひきをテーマにしている楽曲もあれば、ご自身の出生を辿る「The Roots」も。
横山 「ご先祖様を敬う」って、若い頃にはそういう気持ちがあっても、楽曲にすることには抵抗がありました。でも年齢を重ねると図々しくなるのか、今なら歌っても許されるのかなと思ったんです。
実は1年以上前から制作していた楽曲で、ベーシストのParkくんに共同プロデューサーとして参加してもらったことで、自分が思った以上の仕上がりになりました。
新しい方と関わるのは勇気がいることですが、ネクスト・レベルにシフトしたいなら、即実行が大切だと思いましたね。以前にも、ライムスターさんや小西康陽さんなど、時々でさまざまなクリエイターと共演させていただきましたが、今回もそういう時期に入ったのかなって。
—— 音を変化させることに、抵抗感はないのですね?
横山 その瞬間に好きと思ったものを取り込みたいんです。クルマも同様なのですが、伝統を引き継いでいるだけじゃ刺激がないし、興味をそそられない。歴史を踏襲しつつも、どこかに驚きというか、斬新さがあるものに惹かれますね。そのほうが退屈しませんし。
—— 新しさの追求と同時に、80年代に制作した「スカジャン・ブルース」も収録。
横山 ずっと発表するタイミングを探していた楽曲で、それが今だなと思って。完成させた頃だと、カッコつけている感じしかなくて、ワイルドさを表現できなかったかも。「スカジャン」なんて言葉を歌うのも、当時恥ずかしかっただろうし。
また「タイガー&ドラゴン」がリリースされて今年で20年を迎えることも、発表に至った大きな理由です。当時のジャケ写はグリーンのスーツを着ていたので、本作はグリーンをテーマカラーにした部分もあるんです。いろんな思いのこもった作品になりますね。
いつ死んでもいい気持ちで、今日を悔いなく過ごす。そのほうが人生楽しい!
横山 20代前半までは、28〜32歳くらいを「大人」と想定していたので、そこから先は「異次元」でした。ゆえに、60歳過ぎなんて想像していなかったというか。興味の範囲外でしたね。年齢を重ねていくうちにそれが楽しいってことかもって思うようになって、62歳の今があるって感じです。
—— 80年代の横山さんのファッションは?
横山 アメリカンなリーゼントとか、往年のサーファースタイルなど、時代とはちょっと離れたことをしていたのかなって。横浜からわざわざ福生まで行ってウィルソン・ピケット(60〜70年代に数多くのヒット曲を残したアメリカのR&Bシンガー)風なジャケットを仕立ててもらったりとかしていましたね。
—— 当時からスーツだったのですね。
横山 10代の頃は古着のスーツを購入して、それをサイズ調整してもらい、ちょっと崩した感じで着ていました。今考えると、間違えたコーディネートをしていたこともありましたが、そういうことを繰り返して、ここまで来られたのかなって。
—— 今日のファッションもお洒落です。
横山 涼しさを意識して、シアサッカーのセットアップにしました。夏でも移動時は寒いことが多いので、軽く羽織れるジャケットは必須ですね。
—— ファッションで大切にしているポイントは?
横山 清潔感ですかね。ワイルドだけど、汚らしく見えないってことにはこだわりたいですねぇ(笑)。
横山 母親の影響で、子どもの頃から福澤幸雄さんやミッキー・カーチスさんなど、レーシングドライバーに憧れを抱いていました。彼らが行きつけにしていた飯倉にあるレストラン『キャンティ』やホテル・オークラのカフェなど連れていってもらいましたから。あの当時に出会った方々の、カッコよさを今も追求している部分があります。
—— やはり、カッコよさとクルマは深い繋がりがあるのですね。
横山 クルマは、自分にとって切っても切り離せない存在。曲のアイデアは、ほとんどドライブ中に思い浮かびますし、完成した楽曲も運転中に聴いて心地いいかどうかがポイントになっていますから。
—— 今、気になる「クルマ」はありますか?
横山 長年、ガソリン車に愛着をもち、親しんできましたが、そんな価値観をひっくり返してくれるぐらいスタイリッシュでグッとくるモデルに出合えるなら、水素カーや電気自動車もありだと思いますよ。強いて言えばポルシェのタイカンなんて非常に心惹かれるものがあります。
—— 『樹影』のジャケットにもクラシックカーが登場しています。
横山 これは1966年式のバラクーダ(プリムス)。小学生の頃に見たクルマの本に掲載されていたのをきっかけに知って以来、ずっと欲しいと思っているクルマです。多少は流通しているので、ガソリン車が禁止になったら、EVにカスタムして乗るか、あるいはボディだけでも保管して中に植木を入れて庭に飾るのもありかなって。リアル『樹影』ですね(笑)。
横山 (笑)。実生活でエスコートする機会はなく、音楽の中で妄想を広げているだけなんです。結婚する前は、会話を通じて相手の好みを知って、喜んでもらえるようにしていましたが。ただ、僕は察知するのが下手みたいで……。逆に皆さんに教えていただきたいくらいです(苦笑)。
実はお酒も飲めないですしね。音楽の中でだけプレイボーイでいられるんです。
—— 今後も音楽を通じて、プレイボーイぶりを響かせてくれるのを楽しみにしています。
横山 今回の制作で、今もっている自分の性能をフルで発揮しないと、後悔することを改めて思い知りました。「このくらいでいいか」と出し惜しみしても、次でモードが変わって使えないこともあるなって。
ショップで洋服を選んでいる際に店員さんから「長い目で見ればこちらが」と言われても、今「着たい」と思わなければ、その先も着る機会がないように。音楽に関しても、この瞬間に表現したいものを熱いうちに発信しないとダメですね。
—— どんなふうに年齢を重ねたいですか?
横山 何年活動できるかわかりませんが、エヴァーグリーンなものばかり求めるのではなく、今しかできないことがあれば、それをグイグイと追求したいですね。目標に縛られるよりも、いつ死んでもいいぐらいの気持ちで毎日を悔いなく過ごしたい。そのほうが人生が楽しいじゃないですか。
—— 最後にLEON読者にメッセージをお願いします。
横山 カッコよさの究極ってチャーミングであることだと思います。何かに必死になって生きている人ってチャーミングですよね。このアルバムが、その魅力をさらに広げるツールになってくれたらうれしいですね。僕も皆さんに負けず、チャーミングに磨きをかけていきたいです。
● 横山 剣(よこやま・けん)
1980年代より音楽活動を開始。97年の春頃、横浜・本牧の伝説的スポット「イタリアンガーデン」にてクレイジーケンバンドを結成。「タイガー&ドラゴン」(02年)を筆頭に、上質なポップ・ミュージックを量産する「東洋一のサウンド・マシーン」として音楽シーンに圧倒的な存在感を放っている。22年9月〜『CRAZY KEN BAND TOUR 樹影 2022-2023 Presented by TATSUYA BUSSAN』を敢行。10月23日には中野サンプラザにて公演。
https://www.crazykenband.com