2022.08.06
磯村勇斗「自分らしくいようと思った。うまく立ち振る舞うことは難しかった」
このところ数多くのドラマや映画に出演し、印象的な役柄で急速にファンを増やしつつある磯村勇斗さん。映画『異動辞令は音楽隊!』での阿部寛さんとの共演について、デビュー8年となる俳優としての今の思いなどを伺いました。
- CREDIT :
文/岡本ハナ 写真/トヨダリョウ スタイリング/笠井時夢 ヘアメイク/佐藤友勝
経験値に甘んじることなく、絶対手を抜かない阿部寛さん
磯村 阿部さんとは二度目の共演になるのですが、初めてお会いした時は、寡黙な方だと思っていたので話しかけることに躊躇したんです。でも実際にはそんなことはなく、お話をするのが好きな方だという印象をもちました。演技中も、阿部さんがドシッと構えてくださったので、安心してのびのびと芝居をさせていただき、非常に楽しい時間を過ごせました。オフの時も色々と話しましたよ。
—— それはどんなお話を?
磯村 僕が俳優になった経緯を聞いてくださったり。活躍の場が広い大先輩なので、演技の話が中心で、映像以外にも舞台の楽しさはどこにあるかなどの話をしていました。ご飯の話とか、そういう可愛い話はあまりしなかったです(笑)。
磯村 すぐに吸収ができたかは分からないですけど、改めて阿部さんの凄みを感じました。阿部さんは、映画や舞台、ドラマやCMなど幅広いジャンルで活躍されていますが、その経験値に甘んじることなく、絶対に手を抜かない! 俳優に限らず、経験を積むことで慣れていくからこそ手を抜くことがあると思うのですが、阿部さんにはそれがないんです。僕が内田監督と話し合って何度も同じシーンを撮影することがあったのですが、その時も阿部さんはずっと受けてくださって、それには感動しました。僕も歳を重ねても相手に合わせること、ストイックに攻め続ける俳優でありたいな、と思いました。
—— 阿部さんから演技についてのアドバイスはありましたか?
磯村 阿部さんは直接的なアドバイスをするような方ではなかったです。でも、阿部さんが纏う空気で感じ取っていました。
内田監督は照れ屋さんであり、愛すべき“人たらし”な方
磯村 昔ドラマで少しだけ参加させていただいたことはありますが、しっかりとご一緒させていただくのは今回が初めてです。『ヤクザと家族 The Family』の藤井(道人)監督から内田監督の話は常々聞いていたので、今回改めてご一緒させていただけるのは非常に楽しみでした。
—— 実際にお会いしてみていかがでしたか?
磯村 とても人見知りをする方で、あまり目を合わせてくれなかったです(笑)。でも、役者が演じる時の心情まで見ている方なので、違和感を持ちながら演じていることがあれば、それにいち早く気がついてくれる。そして、それを汲み取ったうえでどうするべきか真摯に向き合ってくれます。照れ屋さんであり、愛すべき“人たらし”な方だなぁと思いました。
磯村 そうですね。とても出来上がっている状態でした。カメラマンの伊藤さんも内田監督とのお付き合いが長く、阿吽の呼吸だったのではないでしょうか。和気あいあいとしながらも「いいシーンを作っていくぞ」と、スタッフ一丸となっていたのは、皆が内田監督をリスペクトしているからこそ。内田監督ご自身もそれぞれ部署の皆さんをリスペクトしていて、共に同じ気持ちだからこそ、最初から最後まであの結束力が持続されていたのだと思います。
多忙な時期を乗り越えたことで得た「演じることの喜び」
磯村 まず僕は人から指示されることがとっても苦手なんです(苦笑)。こうしなさい、ああしなさいと言われることが、もう本当に嫌で。でも、不思議なことに撮影現場だとそういった気持ちがまったくないんです。監督からこうしてほしいというリクエストも大丈夫です。受け入れることでいいものが生まれる、もっと違う自分が引き出せると、ポジティブに捉えているからだと思うんです。指示されることが苦手な僕が、何故すんなりと受け止めることができるかというと……お互いに尊敬し合い、信頼関係が成り立っているからかもしれないですね。
—— 逆に信頼関係がないと聞けない場合も?
磯村 そういう時はぶつかることもあります。演出の方の指示に違和感がある場合は、僕だけのためではなく、いい作品をつくるために、ぶつかることはアリだと思っているので。指摘されたことに関しては一度飲み込みますが、それでも明らかに違和感があるようであれば、もう一度自分の気持ちを伝えます。
磯村 もちろんそれも一つの生き方だと思います。すべてを素直に受けいれることも素晴らしいと思います。でも、僕は挑むなら納得したい。違和感を残したままの演技なんて、やっぱり分かる人には伝わるんじゃないかな、と思っています。ひとつずつその違和感を潰して、監督とどれだけ擦り合わせることができるか。やはり信頼関係をどれだけ築き上げられるかが大事だと思うんです。
演じることが作業化すれば俳優は終わり
磯村 父親の影響で、昔からレーザーディスクで様々な映画を観ていたので、環境がそうさせたのかもしれません。学生の頃から漠然と俳優を目指していました。高校生の頃に地元の劇団に約1年所属していたのですが、これがすごく面白かった! そこで初めてお芝居のメソッドを学びました。
—— 役者を続けていく中で辞めたいと思うような、大きな壁を感じたことはありますか?
磯村 正直、辞めようと思った時もありました。ここまで本気で俳優を目指していたのに、まさか自分がそんなことを思うなんて、と自分自身の想いに戸惑った瞬間でした。でも思い返してみると、単純にキャパオーバーだったんです。仕事が重なっていって作業になってしまい、‟別に俺じゃなくてもいいんじゃないかな? 機械でいいじゃん“って。
磯村 昔の自分からしてみれば、仕事があることはありがたいはずなのですが、その時はまったくうれしくなかったんです。演じることが作業になった怖さは、今でも覚えています。消費されているだけみたいな感覚には、絶対なってはいけないし、そんなことになったら僕は終わりだと思っていたので、その恐怖を感じてからは仕事の仕方を考えるようになりました。
—— 仕事のクオリティを上げていくことにシフトするといったことでしょうか?
磯村 と言うよりは自分を守るためですよね。このままだとあんなに憧れていた俳優という仕事が本当に嫌いになってしまうじゃないかと思ったので、とにかく自分を守りたかったんです。あの頃は、他の作品を見る時間もなくて、インプットができなかったこともストレスでした。大好きなサウナには行っていたのでギリギリやっていけていましたが……守るということが、どれだけ大事かということが分かりました。
—— 今はどんなことをして発散していますか?
磯村 服を一度にたくさん買います! ストレス発散の方法は色々とあると思いますが、食欲に走ってしまうと体形が変わってしまう可能性もあるので仕事にも支障がでるかな、と。物欲に走ることはお金が減ってしまうけれど、好きなモノを手に入れることができるので、僕にとってはベストなんです。
流されずに生きている大人がカッコいい!
磯村 自分の意志をもち、流されずに生きている大人はカッコいいですよね。挨拶をしただけでその方の信念が伝わる人とか。なおかつ、所ジョージさんのようにたくさん趣味があって遊んでいる人は素敵ですよね。忙しいけれど、それを見せない雰囲気、精神的にも余裕を持っている人は憧れますね。
—— 磯村さんがお会いした俳優さんでカッコいいな、と思った方は?
磯村 綾野剛さんにお会いした時、カッコいい! と思いました。とても愛情のある人で、新たに芝居の在り方を見つけることができました。内野聖陽さんも、お芝居に対してストイックな方でした。 且つ現場を楽しんでいて、すごくカッコいいんです。本当に刺激をもらいますね。
—— 今後は役者としてどのような存在を目指していますか?
磯村 ただ芝居をするということであれば、いくらでも続けることはできると思うんです。でも、恋焦がれた俳優業を辞めたいと思うほどの苦い経験をしているので……未来ある俳優たちには同じことを経験してほしくないんです。まだ模索中ですが、そういった環境づくりをしていきたいですね。僕自身が、次の世代の俳優を守れる存在になっていたいです。
● 磯村勇斗(いそむら・はやと)
1992年9月11日生まれ、静岡県沼津市出身。A型。2014年デビュー。特撮ドラマ『仮面ライダーゴースト』(2015)では、仮面ライダーネクロムに変身するアラン役に抜擢される。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)で有村架純が演じるみね子と結ばれる見習いコック・ヒデを演じ、話題沸騰。以降、出演作を続々と増やし、映画『ヤクザと家族 The Family』と劇場版『きのう何食べた?』(いずれも2021)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。公開待機作に、映画『さかなのこ』(2022年9月1日公開予定)、劇場アニメ『カメの甲羅はあばら骨』(2022年10月公開予定)、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』シーズン2(2022年12月公開予定)などがある。
『異動辞令は音楽隊!』
犯罪撲滅にすべてを捧げてきた現場一筋30年の鬼刑事・成瀬司(阿倍寛)。しかし、コンプライアンスが重視される今の時代に、違法すれすれの捜査や部下への厳しさは、周囲から完全に浮いた存在となっていた。そんなある日、パワハラという告発を受け、上司から“警察音楽隊”への異動を命じられてしまう。思いがけない異動先と覇気に欠ける同僚たちに戸惑いを隠せない成瀬だったが……。監督/内田英治 出演/阿部寛、清野菜名、磯村勇斗 製作幹事・配給/ギャガ 8/26(金)全国公開
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