2022.08.05
スパイ、自殺未遂、倒産危機、売上100倍!? 新時代にアソビで孤独を無くす起業家の見る未来とは?
遊びを仕事にする。そう聞いて、皆さんはどんな印象を抱きますか? そんな甘い話はない!? 遊びは遊び、仕事は仕事!? 一見相反するようで、実はとっても親和性があるんです。それに気づいたのが、バヅクリ株式会社の社長佐藤さん。これ、結構深い話です。
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ スタイリング/小野塚雅之 ヘアメイク/勝間亮平 文/安岡将文 取材協力/漆畑慶将

一度諦めかけたからこそ増した、楽しいことへの欲求
佐藤 スパイか、もしくは音楽アーティストになろうと思っていました。
── スパイ!? それは、本気ですか?
佐藤 本気ですよ。青山学院大学を卒業して、アメリカのスパイ養成大学院に行きましたから。
── そんなところがあるんですね!
佐藤 具体的に言うと、CIAに入りたかったんです。小学生の時に映画「007」を観てスパイに憧れていたんですが、大学3年生の時に京都に住んでいた彼女に会いに行くため夜行バスに乗ったら、プリンストン大学の留学生と席が隣になったんです。
その彼が、来年からCIAにインターンに行くと聞いて意気投合。スパイ養成コースのある大学院への推薦状を書いてもらうことになったんです。
── スパイのどこに魅力を感じたんですか?
佐藤 知らない世界を見てみたい。そんな気持ちが今でもずっとあるんです。まぁ、ある意味で現実逃避かも知れませんが(笑)
── ミュージシャンについては?
佐藤 高校生の時からバンド活動をやっていたので。大学院時代はDJとVJもやっていましたが、別に音楽で有名になりたいとか、お金を儲けたいというわけじゃないんです。ただ楽しいから。
だから、音楽における最終目標は、フジロックのステージで解散宣言をすること(笑)。山口百恵さんみたいにね。まぁ、僕はドラムなんでステージに置くのはマイクじゃなくスティックですけど。

佐藤 労働時間が1カ月に520時間ほど。心身ともに疲れ果て、自殺未遂を起こしました。今まさにって時に、走馬灯が見えたんですよね。子どもの頃に秘密基地を作って友達と遊んだ記憶が。
その瞬間、やっぱり死ねないって思い直しました。子どもの頃に感じたあの楽しさを超えることを、29歳まで生きていながらまだやっていないじゃないかって。生まれ変わったような気がしました。
── そうして作ったのが、プレイライフ株式会社ですね。
佐藤 プレイライフは遊びに行った先の情報を、みんなで共有するというもの。70億人いれば、70億通りの遊び方があります。それをみんなでシェアすれば、遊びのバリエーションは無限大に広がります。
とはいえ、ビジネスとしての展望はまるでありませんでした。こんなことで儲かるなんて思っていませんでしたから。だから当時、株式会社にして営利目的にして出資を受けるかとても迷いましたね。株主にアレコレ言われるのは、なんだかなぁと(笑)。
でも、やっぱり資金がないと先がないじゃないですか。伸び代が少ないし、目標の実現に時間が膨大にかかってしまう。お金と人を入れることで、遊びのバリエーションをより多く作れるのなら、株式会社にして出資を受けてもいいんじゃないかと決断しました。
── 結果、月間ユーザー数が400万人を超える人気サイトになりましたね。
佐藤 レジャー系のメディアでは、日本でベスト20に入るぐらいのユーザー数を得ることができました。その頃、キュレーションサイトがちょうどブームだったんですが、あれは他人の情報をまとめ上げるだけ。僕らは実際に遊びに行った場所の情報しか載せられないので、リアルなんですよね。だから支持されたんだと思います。
半端で終わるぐらいなら、大胆な方向転換を

佐藤 それがそうでもないんです。ある時、若者に話を聞いたら軒並み旅の遊び情報はインスタやツイッターから得ていると言うんです。つまり、若者における我が社のライバルは、じゃらんやリトリップじゃなく、SNSだったんです。その時、僕らがやっていたことは、若者にはまるで届いていないことを痛感しました。
── そこで作ったのが、遊部ですね。
佐藤 情報じゃなく遊びの場を作ることにしたんです。遊び、学び、つながるをテーマに、みんなで楽しめるサブスクリプション制のコミュニティサービスで、魔法使いごっこやボードゲーム、釣りや寿司作り体験など、様々な遊びのイベントを運営しました。
── よりリアルになったんですね。
佐藤 おかげで多くの好評をいただき、かなりのユーザー数を獲得できました。でも、そこでコロナ禍に見舞われてしまいます。リアルを追求したがゆえに困難にぶち当たりました。売り上げも98%ぐらい吹っ飛びましたよ。
ただ、それ以前に実はユーザー数が頭打ちになっていたので、正直限界を感じていました。僕の持論は、中途半端にうまくいっている時が一番危ない。良いか悪いかどっちかだと考えているので。
── そんななか、大胆な方向転換を行いました。ユーザーターゲットを、BtoCからBtoBへと変えましたね。
佐藤 それもわずか3日で(笑)。思い立ったらすぐ行動派なので。その結果、リアルからまたオンラインに戻ってきました。ただし、遊びという軸はブラさずに。それが、企業向けのオンラインチームビルディング「バヅクリ」です。

佐藤 「バヅクリ」の目的は相互理解を深めること。遊びを通して、普段省みにくい内なる声に耳を傾けたり、キャッチボールによる意思の伝達などを行うことが目指すところです。その結果生まれるのが、強い組織力。それは、離職率が高まり、社内交流の機会が少なくなっている昨今の企業が、まさに求めていることです。
── 実際に運営してみての反響はいかがでしたか。
佐藤 昨今の世の中は、こと仕事に関して言えば、会社とは仕事以外で関わりたくないという印象がありますよね。でも、それは嘘です。単にコミュニケーションツールが少ないだけなんです。
これまでは、会社におけるコミュニケーションと言えば、結局飲み会ですね。お酒を通してしかコミュニケーションの取り方を知らないから、当然お酒が好きじゃない人からは疎まれます。
それに、酔ってでしかコミュニケーション取れない人って、大抵は絡んだりイジったりになるでしょ? そうなれば、業務以外に関わりたいと思わないですよ。僕はお酒を飲まないので、その気持ちがよくわかりますよ。
── 遊びを通じてだと、みんなフラットに楽しめると?
佐藤 最近、かつてのように社内運動会をやる会社が増えました。やる前はみんな面倒臭がるんですけど、いざやると盛り上がるんですよね。ただ、体力差があります。でもオンラインならありません。
── なるほど、確かに上下左右も関係なく、みんなでフラットにできますね。
佐藤 対面じゃない方が話しやすいことってあると思うんです。いきなり上司とテーブルを挟んで面談、そんな状況で本音を話せる人っていませんよ(笑)。でもオンラインで、しかもまずは遊びを通じてフラットなコミュニケーションを取ると、距離感がグッと縮まります。
散々遊んだ後に今年一年でやりたいことを発表しましょうってやると、普段は前に出るタイプじゃない人が結構大胆な目標を言い出したりとかね。周囲の人にとっても、本人にとっても気づきの場になるんです。
── 現在は、再びリアルな遊びの場を提供していますね。
佐藤 オンラインを経て、やっぱりリアルでも遊びたいという要望が多くて。遊びの達人を会社に派遣するサービスも提供しています。遊びの内容は、シンプルなほどいい。フルーツバスケットとか(笑)。これが結構盛り上がるんです。学校の放課後みたいな、ちょっとしたエモさもあるので。
自分以上の達人はいない! 世界を目指す遊びのエキスパート

佐藤 今まで体験したことのない未知の体験と未知のヒトとの出会いを遊んでます(笑)。でも、そもそも仕事が遊びみたいな感覚なんですよね。僕はお酒も飲まないし、夜遊びもしませんし、贅沢にも興味がない。ファッション、音楽、アート、コミュニティくらいかなぁ、お金を使うのは。あっ最近は80年代のバラエティ番組をよく見てます。
あの時代のテレビは面白いですよね。大人が本気で遊んでいる。マジカルバナナを考えた人なんて、天才だと思いますよ。シンプルだけど奥深くて、ノリもいい。以前オンラインでやってみようかと試したんですが、微妙なタイムラグがあって出来ませんでした。
── 佐藤さんにとって、今の仕事は天職ですか?
佐藤 そう断言できます。遊びを仕事にするなんて、僕以外に出来ないんじゃないですか。思えば小学生の頃から、日々オリジナルの遊びを考えてきました。それを友達に教えて、みんなで遊ぶ。それは今になっても変わっていません。
── 今後の目標は?
佐藤 まずは上場を目指します。子ども達や若者に、遊びでも上場できるんだぞってところを見せたいです。その次は世界進出、そして最終的には世界平和! 冗談を言っているように聞こえるでしょうが、遊びにはその力があると思っています。全世界のひとりひとりが遊びによってひとつになれば、世界は変わると思います。
── 遊び上手なオトコは、モテますしね。
佐藤 それは……どうなんだろう? 僕、遊びについては絶対の自信がありますけど、モテに関してはさっぱりわかんないんです(笑)。それに、遊びって男女を意識すると急につまんなくなるんです。ハンカチ落としで好きな子にばかり落としちゃうと、みんなが興ざめするでしょ? 遊びを追求すると、性差による偏りがない方がいいんです。
── なるほど、言われてみれば確かに! それでは最後に、佐藤さんの座右の銘を教えてください。
佐藤 う〜ん、座右の銘かぁ。アニメのセリフに感化されることが多いんですよね。「鬼になれ!」とか(笑)。これは、先日の役員会議で言いましたね。常識の外側で考えろって意味で。あっ、デンマークの哲学者キルケゴールの言葉は響きましたね。
「死に至る病は絶望」って言葉ですが、僕は加えて「死に至る病は孤独」だと思っています。
暇が多いと余計なことを考えちゃうじゃないですか。何かに追われている時の方が楽しいんです。よく、僕が遊びを仕事にしているからといって、仕事をせずにずっと遊んでいると勘違いされることがあるんです。僕にとって遊びをクリエイトするのが仕事。まぁ、仕事が楽しいから、つまりいつも遊んでいるようなものですけどね(笑)

● 佐藤 太一/バヅクリ株式会社 代表取締役社長
1982年、北海道生まれ。青山学院大学卒業、米国大学院中退/早稲田大学大学院修了。外資系コンサルティング会社などを経て、プレイライフ株式会社(現バヅクリ株式会社)を創業。遊びのメディア「PLAYLIFE」、遊びのサブスク「遊部」を立上げ、2020年オンラインチームビルディング「バヅクリ」をリリース。大手500社が導入。離職・生産性・ウェルビーイング・人的資本をテーマにアソビで日本初上場を目指す。
■ お問い合わせ
アウール公式オンラインサイト https://aoure.jp/