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2022.09.10

永山絢斗、33歳。「安心してしまうのはまだ早い。胸の内はギラギラしてないと」

激しさを内に秘めた色気のある演技で多くの監督からオファーの絶えない俳優、永山絢斗さん。デビュー15年を迎えるもまだまだ落ち着いてしまいたくないと言います。その目線の先には尊敬する兄・瑛太さんの存在が大きいようです。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/中田陽子(MAETTICO) スタイリング/Babymix ヘアメイク/竹下フミ

永山絢斗 LEON.JP
18歳での俳優デビュー以降、現代劇から時代劇まで幅広い作品で主要な役どころを演じてきた永山絢斗さん。静かに余韻を残す演技で見る者を惹きつけ、2022年は映画だけで4本の出演作が公開。

9月9日公開の映画『LOVE LIFE』では、木村文乃さん演じる妻の妙子と、彼女の連れ子・敬太との“家族の形”を模索する夫・二郎役を演じています。監督・脚本は、映画『淵に立つ』(2016)で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞し、世界から注目を浴びている深田晃司さん。

初タッグとなる深田監督とのやりとりを通して得たことや、作品のテーマである「愛」と「人生」について。そして、15年目を迎える俳優業への思いや、「すごい役者」と尊敬してやまない兄・永山瑛太さんとの関係についても伺いました。

自分では優しい男でいたつもりが実は悪い男じゃないかって(笑)

── 今回の二郎役は、深田監督が脚本を書きながらイメージしていた二郎像と、永山さんの持ち味がぴたりと一致したことから、監督から熱いオファーがあったと伺いました。オファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか?

永山 とてもうれしかったですね。深田監督の作品を拝見していると、どれも一貫して監督の強さや独特の世界観を感じるものばかりで。人間の複雑な心の動きがストーリーの中できちんと描かれているだけでなく、役者が生き生きしている感じや、現場の躍動感までが伝わってくるんです。

その後、初めてお会いした深田監督は、とても柔らかい方で。お話していても、非常に繊細な方だと感じましたし、こんなに穏やかで柔らかな方が、激しい作品を生み出すというところに、ある種の逆説がきっとあるんだろうなと。今回の映画のタイトルもそうですけど、脚本を読んで、もう全然“LOVE LIFE”じゃないじゃないか(笑)!と思いました。
── 『LOVE LIFE』というタイトルを聞いて漠然とイメージする“愛に満ちた生活”と、脚本を読んだ時の印象がかけ離れていたということでしょうか。

永山 そうですね。一回脚本を読んだり、一回映画を見ただけではとても整理がつかない作品に久しぶりに出会った気がします。読んでいて非常に楽しく、探りがいのある脚本でした。

── 永山さんが演じる二郎は、現在の夫である自分と、前夫との間で揺れ動く妻を支えようとする難しい役ですが、どう受け止めて役を作っていったのでしょう。

永山 自分の中では、まず優しい男であるということを意識して演じていました。ただ、彼にもずるい部分はたくさんあって。優しい男であるがゆえに、職場の同僚で元恋人の女性に対しても思いやりを見せてしまう。そんな二郎を淡々と演じていたら、現場で演じながら感じていたものと、映像が出来上がって初号(試写)を見た時のイメージが全然違ったんです。自分では優しい男でいたつもりが、「二郎さん、すごく悪いやつじゃないか……」って(笑)思いましたね。

二郎を演じるにあたっては、僕自身の日常の話し方やテンションをそのまま役に取り入れたいと監督が言ってくださったので、地が出ているところもあるし、気持ちも乗りやすかったです。結果、役の上ではあるけれど、自分の中にある気持ちや仕草がよく出ている作品だなと感じました。
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永山絢斗 LEON.JP

わからないっていう時もあっていいんですよと監督に言われ

── 監督からはどのような注文がありましたか。

永山 撮影に入る前から言われていたのは、「あまり台詞に抑揚をつけないでくれ」ということで。セリフひとつひとつに、「そこはまだテンションを上げないで。ずっと低いトーンで」とか、「そんなに目を見て話すってことしないでほしい」というふうに、とても細かな演出をしていただきました。

映画の後半で、二郎が妙子(妻)の前夫で“ろう者”のパクさん(砂田アトム)に独白で気持ちをぶつける重要なシーンがあります。そのリハーサルでも、僕は最初、とても緊張しつつセリフにいろんな波をつけて表現したのですが、監督から、「あ、そこはもう全部棒読みでいいです」と言われて。それがまた難しいんですけどね(笑)。

二郎が相手と掛け合いをするあるシーンでは、途中、ほんの一瞬だけ、自分の気持ちが違うところにいってしまったことがあったんです。そしたらすぐにカットがかかって、監督が僕のところに飛んで来まして。「このセリフの間のここのところって、何考えてた?」と言われた時には恐怖を覚えました(笑)。

そういうことが続くうちにだんだんと、カットがかかった時に、「あ、これは自分(のNG)だな。たぶんあそこだな」と思って監督を見ると目が合って、「じゃあ、もう1回いきます」と言ってやり直したり。相手の方の芝居でも、「さっきの方が良かったのでは?」と思うと、やっぱり監督がやって来て、「あそこですが」と指摘してくれる。本当に細かいところを見てくださっているんだなぁと感じました。
── それは、演じ手にとってありがたいことなのでしょうか。

永山 言葉の強弱や言い回し、顔の表情で表面的に盛り上げる芝居で作っていくものを監督は撮ろうとしていないというのは、役者にとって、これほど幸せなことはないです。本当に役の気持ちで、ただそこにいればいいわけですから。とはいえ、内容が内容なので、単純に楽しいというわけにはいかなかったですけど。

── 二郎と妙子の夫婦の在り方は、簡単に説明のつくものではなさそうですが、どのような思いで演じられたのでしょう。

永山 ふたりの関係は、少し特殊と言ったら特殊なんでしょうけど。でも、人それぞれに共感できる部分もあれば、理解しがたい部分もあると思いますし、それは僕もそうです。人間って、何もかも全部わかって生きているわけじゃないですから。咀嚼しきれない時は、監督から言われた、「わからないっていう時もあっていいんですよ」という言葉を思い返していました。

ふたりの関係が難しくなるのは、あるつらい出来事が起きてからです。それで、僕も妙子も一緒に落ちていって……という風に、最初は台本を読んでいたんです。でも監督から、「ある程度時間が経つと、もう二郎の中では苦しみが薄れつつある。孤独の感じ方はそれぞれ違って、その重みも変わっていってしまうということをやりたいんです」と言われて、なるほどなと思って。二郎としては、いろんなところにそういう気持ちの変化をにじませていくことができたんじゃないかと思います。
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永山絢斗 LEON.JP ジャケット33万5500円、パーカー11万7700円、シューズ16万2800円/以上すべてアン ドゥムルメステール(コロネット)
▲ ジャケット33万5500円、パーカー11万7700円、シューズ16万2800円/以上すべてアン ドゥムルメステール(コロネット) 

ネガティブなことが起こったあとに人は強くなる

── 実の息子ではない敬太と親子になっていくのも、きっと簡単なことではないですよね。

永山 二郎は、普段、奥さんと話す時は特に相手の目を見ていなくても、息子と話す時はしっかり彼の目を見るんです。そんなところにも、二郎の意識というか、覚悟が表れているのかもしれないですね。

敬太といえば、撮影で印象的だったのが、監督が、敬太役の嶋田鉄太(けんた)くんの、子供らしい本能的な部分をとても大事にしていらしたことです。何回も芝居をさせず、鉄太くんを緊張させないように徹底して気を配り、本人のやりたいようにやらせていたというか。

だから、敬太とのシーンでは、彼がアドリブで何をしてくるかわからないので、僕も途中から、事前に演技プランを考えていくことにはあまり意味がないなと思うようになって。今回、取材を受けるにあたって、改めて台本を引っ張り出して開いてみたのですが、あまりにも書き込みが少ないことに少し驚きました。
── 普段はけっこう書き込むのですか?

永山 めちゃめちゃ書き込むわけじゃないですけど、やっぱり企んだりすることはあるので。それに、ドラマや映画の撮影はたいてい、物語の順番通りではないので、「次、〇〇のシーンやります」となった時に、そこに至る流れを瞬時に把握できるように、台本を読んで感じたことを書き留めたり、「ここではこういう気持ちだよな」という感情をなんとなく作ったりはするんです。

今回、書き込みが少ないのは、1日にたくさんのシーンを詰め込むわけではなく、本当に大事に撮ってもらえたからでもあります。敬太とのシーンでは、彼からどんなアドリブがきても、受け答えで自分が下手なことを言わないように(笑)、何パターンかのセリフを書いたりするぐらいでしたね。

── タイトルの『LOVE LIFE』にからめて、ずばり「愛」ってなんでしょう?

永山 ひと言で言い表せるものではないでしょうけど、人でも動物でも、モノや趣味に対してでも、意識せずに自分の中に持ち合わせてるものなのかなと思います。それを、ずっと変わらぬ大きさや深さで持ち続けられることも当たり前じゃないでしょうし。失ってからその大切さに気づくこともあれば、それによって、また愛が深まったりすることもあるんじゃないかと思います。
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永山絢斗 LEON.JP
── そのあたりも含めて、今回の映画はどんな作品に仕上がったと思われますか。

永山 この映画には、いろんな人の複雑で繊細な気持ちや、孤独がさまざまな形で描かれています。見る人によって、気持ちを乗せる場所が違うでしょうし、男女を問わず、誰もがどこかしらに共感できると思うんです。決してハッピーなだけのストーリーではないですけど、この世界を少し覗いてみていただいて、何かを感じてもらえたらうれしいですね。

それと、ちょっと話が飛びますけど、僕は10年前にバイク事故で左足を骨折して、1カ月間、現場に立てない時期があったんです。その時は、大切なものを失った苦しみや痛みを痛切に感じたと同時に、その経験から学ぶこともとても多くて。復帰できた時には、仕事ができるありがたみを心の底から感じましたし。

そういう意味では、“何事も捉え方次第”と考えることも、生きていくうえでは必要かもしれないと思うんです。ネガティブなことが起こったあとに人は強くなり、精神力のバネが強靭になることってあると思うので。そういう強さを教えてくれる映画でもあるのかなと思います。

兄とはお互いの芝居を観ないことにしている

── ご自身のことについても、少し伺わせてください。永山さんは18歳の時に連ドラでデビューされていますが、3兄弟のお兄さんがふたりとも俳優という環境で、俳優という仕事はご自分にとって自然な選択だったのでしょうか。

永山 今思うとそうですね。すごく興味がありましたし、とても強い気持ちで飛び込んだのを覚えています。でも実際には、何が何だかよくわからなかったというのが正直なところで(笑)。役者になるといっても、芝居の学校に行って何かを学んだわけでもないですし。とにかく勢いだけは旺盛で、現場に入って経験を積みたい一心だったと思います。

ただ、これは僕に限らずですが、経験の少ないうちは、本人がいくら現場で経験を積みたいと願っても、思うようにはいかないもので。こればっかりは、運とタイミング、人との出会いや相性が関わってきますから。それでも、何事に対しても誠実に、嘘なく気持ちがそこに向かっていれば、きっと願いは叶うと思ってやっていました。
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永山絢斗(ながやま・けんと)
── その後たくさんの経験を積まれ、デビュー15年目を迎えられて、俳優業への思いは変わってきましたか。

永山 どんな職業でもそうだと思いますが、俳優という仕事も、本当にいろんな人との出会いがあって、なかでも僕らは、ものすごく熱を持った情熱の塊みたいな人と出会うことが多いんです。やっぱり、感情を武器として仕事をしているわけですからね。

昔、さまざまな現場で先輩の役者さんたちに言われた言葉は今でも覚えていますし、コロナで人と出会いにくくなってしまった今は、特にそういう熱い気持ちを持った人と一緒に仕事ができるのは、とてもありがたいことだなと改めて思います。

── お兄さんの瑛太さんとは、兄弟で刺激を受け合ったりすることもあるのですか?

永山 いやぁもう、最近はないですね、ホントに。仕事の話もほとんどしませんし、お互いの作品も見ませんし(笑)。
── そうなんですか!? それはまたどうしてでしょう。

永山 以前は兄のドラマや映画を観ていたし、兄も僕の出演作を観てくれていたんですけど、ある日兄貴から、「お前の芝居を見てると、お前の芝居に寄ってしまいそうだから、俺はもう観ない」と言われたんです。それは、僕自身も兄の芝居を観てすごく感じることで。

もちろん、兄貴のことはすごい役者だと思っていますし、リスペクトしているので観たい気持ちはあるんです。でも自分の中では、まだ30そこそこで、自分なりの表現を掴みきれてない今の段階で、尊敬する兄の芝居に自分が寄っていって安心してしまうのは早いのかなって。まぁ、一生掴みきれないのかもしれないですけど、まだちょっと、ツッパってたいというか。

もう少し年齢を重ねて、自分に余裕が出てきたら、それもありかもしれないけれど、やっぱり胸の内ではギラギラしてないとな、というふうに思います。
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永山絢斗(ながやま・けんと)
── そんな永山さんが考える、カッコいい大人とは?

永山 ひとつには、人を思いやる気持ちというのは大切だと思うので、さまざまな場面で、当たり前に気を遣える人であることが理想です。たとえ相手に対してちょっと意地悪に見えるような言動であっても、本当にその人のためを思ってのことならそれもありでしょうし。僕はまだ自分のことでいっぱいいっぱいなので(笑)、そんなふうに、あらゆる形で気遣いができるような人になりたいなと思っています。

それとやはり、いくつになっても、誰になんと言われようが、自分のやりたいことや信念を貫き通していることも大事だと思います。好きなものを懸命にやり続ける中で、経験だけでなく、自分の考えや人間味が深まったりするので。

ある意味“自分勝手でいい”という思いはどこかにありながら、それでも人のために行動できる自分でありたいし、そうやってコミュニケーションをとって繋がりながら、人と深い信頼関係を築いていけたら、この先、年を重ねても楽しく生きていけるのかなと思っていますね。
永山絢斗(ながやま・けんと)

● 永山絢斗(ながやま・けんと)

1989年3月7日生まれ。東京都出身。2007年にドラマ『おじいさん先生』で俳優デビュー。2010年、映画『ソフトボーイ』で『第34回 日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞。以降、高い演技力が評価され多数の映画やドラマ等に出演。最近ではドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS)、『俺の家の話』(TBS)、『ダブル』(WOWOW)などの演技が話題に。映画では2022年『桜のような僕の恋人』『冬薔薇』、『峠 最後のサムライ』と3本の作品に出演。さらに9月9日には『LOVE LIFE』が公開予定。兄は俳優の永山瑛太。

『LOVE LIFE』永山絢斗 木村文乃

『LOVE LIFE』

2016年に発表した『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司監督の最新作。矢野顕子の隠れた名曲『LOVE LIFE』から深田監督がインスパイアードされて生まれた。
主演は木村文乃。愛する夫(永山絢斗)と愛する息子(嶋田鉄太)、幸せな人生を手にしたはずの妙子(木村)に、ある日突然降りかかる悲しい出来事。そこから明らかになる妙子の本当の気持ちとは……。そして彼女が選ぶ人生とは……。深い余韻を残し、愛することの意味を投げかけ、観る者の思考を満たす深田作品の新たな一歩を感じさせる作品。出演は他に砂田アトム、山崎紘菜、三戸なつめ、神野三鈴、田口トモロヲ。第79回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品。9月9日(金)全国公開予定。
HP/映画「LOVE LIFE」公式サイト

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