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2022.09.21

テレビ東京プロデューサー 祖父江里奈「ドラマを通して、あなたは悪くないって、伝えたい」

テレビ東京のプロデューサーとして活躍する祖父江里奈さん。『来世ではちゃんとします』など、これまでにないヒロインの登場するドラマを手がけてきました。仕事にかける思いや、ドラマを通じて伝えたいことなどを伺います。

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写真/玉井美世子 文/木村千鶴 

テレビ東京プロデューサー 祖父江里奈さん
▲ テレビ東京プロデューサー 祖父江里奈さん
テレビ東京の深夜ドラマ枠のプロデューサーとして活躍する祖父江里奈さん。これまでにないヒロイン像を描き出すことで、特に同性から大きな支持を得ています。

人気ドラマを次々と生み出す祖父江さんは何を思い、どんな信念を持ってドラマを作っているのでしょうか。その仕事論を、前後編でお送りします。
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プロデューサーは偉くなんかないです。いつも謝ってるし、お願いしてます(笑)

── 祖父江さんのお仕事はドラマのプロデューサーですが、端的にいうとプロデューサーとは何をする人なのでしょうか。

祖父江里奈さん(以下、祖父江) プロデューサーの最大のミッションは、無事に予算内で期日までに作品を納品することです。まず、企画を最初に立ち上げたら、スタッフ集めと出演者のキャスティング。

それと同時並行で、脚本の制作を脚本家とともに進めます。原作があるものも、どの部分を使うかの選定が必要です。その後は、撮影現場から映像の編集まで、制作の全体を見守る役割です。

── 盛りだくさんな業務内容ですね。仕事で難しいと感じるところは?

祖父江 それはですね〜、複雑な人間感情の交通整理(笑)。ドラマはとにかくいろんな人が集まって作っているので、意見がぶつかることも多々あるんですよ。脚本家はこうしたいけど、監督はこうしたい、俳優はこうしたい、原作サイドや俳優の事務所やテレビ局からも意見がある……ってなった時に、全員の言い分を聞いて、と、もうずーっと交通整理をやってます(笑)。

── 世間一般的には偉くて威張れるポジションだと思われているような気がしますが、違いそうですね(笑)。

祖父江 全然そんなんじゃないですよ(笑)。作品の一番の奴隷です。細かい仕事をやるのはプロデューサーで、偉くなんかないし、基本、謝ってるしお願いしてる(笑)。

特に撮影現場では、何かあった時のために見守る役なんですよね。事故ったら飛んで行くし、謝罪が必要になったらその場で謝りに行く。
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「私が見たいもの」を作ったら、共感が得られた

── その日々の中での喜びはどんな時ですか。

祖父江 なんだろう、でもやっぱり作品の感想をいただくことが一番うれしいかな。中でも、同年代の女性に「生きるのがちょっと楽しくなった」と思ってもらえるとうれしいので、そういう作品を多めに作っている意識はあります。だから、ずっとエゴサしてますよ(笑)。

── 今はSNSで視聴者も発信されるので、感想も拾いやすくはなりましたよね。そういった意見は反映されるんですか。

祖父江 そうですね。次回の作品作りの時には、これはリアクションが良かったとか、この表現はネガティブに捉えた人が多かったから次回気を付けようとか、そういう意味で反映しています。

── 祖父江さんのプロデュースされるドラマは、いわゆる少数派の人たちの気持ちにも寄り添いながら、リアルな悲しさや可笑しさなども率直に描かれているようですが、作品作りで意識していることはありますか。

祖父江 私が見たいかどうか、というのは気持ちとしてありますね。今は「ドラマ24」という金曜深夜枠のラインナップを選ぶことも業務のひとつなんですけど、さすがにそれは私の一存だけでは決めることはできません。でも、自分で企画書を書く時には、やっぱり自分が見たいかどうかっていうのを1番に考えますね。
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▲ 性を拗らせた男女のラブコメディ『来世ではちゃんとします』。内田理央さんは、5人のセフレがいるヒロインを演じた。
▲ 性を拗らせた男女のラブコメディ『来世ではちゃんとします』。内田理央さんは、5人のセフレがいるヒロインを演じた。 ©「来世ではちゃんとします」製作委員会
── 祖父江さんが見たい基準はどこにありますか。

祖父江 「私が見たいってことは、他にも見たい人がいるだろう」という根拠のない自信かな。来世ちゃん(『来世ではちゃんとします』)という作品は、自分で企画して手掛けて世に送り出した最初の作品ですが、主人公が性に奔放な、これまでにいないタイプのヒロインなんですね。

公開前は、こんな主人公を見たい人がいるだろうかという気持ちもありましたが、私はそれが凄く見たかった。でも、公開されたら「こういうのが見たかった」という女性からの反響が多かった。それから“私が見たいってことは、他にも見たい人がいるでしょう”という姿勢に変えたら、意外と私のスタイルにハマったんです。
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視聴者に伝えたいのは「あなたは悪くない」ってこと

テレビ東京プロデューサー 祖父江里奈さん
── 祖父江さんは、ドラマを通して視聴者にどんなことを伝えたいですか。

祖父江 ざっくり言ってしまえば「あなたは悪くない」だけなんですよね。先ほど「少数派の人たちに寄り添い〜」といっていただきましたが、それこそマイノリティとは単純にLGBTだけじゃないと思っています。

来世ちゃんの主人公もそうですが、「こんなことを考えている私はおかしいのだろうか」とか「ちょっと私って、人と違うかもしれない」って悩んでる人は、内容は違えどたくさんいるはずで。そういうことに注目して作品を作ることによって、悩んでいる人が「私、このままでいいんだ」って思ってくれたら、凄くうれしいですね。
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▲ タイトルそのままの内容が繰り広げられる『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』。山口紗弥加が演じるヒロインは、年齢差を気にしない年下のイケメンとの関係にハマっていく。
▲ タイトルそのままの内容が繰り広げられる『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』。山口紗弥加が演じるヒロインは、年齢差を気にしない年下のイケメンとの関係にハマっていく。 ©「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」製作委員会
── 『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』の主人公も、いそうでいなそうな女性でしたね。

祖父江 あれはマッチングアプリが盛り上がってきた頃に作らせてもらったんですが、興味はあるけど、怖くてできない人に向けて、背中を押すつもりで世に出したんです。だってあの頃の30代はきっと、マッチングアプリに抵抗がある世代だと思うので。

── 主人公はすごいピッチでマッチングしていましたし、“ヤリモク”の男性についてもリアルに描かれていましたね。

祖父江 あの作品はマッチングアプリが肉体関係目的ばかりではないことを伝えつつ、でも一方で、女性がヤリモクでアプリを使って何が悪いのってことも伝えています。“タブーの解放”って言ったら大袈裟ですけれども、抑圧されている女性の感覚に「そんな考え方は古いし、あなたがやりたいんだったらやったらいいじゃない」ってことを伝えたいです。

後編に続く。
テレビ東京プロデューサー 祖父江里奈さん

● 祖父江里奈(そぶえ・りな)

テレビ東京所属プロデューサー。岐阜県出身、一橋大学社会学部卒。2008年入社、バラエティ番組担当を経て、2018年より制作局ドラマ室に異動。「来世ではちゃんとします」「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」「生きるとか死ぬとか父親とか」等を担当(すべて動画配信サービス「Paravi」ほかで配信中)。

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