2022.11.12
唐田えりか「いま、私が思っていることは……」
女優・唐田えりかさんの再始動となる映画『の方へ、流れる』が11月26日から公開されます。しばらく表舞台から離れていたとはいえ、彼女はまだ25歳。今作でも瑞々しさと艶めかしさを秘めた演技で替えがたい魅力を放っています。新たなスタートを前に唐田さんは今、何を思うのでしょう?
- CREDIT :
文/浜野雪江 写真/内田裕介(Ucci) スタイリング/道端亜未 ヘアメイク/尾曲いずみ
本作が撮影されたのは、2021年の11月下旬から12月にかけての8日間。久しぶりの主演映画に彼女は、どんな思いで撮影に挑んだのでしょうか。映画には、男女の刹那的な出会いの顛末とともに、どんな役にもひたむきに臨む、唐田えりかという一人の女優のまぎれもない現在(いま)が映し出されています。
まず、お芝居を通してみなさんに恩返しをしていきたい
唐田 これまでの約2年間は、所属事務所に通ってお手伝いをしながら、毎晩毎晩、社長とお話をして、自分のダメな部分や弱い部分を見つめ、自分というものにとにかく向き合い続けた日々でした。
その中で、ずっと支えてくださった社長やマネジャーさん、事務所のみなさんには本当に助けていただいたんです。自分は日々、みなさんのおかげで生かしてもらっているなと常々感じていたので、私はまず、お芝居を通してみなさんに恩返しをしていこうと思っていました。
── 苦しい思いもあったでしょうが、こうして撮影に入ることができて、やっとここまできたというか、いよいよ始めるんだというような思いもありましたか?
唐田 オーディションを受ける前に、まずは竹馬(靖具)監督の全作品を拝見し、今回の脚本を読ませていただいたんです。竹馬さんの作品を観て思ったのは、演じている役者さんたちが、ただそこに存在している感じ、お芝居をしているとは思えない感じが、同じ役者としてすごくうらやましいなぁと感じました。自分も早く、その世界観の中に入りたいなと思いました。なので、オーディションにも、「絶対に受かりますように!」という気持ちで臨みました。
感情を優先しないで芝居をするようにと言われたのは初めてでした
本読みの時間は私にとってとても新鮮で、勉強の場でしたし、そういう環境を用意していただけたこともありがたかったです。
── 里美と智徳のやりとりは、リアルな会話というより、演劇的な言葉の応酬です。監督からはどのような指示があったのでしょう。
でも、それを言われたからと言って、やりにくさは感じなかったです。むしろ、本読みの時から徹底的にニュアンスを抜く作業をやったことで、いざ撮影現場で相手と対面した時に初めて感じる思いというか、本読みの時はこういうふうに思わなかったのにな、という心の動きを感じました。
── 徹底してニュアンスを抑えているからこそ、湧き上がる感情があったということでしょうか。
唐田 そうですね、はい。それでも感情を抑え、セリフを大事にしながら、監督の思い描く里美像に近づきたいと思いながらやっていました。
遠藤さんはいまだにつかみどころがなく(笑)、不思議な方
それは、遠藤さんとも、役柄同様、お互い良い緊張感を持って、良い距離間でやろうという認識の中でやれたことも大きかったのではないかなと思います。
── 遠藤さんとは、あらかじめお互いのスタンスについて話されたのですか?
── 演じていて印象に残ったり、ご自身に刺さったセリフはありますか?
唐田 もう全部が印象的すぎて(笑)、どれも特別でした。それこそ、女性なら一度は思ったことがあるんじゃないか!?という容赦ないセリフもいっぱいあるので、密かに共感してくださる方も多いのではないでしょうか。
彼女は、自分の弱さを知っている、強い女性なんだと思います
里美は智徳に対してずいぶんトゲがあることを言いますが、その言葉を相手に向けながら、実は自分自身にも向けていたり、言いながら、『それは私だ』と内心気づく部分がきっとあって。そのうえで、辛辣な指摘をまっすぐに、言葉として発することができる強さはいいなぁと思いますね。たぶん彼女は、自分の弱さを知っている、強い女性なんだと思います。
唐田 一瞬、どう演じようかと迷う瞬間はありました。でも、「今の表現は違ったかもしれない」と思った時は、竹馬監督がすぐに気づいて「もう一回」と言ってくださるし、方向は正しいのに躊躇がある時も、「唐田さんなら大丈夫、できますよ」という監督の言葉に自信をもらって、しっかり立てるようになっていきました。
竹馬監督は、ホントに私の芯の部分をちゃんと見てくださっている方で、安心感や信頼と同時に、竹馬さんには全部見透かされていて、嘘がつけないという思いもありました。
唐田 演じる時は、もちろん役として言葉を発してるんですけど、現場に立って感じたままにしゃべっていると、ニュアンスを抜いているのに、それを超えてくる感情があって、役というよりも、自分の心が動かされた感覚になるというか。そういう瞬間が何度も訪れるうちに、役と自分が一体になっていく感覚がありました。
── それは、演じる仕事の醍醐味のひとつなのでしょうか。
唐田 そういう経験をいっぱいしたいなぁと思います。
いろんな人が「えっ」って思っちゃうラストだと思います
── 一風変わったラブストーリーですが、二人の出会いの結末にも意表を突かれました(笑)。
唐田 そうですよね(笑)。いろんな人が「えっ」って思っちゃうラストだと思います。でもそのぶん、見た後に余韻が残るような気がします。あの終わり方を見ると、里美が言っていたことも、どこまでが事実でどこまでが作り話だったのかなって改めて思うかもしれませんし、そういう混乱も含めて、見てくださった方が楽しんでくれたらいいですね。
唐田 そうなんです。監督から、「僕のことを呼んでみてください。本当に呼ばれたなと思ったら振り向きますから」と言われて。最初は、「濱口さん!」って何回呼んでも振り向いてもらえなかったのが、「あともうちょっと」などと教えられて何度も練習するうちに、クランクインの前日には一回で振り向いてもらえるようになって。呼びかける声で、相手への届き方がこんなにも違うんだなと気づかされました。
── それは何が違ったのでしょうか。
唐田 感覚的には、言葉じゃなくて、その言葉を発する体の奥の、心の中から出てくるものを大事にできるようになったというか。そういう意味で、自分も「ちゃんと呼べた」という実感があったし、演技指導というよりも、心の動きを鍛えてもらったような感じがします。
ずっとお芝居を続けていられたら……すごく、ありがたいと思う
唐田 そうですね。ホントに今は、お芝居を通して大事な方たちに恩返しをしたいという思いですし、いま自分にできることって、それなんじゃないかなと思っていて。繰り返しになりますが、今は目の前のことをひとつひとつ大事にやっていくことが、自分のできることなんじゃないかと思います。
唐田 う~ん……それはまだわからないですね。ただ、この先の自分がどうなっていくかわからないですけど、ずっとお芝居を続けていられたら……すごく、ありがたいなって思います。
唐田 明確に、この人のようになりたいと目指している女優さんはいないのですが、今後自分が経験するあらゆる作品の中で、ちゃんと“その人”として立ち、生きてる存在になりたいですね。
今回の映画でも、私自身、ホントに言葉というものを大事にして演じていますので、智徳と里美が交わす言葉を聞きながら、みなさんそれぞれの解釈を楽しんでもらえたらいいなと思います。
● 唐田えりか
1997年9月19日生まれ、千葉県出身。女優。2014年、芸能界入り。2015年、女優デビュー。同年、初CM『ソニー損害保険』に出演し注目を浴びる。映画『寝ても覚めても』(2018)でヒロイン・朝子役を演じ、同作の演技により第42回山路ふみ子映画賞で新人女優賞、第40回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞。趣味・特技/フィルムカメラ、音楽・映画鑑賞、純喫茶巡り、書道。
『の方へ、流れる』
『今、僕は』で監督デビュー、2作目『蜃気楼の舟』が世界七大映画祭の1つ、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭フォーラム・オブ・インディペンデントコンペティションに正式出品された竹馬靖具監督による一風変わったラブストーリー。
会社を辞め、姉の雑貨店で店番をする主人公・里美(唐田えりか)。そこに現れた、恋人を待つ男・智徳(遠藤雄弥)。ふたりは“お互いのことを知らないから言えることもある”と店を出て語り合う。思ったことを素直に口にしているようで、どこか本音がつかめないミステリアスな里美に、智徳は戸惑いながらもひかれていくが……。
HP/映画『の方へ、流れる』公式サイト