2023.02.10
仲 暁子「20代は、今やらなくていつやるんだと思って突き進んできた」
若者を中心に人気のビジネスSNS「Wantedly(ウォンテッドリー)」の代表取締役・仲暁子さん。もの作りで世の中にインパクトを与えたいという夢を実現し、人材業界の常識を覆す斬新なサービスを成功させることができた理由とは?
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文/牛丸由紀子 写真/内田裕介(Ucci) ヘアメイク/勝間亮平 編集/森本 泉(LEON.JP)
20代半ばまで、実はクリエイター志望でもあったという意外なバックグラウンドを持ちながら、現在に至るまでにはさまざまな夢と挫折があったのだとか。仲さんはどのように夢を実現していったのか? そして仲さんが考えるカッコいい大人とは?
世界有数の外資系証券会社から漫画家に⁉
仲 暁子さん(以下、仲) 実は金融に特に興味があったというわけでもないんです。当時ゴールドマンにいた先輩方がとても優秀で素晴らしい方ばかりで、こういう尊敬できる方たちと働きたいと思ったからです。
── 世界有数の証券会社を2年で離れた理由はどんなところに?
仲 とにかく大きかったのがリーマンショックですね。リストラも容赦なくありましたし、尊敬していた先輩や同期もどんどん辞めてしまったんです。切磋琢磨できる人たちと働きたくてこの会社に入ったのに、大きく環境が変わってしまったことで自分も背中を押されました。
仲 でも漫画は学生の頃からずっと描いていたんです。だからどちらかといえば、ゴールドマンに入ったことの方がその道からちょっと外れた感じで(笑)、自分的にはまた戻ってきたという感覚でもありました。
ただ描き続けているうちに、自分は漫画家という職業がカッコいいから目指しているだけなんだということがわかってきたんです。本当に漫画家になる人は、描くことが面白くて止められても描いていると思うんですが、自分はひたすら何十時間も描き続けるというのは苦行でしかなかった。
そして漫画雑誌に作品を投稿して、一定は選考に残るなどいい線にいくものの、最終的には入賞することはありませんでした。ボツ原稿がもったいないので、どこか投稿できる場所を作ろうと漫画投稿サイトを作っているうちに、次第に漫画を描くよりもそちらに集中するようになっていました。
── 自分だけでなく、より多くの人のボツ原稿の有効活用ですね。
仲 そうなんです。当時実感したのが、日本の漫画家志望の方たちのレベルの高さ。採用される原稿はほんのひと握りですから、没になっている才能ある原稿がたくさんあるはず。ならばそういう才能を世界中に発信できる漫画投稿サイトを作ろうと思ったんです。マンガ家の夢は叶わなかったけれど、もの作りで世の中にインパクトを与えたいという気持ちはずっと持ち続けていたので。
── 実に前向きな転身です!
仲 サイトは完成し、一定のユーザーも集まりました。そのサービスを宣伝するために参加したカンファレンスで、たまたまFacebook Japanの方にお会いしたのがきっかけで、Facebookに入社しました。
匿名性から実名性へ。SNSの変化がアイデアの基に
仲 私がFacebookに入社したのが2010年ですが、すでにアメリカではインターネット広告もどんどん伸びていたし、FacebookのSNSとしての力も増していました。いずれは日本にもその流れは必ず来るだろうと思っていました。
当時日本ではmixi(ミクシィ)が流行っていて、いわゆる匿名性のコミュニティで基本的にオンラインだけで繋がるのが主流でした。オンラインの人と実際に会う、いわゆる“オフ会”もありましたが、基本的にはオンラインとオフラインというものが、断絶していたんですね。
仲 でもFacebookが出てきたことで、実名のオフラインの友達とオンライン上でもつながるようになり、一気にその考え方が変わったんです。匿名の人が「これがいいよ」というよりも、実名の友達に勧められた方が信頼感は圧倒的に高いですよね。そんな実名性の繋がり情報で何か作りたくて、最初は何でも質問ができるQ&Aサイトを作りました。
ただ、何を質問していいのか困るという声もあり、質問の幅を狭めていくなかで「家庭教師を探している」とか「フットサルのメンバー募集」といった“人”に特化した質問になり、それが発展して、現在のWantedlyのベースとなる、企業と求職者をつなぐ事業になりました。
── よく、次々とアイデアが出てきますね。そして行動力が凄い(笑)!
仲 ちょっといいサービスを思いついたから、まずはやってみようみたいなノリだったんです(笑)。自分では「すごいアイデアだ!」と思ったモノをとにかく形にしようと、突き進んでいった感じで始まりました。当時はまだ若かったので失うものはない、とにかく今やらなくていつやるんだという気持ちだったので。
求人に給与や待遇は掲載NG。常識を覆す求人SNSの誕生
仲 私自身もアルバイトなどで求人サイトを使いましたが、会社の中身が見えてこないのが疑問でした。例えば「事務のアルバイト、時給1000円」と検索すると結果はたくさん出てきますが、その違いがわからないんです。どんな人が働いていて、どんな思いでやっているのかはまったく見えない。一緒に働くのだから、もっと透明性が高いものを作りたいと思ったんです。
── でも従来の採用フローをまったく変えてしまうことになります。それが業界に受け入れられるのか不安に思うことはなかったですか?
仲 今思えば、もともと人材業界の出身ではないですし、自分がユーザーとして使うならどうするかという発想でスタートしていることが、逆に良かったのかもしれません。初期の顧客はスタートアップ企業が中心だったこともあり、まずは試してみようという企業も多かったんです。企業側として重要なのは、どんなルートでも結局いい人が採用できるという結果。そこで実績を出すことで、口コミとともに徐々に広がってきた感じです。
求職者にとって大事なのは、会社理念や人への共感
仲 スタートアップが必要とするエンジニアやデザイナーは圧倒的に売り手市場なんです。そういう人たちにとって、待遇はもちろんですが、自分がどんな職場で働くのかということがより重要なんです。給与が高ければどこでもいいのではなく、仕事が選べるからこそ本当に自分が理念に共感できて、素晴らしい人たちに囲まれて働きたいという要望は高いんです。
── 仲さん自身はまさにミレニアル世代の旗手と言えると思いますが、その世代の意識ともうまく合致したのかもしません。
仲 それもあるかもしれませんね。ある程度物質的に満たされてきている世代なので、その前の世代より生活水準が上がってきた結果、価値観として金銭報酬以外の“感情報酬”のようなものも求めるようになったのではないでしょうか。
さらにその下のZ世代は、すごく慎重で例えば買い物でも衝動買いはしないし、失敗したくないからと口コミや安いところを徹底的に調べるような感じですよね。生まれた時からインターネットがあるデジタルネイティブなので、仕事探しに関してもスマートに自分で情報を得て、いろいろ比較して探している。ご縁があったからノリで入る、というようなことはどんどん減っていく気がします。
※後編(こちら)に続きます。
仲 暁子(なか・あきこ)
1984年生まれ、千葉県出身。2008年、京都大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2年目で退職し、漫画家を目指す。2010年にFacebook Japanに初期メンバーとして参画。同年9月、現ウォンテッドリーを設立し、Facebookを活用したビジネスSNS『Wantedly』を開発。2012年2月にサービスを公式リリース。現在約350万人が登録し、募集件数は3万7000社にも上る。
HP/Wantedly(ウォンテッドリー)「はたらく」を面白くするビジネスSNS