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2023.03.04

愛されるオヤジさん、嫌われるオジサン。その違いとは?

いくつになっても楽しくカッコよく生きていきたいものですが、そのためには自分と違う世代ともうまく付き合っていくことが肝要。その昔、年長者はそれだけで尊敬されたものですが、今は「老害」なんて言われることも。果たして若者とうまく付き合うために必要なこととは?

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文/木村千鶴 写真/椙本裕子 編集/森本 泉(LEON.JP)

林伸次 LEON.JP BAR BOSSA
年齢を重ねるほどに魅力が増し、恋愛に限らず職場や家庭、社交の場でも愛され、歓迎されるオヤジさんもいれば、なぜか疎まれ嫌われてしまうオジサンもいます。そしてその差は年を追うごとに開いていくばかり。若者に阿(おもね)る必要はありませんが、人生を楽しく乗り切るためには、なぜ差が出るのかを知っておくことも大切かもしれません。

日常におけるさまざまなシーンで、イタいオジサンにならないための、ちょっとした“コツと心得”を、LEON.JPの人気連載「美人はスーパーカーである」でお馴染み、渋谷「bar bossa」店主で作家の林 伸次さんに聞いてみました。

今、オヤジさんの社会的価値はどうなっているのか

── 林さんの新刊「結局、人の悩みは人間関係」(産業編集センター)を読ませていただきました。中で中年男性のイタい言動についても色々書かれていて、これは他人事ではないと思いました。世間では「老害」といった言葉も目に付くようになっています。ひと昔前までは年長者が尊敬される風潮がありましたが、今は年齢を重ねることに価値がなくなっているかのように思えます。

林伸次さん(以下、林) 確かにそういう傾向は感じますよね。これ、僕がお店をやっている実感で言うと、ITの進化とかなり関係があると思うんです。お店をオープンした(1997年)頃はITってまだまだできることが少なかったんです。電話は固定がメインだったし、みんながメールアドレスを持っているような時代でもありませんでした。その頃は例えば映画の仕事をしている人、出版社で雑誌の編集をしている人、大きなメーカーの役職についている人などが、わかりやすく偉くて幅を利かせていました。

── 昔は新宿や六本木でも業界人が集うような店が人気でしたね(笑)。

 でも今は違います。インターネットが社会のインフラになってからは、その界隈での情報を持っていることの方が価値があるようになっていったのだと思います。IT業界では若い人が中心になってくるので、年長者がメインストリームから外れてしまった。以前はオジサンたちが若者には知り得ない情報や人脈を持っていて、仕事のつながりからとっておきのお店、バーでのマナーなども教えてくれいたんですよね。
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林伸次 LEON.JP BAR BOSSA
── それがカッコよさでもあり、価値でもあったはずですが、それが変わってしまったと。

 はい、年功序列で得られたような情報や地位みたいなものが崩れて、いろんな社会的価値が全部覆ってしまったといいますか。

── 若い人たちから見ると、そうした昔の価値観を引きずったまま威張っていると、ダサいんでしょうね。とはいえ若者に媚びるのも嫌だし、かと言って嫌われたくはない(笑)。若者の文化に必死についていくのもどうなんだろう、とは思いますが。

 僕自身はそれこそ、できていないんですけど(笑)、とりあえず話題になっていることは、年齢を重ねるほど試してみた方が良いとは言われています。TikTokが流行ればやってみる、Chat GPTが出てきたらやってみる、好奇心を持ち続けることが大事と。でもそれがなかなか難しくなるんですが。

SNSでは自分から若い人に絡まない

── 興味が向かないことには手を出しにくいと思うんですが、どうしたらやってみる気になれるんでしょう。

 やる気を出すには、とりあえずやり始めるのが一番とは言います。好奇心が湧いてこなくてもひとまずやってみると、もしかしたら面白いことが見つかるかもしれません。

── 確かに、やってみなければ面白いかどうかは分かりません。ただ、新しく出たものに対して抵抗があるのか、何かこう、否定的になる人が年を重ねるほどに多くなりますよね。

 育ってきた自分の環境下の価値観から離れられないのかもしれませんね。特にデジタルのものについては、扱い方が難しいので抵抗感もあるでしょう。そこに自分達の青春時代のカルチャーが一番良いと思ってしまう「僕らの時代は〜」「今の若い人は〜」というあの感覚が入って、否定的になってしまうのかもしれません。
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── ああ、自分達の青春時代のカルチャーをついつい押し付けてしまうことはありますね。自戒を込めて言いますが(笑)。

 はい(笑)、これも年長者がよくやってしまいがちなことですよね。以前、店で若い男性ふたりが音楽の話をしていたんです。その会話に僕と同年代の女性が入ってきて「〇〇は聞いたことある? あれ良いよ、聞いてみて!」って自分の時代に流行った同ジャンルの音楽の話をしだして。彼らはなんとなく困りつつ話を合わせていて、あ〜、女性もやっちゃうんだなとは思いました。今のものも昔のものも同列で楽しめるのは良いことですが、自分達の時代の方が良かったという比較はしない方がいいと思います。

── 今ではSNSを使いこなしているのは若い人だけという時代でもなくなってきましたが、「おじさん構文」という言葉までできてしまうほど、上手に使えていない人が多いという印象もあります。まず基本姿勢として失敗しない使い方はどういうものでしょう。

 僕はSNSで自分から誰かに絡まないって決めています。「いいね」はするしお礼も言いますけど、個人的なコメントは残さないです。例えば若い女性が流行りのレストランに行った投稿をして、友達とコメントのやり取りをしているとしますよね。そこにオジサンが「そこのシェフと知り合いだよ」とか「あの店は何々が〜」って割り込んでくる、あれが一番カッコ悪いと思うんです。そうならないように“自分はオジサンなんだ”と自覚して自重しています。

酒場などの社交の場で好印象なオヤジさんの振る舞いとは

── では舞台を酒場に移して、バーなどでお客さん同士話す機会がある場合、どのように話をしたらいいんでしょう。

 自分がその場で年長者だと思ったら、自分からは話しかけない方がいいかもしれません。隣の人から話しかけられたとして、ひとつ覚えておいた方がいいのは「質問をされたら、質問返しをする」ということです。質問返しができないのは男女問わず年長者の特徴なんですよね。立場が上になってくると、人から聞かれる、意見を求められるのが習慣になっているのか、キャッチボール式のコミュニケーションがうまくできず、自分の話ばかりしてしまう傾向があると感じます。
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── “自分は質問を受ける側”という姿勢が、身についてしまっているのかもしれません。

 仕事の癖って出ますからね。職場でも部下から聞かれる立場で、企画会議や何かでも「これはこうしたらいいんじゃないの」ってことばかり言ってるんだと思います。以前、中年のお客さんからお会計の時に「この端数なんとかならない?」と言われたことがあって(笑)。たぶん酔っ払って、商談など仕事での癖が出たと思うんですが。

── そういうことはあるかもしれませんね(笑)。質問の内容はどんなものがいいんでしょうか。

 「これは盛り上がる」という質問を決めておくと良いかもしれません。僕みたいな接客をやってる人には「今までで一番困ったことは何ですか」と聞くといろんなエピソードが出てきて面白いですよ。質問も自分のエピソードも、できるだけ集めておいて何かの時に出しています。あとは自分の話ばかりしないということ。聞く相手に質問や話す内容を合わせるのがいいと思います。

── 質問のネタをストックするのは良いですね。まずはコミュニケーションとは何ぞや、を考えることが大事かもしれません。

 そうですね、自分の失敗話なんかもできると、リラックスして打ち解けていきます。

── 自分を低く見せて相手を楽しませる、サービス精神のようなものでしょうか。

 はい、失敗話はマウンティングの逆になると思います。

── それができるのは大人ですよね。一方でダメなオジサンだなと思うのが、酔うと愚痴や他人の悪口を言う人。あれって嫉妬心のコントロールができていないのかと思ってしまいます。

 嫉妬したら自分がうまくいってない証拠だと思うしかないですよね。うまくいっている人って、まず嫉妬しないですから。僕の知っている人気店の店主は、SNSのアカウントでは他のお店を褒めることしかしていません。自分の宣伝はせずに「あの店は良かった、ここは良かった」って。そのやり方なら人に嫉妬させないし、敵もつくらないですよね。

── なるほど、嫉妬して悪口ばかり言っている人の周りには悪い気が溜まっていくような気はします。

 悪口は言われている人よりも言っている人の方が印象が悪いです。でも褒め言葉が多い人は印象が良いですよね。批判ばかり言う人はどこかに嫉妬が入っていると思っています。
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年長者だからこそ語れる具体的な話とは

── ところで、中年男性はどうしたら世代の違う若い人から話しかけてもらえるのでしょう? それって難易度高くないですか(笑)。

 「あの人に話しかけてみたいな」と人に思われる雰囲気を出すしかないですねえ(笑)。

── どうしたらそれが出るでしょう。

 あの人何者なんだろうと思われるような“何か”でしょうか。僕は時計のことはわからないんですが、以前カウンターに凄い時計をしている人がいて、隣にいた男子ふたりが「林さん、あの人凄い時計してます」ってコソコソ言ってきたことがあって。その人はよく来てくださる方だったので話を振ったら「あ〜、ありがとう。僕時計が好きで」なんて話から、会話が膨らんでいましたよ。

── それはLEON読者もいけそう。同じものが好きな人同士だったら話も弾みますね。林さんのお店のような場に来る若い人たちは、何を求めて来店するのでしょう。

 さまざまです。「サードプレイス」という言葉があるように、いろんな人と知り合いたくてやってくる人もいます。今の若い人たちのほとんどが終身雇用で働こうとは思っていないでしょうし、誰かと知り合って副業を始めようとしている人も多いです。うちの店で知り合ってヘッドハンティングされた銀行員の人もいました。特にフリーランスの人などはキッカケを探しているようにも感じます。ただ、そんなのは苦手と思って静かに飲んでいる人もいます。
── サードプレイスになり得るお店は情報交換の場にもなっているんですね。そうした場に合った年長者の振る舞いはどんなものでしょうか。

 若い人たちが喜ぶのは職業ごとの具体的な話です。例えばライターだったら、編集者が求めるのはこんなことだよ、その場合はこんなところで営業して、こんな業界の人と会えるようにするといいよ、ギャラはこのやり方ならこれくらい、こっちだったらこれくらい、そういう金額の話を含めた具体的な話をすると喜んで聞きます。年長者から教わってうれしいことはたくさんあるはずです。

── 情報は大体ネットにあるように思いますが、具体的なことは載っていないし、玉石混交で信憑性が低いものもありますからね。

 特にお金の話をしてもらえる機会はほとんどないので、知りたい情報だと思います。
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若い女性と恋愛しようと思うな

── では、モテるオヤジさんとはズバリどんな人ですか。

 僕が知っている限りでは、年齢を重ねてもモテる男性は体型をキープしています。あとはやっぱり清潔感があってお洒落ですね。年を取ると唾液が少なくなって口が臭くなるらしいんです。僕は凄く気にしているので、妻が指摘をしてくれます。そういう人を身近にキープしておくのは良いことだと思います。

── ファッションについては、年齢を重ねたら多少の個性は出しても大丈夫ですか。

 いいと思います。和服やツバのある帽子にステッキとか、若い男性がするとトゥマッチになりそうなスタイルは、60歳を超えると渋くてお洒落に見えるんですよね。靴や鞄といった小物を更新しているかどうかは、意外に女性もチェックしているようです。あとは着脱のあるコートはメーカーを見られることが多いので、モテる男性は気遣っている印象があります。

── 会話の内容はどうですか? 例えば下ネタはやはり厳禁ですか。

 恋愛ネタやセックスの話自体をみんなでする分には、楽しくみんなで共有できることも多いんです。でも相手を性的な目で見て評価したり、何をしたとかを言わせたりするのは絶対NGです。
── 相手を性的な目で見て話をする、自分の自慢話ばかりする、これは嫌われますね。

 年長者でモテる人はまず欲しがってないですね。ギラギラしてない。でもなんか凄い人なんだろうなということは分かるものなんでしょう、シンプルにしていても。そういう人は女性から話しかけられたり、チラチラ見て気にされています。

── では、大人の恋愛はどうあるべきでしょうか。

 これ、いつも言っているんですが、まずオジサンは若い女性との恋愛は無理だと思っていた方がいい。そして特に既婚者は若い女性の青春を奪うのは罪だと思います。でも若い女性も年長者にいろんな話を聞きたい、色々教えてほしいと思っているし、決定権を持っているならチャンスが欲しい女性もたくさんいます。情報もチャンスもどんどん与えて、で、もしかして恋愛になることはあるかもしれない。でも期待はしない!

── 自惚れずに、向こうは恋愛感情できているわけではないと自覚する、これが大事な姿勢ですね。

 はい。スマートで親切な対応をするのが紳士かなと。そして大人の恋愛は大人同士、自己責任で行う。これがいいのではないでしょうか。
林伸次 LEON.JP BAR BOSSA

■ bar bossa(バール ボッサ)
ワインを中心に手料理のおいしいおつまみや季節のチーズなどを取り揃えたバー。 BGMは静かなボサノヴァ。
住所/東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
営業時間/月〜土 19:00〜24:00
定休日/日・祝
問い合わせ/TEL 03-5458-4185

● 林 伸次(はやし・しんじ)

1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CD ライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセー「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)、『大人の条件』(産業編集センター)。最新刊は『結局、人の悩みは人間関係』(産業編集センター)が2023年1月25日に発売されたばかり。

●林 伸次さんの人気連載「美人はスーパーカーである」こちらから!

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