2023.03.25
大竹しのぶ流コミュニケーション術。「私、スマホを見ている人にも平気で話しかけちゃいます(笑)」
ブロードウェイ・ミュージカルの名作『GYPSY』(ジプシー)でローズ役に挑戦する大竹しのぶさんに、お芝居にかける思いと、家族との関係、そして世代を超えた人々との付き合い方についてもお話を伺いました。
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文/長谷川あや 写真/椙本裕子 スタイリング/申谷弘美 ヘアメイク/新井克英 編集/森本 泉(LEON.JP)
彼女の母親で、自分の夢を娘に託し、娘をスターにしようと躍起になる“究極のショー・ビジネス・マザー“であるローズ(※)を中心に物語は展開されていきます。自らも母親である大竹さんに役柄のことはもちろん、ご自身の家族や若い世代の人々との付き合い方についても話を伺いました。
「生意気を言うな」とよく怒られていました(笑)
大竹しのぶさん(以下、大竹) 私、鳳蘭さんと宮沢りえちゃんで上演した『GYPSY』を観ているんです。ローズが夢を持って生きていきたいと歌う「Some People」という楽曲が素敵で、いつかやれたらいいなとは漠然と思っていた役柄であり作品だったので、夢が叶いました。
── ミュージカルに携わる世界中の女優が演じたいと切望する、ローズという役柄についてはどう解釈されていますか。
大竹 ローズは心で思ったことがそのまま口をついて出てしまう人。私もおかしいと思ったことはそのままにできず、若い時から、脚本家の先生などに「これ、違うと思います」と言って、プロデューサーに「そんなこと言っちゃダメ」とよく怒られていました(笑)。
── 大竹さんらしいエピソードです(笑)。
大竹 私はパワフルな女性を演ることが多いのですが、ローズはとりわけパワフルです。ビッグスターになる夢を2人の子どもに託し、わき目もふらず突き進んでいるのですが、ある日、突然、娘のひとりが母親の前から去ってしまいます。
でも、そんな状況でも次のことを考える。どんな時もエネルギーに溢れているローズという役柄を精いっぱい楽しみたいなと思っています。観ている方が、「うぉ~っ」と叫びたくなるような、「やるぜ!」と思ってもらえるようなエネルギーを受け取ってもらえる作品にしたいです。
大竹 反対はされませんでしたが、すごく心配だったと思います。初めて映画に出ることになり、撮影で九州に行くことになった時のことは今でも覚えています。父が駅まで送ってくれて、ホームで私の顔を見ずに、「お父さんは芸能界のことはよくわからないけれど、自分をしっかり持って頑張ってきなさい」と言ってくれました。
── 大竹さんご自身にとってはショービジネスの世界は最初から居心地のいい場所でしたか。外から見ていると「怖いところなんじゃないかな」とつい勘ぐってしまいます(笑)。
大竹 ぜんぜん怖くないですよ~。確かに最初はちょっと怖かったけれど、すぐにみんなが一生懸命に働いている場所なんだとわかりました。1920年代のヴォードヴィルの世界を舞台にした『GYPSY』とは違い、日本の芸能界は全然煌びやかなんかじゃないですけど(笑)。
── きっと大竹さんはデビュー当時からずっとお芝居が大好きだったのでしょうね。
大竹 そうなんです。お芝居することが楽しくて仕方ない。若い頃からお稽古が大好きでした。(稽古が)長くても厳しくても全然大丈夫。たくさんのダメ出しに、「きゃ~」と思うこともあるけれど、それ以上に「このダメ出しを早くやりたい!」って思うんです。今度はこういう風にやるから観てねって。一生懸命やって、演出家やスタッフの期待に応えたい、褒めてもらいたいという気持ちもあります。
日常の何気ない出来事をより大切していきたい
大竹 初日の幕が上がる時です。よく、「変わってるね」って言われますが(笑)、1、2カ月かけて、みんなで一生懸命作ってきたものを、ようやく観てもらえると思うとうれしくて。稽古場で芝居を作り上げ、劇場に入って、装置や照明が完成し、私たち役者が舞台に立ち、そこにお客さんが入るということが、とてもうれしいんです。
── 憑依系の女優と言われることも多いですが、役にのめり込んで日常生活に影響を及ぼすこともあるんでしょうか……。
大竹 若い頃はそんなこともあったかもしれませんが、結婚して、子どもを産んでからは、(役に)とりつかれる時間がなくなってしまいました。どんなに役に入り込んでも、幕が下りた瞬間に母親に戻らなきゃならないので(笑)。
── 大竹さんは、ローズに負けず劣らずパワフルですが、そうは言ってもお疲れになることもあると思います。どんな風にしてエネルギーをチャージしているのでしょう?
大竹 よく食べますね。休みの日は、リビングでだらだらお茶飲みながらNetflixを見て、一緒に住んでいる息子の食事を作ったりして過ごします。で、妹や友達と、「まただらだら過ごしちゃった!」などとくだらない話をするの。それが楽しいんです(笑)。
このあいだの休日も、何もする気になれなくて、家でだらだらしていたら、急に友人一家が我が家に来ることになったんです。人が来るとなると、何かやろうと思うものですね。お魚を焼いて、丁寧に出汁をとってお味噌汁を作り、お鍋でごはんを炊いたのですが、そのどうってことない食事をとても美味しく感じたんです。そんな風に、些細なことで喜びを感じています(笑)。
大竹 ちゃんとかどうかはわからないけれど、コロナ禍で、日常の何気ない出来事をより大切していきたいと思うようになりました。例えば先日、段ボールをゴミ捨て場に置きにいったんです。そうしたら積み上げられていたものが少し崩れてしまったんです。一応なんとなくまとめていたのですが、回収の人もやり難いだろうなと思って、部屋から紐を持ってきてくくりました。こういったことも体力づくりのひとつになっているかもしれないですしね(笑)。
── 一事が万事。些細なことでも大切にしていらっしゃるんですね。
大竹 2018年に他界した私の母は、夜、キッチンの片付けが終わると、「今日も1日終わりました」とつぶやいていました。私は、「疲れているなら明日片付ければいいじゃない」なんて言っていたのですが、母は必ずその日のうちに片付けていました。今は、私が母と同じことをしています。その日のうちに片付ける心地よさがわかるようになってきたんです(笑)。私、今、母と同じことをしているんだなあ、それを娘や息子が見ているんだなあとしみじみ思います。
子育てでは普通の感覚を持たせるように意識しました
大竹 娘はもともと音楽に携わる仕事をしたいと言っていたのですが、私も娘も知らない間にどんどん話が大きくなってしまい、結局、何がなんだかわからないままに、芸能界入りすることになってしまいました。(明石家)さんまさんと私の娘というだけで、娘には苦労をかけてしまいましたが、最近は、「どう生きていけばいいか見極められるようになって、ようやく楽になれた」なんて話もしていました。
大竹 私自身もそうだったのですが、「普通でいなきゃ」という思いが強かったです。芸能界にいると金銭感覚が違ったりするのは、そのひとつですね。だからこそ、普通の感覚を持たせるように意識しました。
笑い話なんですけどね、さんまさんと結婚していた頃は、旅行で飛行機に乗る際は、家族全員でファーストクラスに乗っていました。離婚後に、子どもと一緒にエコノミーに乗ろうとすると、息子が、「前はあっちの席だったよね?」と言うので、「子どもなんだからこっち(エコノミー)でいいの。あっちの席に行きたければ、自分で働いて自分のお金で乗りなさい」って(笑)。お小遣いも、クラスで2番目だか3番目に少なかったみたいです。
── 教育の効果はありましたか?
大竹 はい。30歳を過ぎた今も2人とも物欲があまりなくて、張り合いがありません(笑)。ただ、一緒に暮らしている息子は少し甘やかしてしまっているかもしれません。これくらい自分でやらせなきゃと思いながら、ついやってあげてしまうんです。
スタッフの方の名前を覚えるところから始まった
大竹 スタッフさんは一緒に作品を作る仲間。しっかりコミュニケーションを取るのは当然のことです。映画デビュー作の『青春の門』(1975年)の時、「スタッフの名前はきちんと覚えなさい」と教えていただき、出番がない日も、毎日、学校帰りに撮影所に通っていました。本当に素晴らしいことを教えていただきました。毎日、撮影所に行っていると、スタッフの方の名前も自然と覚えますし、みなさんが可愛いがってくださいます。昔と今とでは映画の作り方は違いますが、そういった昔の映画の作り方を経験できて本当に良かったと思っています。
── 若い俳優さんとは、どんな風にコミュニケーションを取っていますか。LEONの読者には世代の違う部下の扱い方に悩んでいる人も多く、ぜひアドバイスをお願いできればと(笑)。
大竹 最近は個人主義ですよね。自分の出番が終わったら自分の居場所に戻ったり、スマホを見たり……。でも私、スマホを見ている人にも平気で話しかけちゃいます(笑)。舞台って、本番の前にお稽古期間があるので一緒にいる時間が長いんですよ。舞台の期間中は、家族以上に長い時間を共有するので、関係が築きやすく、だんだんと悩みなども相談してくれるようになります。
私も、「昔はね、出番を待っている間もずっと現場にいて、スタッフさんとお話したりしていたんだよ」「ロケでは大広間でみんなで食事をして先輩からいろいろなお話を聞いたのよ」なんて昔話をしたりして(笑)。今回の『GYPSY』でも、スタッフや共演者のみなさんとなんでも言い合える関係を作っていきたいです。
大竹 言いたいことを言える関係を作ったうえで、芝居のことを中心に基本的なことは伝えます。だから、みんな私にいろいろなことを聞きにくるんです(笑)。芝居が終わると、若い俳優さんが楽屋に「今日はどうでしたか」って聞きに来たり、あとは悩み相談だったり……。だから私がいつも楽屋を出るのが最後。でもうれしいし、楽しいです。
先日、ある舞台作品で、ある女優さんが、若い俳優さんに、「あなたはまだ素人みたいなものだ」と少しキツいことを言ったんです。すると翌朝、その俳優さんが、ストレッチのときに膝を抱えていたんです。まずいな~と思って、「でもさ、言ってもらえて良かったね」と声をかけたら、その子、パッと顔をあげて、「そうなんです。本当に良かったです。今ここで頑張らなければ、僕の未来はないですよね」なんて言って、かわいいなあって(笑)。
その日の本番は第一声から違いました。こんな風に若い俳優さんの成長を目の当たりにできるのはとてもうれしいことだし、舞台には言いたいことを言い合って仲間になれる雰囲気があります。
大竹 ちゃらちゃらしている人よりも必死な人が好きです。一生懸命やっている人は、外見にかかわらずカッコいいです。もちろん、一生懸命で、ハンサムでお洒落でお金持ちだったら言うことないですけどね(笑)。
── なるほど(笑)。大竹さんご自身は、これからどんな風に生きていきたいですか。
大竹 正直でありたいです。そして、何事も好奇心を持ってやっていきたいですね。いろいろな世代の、魅力的な人と出会っていけたらいいなって思います。とにかく、楽しく生きていきたいです。
● 大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)
1957年7月生まれ、東京都出身。1975年に映画『青春の門-筑豊篇-』のヒロイン役で本格デビュー。同年、NHK連続テレビ小説「水色の時」に出演し幅広い世代から人気を集める。その後は、映画,舞台,TVドラマ,音楽等ジャンルにとらわれず幅広く活躍。2016年には舞台『ピアフ』の代表曲である「愛の讃歌」で「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。芸術選奨文部科学大臣賞、日本アカデミー賞主演女優賞など受賞多数。2011年には紫綬褒章を受章した。『母との食卓 まあいいか』(幻冬舎)など著作も多数。4月にはNHK-BSプレミアム「犬神家の一族」(前後編)の放送を控えている。6~7月には、一人芝居『ヴィクトリア』に出演予定。
『GYPSY』(ジプシー)
実在したストリッパーのジプシー・ローズ・リーの回顧録をもとに製作されたミュージカル。初演は、1959年。“ステージマザー”の代名詞となった母ローズに焦点を当てた。振付・演出がジェローム・ロビンス、脚本はアーサー・ローレンツ、作詞にスティーヴン・ソンドハイムと、昨今、リバイバル映画がヒットし、人気が再燃している『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957年)のクリエイターがふたたび集結したことも話題を呼んだ。強烈なキャラクターだが、どこか憎めないローズは、初演でエセル・マーマンが演じて以来、アンジェラ・ランズベリー、ベット・ミドラー、バーナデット・ピータース、パティ・ルポン、イメルダ・ストウントンといった、名だたる名女優が演じてきたキャラクター。1990年トニー賞・ベストリバイバル、2016年ローレンス・オリヴィエ賞・ベストリバイバルを受賞するなど、初演から半世紀たった今でも世界中で上演が繰り返されている。日本では、1991年に、ローズ役を鳳蘭、ローズの娘で“バーレスクの女王”ことルイーズ役を宮沢りえが演じ、上演されて以来の上演となる。
公演期間/2023年4月9日(日)~30日(日)
会場/東京芸術劇場プレイハウス
*大阪、愛知、福岡公演あり
出演/大竹しのぶ、生田絵梨花、熊谷彩春、佐々木大光(7 MEN 侍/ジャニーズJr.)、今井清隆ほか
料金/S席1万4500円、A席1万1500円
HP/https://gypsy2023.com/