2023.04.15
大谷翔平・年収85億「広告でもスーパースター!?」
大谷翔平選手を広告に起用したコーセーの「コスメデコルテ」の美容液が売り上げを伸ばしています。年俸3000万ドル(約39億3000万円)の他、グラウンド外で3500万ドル(約45億8500万円)以上を稼ぐとされている大谷選手は、“広告”でも才能を発揮していると言えるのです。
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文/西山 守(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)
年商85億、大谷翔平が「広告露出」でも見せた才能
そんな大谷選手だが、米紙によると大谷選手の2023年の年収は85億円を超え「MLB新記録」とされている。内訳としては、年俸3000万ドル(約39億3000万円)の他、グラウンド外で3500万ドル(約45億8500万円)以上を稼ぐとされている。
実際、現状でも日米含む13社とスポンサー契約を結んでいる。グラウンド外でも破格のスーパースターと言える。
金額や契約数も「破格」だが、広告の手法という面から見ても、大谷選手の起用は、今後の広告のあり方を示唆するような、興味深い点が多々見られる。
人々に自然に受容された「コスメデコルテ」の広告
例えば、化粧品メーカー・コーセーの「コスメデコルテ」シリーズの美容液「リポソーム アドバンスト リペアセラム」。50mlのスタンダードサイズで1本1万2100円と高価ながら、美容に詳しい女性にはデパコス(デパートで売られている化粧品)の定番としてよく知られる人気商品だ。この広告に現在、大谷選手が出演。最近見かける機会が非常に多く、店舗によっては、数倍に売り上げを伸ばしているという情報もある。
WBCで盛り上がっている最中の、2月16日、大谷選手は自身のInstagramアカウントからロッカールームの画像を投稿した。その画像には、「コスメデコルテ」の化粧水とクリームが写り込んでいた。
なお、大谷選手のInstagramアカウントのフォロワーは540万人を超えている(2023年4月3日現在)。乱暴な比較かもしれないが、新聞の全国紙上位1紙ぶんの発行部数と同等のフォロワーを持っていることになり、いまやマスメディアレベルの影響力を有していると言ってよいだろう。
しかしながら、投稿を見た人の多くは、それを「宣伝」としては捉えず、自然と商品を受容し、好感を抱いたと見える。
その後に放映された新CMにおいても、大谷選手の「やることをやってきたか。いい顔ができているか」「自分が整う」といったセリフは、大谷選手の自身への問いかけのようでありつつ、「コスメデコルテ」のブランド価値を伝えるものになっている。大量に出稿されているが、押しつけがましさがないと感じた。
セイコーもWBC効果で「大成功」?
セイコーウオッチは、2018年に大谷選手とサプライヤー契約を締結して以来、大谷選手との限定コラボモデルを販売するなど、長期的な関係を維持しているが、WBC効果によって、ブランドにも追い風が吹く結果となっている。
ウェブCMにおいても、大谷選手の投打の両方で達成している高い「精度」と重ねることで、商品の「高精度」を効果的に訴求することができている。
コーセーとセイコーに共通するのは、大谷選手を起用して、大谷選手の才能、あるいは生き方、考え方とブランドの世界観をマッチさせた広告を展開することにとどまらず、その手前の段階でSNSや報道を通じて、話題づくりを行っているところにある。
このような展開をするのには、必然性がある。
「広告」が受け入れられづらい時代に
特に、近年はSNSの普及によって、生活者同士の口コミが売り上げに影響を及ぼすようになっているし、特に若者層では、広告よりも、生活者、あるいはインフルエンサーからの情報発信のほうが信頼されやすくもなっている。
広告のほうに目を移すと、日本では芸能人やアスリートなどの著名人を起用した広告が多い。効果が高いからこそ著名人が起用されているが、「実際に商品を使っているかどうかわからない人が宣伝をしている」という、違和感を抱く人が最近増えているのも事実である。
筆者は仕事柄、大学生と話をすることが多いが、そこでテレビCMを中心とするマス広告に対して、「わざとらしい」「押しつけがましい」という声を聞くことは多い。彼らは、動画共有サイトやSNSで日常的に情報収集しているし、広告に関してもネット上の細かくターゲティングされた広告に接しており、「広く」「薄く」伝えるマス広告に対する受容性は概して低い。
一方で、企業起点でSNSや報道で「話題づくり」をすることは、そう容易ではない。生活者は特別好きな商品でもない限り、自発的に口コミを広げてくれたりはしないし、インフルエンサーを起用するにしても、やり方を間違えると「ステマ」と批判される。メディアにしても、企業側が伝えたいと思うことを自主的に報道してくれることはほとんどない。
大谷選手はグラウンド外でもスーパースターだった
もちろん著名人を起用して、広告以外のところでも話題づくりを行っていく取り組みは、今に始まったことではない。
浅田真央さんは実際に同社のマットレスを愛用してきたユーザーであり、広告だけでなく、公式サイトや動画など、幅広い媒体で商品の魅力を紹介してきた。
WBCの真っ最中に自然に露出する絶妙さ
男性向けのコスメ市場は成長途上であり、男性タレントの広告起用もいくつか見られるが、(芸能人でなく)アスリートが起用され、かつここまで大規模で展開されるのは珍しく、男性用コスメ市場の拡大という点でも興味深い動向と言える。
WBCの最中の日本の快進撃の盛り上がりの中で、「さりげなく」商品の情報を投入することによって自然な形でポジティブな話題を広げ、広告展開によって購買喚起を行っていくやり方は、非常に効果の高いやり方であったと言える。こうした手法は、今後さらに浸透していくことは間違いない。
ただし、今回大きな効果を上げることができたのは、大谷選手だったからという点も忘れてはならないだろう。
圧倒的な実力を示しているのみならず、広告に起用してもビジュアル面で「映える」存在であり、スキャンダルもなく、広告以外の場所での商品の紹介もうまく対応してくれる──。グラウンドとグラウンド外での両方で活躍できる大谷選手は、まさに「二刀流」にふさわしい稀有な存在と言える。
かつて広告業界におり、現在は広告に関する教育、研究を行っている著者にとっては、メジャーでの活躍に加えて、スポンサーシップにおいて、大谷選手が今後どのような展開を見せてくるのか、実に楽しみである。