2023.05.09

小橋賢児がいま思うこと【後編】

ウルトラジャパンや、スターアイランドのプロデュースから、2020東京パラリンピックの閉会式、自治体との取り組みまで幅広く活躍する小橋賢児さん。最近では大阪万博の催事プロデューサーへの就任でも話題になった、氏がついにLEON.JPに登場! その活動に込めた思いや、これからのことをがっつり語っていただきました。前後編でその模様をたっぷりお伝えいたします!

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/中田陽子(maetico) インタビュー・編集/高橋 大(LEON.JP)

2020東京パラリンピック閉会式やウルトラジャパンなど、大舞台での総合演出などを務める小橋賢児さん。小橋さんはなぜこの仕事を選び、そしてどのような思いを持ってイベントを創り上げているのでしょうか。この先の未来に見据えているものは? 前編ではこれまでの活動や思いについてたっぷり語っていただきました。後編では大阪万博や、いま注目していることなどこれから、をたっぷりお話ししていただきます!
LEON.JP 小橋賢児

僕はストリートでいろんなことを学んだ

── 枠から外れてこそ、ワクワクすることが見つかる。

小橋 そう思います。僕は子供の頃から洋服が凄く好きで、中学生の頃は先輩の影響でスニーカーマニアだったんですが、中学校2年生の時に「俺はバイヤーだ」って言って韓国にスニーカーを買い付けに行ったこともあります。昔原宿の駅前にあったテント村でバイトしたこともありました。

── 中学生でですか!?

小橋 バイト募集の張り紙を見つけて行ってみたら「中学生が店頭に立てるわけないだろ」って言われたんですけど、頼み込んだらシルバーアクセサリーを作る内職をもらえて(笑)。そのうちに「お前面白いな」って言われて店頭に立つようにもなりました。家が貧乏だったし、当時はお金もなかったんで、洋服を買いたかったらバイトするしかないんですよ。新聞配達もしたし、いろんなことをしてました。
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── 本当に面白い体験ばかりしていたんですね。

小橋 そうやって原宿にいるうちに裏原ムーブメントが起こって、NIGOくんとかジョニオくん(アンダーカバーの高橋盾さん)たちと出会っていって。裏原全盛期を間近で見させてもらえましたね。だから僕はストリートでいろいろ学ばせていただいたんだと思う。

両親共働きの鍵っ子で貧乏だった僕が、大森と蒲田の間の、ヤンキーしかいないような学校からひとり抜け出して、電車に乗って原宿に行く。そこで出会った人たちの中で、違う世界をどんどん知っていく。そうしてファッションや音楽、さまざまなものごととつながっていったことが原体験となって、今の仕事につながっていったのかもしれません。

みんなに新しい世界と出会ってほしい、その中でまだ見ぬ自分のアイデンティティに出会ってほ0しいという気持ちはそこからくるのかもしれない。

── 自分の居場所を動かしたのが一番大きな一歩だったかもしれませんね。

小橋 そう思います。学校の友達だけだったらたぶんこうはなっていなかったし。先ほども話に出ましたが、決まった枠に属してなければいけないような、例えば家と会社や学校しか居場所がなければ、閉塞感も生まれますよね。以前『セカンドID』(きずな出版)という本を出したんですが、その中で僕は「今あるアイデンティティとは別に、仮に偽りだとしても良いので、もうひとつのアイデンティティを持とう」と言っています。

主婦がユーチューバーになっても良いし、今とは別のコミュニティに属すでも良い。もうひとつの余白的なアイデンティティを持つことによって、むしろその余白が本当の自分につながっていくこともあるんじゃないのかなと。僕自身がそうだったから。

── 今のお仕事のスタイルになったきっかけはどういったものだったんですか。

小橋 病気になり心身ともに壊してしまい、そこからはい上がるためのきっかけとして、自分の誕生日をプロデュースしたことから始まっています。友達や先輩たちにおもてなしをしたくて始めたものが、気づいたらそれがひとつの職業になり、アイデンティティになっていったんですね。

それならば、イベントという場はそういう場所にもなるんじゃないかな、と。イベントだけじゃなくて、もしかしたら街かもしれないし。新しい空間が出来上がると、そこには新しい文化が生まれてくる可能性がありますから。
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LEON.JP 小橋賢児

地方創生は地域の人が能動的に動いて強くなっていくことが大事

── 小橋さんがこれからやりたいこと、注目していることはなんですか。

小橋 今は雪山ですね。雪山を通じて、その地方とのつながりを凄く感じています。

── 雪山はゲレンデの方ですか? 山登りをする方ではなく?

小橋 そうです。もちろん海も大好きですが、日本の雪山って、僕らは当たり前だと思ってるけど圧倒的に凄いポテンシャルを持っているんですよ。雪質も良く積雪量も多い、世界的に見ても有数のスキー場がたくさんあります。そしてスキーやスノーボードといったゲレンデでのアクティビティは、上手い下手があっても、リフトで登って滑り降りるという同じゴールを共有できるのも良いところだと思います。

ただその一方で、日本のスキー場のほとんどは30、40年前のインフラで止まっています。ポテンシャルがあるのに課題が多いんです。インフラだけじゃなく、グリーンシーズンをどうするかという課題もありますし。

── 確かに、バブルの頃のまま時が止まったようなスキー場は多いかもしれません。

小橋 でも僕は雪山を通じて地方創生することに可能性を感じています。単純に、雪山の反対側にグリーンシーズンがあるんじゃなくて、グリーンシーズンと雪のシーズンで別々のブランディングをしていくことは可能だと。すでに注目され、世界中の外資ファンドに日本の山を買われ始めていますが、もう少しやるべきことがあると感じています。

── やるべきこととは、地方創生としての課題ですか。

小橋 そうですね、僕、昨日まで野沢温泉に行ってたんです。野沢温泉には古くから続く伝統の火祭りがあります。祭りって側から見ると当日だけのように見えますが、通年の寄り合いで人々が集って創り上げるものなんですよね。それによって世代や文化が紡がれて、地域の結束力が高まっていく。そうした役割が祭りにはあるんだってことを、参加する度に感じています。

地方創生の役割は、外のお金が入って感情のない建物がポンっとできるようなものでは決してないと思います。その祭りの時のようなプロセスを共有して、地域の人たちが能動的に動いて強くなっていくことが大事なんじゃないかと。まずは何よりみなさんに興味を持ってもらうことですよね。そういう意味では、雪山がある地域なら雪山に可能性があるなと思っています。
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LEON.JP 小橋賢児
── 小橋さんは自然とのつながりをとても大事にされている方ですよね。

小橋 僕自身、東京を離れて海の近くに家族ごと引っ越すところなんです。東京から見えてた色と、自然の近くで見えてくる色とは何か違うような気がして、そこから見出される新しい価値や感覚があるんじゃないのかなと思って。

── 自然の中にいると、感受性が豊かになっていく感覚はありますね。

小橋 これまで僕ら人間は、技術を覚えることに時間をかけていたし、技術がないとものごとを作りだすことが難しかった。でもAIの発展などもあり、そこに時間をかけなくても良くなってきています。ですが、テクノロジーの進化によって人がより豊かに、感覚が戻ってきた時に、改めて“何をどう美しいと感じるか”そうした美学やセンスがないとゴールがわからない。だから感受性は凄く大事なんです。

さらには生活や精神的な余白ができた時には、他者を思いやる心のセンスである「ハートセンス」、利他の精神がやっぱりすごく大事になってくるなって。利他の精神と言っても自己犠牲ではなく、それが結果としては自分に戻り、社会に戻っていく。これは元々あった循環だと思う。ここにきて経済合理主義的な利己的主義から、他者を思いやる「ハートセンス」と、美しいと思える「アートセンス」とを掛け合わせ、本来ある人としての姿に立ち返っていければ良いなと思います。

── 音楽プロデューサーの小林武史さんとされている活動もありますね。

小橋 小林武史さんとは『100年後芸術祭』という芸術祭をつくっているんです。そのテーマに「環境と欲望」というテーマを掲げていて。先ほどの話とも少し被りますが、これから大事なのは、人間が原点に立ち返ること。他者のことを思う、自然のことを思う、そういった循環式社会って大事だよねと。

利己的、利他的というのはVSじゃなくて、安心安全が確保できていないと、人は利他的にはなれないんです。最初から他者のためにと言っても難しいこと。この社会の環境は全部人の欲望がつくっています。それならやっぱり100年後の環境を考えていくために、自分たちの欲望と向き合いながら環境をつくっていこうということで、「環境と欲望」というテーマを掲げました。

── 面白い考え方ですね。環境と欲望ですか。

小橋 あまりに世の中が抑制・抑圧の流れになると、みんな我慢してしまう。するとその反動がくるんで、自分の欲望を認めましょうと。そのうえで、じゃあ、どういう社会を、どういう世界をつくっていきたいのか、そこから考えていきたいと思うんです。
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── それはとても楽しみです。最後に万博の話も聞かせてください。

小橋 万博は博覧会ですので、要は主催者だけでつくるイベントではなく、いろんな人たちに参加してもらって、大小さまざまな約8000に及ぶ催事をつくっていくんです。それが半年間行われます。もうそれって、毎日世界中の祭りが同時に行われているようなものなので、いろんなセレンディピティに出会うと思うんです。

そして今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。今まではテクノロジーの進化とか技術の発展などがテーマになっていたところ、今回は“命”と言っている。命って多様な環境の中で人が挑戦し続けたから、紡がれてきたわけで。開催年の2025年って、昭和から始まる100年がちょうど終わるタイミングなんですよね。

『コンタクト』という映画の中のジョディ・フォスターのセリフに、「英語は世界共通語だけど、数字は宇宙共通語」という言葉があります。水は100度で沸騰して、蒸気になって0になりますよね。

同じように、100年培ってきた素晴らしいものは未来に残しながらも、やっぱりいろんなものが大きく変わっていく。その転換期にこの万博という場所がある。世界中からいろんな文化、地方からもいろんな文化が集ってくる。このうねりを感じる機会ってそうそう来ないと思うんですよ。だから万博という「未来の実験場」という場を使ってもらって、いろんな人たちに参画してもらいたい。これを機に、興味を持った企業の人や個人の人たちもぜひ参画してほしい。せっかくいろんな人が来るし、いろんな企業が動くし、国も動くんだったら、これを利用してみんなチャレンジしましょうよと。

── そう聞くと俄然興味が湧いてきますね。正直なところ、万博と言われても何か自分とは関係ないような、どこかしらけた気持ちがありました。

小橋 そうそう、僕が言うのはおかしいけど、皆さん好きなように相乗りしてくださればいいんですよ。税金が投下されて、あらゆる企業、地方自治体も参画するし、国際博覧会なので世界中から人も来る。さっき言った数字的な奇跡のタイミングでもあるわけだから。何かにチャレンジしようと思っていたら、この機会をどうぞ使ってください。
LEON.JP 小橋賢児

● 小橋賢児

1979年東京都生まれ。クリエイティブディレクター・音楽イベントプロデューサー。The Human Miracle株式会社代表取締役。長編映画「DON'T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティ アワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。『STAR ISLAND』はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の東京2020 NIPPONフェスティバルでは、クリエイティブディレクターに就任。大阪万博での催事企画プロデューサーなど、世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

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