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2023.06.03

高良健吾「俳優を続ける原動力は、悔しさが一番デカいです」

見惚れるような正統派二枚目ながら、溌溂とした好青年から狂気を秘めたストーカー役まで、幅広い演技で観る者を魅了する俳優の高良健吾さん。映画『水は海に向かって流れる』に出演する高良さんに、俳優としての真摯な思いを伺いました。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/内田裕介(Ucci) スタイリング/渡辺慎也(Koa Hole) ヘアメイク/森田康平(TETRO) 編集/森本 泉(LEON.JP)

高良健吾 LEON.JP
35歳という若さにして、キャリアはもうすぐ20年。漂い始めたベテランの風格に、往年の銀幕スターを思わせる端正な顔立ちがマッチして、近寄りがたい雰囲気さえ醸している俳優、高良健吾さん。溌溂とした好青年から、狂気を秘めたストーカーまで、演じる役は幅広く、そのギャップの大きさに驚かされる人も多いのではないでしょうか。

シェアハウスを舞台に、心を閉ざした主人公・榊さん(広瀬すず)を取り巻く人間模様を描いた映画『水は海に向かって流れる』(6月9日公開)には、前田哲監督からの熱烈なラブコールを受けて出演。物語のキーパーソンとなる高校生・直達(大西利空)の叔父・茂道役をユーモラスに演じる高良さんに、俳優という仕事にかける思いや、自身が思うカッコいい大人像などを伺いました。

“書いてあることを言うだけ”なのに、なぜこんなに難しいのか

── 今回の役は、若者を見守るオジサンというポジションですが、30代半ばを迎え、演じる役を通して、ご自分の立ち位置が変わってきたと感じることはありますか?

高良健吾さん(以下、高良) お父さん役をやるようになったり、今回のように甥っ子を見守る叔父さんの役がきたり、演じる役は確実に変わっていますね。それはもちろん年齢によって変わってくるものだと思うし、そこが面白い仕事でもあると思うんです。

現場でも、大西くんのような若い子と共演して、彼が芝居で悩んでいる姿を見ると、自分も通った道だなぁとやっぱり思います。

── 大西さんは、お芝居でつまずいた時も高良さんが相談にのってくれて、とても救われたと話されていますが、やはり「放っておけない」という心境になるのでしょうか。

高良 いえ、そこまでの親心みたいなものじゃなく(笑)、彼と話してるとただただ楽しくて、ずっとふたりで喋っていたんです。

そうした現場でのあり方も、芝居を始めた頃と比べたら、中堅になるにつれて変わるもので。それは、自分が10代の時に支えてもらった先輩方の言葉があったり、現場での居方を見せてもらえたからだと思います。
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高良健吾 ジャケット5万3900円、パンツ3万7400円/ともにUNUSED、ニットポロ2万5300円/YASHIKI
▲ ジャケット5万3900円、パンツ3万7400円/ともにUNUSED(alpha PR)、ニットポロ2万5300円/YASHIKI(alpha PR)
── すでに人生の半分を俳優として過ごしてきたわけですが、俳優という仕事は、最初に憧れていた時のイメージと比べて、実際はどうでしたか?

高良 やっぱり、他人の人生を自分のことのように考え、理解しようと寄り添って、書かれているセリフを発するというのは、簡単に言ってしまえば“書いてあることを言うだけ”なのに、こんなに難しいし、(心身が)削れるんだ……というのは、やっていて感じます。

芝居によって傷ついたり、自分の出来なさ加減に落ち込むこともしょっちゅうですし。思い通りにいかなすぎて、全然できてないじゃん! と思う瞬間は最悪で、もう思い出しても嫌になる……(苦笑)。

── 自分の未熟さに打ちのめされた時は、どうやって這い上がるのですか?

高良 次、頑張るしか攻略法はありません。次にできるかどうかはわからないけれど、明確な意思を持ってやるしかない。ただ、自分がダメだと思ったものが、本当にそうなのかというのはわからないです。自分がダメだと思ったものが評価される時もあれば、その逆ももちろんあるので。

そういう意味では、この、正解がない芝居という世界では、自分の判断に引きずられすぎることもないんだとは思いますけど。

自分はこんなに下手でダメなのに、どうして評価されるんだろう?

── できなくて悔しいと思ったものが評価され、納得のいく表現ができたと感じるものが評価されない時は、どう飲み下しますか?

高良 そういうものだと思うし、だから面白いんだなぁと思います。どう感じるかは受け手次第なので。

── 芝居を始めた当初から、そういうふうに思えたのですか?

高良 はい、最初から。僕は、「自分はこんなに下手でダメなのに、どうして評価されるんだろう?」というジレンマからのスタートなので。自分では手応えもなく、やれている気がしないのに、評価されるという状況がすごく怖かったし、ずっとそれが苦しかったんです。

── 世間の評価と自分の感覚の差異も、経験を積む中で縮まっていったのでしょうか。

高良 いつからか、世間の評価と自分の感覚を比べないようになったというだけですかね。比べるのではなく、自分はどうだったか? を自分に問うている感じです。
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高良健吾 LEON.JP
── それは、自分に自信がついたから、そう思えるようになった?

高良 役を演じるということで考えたら、自信という概念は僕にはないです。変化に根拠があるとすれば、やってきた年数だけな気がする。

── 役を演じる際は、役柄との距離はどのようにとっていますか?  一歩下がって客観的に見ているのか、共感が入り口になるのか。

高良 僕は、共感がなくても理解があればできると思っていますし、共感ができないからオファーを断るということはないです。役に対して常に共感を求めていたら、演じる役は本当に狭くなると思うし、自分にオファーが来るような生きにくい役に共感ばかりしてたらヤバいと思う。
── 役の気持ちが理解しがたい時はどうするんですか?

高良 理解しがたいということはないです。それは、自分がやるということで覚悟を決めて、誰よりも役に寄り添おうと思うので、例えば犯罪者であっても理解はできるんです。ただ、共感むずいな……というのはあります。でも、それをやる仕事なんだと思っていますね。

── もう辞めたいとか、休みたいと思ったことは?

高良 いつになっても“他人を演じる”ということがわからなくて、「もう辞めたい」と常に思っていました。ある役が成功しても、次から全部うまくいくのか? というとそうじゃない。それはどの世界も一緒かもしれないけれど、その不安や焦りが常につきまとっていました。

それでも向き合えるようになったのは、役者のピークの訪れというものが、例えばスポーツ選手のそれに対してずっと緩やかだと気づいたからです。スポーツ選手の闘いも、たぶんひとつの表現で、彼らは身体的なピークが早くやってくるぶん、悩んで止まっている暇はあまりないだろうし、進むスピードも半端なく過酷だと思うんです。

けれど役者の仕事は、もしも長生きしてやれるなら、80代、90代まで続けられる。むしろ役者の芝居や表現のピークは、20代、30代でくるよりも、50代や60代できた方が僕は面白いと思う。そんなふうに、「ピークはもっと後にある」と思えたことで、焦り方も変わりました。
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大きな達成感はあえて感じないように、まだ避けているのかもしれない

── そういうふうに気持ちをシフトチェンジできたきっかけが何かあったのですか?

高良 誰がというわけじゃなく、ベテランの先輩たちの芝居を見ていて、「あの人の芝居に、自分が数年やそこらで追いつける気がしない」と感じたからですね。なぜなら、先輩の芝居には生きざまが出ているので。

今自分が、この場面でこういう芝居をやりたいと願っても、人生の経験値が足りなくてカバーできない。でも、生きざまが出るまでには時間がかかるから、もっと長いスパンで考えてもいいんじゃないかと思えるようになってきたんです。

── 生き様が出るのはこれからだという希望も、俳優を続ける力になっていますか?

高良 俳優を続ける原動力は、悔しさが一番デカいです。もうちょっとできるようになりたいという思いが一番ですね。
高良健吾 LEON.JP
── 達成感や喜びを感じることは?

高良 小さな達成感はめちゃくちゃあります。それは作らないといけないと思うし、小さな喜びを1個1個積み重ねています。ただ、大きな達成感を感じることは、まだ避けているのかもしれない。あえて感じないように、自分を制してるというか。

── そんなふうに、ご自分に厳しいのも昔からですか?

高良 厳しいというか、それが好きなんだと思います。普段は自分を甘やかしてる部分もたくさんあるし、極端ですね。

── 甘やかすというのは、例えば?

高良  (体づくりのために)小麦は控えるぞ、と思ってもやめられないし、甘いお菓子も食べちゃうし(とテーブルに用意されたチョコレート菓子をパクリ)。今は撮影もお休み中で、先日は10日間旅行もしました。一人旅で、ラオスに行きました。

休む時間は必ず作るし、旅は自分に必要な時間だとわかっているので、コロナ禍前は年に1、2回は海外に出かけていました。

── 旅に出かけると、心身がリセットされるのでしょうか。

高良 それもあると思います。でも、リセットしにいくぞ! という気持ちではないんです。海外に行くと思い通りにいかないことだらけなので、流れに身を任せるのが単純に面白いんですね。

日本にいる時は、仕事をしていたり、人前に出る際に、失敗のないように自分をコントロールしようという意識が強く働きますが、海外に行くと、自分をコントロールしようなんて思わないし、その必要もない。それが毎日続くとかなりリラックスできて、なんかこう、マッサージされてる気分(ニッコリ)。
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自分に備わっているものを、何かのために使えてる人はカッコいい

── 映画の茂道も、温かな人柄で、皆の凝り固まった心をほぐしてくれますが、前田監督の演出はいかがでしたか?

高良 僕の芝居に対して監督が細かく指示してくれた瞬間は、「もう少し声を高く」とか、「そこ、もう少し間を詰めて」というふうに、タイミングや言い方に関することがほとんどでした。それは、気持ちの部分への指摘じゃなくて、物語をテンポ良く運ぶための作用的な助言で、つまり監督はリズム感を見ている。

役の気持ちを説明されても、自分では絶対にたどり着けないところに、そういう直接的な言葉で導いてくれたのは、本当に助かったし、うれしかったです。
高良健吾 LEON.JP
── 仕上がった映画をご覧になっての感想は?

高良 なるほど、と思いましたね。この原作漫画と台本を、前田さんはこういう映画に料理するんだなって。家族の物語でもあるけれど、ミニマムな話にはしていなくて、スケールもデカい。僕も今年(撮影は昨年)初めて監督を経験(※)して、そういう目でも見たせいか、余計すごいなと思いました。
※高良さんは、予算・撮影日数など同条件で5人の俳優たちが25分以内のショートフィルムを制作するプロジェクト『アクターズ・ショート・フィルム3』に参加。東京を自転車で走り回るメッセンジャーを主人公にした作品「CRANK-クランク-」で脚本・監督を担当。
── 今後、どんな俳優でありたいかを考えた時、一番に願うことは?

高良  (しばらく考えて)……当たり前のことを当たり前に、難しくなく見せられるようになれたらいいですね。

── 監督業も、積極的にやっていきたいと思っていますか?

高良 初めて経験した監督業は、もう本当に、びっくりするぐらい楽しかったんです。こんなに自分の思い通りにならないものなのに、こんなに気持ちよく「楽しかった!」と言えるものってなかなかない。芝居だったら、こんなふうには思えないと思います。

それは、『アクターズ・ショート・フィルム』というプロジェクトありきで実現したことですし、簡単にやれることではないけれど、「次はこう撮るぞ」というイメージはすでにあります。
── そんな高良さんが思うカッコいい大人像とは?

高良 いろんなタイプの人がいるけれど、自分をちゃんと知っていて、自分を持っていたり、自分に備わっているものを受け入れて、何かのために使えている人はカッコいいし、自分もそうなりたいと思います。ただ、自分を知るってなかなか難しい。

── 現時点での感触は?

高良 今のところはまあ順調。まだ全然足りないけれど、長いスパンで考えていこうと思っています。
高良健吾 LEON.JP

高良健吾(こうら・けんご)

1987年、熊本県生まれ。2006 年『ハリヨの夏』で映画デビュー。『M』(07)で第 19 回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門特別賞を受賞。『軽蔑』(11)で第35 回日本アカデミー賞新人俳優賞、『苦役列車』(12) で第 36 回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(13)で第 56 回ブルーリボン賞主演男優賞などを受賞。近年の映画出演作は『くれなずめ』(21)、『天間荘の三姉妹』『あちらにいる鬼』(22)、『ひとりぼっちじゃない』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』(23)など。『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』『Gメン』の公開を控える。

水は海に向かって流れる LEON.JP

『水は海に向かって流れる』

田島列島の同名コミックを映画化。過去のある出来事から「恋愛はしない」と宣言する主人公・榊千紗(広瀬すず)と男子高校生・直達(大西利空)を中心に、個性的な人々が暮らすシェアハウスの日常を描く。監督は『そして、バトンは渡された』の前田哲。他の出演者に、高良健吾、戸塚純貴、當真あみら。主題歌はスピッツが「ときめき part1」を書き下ろした。6月9日(金)から全国ロードショー。
HP/映画『水は海に向かって流れる』公式サイト

■ お問い合わせ

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