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2023.06.10

松本人志に噛みついた中田敦彦のYouTubeは炎上狙いだけじゃない!?

中田敦彦さんがYouTubeで「【松本人志氏への提言】審査員という権力」を公開。この動画に、ビジネスシーンにおける部下が上司に、あるいは辞めた社員がトップに、噛みつく心理に通じるところが見えてくると言います。

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文/木村隆志(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)

記事提供/東洋経済ONLINE
その「【松本人志氏への提言】審査員という権力」というタイトルが不穏さを物語っていました。

これは中田敦彦さんが自身のYouTubeチャンネルで更新した動画で、その内容は主に複数のお笑い賞レースで審査員を務める松本人志さんに対する批判的な言葉。「中田さんが吉本興業時代の先輩にあたる松本さんに噛みついた」というインパクトがあるからか、公開わずか3日あまりで300万回に迫る再生数を記録しました。さらに、多くの芸能人やYouTuberなどがこの件にコメントし、それを連日ネットメディアが報じるなど、世間の人々を巻き込んで関心の高い状態が続いています。

あらためて中田さんの発言はどんなもので、反響を生むどんな理由があるのか。また、「YouTuberの炎上狙い」という解釈で終わらず、報じられ続けている理由は何なのか。

それらを掘り下げていくと、単に芸能界の話だけでなく、ビジネスシーンにおける部下が上司に、あるいは辞めた社員がトップに、噛みつく心理にも通じるところが見えてきます。
松本人志に噛みついた中田敦彦のYouTubeは炎上狙いだけじゃない!?
▲ 画像/「中田敦彦のYouTube大学 - NAKATA UNIVERSITY」より

なぜ「話にならない主張」を並べた?

中田さんは動画の最後に、「収益化、止めますか?これ。何かっつったら『金稼ぐために利用するんじゃねえ』とかがあるから、ジャニーズの(性加害騒動に言及した)ときも収益化を停止したんだけど、これも収益化停止するよ」とコメントしました。「お金目当てじゃない」ことを明確にすることで、提言の正当性を訴えたかったのでしょう。

とは言え、松本さんの名前を前面に出すことで自分に注目を集め、他の動画を見てもらうチャンスが増えるなど、何らかの収益化にはつながるのも事実。さらに、「松本人志、中田敦彦」と並んで報じられることで、一定のブランド効果が期待できます。ちなみにエンタメの世界に限らずビジネスシーンでも、若手・中堅が大物に噛みつくときは、「PRやブランティングの一環」というケースが少なくありません。

実際、今回の動画はタイトルに「【松本人志氏への提言】」と掲げながらも、お笑い賞レース「THE SECOND」(フジテレビ系)と同じタイミングで生配信された「オリラジアカデミー」の紹介からスタート。中田さんは「急上昇ランキング1位」を獲ったことなども含め、しっかりPRしていました。

ここに「常にビジネスを視野から外さない」という中田さんのスタンスがうかがえましたし、フォロワー以外の人々から批判を受けやすいところとも言えそうです。もちろん中田さん自身はこの手法が批判を受けることも、ネットメディアが記事を量産することもわかったうえで、そのスタンスを貫いているのでしょう。

今回の動画に対するコメントで最も多かったのが、「言っていることがおかしい」という発言そのものを否定するような声でした。「それは違うよ」と思われそうなことをまるで確信犯のように並べていったのです。

「僕がずっと思っていたことが、松本さんがあらゆる大会にいるんですよ。冷静になって考えてほしいんですけど、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)にもいらっしゃいますよね。『(人志松本の)すべらない話』(フジテレビ系)にもいらっしゃいますよね。漫談でも大喜利でもいる。何だかんだで『若手を審査する』っていうお仕事がめっちゃ多いんですよ」

「『キングオブコント』(TBS系)にも出て、『M-1(グランプリ)』(テレビ朝日系・ABCテレビ)にもいる。漫才、コント、大喜利、漫談。『全部のジャンルの審査委員長が松本人志さん』という、とんでもない状況なんですよ。他の業界だったら信じられないぐらいの独占状態にあるんですよ」
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動画終盤に飛び出した暴論の中身

動画の根幹とも言えるコメントでしたが、ネット上には「『IPPONグランプリ』と『人志松本のすべらない話』は賞レースではない」「松本さんが“審査員”をしているのは『M-1』と『キングオブコント』だけ」という正論のようなツッコミがあふれていました。言わば、クレバーな中田さんとは思えないような主張だったのです。

しかも、「人志松本のすべらない話」は、賞レースなどで活躍できずくすぶっている芸人にチャンスを与ようと松本さんが考えた企画で、「IPPONグランプリ」も松本さんが大喜利をエンタメ化した「一人ごっつ」(フジテレビ系)を多くの芸人に向けて発展させたものでした。つまり、松本さんがお笑い業界や芸人たちのことを考えて作ってきたものであり、しかも審査員ではないなど明らかに違和感だらけだったのです。

松本さんが今年新設されたお笑い賞レース「THE SECOND」のアンバサダーに就任したのも、「やりたくてやった」というより、「お笑い業界や芸人のために受けてあげた」とみるほうが自然でしょう。そもそも松本さんがアンバサダーを引き受けることのメリットは薄く、「松本さんに集中しすぎ」と叩くとしたらオファーしたフジテレビのほうでしょう。同様に「M-1グランプリ」のABCテレビ、「キングオブコント」のTBS、あるいは、多くの番組にかかわる吉本興業、賞レースに提供するスポンサー企業などにも、「そろそろ交代を」と提言するほうが筋は通っています。

これ以外にも、「松本さんの代わりを誰がやるのかに言及しない」「松本さん不在の賞レースが衰退しないか」などの論点にふれない今回の動画には、アンフェアさが多分に感じられました。頭のいい中田さんがこの点に気づいていないはずがなく、あえて本質に踏み込もうとせず、論点をシンボリックな存在の松本さんの責任に一点集中したのでしょう。

また、今回の明らかにアンフェアな提言は、「ネット上に自分への疑問や反論の声を誘って反響を大きくしよう」という意図を感じさせられました。そのアンフェアさや、すべてを語らないことが、疑問や反論を引き出し、今後の展開につなげていく……語り口やフレーズ選びも含め、アンチを巻き込んで視聴数を増やす配信者ビジネスの常套手段に見えるのです。

「20年間、松本さんは松本さんを超える才能を発掘できなかったんです。発掘できなかったのか、どうなのか。それとお笑い界は今、向き合わなきゃいけないって僕は思うんですよ」

42分53秒もの長い動画になれば、発言がエスカレートしてこのような行きすぎたコメントが生まれてしまうのも当然かもしれません。松本さんは才能を発掘するマネジメント側の立場ではなく、1人の審査員だけで才能を発掘しろというのも難しいでしょう。
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にじみ出る満たされない思い

さらに中田さんは終盤で松本さんとジャニー喜多川さんを「物が言えない空気」という点で並び立てていました。性加害の渦中にある人物との比較は暴論そのもの。ビジネスパーソンも発信するツールの種類を問わず、長尺・長文になるほど、エスカレートして行きすぎたコメントにつながりやすいことを覚えておいてください。

「動画の反響が広がり続けている理由」として考えられるものがあと2つあります。その1つ目が、満たされなかった思いへの執着。

「松本さんが『面白い』って言うか言わないかで新人のキャリアが変わるんですよ。その権力集中っていうのは、『それだけ偉大な人だから求められているんだ』という見方があるんですけど、『求められている』ってことと『実際にやるかどうか』は違う。『実際にやることが業界のためになるかどうか』で言うと、あまりためにならないと思う。ひとつの価値基準しかない。それ以外の才能は全部こぼれ落ちるからなんですよ」

コメントの序盤は業界全体や若手芸人のことを考えるような言葉からスタートしたものの、終盤で中田さんの感情がにじみ出ます。

「正直、松本さんのご恩で売れた瞬間が一度もないんで。むしろディスられてるんで。『あれ面白くないな』って業界全体にとって悲劇なんですよ」

「リズムネタ(武勇伝)で売れ、音楽ネタ(PERFECT HUMAN)で紅白(歌合戦)へ行き、教育YouTuberとして芸人最多登録者を持つ中田敦彦が言っています。松本さんが一切評価していただけないことで何とか生き延びてきて、さらに吉本興業という事務所も独立して、一匹狼よろしくやってる中田敦彦が申し上げているんですけど」

これらの発言に、「松本さんから『面白い』と言ってもらえなかった悔しさや恨みのような感情が表れていました。松本さんの発言で中田さんは傷つけられたことがあったのでしょうが、それと審査員に関する提言は話が別のはず。もともと違和感のあった提言がこの段階で破綻していました。

動画の途中から、提言を免罪符にするような発言が増え、最後には「あとそろそろ松本さんの映画が面白かったか面白くなかったかについて、論評してもいいですか、後輩たち。ちょっとそろそろタブー解禁してもらってもいいですかね」と語っていました。これは「僕も『松本さんは面白くない』と言いたい」という反撃であり、一方で「松本さんに認められることをあきらめた」という証しのようにも見えます。
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松本人志に噛みついた中田敦彦のYouTubeは炎上狙いだけじゃない!?
▲ 画像/「中田敦彦のYouTube大学 - NAKATA UNIVERSITY」より

組織で生きづらいから噛みつく

今回の動画についてマヂカルラブリーの野田クリスタルさんが、「(中田さんは松本さんを)誰よりも神格化しているのかなって思っちゃった」などとコメントしていました。相手の格が“神”くらい高くなければ、これほどの時間と熱量をかけて個人批判することは難しく、それは中田さんが松本さんに執着していていることの裏返しなのかもしれません。

今回の提言に、「格が高い相手だからここまで批判できる」というある種の甘えに似た前提があったことは間違いないでしょう。だから中田さんは強い感情をにじませることができ、それが聞く人の感情に強く訴えかけられた。特に、中田さんのように何かしら満たされない思いを抱えている人々にとっては、気になってしまうのではないでしょうか。

動画の反響が広がり続けている2つ目の理由は、組織での生きづらさを感じさせる発言の数々。

中田さんは動画の中で、「漫才至上主義」「お笑いって漫才だけではない」「漫才が偉いわけではない。昔は落語のほうが偉かった」「漫才はオレが一番向いてるフォーマットじゃなかったと思っていたし、僕らの実力不足で決勝までいけなかった」などと語っていました。

これらは「漫才だけがお笑いではない」という主張に加えて、自分の芸がアウトサイダーのような扱いを受けたことへの不満によるものでしょう。笑いとは真逆の「偉いか偉くないか」という基準で批判しているところに嫌悪感が見えますが、その裏には「漫才が好きな芸人が集う世界は生きづらかった」という思いも透けて見えます。

中田さんは「権力が集中している」と語っていましたが、松本さんは業界のシンボルである一方で、どこまで権力を得ているのかはわかりません。たとえば「M-1グランプリ」は2020年大会まで5年連続で「最終決戦で松本さんが選ばないコンビが優勝する」というジンクスがあったことからも、絶対的な権力を持たされていないことがわかるでしょう。

つまり、大物の松本さんも、「テレビ番組や賞レースという組織の一部」ということ。「組織の一部に過ぎない人に権力が集中している」と決めつけてしまう人が、それ以外の大きな権力も存在する組織で生きづらさを感じるのは当然かもしれません。

たとえば、「自分が評価されない理由は何なのか。誰が原因なのか」と考えて敵を探し、必要以上の敵意を抱いてしまう。あるいは、上司、同僚、後輩らに毒気のある言葉を発して間接的に巻き込んでしまう。どちらもビジネスシーンで見られる“組織で生きづらさを感じる人”の典型例ですが、今回の中田さんはピッタリ当てはまっていました。

「自分の能力に自信を持ち、価値観にこだわって、それを強みにしていく」というスタンスは素晴らしいことであり、成功を収めるケースも多々あるでしょう。しかし、そのスタンスを貫きながら組織の中で生きていくのは容易ではなく、とりわけ個人の尊重や協調が重視される近年では悪目立ちしがちです。
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松本人志の反応と対面の実現性

ところがネットの世界では、その悪目立ちしてしまうスタンスをビジネスとして活用することが可能。今回のように、組織に向かなさそうなタイプの人が、組織に立ち向かうような言動をすれば、「自分も組織に向いていない」という自覚のある人々の共感を集めやすいところがあります。内容の是非はさておき、その意味で今回の動画は、響く人には響くものだったのではないでしょうか。

5月30日に松本さんが自身のツイッターに、「テレビとかYouTubeとか関係なく2人だけで話せばいいじゃん 連絡待ってる!」とつぶやいていました。中田さんを思わせる言葉であり、今後何らかの展開につながっていくのかもしれません。

ただ、その際に1つ懸念になりそうなのが、芸人・中田敦彦ではなく、YouTuber・中田敦彦としての振る舞い。

中田さんは動画の最後を「いや~、何とか生き延びて、文句言えるようになりましたわ。自分のメディアで。このあと私がどんな目に遭うのか、ぜひお楽しみに」という挑発的なジョークで締めくくっていました。さらにそれ以外でも、「これを言える人って、どの賞も持ってないんだけど、今影響力を持っている人間なんですよ」「俺が奇跡的にだよ、何の賞ももらってないんだよね」などと自画自賛をベースにしたコメントを連発。これはフォロワー限定のトーク術であり、それ以外の人は芸人のトークとして笑いづらいのではないでしょうか。

そんな中田さんを相方の藤森慎吾さんは、「“誰も言わないこと”“やったことないこと”は芸としてやりたい人なんだよね。今のお笑い界で松本さんにここまで意見言う芸人って確かにいないと思うし。でもそれをやってのけるぜっていう“ヒーロー芸”なんですよ」などと評していました。
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自己責任を超えたリスクを背負っている人と、そうでない人

しかし、その“ヒーロー芸”は、やはりフォロワーに向けた限定的なのもの。フォロワー、地位、収入などを失うリスクの低い自分のホームグラウンドで発言している中田さんが、それをいったん置いて松本さんと向き合えるのか。「本当にテレビやYouTubeのカメラのない環境で会うことに中田さんはメリットを感じ、同意するのか?」と言えば、現時点では疑問符がつきます。

番組の顔を務めるうえで自己責任を超えたリスクやプレッシャーを背負っている人と、自己責任のもとで自由に振る舞える人の違いは大きく、ビジネスシーンで言えば大企業のトップとフリーランスのようなアンバランスさがあります。私たち第三者が思っている以上に、互いへの理解はできても受け入れることは難しい関係性なのかもしれません。

願わくば2人にはそんな懸念を越えて対面し、それぞれがテレビとYouTubeで自分なりの笑いに昇華させて発信してほしいところ。そのためには、まず中田さんが非礼を詫び、次に松本さんが「オリエンタルラジオのネタを評価してあげられなくて申し訳なかった」などと思いを汲み取ってあげる歩み寄りが求められるかもしれません。

2人の歩む道や技術は異なっても、日本中が笑えるオチをつけて、芸人としての素晴らしさを見せてもらうことを期待しています。ビジネスパーソンにとっては、松本さん側の立場になることはなかなか難しそうですが、中田さん側になるケースは十分ありえるだけに、自分に置き換えて考えてみてはいかがでしょうか。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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