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2023.08.24

ゴスペラーズ「“ハモる”って“いい距離感”を保つこと。人間関係も同じです」【後編】

メジャーデビュー29年目のヴォーカル・グループ、ゴスペラーズが、若手アーティストと組んで制作したEPについてお話を伺った前編。後編では、長年、一緒に活動してきたメンバーへの思い、これから“よりカッコいい大人のグループ”に成長するために意識していることを伺いました。

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写真/トヨダリョウ 編集・文/アキヤマケイコ

── 前編はこちら
ゴスペラーズ  (左から)村上てつや(1971年生まれ)、安岡 優(1974年生まれ)、北山陽一(1974年生まれ)、黒沢 薫(1971年生まれ)、酒井雄二(1972年生まれ)。
▲ (左から)村上てつや(1971年生まれ)、安岡 優(1974年生まれ)、北山陽一(1974年生まれ)、黒沢 薫(1971年生まれ)、酒井雄二(1972年生まれ)。

お互い興味がバラけているから、風通しがいい

── デビュー以来、5人で活動されています。密な人間関係ですが、うまく続けている秘訣は?

酒井 確かに僕らのような状況は、音楽業界でも、一般社会でも珍しいかもね。

北山 でも、いまだに、お互いに対する興味は失っていないですね。その一方で、家族より一緒にいる期間が長いから、世界でこの4人だけにしかしない甘えがあったり、頼りにしているところがあったり。ときにはイラっとすることがあっても、それはそれで脇に置いて、ステージに上がればちゃんとハモる、ってことを続けてきた感じです。

村上 ハモれば何でも解決、というわけじゃないんですよ。でも奏で合う関係だと、仲違いにはなりにくい。

黒沢 フィジカルに影響し合っているから、最終的に心地良ければ「ま、いいか」みたいな。

村上 バンドと違って全員ヴォーカル、出す音が違うだけだから、対等だし。あと北山が言った興味という言葉を使えば、それを皆、内側だけに向けてない。メンバーそれぞれが、外に向けている興味の窓があって、そこから自分も知らなかった景色が覗ける。それで風通しも良くなる。刺激し合うとか、そんなカッコいいことじゃないけど、ちょっとした気づきや許しは生まれる。皆で自分たちの音楽のことばかり話すっていう熱さも大事だけど、そればかりだとしんどいですから。
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メンバーへの思いは「1日でも長く、歌える状態でいてほしい」

ゴスペラーズ 安岡 優
▲ 安岡 優
酒井 趣味が近いバンドの方が崩れる、ってこともあるんだよね。

黒沢 同じことを考えていると思ったら少し違う、その微差のほうが「裏切られた!」って気がするのかも。その点、僕らは最初からばらけているから。「もっと団結しよう」とか「同じことをしよう」とかいう機会もあったかもしれないけれど、最終的には、お互い違う、ということを認めてやっている。

北山 「メンバーの音楽の方向性が違う」という話をよく聞きますけど、そもそも同じ人なんていなくて、その違いをどう捉えるかですよね。それに、そもそもハモるって、違うことが大事で、違わないと意味がない。むしろ違いを包み込みながら、僕たちの音楽は成立していると思います。

安岡 で、続けていたら、今は、僕ら以上にファンが「ゴスペラーズはこの5人でなくちゃならない」と思ってくれるようになった。だから5人で「ゴスペラーズという職業」をやっていくしかない。そういうわけで、最近のメンバーへの望みは、とにかく健康で、1日でも長く歌える状態でいてほしい、ということ。それに尽きるんですよ。

「その時できる100%を」それが暗黙の了解です

ゴスペラーズ 北山陽一
▲ 北山陽一
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── 健康の話が出ましたが、ヴォーカルは肉体が楽器です。年齢による衰えを感じることは?
北山 声は、誰もがコンディションの悪い時を経験しています。その時の精神状態はお互いに類推できるから、「常に100%」ではなく、「その時できる100%を出そう」となっていますね。

安岡 声が出ないのは、本人が一番、悔しい。特に悪そうなことをしていないのに、出ない時は出ない。そんな時「なんでお前、声が出ないんだよ」と責めても仕方がないですから。

北山 ただ、ステージに立ったら、その時持っているものを全部出す、観客のためにベストを尽くす。そのメンタリティに関しては、メンバーに対して一点の曇りなく信頼しています。

黒沢 皆、歌いたがり、ハモリたがりなんで(笑)、出し惜しみしても何の得もないのでね。

北山 体のメンテナンスは、若い頃には苦手だったというメンバーも、今はやっています。そういう「自分を高めよう」という姿勢には、いい影響を受けています。

安岡 若い頃と、頑張り方は変わってきましたけどね。昔は「とりあえず100回」みたいなこともやった。100回やってたどり着ける場所が分からなかったから。でも今は、そこまでしなくても辿りつける場所も方法も分かるようになった。つまり経験値が上がった。若い頃と同じことをしなくなったことは“老化”じゃない。むしろ“成長”と言うべきかなと思います。
ゴスペラーズ
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体の衰えより、人の話を聞かなくなっていくのが心配

村上 問題なのは体のことより、 会話が堂々巡りになっていくこと。長年、連れ添った夫婦みたいに、だんだん同じ会話の質になっていく……。

酒井 お互いの話を聞かない、譲らない、みたいな。メンバーがずっと同じだとその危険性はある。

村上 喧嘩しているわけじゃないけど、話が噛み合わないまま平行線、みたいなことが起こるんじゃないかと。それをいかに遅らせるかがグループの生命線。「自分たちはこれでいい」になっていったら、成長しなくなるから。

安岡  だから僕らの人間関係の中に、時々、新しい人が入ってきてくれるといいんですよね。人の話に耳を傾けるという筋力が衰えないように刺激してくれる人が。そういう意味で、今回のEPを作ったことは、僕らの気持ちや体のリフレッシュになったと思います。

最新の音楽も自分らしく取り込めばいい

── 最近は、さまざまなデジタル音楽が登場してきて、面白い反面、変化が速くてついていけないと思うこともあります。ヴォーカルだけ、という、いわばアナログ的な表現をメインに活動されている皆さんは、どう感じられていますか?

黒沢 今のDTM(デスクトップミュージック)のようにテンポが速くて言葉数が多いものを、手放しで最高だとは言わないけれど、カッコいいな、知らなくて盲点だったな、と思うものもたくさんあります。今はサブスクリプションでいろいろな音楽が聴けるので、そういう気づきも多い。その中から「この歌い回しは、今は無理かもしれないけど、いつか自分たちの音楽に落とし込めたらな」みたいなものが見つかるかもしれない。それはキャッチしておきたい。僕らの世代が「昔はよかった」っていうのは簡単だけど、新しい音楽への好奇心は失いたくないです。

北山 最新の音楽も、10年後、20年後は、今と感じられ方が違うものになるということを僕たちは知っています。だから自然に反応すればいい。理解できないものがあっても焦る必要はないし、自分と親和性の高いものは流行っていようがいまいが入ってくる。それを蓄積していくことで、今後も自分らしいカッコいい音楽を続けていけるんじゃないかと。

安岡 流行も繰り返すしね。実際、僕らが20代の頃に聴いていた音楽を、今の若者が新鮮に感じていたり。だから、かつて自分がカッコいいと認めたものを信じつつ、自分がカッコよくあり続けることを諦めないでいると、将来の若者にも認めてもらえるんじゃないかと。

村上 昔からあるカッコいいものを自分の中に残しつつ、新しいものへの扉も開いておく。ファッションなら、『LEON』は、クラシックなスタイルに、今のテイストを取り入れたり、うまく着崩したり、ということを提案してきたわけですよね。音楽も同じで「クラシックなものを知っているオジさん」であることを、ポジティブに捉えたいです。

黒沢 ただし「これが若者にウケるかな」って考えるとカッコ悪くなる。その瞬間に(笑)。

安岡 そこは「自分が信じている」ってことが大事。音楽もファッションも、今はインターネットで、どの世代でも同程度の情報量を得られる。じゃあどこに差が出るかというと、すでに実践しているか、これから実践しようとしているか。それなら長く生きているほうが、実践していることが多いというメリットがある。オジさんは、それを楽しみながら進んでいけばいいのかなと。
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距離感が上手に取れるとカッコいい

── それでは最後に、それぞれの“カッコいい大人像”を教えてください。

安岡 世間を気にせず、 自分に流行っていることを信じて遊び倒せる人。誰も思いつかなかった新しいことでも、「何を今さら」って思うようなことでもいい。自分自身が躊躇なく楽しんでいれば、そのうち誰にも似ていない、その人だけのカッコよさが滲み出てくると思います。

北山 相手の年齢や経験に合わせて、自分を巻き戻せる人。自分が50歳で、相手が30歳だったとしたら、自分が30歳だった頃に感じていたことを思い出して接することができる、相手の経験していない20年間を噛み砕いて説明できる人。相手と目線を合わせられる人ですね。

村上 自分が最高だと思う状態から、一段、ドレスダウンできる人。“軽み”のある人というのかな。ファッションなら、雑誌に載っているモデルのコーディネートそのままじゃなくて、現実の自分に落とし込んで似合わせることができる。人と話をする時なら、同じ内容でも言い方、語尾ひとつでもいいから、軽やかに伝えられる。そんなふうになりたい。でもそれが簡単じゃないと気づくのも、今くらいの年齢。演出しすぎるとわざとらしくなる。“軽さ”の具合って難しいから。

酒井 北山も村上も“距離感”の話だよね。僕も近いんだけど、同じ業界にいるのが長くなると、偉い人、すごい人、みたいな感じで持ち上げられがちになるんですが、そこから自由になれる人。僕たちも今までは、むしろ「すごい」って言ってもらえるように頑張ってきたけど、ある段階まで行ったら、一旦、そこから降りたい。そうしないと持ち上げてくれるスタッフや後輩しか周りにいなくなる。そうじゃなくて、音楽をやっている同士、フラットに「一緒にやろう」という感じでありたいなと。

あえて距離を取るのも“大人の役割”

ゴスペラーズ 黒沢 薫
▲ 黒沢 薫
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黒沢 僕は「あえて大人として振る舞う」ってことも必要かなと。自戒を込めて言うけど、学生時代からこのグループでやっているせいか、僕は学生気分が抜けてないところがあるなと。例えば数年前まで、若い仲間と食事に行った時に、僕が「食べなよ」って勧めてもなかなか食べてくれない、その理由が分からなかった。昨年くらいにやっと、年長者の僕が先に箸をつけないと、若者が食べにくいんだということに気づいた。

村上 マジで? 遅くない(笑)?

黒沢 いや、ホントに。僕がお皿に取り分けているのに、何で食べてくれないんだろうと思っていた(笑)。そういうこともあって、「ちゃんと大人でいる」って大事だなと。「自分は年を取っているんだ、若者とは距離があるんだ」とも自覚しようと。

北山 ある意味、見上げられているのも認めると。

黒沢 そう。ファッションも、プライベートでは今どきのルーズっぽい服も着るけど、人に見られる場に行く時は「この人、ゴスペラーズだからね」と思われるようなスーツを着ようと。今っぽくないな、と自分でも思いながらもね。

安岡  確かにこの間、黒沢さんと他の人のライブを見に行った時、どこからどう見てもゴスペラーズ、「自分もステージに出るの?」ってくらいドレスアップしていた!

酒井 なるほど、大人として期待される役割を引き受けるということだね。

黒沢 そう。そうこうしつつも、歌の練習は一生懸命続けて、どの世代の人からも「この人、なんだかんだで歌は上手いよね」と認めてもらえるようにしたい。それが、最近考えるカッコいい大人。そういうことを意識するようになったら、前より若い人が声をかけてくれるようになった気がする。

酒井 料理も先に食べるようになったし、と(笑)。バランス感覚を持って、TPOをわきまえると。

北山 相手からこちらに接してもらう時も、こっちから相手と接する時も。

村上 相手との距離をバグらず、微調整できるのが“カッコいい大人”だと。まとまったね。

安岡 そういう「いい話をした」みたいな感じを人に押し付けちゃうと、オジさんのダメな感じになるんだって(笑)。
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ゴスペラーズ HERE&NOW

◼️ 『HERE & NOW』

これまで多くのアーティストに楽曲を提供してきたゴスペラーズ。その新作は、彼らとゆかりのある若手アーティストからの楽曲提供で構成された5曲収録EP。ビートボックスクルー兼音楽プロデューサー集団のSARUKANI、6人組ツイン“リード”ヴォーカル・バンドPenthouseなどフレッシュな才能が、「今」のゴスペラーズの魅力を多彩に引き出した1枚となっている。初回限定盤(CD+BD)3000円、通常盤(CD)2000円

ゴスペラーズ

◼️ ゴスペラーズ

北山陽一、黒沢 薫、酒井雄二、村上てつや、安岡 優からなるヴォーカル・グループ。1994年12月21日、シングル「Promise」でメジャーデビュー。以来、「永遠(とわ)に」「ひとり」など数々のヒット曲を世に出すほか、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ソロなど、さまざまな活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとして活躍している。9月から31都市33公演の全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2023“HERE & NOW”」を開催予定。

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