2023.10.07
三浦翔平「人生とサーフィンは一緒。無理せず、いい波が来た時にちゃんと乗れればいい」
大人になれば誰にでも関係がある、家族・相続・お金の話をテーマにした映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』で若手の辣腕弁護士を演じた三浦翔平さん。35歳になった今、人として、俳優として何を大切にしているのか伺いました。
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文/浜野雪江 写真/内田裕介(Ucci) スタイリング/根岸 豪 ヘアメイク/石川ユウキ 編集/森本 泉(LEON.JP)
この世で信じられるのは預金通帳に刻まれる数字だけ!?
三浦翔平さん(以下、三浦) 今回の映画は大きく言うと家族の話ですが、その中にお金の話や相続の話、成年後見制度の実態や、真珠産業の実情など様々な話が含まれています。それぞれに関わる人間の心理描写があり、本当にいろんな視点から見ることができると思います。
三浦 僕が演じる龍之介は史上最年少で弁護士バッジをとり、弁護士事務所を立ち上げた人間。ものすごい努力家なんですが、その背景には家族にまつわる幼少期のトラウマがあり、それが努力のバネになっています。
性格も少しねじ曲がっていて、バーナード・ショーの名言「自分は不幸だと思ってる人間は、環境が悪いせいだと嘆く。しかし、成功する人間は望む環境を求めて行動し、自らそれを作り出す」に感銘を受け、成功してリッチな生活を手に入れ、「この世で信じられるのは預金通帳に刻まれる数字だけ」と考える人間になっていきます。
田中(光敏)監督からは、見てくださる方が龍之介のことを「こいつ、嫌だな」と思っても、決して嫌われないようにしてほしい、最後には感情移入できるようなキャラクターにしてほしいというオーダーがあったんです。
「嫌なやつだな」という印象から入るけれど、実は彼も親子関係において複雑なものを抱えていて、それを周りに見せないように何重にも仮面をつけ、鎧をかぶっている。そんな人間臭さが彼の魅力でもあると感じたので、ヒール(悪役)の裏側にある人間らしさを大切に、監督と話し合いながら役を作っていきました。
三浦 比嘉さんと僕は物語の設計上、別の軸で動いていたので、ご一緒するシーンは少なかったんですが、海辺のバス停で二人が偶然出会うシーンがあるんです。比嘉さんがバスを待っていると僕がタクシーで通りかかって「駅までならどうぞ(乗りますか?)」と声をかけ、一方的な所感を述べるんです。その内容が皮肉っぽいものだったので、撮影時に比嘉さんから、「城島龍之介ってヤなやつ!」って言われたのをすごく覚えてます(笑)。
三浦 この映画は、見る方それぞれの現在の立場や感情によって見え方が違ってくると思うのですが、家族とは何なのか、愛って何だろうか? という部分では、言葉にせずとも伝わってくるものがありました。
それと、真珠の養殖を題材として扱っているので、映画に出てくる時価6億円の真珠というものが、どれだけの偶然が重なってできるかというのを豆知識として知っていただけたらなと。実は今、日本の海で、そのような大粒の真珠を作るのはほぼ不可能に近いらしいんです。それは、人間の活動によって排出された物質で海が汚染され、枯れてきているから。そんな問題提起も裏テーマとしてあります。
正解はかわからないけど、今、子育てを通して親というものを勉強中
三浦 家族の形はさまざまなので一概には言えませんが、僕個人としては、やはり幼少期の人格形成の時期が一番大事だと思うので、自分の子供に関しては、与えられるだけの愛情を与えているつもりです。例えば、どんなに忙しくても子供と一緒にいられる時間は作るべきだと思っていますし、妻と一緒に、子供が自立した人間になれるように一生懸命育てていこうと話しています。
親子の関係というのは何が正解かわからないですけど、そこは僕らも今、子育てを通して親というものを勉強している最中です。
三浦 今の方が演じる役の幅は広がっていますし、一つひとつの作品に対する自分の捉え方も、いろんな目線で見られるようになりました。20代前半の頃はまだ狭い視野でしか見られなくて、与えられたものを懸命にやるだけでした。知識も足りず、技術も十分に身についてないまま、気合だけが空回りしてる状態だったというか。でも今は、演じ方も実はいろんなパターンがあり、とらえ方次第でどんなふうにでも表現できるということが分かりました。
やはり年齢を重ねながら、いろんな作品に出させていただく度に一つずつ成長するわけですし、自分もそれなりに変わってこられたのかなとは思います。でも、まだまだ勉強できることはたくさんあるなと思っています。
若い頃はいろんな作品に出させてもらう度に叩きのめされてきた
三浦 今思えば、毎現場で、「もっとできたんじゃないか?」という思いがあります。ついこの間やっていた作品もそうですし……。だから、転機はこれだ! という感覚はあまりないんです。やはり若い頃にいろんな作品に出させてもらって、その度に叩きのめされ、がむしゃらに取り組んで、終えたと思ったらさらなる試練がきて、また頑張って……という繰り返しがあったから、今もやれているのかなって。
── そうした中で、演じることを楽しめる部分もあったのでしょうか。
三浦 楽しめるようになったのはいつだろう……。お芝居というのは、自分の役だけを見せようとするのではなく、相手があり、相手の芝居を受けてそれに答えるものなんだなと感じて、周りを見られるようになってきてからだと思います。それこそ、20代後半で主役をやらせていただいたり、群像劇の中でも重要な役柄を与えていただくようになった時に、自分の立ち位置を俯瞰できるようになり、そこからだんだん周りが見えてきたんです。
三浦 実は1話がちょっと控えめだったんですけど、演出の方から「もっと自由にやっちゃってください」と言われてそのように演じたら、3話以降はちょっとはじけすぎたようで、「もうちょっと抑えましょうか……」と言われて、「やれって言ったじゃないですか!?」と(笑)。そんな感じで撮影を楽しんでいます(笑)。
── 「やわ男とカタ子」では、他のキャストの方々のことも、座長の三浦さんが柔軟に導き、現場を盛り立てていらっしゃったそうですね。
三浦 ドラマもある意味団体芸なので、経験がある人間がカバーすればいいと思っています。最初はできなくて当たり前で、僕もそうでしたし。誰かがフォローしたことによって新しい流れが生まれて、結果そのシーンが良くなれば、台本通りにいかなくても、作品としてはOKなんじゃないかなという考えで「やわ男~」はやっていました。
基本的には子供第一で、家族との時間を一番に考えている
三浦 一番は、いろんな人物を演じることによって知識と経験が増えることです。役を通して普段やらないようなことも経験できるし、作品ごとに関わる人も場所も日々変わる。毎日新しい経験ができるのは刺激的ですし、楽しいですよね。
── お忙しい中で、ご家族と過ごす時間も大切にするなど、仕事とプライベートのバランスはどうとっているのでしょう?
三浦 基本的には子供第一で、家族との時間を一番に考えています。仕事とプライベートのバランスに関しては結局ないものねだりで、忙しければ「暇が欲しい」と思うし、余暇が続くと「働きたい」と思う。そこはもう、海の流れに身を任せるじゃないですけれども、与えていただいたものをやる感じで。そんな感じで生きています。
三浦 30歳になった時に、「30代は挑戦の時期」と言ったので、いろんな挑戦をまだまだやり、それを40代で篩(ふるい)にかけて、自分に向いているものをより突き詰めて、ろくろじゃないですけど、(陶器を形作る手つきで)形にしていく作業をしたい。そして、50代である程度形になって、60代で自分なりに納得できるものが作れたらいいなと思っています。
── とても長いスパンで先を見ていらっしゃるんですね。
三浦 僕らの仕事は引退がなく、何歳でもできてしまうのでね。たぶん、自分が「辞~めた!」ってなった時が辞め時なんだろうなと。それは明日かもしれないし、死ぬまで辞めたいと思わないかもしれないし。
人生とサーフィンはとても通ずる部分がある
三浦 まぁ、求められなくなれば必然的に終わりですし、声をかけていただけるなら、その限りはやりますし。それも、その時の流れに身を任せるしかないというか……。
── 無理に何かにしがみついてでもやっていきたいとは思わない?
三浦 フラットですね。僕はサーフィンをやっているんですけど、仕事も人との出会いもサーフィンと一緒だなと感じるんです。焦って、今来た波に無理やり乗っても、それがいい波とは限らないし。反対に、ボケ~っと待っていたらたまたますっごくいい波が来ることもあって、それに乗れるか乗れないかはその時の自分次第ですし。
周りを見ていても、嵐の中、わざわざ海に入って無茶する人もいれば、全然波がない日に入ってる人もいる。僕は人生観を語れるほど多くを知らないですけど、人生とサーフィンはとても通ずる部分があるなと思うんです。だから無理をしないし、いい波が来た時にちゃんと乗れればいいかなって。
── なるほど。そんな三浦さんにとって、カッコいい大人とはどんな人ですか?
三浦 人生を楽しんでる人じゃないですか? 仕事も趣味も全力で。所ジョージさんとか、ヒロミさんとか。僕もそういうオジさんになりたいです(笑)。
● 三浦翔平(みうら・しょうへい)
1988年6月3日生まれ、東京都出身。2008年、TVドラマ「ごくせん 第3シリーズ」(NTV)で俳優デビュー。以降、多くの人気作品に出演。主な出演作として映画『THE LAST MESSAGE 海猿』(10)で第34回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。他に『カノジョは嘘を愛しすぎている』(13)、『ひるなかの流星』(17)、『魔女見習いを探して』(20)、『天外者』(20)、『嘘食い』(22)、ドラマ「ホスト相続しちゃいました」(23/カンテレ・CX)、「やわ男とカタ子」(TX)、大河ドラマ「光る君へ」(24年放送予定/NHK)などがある。
『親のお金は誰のもの 法定相続人』
「相続」と「家族」をテーマに、2000年に開始した成年後見人制度の問題を描きつつ、時価6億円の値打ちを持つ伝説の真珠を巡るある家族の大騒動を描く。ダブル主演を務めるのは比嘉愛未と三浦翔平。比嘉は三重県伊勢志摩で真珠の養殖業を営む両親を持つ三姉妹の三女・大亀遥海を、三浦翔平は認知症の疑いがある遥海の父親の成年後見人として大亀家と関わる弁護士・城島龍之介を演じている。監督は『天外者』の田中光敏。共演は三浦友和、石野真子、浅利陽介ら。
10月6日全国ロードショー
HP/映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』公式サイト
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