2023.10.06
【第25回】真木よう子(女優)
真木よう子さん、あの偉い方とケンカして劇団辞めたって本当なんですか?
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが時代の先端を走る女神たちに接近遭遇! その素顔に迫る連載。第25回目のゲストは、女優の真木よう子さんです。原作漫画に惚れて、どうしても自分が主演したかったという映画『アンダーカレント』(10月6日公開)の話をはじめ、巷で噂される真木よう子伝説の真相にも迫りましたよ。
- CREDIT :
取材/樋口毅宏 文/井上真規子 写真/椙本裕子 スタイリング/藤井希恵(THYMON Inc.) ヘアメイク/石川 美幸(B.I.G.S.) 編集/森本 泉(LEON.JP)
今回は、10月6日に主演映画『アンダーカレント』が公開となる女優の真木よう子さんにお越しいただきました。真木さんといえば、名門俳優養成所・無名塾の出身で、これまでに数々のヒット映画、ドラマに出演してきた超人気俳優。そんな真木さんのプライベートのお話や俳優としての想い、巷で噂される真木さんの伝説!?の真相まで、樋口さんが色々伺ってきましたよ。
「女優・真木よう子にとって、かなえを演じることはセラピーだった!?」(樋口)
樋口 そうなんですね。
樋口 わかります! 僕もこの世で漫画の実写化が一番難しいと思います。でも今泉さん(今泉力哉監督)は、真木さん演じる主人公・関口かなえの宙ぶらりんな感覚をすごくいい風に切り取ったなと思いました。
真木 ありがとうございます。
真木 セラピー。なるほど。そう言われると、確かに腑に落ちるかもしれないです。
樋口 実際、かなえを演じてみてどうでしたか?
真木 かなえちゃんは過去にとても辛いことがあって、それを抱えて苦しみながらも、ちゃんと生きているんですよね。探偵役のリリーさん(リリー・フランキー)に色々言われたりもするけど、本当は自分でしっかり考えていて。
真木 もちろんできると思いますし、逆に役に教えてもらうこともありますね。
樋口 今回のかなえ役は、きっと10年前でも演じられなかったし、10年後でもまた違ったなんだろうなって。真木さんはすごくベストなタイミングでこの作品をやられたなと感じました。
真木 確かに10年前なら、できなかったかもしれないですね。
「懇願してLINEを交換してもらうくらい江口が大好き」(真木)
真木 アハハ。あの時ヤンキーだったあの2人がね(笑)。
樋口 そうそう。江口さんもお母さんになってて(笑)。江口さんとは、懐かしいねみたいなやり取りもあったんですか?
真木 江口とは、懐かしいとかないんですよ。私は懇願してLINEを交換してもらうくらい江口が大好きなんです(笑)。でも、この前、舞台※でずっと一緒にいたんですけど、 仕事がなかったらほとんど会わない。それでもどっかでまた会ったら、久しぶりとかもなく、そのまんま一緒にいられるんですよね。
真木 唯一、私にぴったりだなって思う人ですね。
樋口 あと、リリーさんとのやり取りも面白かったです。探偵役のリリーさんが「ご主人の携帯をこっそり見てたんですか?」って言って、 かなえ役の真木さんがムッとして「そんなことしません!」って怒る場面あるじゃないですか。でも『太田上田』(中京テレビのバラエティ番組)に出ていた真木さんは、20代の頃、彼氏の携帯を見てたって言ってました!
真木 え! よく(番組)見てましたね(笑)。でも、樋口さんは、彼女の携帯見たことないんですか⁉
樋口 僕!? ないです! 今までの彼女に見られたこともないと思います。
真木 いやいや。女性が10人いたら、きっと7〜8人は彼氏の携帯見たことあると思いますよ(真剣)。でも、何もなくて見たわけじゃないですよ。怪しかったから見たんです(笑)。
真木 それは見てるかも!? 怪しいっていうのは「こいつ、多分やってんな」って思うんですよ。
樋口 アハハ(笑)。いわゆる女の勘というやつですか!
真木 そうそう、それです。
樋口 あの、50代の男を代表して聞きたいんですけど、女性はこういうところで怪しいって分かるんだぞってポイントがあったら、ぜひ教えていただきたいです。違う香水の匂いして帰ってきたとか……?
真木 そんな単純なことじゃないんですよ!(怒)
真木 なんか不自然に優しくなるんですよ。お前のその優しさ、幸せそうだけどどうした? って。
樋口 うわ〜!(笑) でもよく知っている間柄でも、難しいですよね。今作でかなえが「 私は、夫の何を知っていたのだろう?」って思う描写は、僕が大好きなフランソワ・オゾン(フランスの映画監督)の映画『幻』(2002年)で失踪した夫の幻を見続ける妻を演じたシャーロット・ランブリングさんとすごく重なりました。すごく深くて、ゾクゾクするような感じがありましたね。
「たくさんの話題作、ヒット作に出続けている真木さんの仕事選びとは」(樋口)
真木 特別なことはないんです。当時は、在籍していた前の事務所がいい作品に出ましょうって色々持ってきてくれたんです。私も初めはいい作品、悪い作品とか言える立場でもなかったですし。事務所が選んできた作品の中から、これはやった方がいいよ、じゃあやりましょう、とか相談しながら決めていました。
樋口 でもヒット作への出演を重ねて、俳優としての存在感が増していくと、これはやりたい、絶対やりたくないとか、要望を聞いてもらえるようになるものですか?
真木 そうですね。ただ全部が全部要望を通していたわけじゃないですし、自分ではわがままで言っているとは思ってなくて。正当な理由があって私はこの作品には出たくありませんとか、この作品は絶対出たいからお願いします、というのはあると思います。
真木 今まで出演した作品や役は、どれも結構当たってるんです。だからないかもしれない。話題にはなったけど、あまり評価されなかったって作品はありましたけど(笑)。
樋口 そうでしょうね。これまでの役も、真木さんにピッタリな、あらかじめ用意されていたような役に全部見えますし。やっぱり真木さんはすごいです!
真木 ありがとうございます。
真木 お芝居をしたいと思うようになったのは、小学校の2、3年ぐらいですね。もともとドラマを見て1人芝居するのがすごく好きだったんです。それでお母さんにお芝居をしたいって相談して、そこから無名塾※に入り、芝居の基礎を教えてもらいました。で、前の事務所に入って今に至るという感じですね。
「1人芝居するのがすごく好きだった」(真木)
真木 え、知らない知らない(笑)。
樋口 真木さんの男前っぷりや、気風の良さを象徴する話として、日本の演劇界のトップ中のトップである仲代達矢さんと喧嘩して無名塾を飛び出したという話を聞いたことがあるんですが本当なのでしょうか? 無名塾に合格できたのは、1000名の受験者からたった5名だったそうですが……。
真木 う~ん、大体は本当です。無名塾は年に1回、塾生だけで能登半島に合宿に行ってたんです。そこで毎朝走るんですが、私は1番年下だったので20代の人たちと走るといつも遅れちゃうんです。だから迷惑にならないように、みんなより1時間早く5時から走って先に発声練習して待ってたんです。そうしたら仲代さんに「走ってない」って怒られて、「走りました」と言っても聞いてくれなくて。結局「お前はもう東京帰れ!」って激怒されて一人で帰りました。
樋口 もう一回走ってきます、じゃなくてほんとに帰っちゃうんだ! すごい。
真木 だって、もう一回走る意味ないじゃないですか。それで帰ってから、お母さんと一緒に謝りに行こうとなったんです。私としては悪くないのになんで?って思いが渦巻きつつも、とりあえず行ったんですが、仲代さんは怒って出て来てくれなくて。結局、千葉から東京まで5回ぐらい行きました。
真木 それでも仲代さんは会ってくれなくて、お母さんにも相談しないまま、塾の人に「ごめんなさい辞めます。今までありがとうございました、って言いたいから仲代さん連れてきてもらえますか?」って言って。でも最後まで来てくれなくてそのまま辞めました。
樋口 カッコいい〜〜! 結局、無名塾にはどれぐらい在籍していたんですか?
真木 2年間です。
樋口 じゃあ、きっちり基礎を学ばれたんですね。
真木 15歳で入ってから、シェイクスピアとかその辺の本はわからないながらも読み漁ってました。
真木 お会いする機会はなくて。大人になった今は、悪いことしたわけではないけど怒らせてしまったから謝りたいと思っているんですけど、その機会もなく。無名塾に突然行ってもいいものかと考えたりして、なんかドキドキしています。
樋口 これも風の噂で聞いたんですが、仲代さんは方々で「真木をよろしくお願いします」とおっしゃっているらしいです。僕の耳にも入ってくるぐらいですからね。菊池寛の『父帰る』じゃないですけど、仲たがいしていた父と娘が恩讐の彼方に和解する、っていう作品をやってほしい。誰か2人をブッキングしてください!
真木 いいですね(笑)。でも、私も本当に謝りに行かないとな。
樋口 僕は、真木さんがこれだけ活躍されていることが恩返しになっているんじゃないかと思います。仲代さんもスクリーンやテレビできっとご覧になられているでしょうから。今日、お話しして、真木よう子さんは本当に“真木よう子”なんだって思いました。これからも、真木よう子道を爆進してください。ありがとうございました!
真木 アハハ(笑)。ありがとうございました。
■ 対談を終えて
おまえは何を言っているのだと訝しがられるだろうが、本当にそうなのだから仕方ない。強い意志を宿した瞳。世に出る前から獲得していた唯一無二の自分。言葉の端々に感じる気骨な男前。パブリック・イメージまんま。真木よう子is真木よう子。カッコよすぎるでしょ!
短い時間でもこれだけのパワーを感じるのだから、大きなスクリーンで「真木よう子」を浴びたらどうなることか(はい、もちろん散々浴びてきたおかげでこんな考えに至りました)。みんなで「真木よう子」を体感しにいきましょう。あ~、お会いしてよかった。ますます惚れました、よう子姐! (樋口毅宏)
● 真木よう子(まき・ようこ)
1982年生まれ、千葉県出身。『ベロニカは死ぬことにした』(06)で映画初主演。続く『ゆれる』(06)で山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞する。2013年度の日本アカデミー賞では、『さよなら渓谷』(13)で最優秀主演女優賞、『そして父になる』(13)で最優秀助演女優賞のダブル受賞を果たす。近年の主な出演作は、『海よりもまだ深く』(16)、『孤狼の血』『焼肉ドラゴン』(18)、『ある男』(22)、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』(23)など。
● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊『無法の世界』(KADOKAWA)が好評発売中。カバーイラストは江口寿史さん。
SNS/公式X(旧Twitter)
『アンダーカレント』
銭湯の女主人・かなえ(真木よう子)は、夫・悟(永山瑛太)が突然失踪し途方に暮れる。なんとか銭湯を再開すると、堀(井浦新)と名乗る謎の男が「働きたい」とやってきて、住み込みで働くことになり、二人の不思議な共同生活が始まる。一方、友人・菅野(江口のりこ)に紹介された胡散臭い探偵・山崎(リリー・フランキー)と悟の行方を探すことになったかなえは、夫の知られざる事実を次々と知ることに。悟、堀、そして、かなえ自身も心の底に沈めていた想いが、徐々に浮かび上がってくる……。
監督/今泉力哉、音楽/細野晴臣、脚本/澤井香織、原作/豊田徹也「アンダーカレント」(講談社「アフタヌーンKC」刊)
出演/真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
配給:KADOKAWA
10月6日より全国公開
HP/映画『アンダーカレント』公式サイト
© 豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会
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