2023.11.11
新垣結衣「私は昔からネガティブ。話を聞いてくれる人がいることで、とても救われる」
とある性的指向を抱えた人々の孤独と生きづらさを正面から描いた映画『正欲』が公開中です。登場人物のひとりを演じる新垣結衣さんは、パブリックイメージとは正反対の暗く不機嫌な表情で迫真の演技に臨んでいます。
- CREDIT :
文/相川由美 写真/内田裕介(タイズブリック) スタイリング/小松嘉章(nomadica) ヘアメイク/藤尾明日香 編集/森本 泉(LEON.JP)
「こういう人たちがいます。どう思いますか?」と自分が問われたような気がした
新垣結衣さん(以下、新垣) 躊躇したり戸惑うということはなかったです。今までやらせていただいた作品たちは、役が違えば、もうどれも違うものなので、その積み重ねのひとつという感覚です。私のパブリックイメージがどういったものかは、何となくわかるんですけど、持っている印象は人によって少しずつ違うだろうとも思っています。求められるものが年代によって変わってきているなと思うし、自分の中ではどんどん変化していってるイメージがあります。
新垣 今回の場合は、まず企画書などをいただいて、その段階ですごく惹かれるものがありました。その後、原作を読ませていただいて、この物語を映像化して2時間ちょっとにまとめるというのは難しいことがたくさんあるだろうなと思いました。そう考えた時に、監督含め制作スタッフの皆さんと同じ方向を向いていけるか、意思疎通ができるか、そういう意味での懸念が最初は多少ありました。でも、とにかく惹きつけられるものがあって、ご縁があったという感じですね。
── 原作は朝井リョウさんのベストセラー小説ですが、読まれてどう感じましたか?
新垣 登場人物たちの物語を見て、「こういう人たちがいます。どう思いますか?」と自分が問われたような気がしました。「これが正しい、これが正しくない」と押し付けられるのではなく、「考えて」と言われてるような。それは、静かに怖い感覚でした。委ねられてる感じ。きっと自分が想像しえないところで、こういう人たちがいて、このような思いをしている。それは、どういうことなのかを考え続けることが大事なのではないかなと感じました。
新垣 ふたりのその場所から、安心感がワ~ッと広がっていくような感じというか。本当に「やっと人とつながれた」という気持ちでしたね。映画ではふたりの学生時代も描かれていますけど、その時から言葉は交わしてないものの目で通じ合っているものがあって。でも、それ以上に交わることがないまま数年経って、また巡り会うことができて、すごく救われる思いだろうなと思いました。
ものすごく考えていたけれど、何も考えてなかったかも
新垣 私は積極的にグイグイ行くよりも、いろんなことを考えちゃうタイプなんです。「一緒にいる時に(相手に)不快な思いをしてほしくないな」とか、「せっかく同じ時間を過ごせるなら、楽しい時間にしてもらいたいな」とか。それがすごくプレッシャーになってしまって、なかなか一歩を踏み出せないということはよくあります。でも、最近は年齢を重ねるにつれて、そこまで自分を追い込まなくても人と関われるようにはなってきたかもしれないです。
新垣 例えば、「映画とかドラマの良さってなんですか?」と問われた時に、私は「知れること」と答えてきました。演じる場合でも鑑賞する場合でもそうなんですけど、自分だけの人生だったら出会わなかった職業や、人格だったり、自分の知らないものを知ることが、作品に触れることの良さの一つだと思っています。
だから、極端に拒否するでも、いきなりすべてを受け入れるでもなく、まず「あ、そういう世界もあるんだな」と受け止めている気がします。あとは、「私の世界、あなたの世界」という距離感はちゃんと保って尊重することを心がけています。
新垣 夏月のとある指向が、自分にとっても大きな課題でした。それをどう表現するのか、チームとしての意思疎通だったり、もっと細かいところがすごく難しくて、本当にいろんな人にいっぱい相談して、自分でもいっぱい考えました。
ただ、演じている瞬間は、難しさは感じていなかった気がします。というのも、撮影が始まる前から、夏月は何をどんなふうに感じるのかというのをすごく想像して考えていたけれど、だからこそ、現場に入って実際に演じている時は、頭で考えるよりも、感覚を大事にできたような気がしていて。つまり、ものすごく考えていたけれど、何も考えてなかったかもと思うんです。言葉として矛盾していますけど。
── 佳道と出会って、解放されたように表情が明るくなっていきましたけど、それも感覚的なものでしたか?
新垣 それもあると思います。私が先に撮影に入って、あとから磯村さんがクランクインしてきたんですが、それまでは基本的にひとりで悶々としたシーンばっかりを演じていたので、磯村さんと一緒のシーンで「やっと会えた!」という気持ちになって。もちろん現場でスタッフさんたちはみんな優しいし、サポートしてもらってるし、分かち合ってるんですけど、役として「分かち合える人がやっときた!」って。もしかしたら、夏月と佳道も、それに似たような感覚だったのかなと思いました。
そういう人に出会えたことが、本当につくづく恵まれてるなと思う
新垣 私は、この仕事を「普通」かどうかではあまり考えていなくて、「環境の違い」くらいに捉えているんですけど、35年生きてきて、こういう環境で仕事をしていることで生きづらいと思ったことはあります。そういう時には、「このお仕事をしていなかったらどうだっただろうな」とかは考えたりします。
新垣 私は昔からネガティブな発想をするタイプなので、「できるだけポジティブに考えるようにする」という意識を、ずいぶん前から持つようにしています。それって、ものの見方を変えるってことだと思うんです。でも、自分が持てる視点は限られていたりするので、そういう時に仲間や家族など、話を聞いてくれる人がいるということが、とても救われます。
否定せずに、ただ聞いてくれるだけでもありがたいです。私自身も、吐き出して、言葉にすることで頭の中が整理されることもありますし、ときには違った視点を教えてくれることもある。一緒に「それが最良だ」と考えてくれる時もあるし、本当にすごく救われる存在です。私は人生で、そういう人に出会えたことが、本当につくづく恵まれているなと思います。
この作品の夏月と佳道は、ふたりが出会うまでは、そういう人がいなかった人生だから、それを想像すると、本当に今の自分の環境がとても奇跡というか。「大事にしなくてはなぁ」と改めて思わされましたね。
新垣 お仕事を始めてまもない時から主演だったり、ヒロインだったりを任せてもらえる機会が多くて、それに伴う責任感とかプレッシャーを常に感じながらやってきました。自分なりにその時できる精一杯を出して応えよう、自分の役割を果たそうと向き合ってきたのは今も変わりませんが、それだけではなくて、「楽しむ」ということをもっと増やしていきたいなと思っています。
以前より少しずつでもいいから、「楽しかった~!」の割合を増やしていきたいなというのをずっと目標にしているんです。いろんなことを経験して、だんだんそういうふうに考えるようになりました。そんな感じの今です(笑)。
● 新垣結衣(あらがき・ゆい)
1988年6月11日、沖縄県出身。2007年に公開された主演映画『恋空』(今井夏木監督)が大ヒットとなり、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『ミックス。』(17/石川淳一監督)では第41回日本アカデミー
賞優秀主演女優賞、第60回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。近年の主な出演映画は『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18/西浦正記監督)、『GHOSTBOOK おばけずかん』(22/山崎貴監督)など。テレビドラマでは、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(CX)シリーズ、「リーガル・ハイ」(CX)シリーズ、「逃げるは恥だが役に立つ」(16/TBS)、「獣になれない私たち」(18/NTV)、NHK大河ドラマ「鎌
倉殿の13人」(22)、「風間公親-教場0-」(23/CX)などがある。ヤマシタトモコの同名漫画を実写映画化する『違国日記』(瀬田なつき監督)で主演を務め、24年に公開予定。
■ 『正欲』
横浜に暮らす検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻・由美(山田真歩)と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月(新垣結衣)は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学の時に転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也(佐藤寛太)。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子(東野絢香)はそんな大也を気にしていた。同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿──様々に異なる背景を持つこの5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。
原作/朝井リョウ、監督/岸 善幸、脚本/港 岳彦
11月10日より(金)全国公開中
HP/映画『正欲』公式サイト
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