2023.12.06
眞栄田郷敦「経験を年輪のように重ねながら成長したい」
俳優デビュー4年目の眞栄田郷敦さん。もっとキャリアが長い印象を受けるのは、確かな演技力と存在感ゆえでしょうか。その眞栄田さんの初主演映画『彼方の閃光』が公開されます。演じるのは、色彩のない世界を生きる主人公。この役にどう取り組んだのか、また今後の俳優としての展望についても聞きました。
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写真/HIRO KIMURA ヘアメイク/MISU(SANJU) スタイリング/MASAYA(PLY) 編集・文/アキヤマケイコ
撮影前の準備を頑張るほど、現場が楽しくなるんです
おそらく誰も体験したことのない世界で生きる、光という難しい役柄を、なぜ眞栄田さんが初主演作品として選んだのか。また今まで俳優を続けてきて思うことや、今後、どうキャリアを築いていきたいのかについても伺いました。
難しいからこそ、この役にチャレンジしたかった
眞栄田郷敦(以下、眞栄田) 脚本を読んで、「主人公の光を演じたい」と思いました。光は、普通の人間がしていない経験をしています。10歳まで目が見えず、20歳ではモノクロームの世界にいる。めちゃくちゃ難しい役ですけれど、だからこそチャレンジしたかった。光が人間として徐々に変化していくのを、自分が表現できたらいいなと。
脚本を書かれた監督の感性も面白いと思いました。強いメッセージ性があるし、余韻が大きい。いろんな要素があって、興味深い作品だと思ったんです。
── 光は難しい役、とおっしゃいましたが、具体的にどう取り組まれましたか?
眞栄田 目が見えない、色が見えないという苦労があるだけでなく、他の人が当然しているような経験ができなくて、人間関係を構築するのに弊害がある。だから最初のうちは、世の中をあまり美しく捉えられず、尖っている部分もある。でも、苦労をしているからこそ、優しくなれるところもある。そんな光が、戦争の記憶を抱えている人たちと関わっていく中で、より人に寄り添っていけるようになっていく。そんな人物なのかなと思って演じていました。
── 自称革命家・友部を演じた池内博之さんとの場面も印象的でした。激しくぶつかりあったり、強く惹かれあったり。
眞栄田 対面の芝居は、その時に沸き起こった自然な感情でいけた感じです。池内さんの芝居を受けて引き出されたものも多かった。後半、沖縄に行ってからはロケーションの力もあって、ドキュメンタリーを撮っているような感覚になりました。 その場で感じたことをそのまま表現していて、半分・光で、半分・自分、みたいな不思議な感じでした。
池内さんとは初共演でしたが、密にコミュニケーションをとりながら、二人でかなり自由に演じさせてもらいました。
作品と深く関われる主演は、やはり、やりがいがあります
眞栄田 楽しかったですね。初主演はたまたまで、そこにこだわっていたわけではないのですが、主演だと作品に関わる時間、スタッフと一緒につくりあげていく時間が圧倒的に多い。その分、感じ取るものも多くて、やりがいがありました。
── 作品の中で光が成長していくように、ご自身も俳優として成長した実感があった?
眞栄田 うーん、実は、この作品では、芝居をしているっていう感覚が少なくて。だから、芝居の引き出しが増えたという感じではないんです。でも、芝居を越えたものができたんじゃないかと。その経験は貴重だったと思います。
── 完成した映画を見て、どう思われましたか?
眞栄田 169分の上映は長いかな、と思っていたのですが、見るとあっという間でした。最初に脚本を読んだ時、ラストがファンタジックに見えすぎるんじゃないかと思ったのですが、映画の流れで見ると自然でした。前半で光の人生とともに歩んできた感覚になったので、最後は腑に落ちて、素直に美しいな、いいなと思いました。
── 「戦争って、どう思う?」と問いかけ続ける作品でもありましたが、ご自身はどう思いますか?
眞栄田 この映画のメッセージでもありますけど「理屈じゃなくて、ダメなものはダメなんだ」ということですよね。それは、日本で暮らしている僕ら20代、もっと年下の10代も、当たり前のこととして持っている感覚なんですが、世界を見たら、それは当たり前の感覚じゃないのかもしれない。
けれども日本では、戦争の記憶を引き継いでいこうという意識がある。学校でも学ぶし、僕も中学の修学旅行先が沖縄で、戦争の足跡が残る場所に行きました。実際に体験をしていないから非現実的でもあるのだけど、それじゃいけないという問題意識も持っている。どの世代の人も、そういう気持ちを持っている、それだけでも意味はあるのかなと思います。言葉ではっきり言えなくても、心の中のどこかで。
── 反戦を声高に言わないけれど、作品に登場する人たちが、それぞれ戦争に対して感じていること、自分の中で秘していたことを語ることによって、メッセージが逆にリアルに染みてくるようでした。
眞栄田 難しいことを言ってきたようでいて、最後は分かりやすく言語化されてメッセージが伝えられます。それがスッと受け入れられますよね。
共演者に引っ張ってもらいつつ、自由に演じられました
眞栄田 池内博之さんは、本当に準備がすごい。芝居のセンスもすごいんですけど、それ以上に、説得力がある芝居にするために、相当な努力をされているんだなと感じました。撮影場所に事前に行って下見をして、どんな表現ができるかっていうことをしっかりと考えられていて、素晴らしいと思いました。
沖縄出身の尚玄さんは、役柄もあって、ドキュメンタリー調の芝居をされていたのですが、そのこと自体に意味があると感じました。芝居を越えた芝居、ってこういうことだなと。僕は受ける芝居が多かったこともあって、お二人に引っ張ってもらった感じです。
Awichさんは肝が座っていて、何もしていなくても出ている雰囲気が、役柄の詠美さんそのもの。彼女は芝居が初体験で、僕も彼女がラッパーだということを知らなかったので、僕の中ではAwichさん=詠美さん。そのくらい存在感が圧倒的でしたね。
── 半野監督が「このキャストだったからこそ映画の世界観ができた。キャストが違ったら、全然違うものになっていた」と話されていた理由がわかる気がしますね。
50年後、俳優をやめていても悔いのない人生でいたい
眞栄田 73歳ですよね。あまり想像がつかないですけど、例えば、もうすぐ死にますって言われても 悔いのない人生だったらいいなと。
── 俳優は続けているイメージですか?
眞栄田 いや、やめていてもいいと思います。やめたいわけじゃないですけどね。ただ50年間には、多分、いろんな出会いもあるだろうし、何が起こるかわからない。だからやめていたとしても、それはそれで面白いなとも思います。
── デビュー4年目ですが、俳優という仕事に対する意識の変化はありますか?
眞栄田 あります、たくさん。一番の変化は、仕事を楽しめているということですね。俳優を始めた頃は、セリフを言うのが精一杯だった。でも今は、何十人、何百人のスタッフと横並びで、一緒に作品をつくりあげている実感があって、すごく楽しいし、やりがいがあります。
撮影に入る前の準備は大変なんですけど、準備を頑張れば頑張るほど、現場が楽しい。その都度、課題が出てきて、それを解消して、の連続ですけど、それも含めて、面白いです。
俳優として目指しているものとかは、今は正直ないんですけど、目の前の作品をどれだけいいものにできるか、どれだけその役を魅力的にできるかはいつも考えています。
さっき50年後の話が出ましたが、こうして目の前の作品に取り組んでいくことを積み重ねていった先に、何かがあるのかなと思います。
── 出演される作品は、目指す方向性に合ったものを選ばれている? それともオファーがきたものを一生懸命やる感じですか?
眞栄田 まだ4年目で、作品を選ぶという感じでもないのですが、基本的に脚本を読んで納得してお引き受けしています。ひとつの作品には、監督、プロデューサー、スタッフの思いが込められています。その現場に、僕が気持ちがのらないまま入るのは失礼でしかないし、その時点で、皆と対等に作品をつくるのは難しいと思うので。
役柄については、この仕事をしている以上、振り幅を大事にしたいので、同じような役ばかりでなく、いろんな役をやってみたいし、やらないと面白くないと思っています。だから今回の『彼方の閃光』も、興味を持ってやらせていただきました。
いろんな人生経験を積むことで、カッコよくなれる
眞栄田 仕事でも遊びでも、いろんな人生経験を積んでいる人は、人間性に深みがあって、カッコいいなと思います。だから、自分もいろんな経験をしたいです。
例えば、ギャンブルみたいな、ちょっと印象が良くないものだったりしても、経験はしておきたい。それが、役者をやっていくうえで絶対にプラスになると思います。
経験を年輪みたいに積み重ねていくことで、演技の引き出しが増えて、人間に深みも出てくるのかなと。
── 理想とする人、目標にする人はいますか?
眞栄田 ぱっと名前が出てこないですけど、こだわりを持って仕事している人は、カッコよく見えます。例えば、今日のカメラマンさんとか(笑)。プロとして経験を積んだうえで、自分をしっかり持って仕事をしている人には、憧れますね。
■ お問い合わせ
アミ パリス ジャパン 03-3470-0505
アントリム 03-5466-1662
■ 『彼方の閃光』
幼い頃に失った視力を手術によって取り戻すも、色彩を感じられない20歳の青年、光(眞栄田郷敦)。彼は、写真家・東松照明の写真に導かれるように長崎へ旅をし、そこで出会った自称革命家の友部(池内博之)にドキュメンタリー映画の製作に誘われ、長崎から沖縄へと戦争の痕跡を辿る。祖母から戦争体験を聞いて育った詠美(Awich)や沖縄と家族を愛する糸洲(尚玄)との出会いを通して、光の人生は大きく動き出す── 。監督・原案・脚本:半野善弘 12/8(金) よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開。配給/ギグリーボックス ©2022彼方の閃光製作パートナーズ HP/https://kanatanosenko.com
■ 眞栄田 郷敦
2000年生まれ、ロサンゼルス出身。2019年、映画『小さな恋のうた』で役者デビュー。近年の主な出演作品に、映画『東京リベンジャーズ』『カラダ探し』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』、TVドラマ『ノーサイド・ゲーム』『プロミス・シンデレラ』『エルピス-希望、あるいは災い-』などがある。2024年1月19日には映画『ゴールデンカムイ』の公開も控えている。