2024.03.24
全編iPhoneで撮影されたApple制作のムービーに主演。賀来賢人が“画期的”だと思ったのは?
俳優の賀来賢人さんが、全編iPhoneで撮影されたApple制作のショートムービー『Midnight(ミッドナイト)』に主演した。原作は手塚治虫の隠れた名作。監督は敬愛する三池崇史氏。はたしてどんな撮影が行われたのか?
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文/浜野雪江 写真/前田 晃(Maettico) スタイリング/小林 新 ヘアメイク/西岡達也 編集/森本 泉、平井敦貴(ともにWeb LEON)

今回の映画は、世界各国で実施されているiPhoneのみを使って写真や映画を撮影するAppleの「Shot on iPhone」の日本発の企画で、映像化を手掛けたのは巨匠・三池崇史監督。東京の夜の街並みのきらびやかな風景やド迫力のカーアクションシーンを始め、全編が最新の「iPhone 15 Pro Max」で撮影されています。
賀来さんにとっても初体験となったiPhoneによる映画撮影や作品のこと、そして年々表現の幅を広げているご自身の活動について伺いました。
え、『ミッドナイト』、私知ってるよ。もぐりのタクシーの話でしょ?
賀来賢人さん(以下、賀来) 僕自身はもともとあまり読む機会がなかったのですが、妻がマンガ好きで、手塚さんの作品も好きで複数持っていて。それがきっかけで『火の鳥』を手に取ったのが最初です。
手塚さんのマンガは、ひとつの作品の中にいろんなテーマが入ってるイメージで、特に『火の鳥』はメッセージ性のとても強い作品。壮大なエンタメの中に生命にまつわる概念や、手塚さんの深い思いが込められているなと感じました。
── ではミッドナイト役のオファーがあった時は縁を感じたのではないですか?
賀来 ただ、その時点で僕は『ミッドナイト』という作品を知らなくて、そこから原作を読んだんです。無免許の深夜タクシー運転手・ミッドナイトが、乗客とともにさまざまな出来事に遭遇する話ですが、主人公のキャラクターも魅力的だし面白かったですね。
一方で彼は、過去に恋人を衝突事故に巻き込んだことによる悲しいバックボーンを背負っていて……。今回の映画では描かれない部分ですが、最後まで読むと、恋人との結末の描き方がエッジが効いているというか、かなり強烈で。すごい終わらせ方をするマンガだな、という印象は強かったです。

賀来 でもこの前、妻と話してたら、「え、『ミッドナイト』、私知ってるよ。もぐりのタクシーの話でしょ?」とさらっと言われて、めっちゃ知ってるやん!(笑) と思いました。
── (笑)。マンガ原作のキャラクターはこれまでも多く演じられていますが、今回の役にはどのように取り組まれたのでしょう。
賀来 ミッドナイトは全身緑のコスチュームを着た見かけからして、今まで演じたどの役よりもキャラクター感が強い人物で。とてもカッコいい衣装を用意していただいたのですが、「まずこれを着こなせるのか!?」というところから始まりました。
実際演じながらも、「このビジュアルがどう見えてるんだろう?」というのは頭の片隅で気になってはいたんです。でも撮り終えて繋いだものを見たら、まだ粗い映像にも関わらず、すでに『Midnight』という世界観が成立していたんです。それは美術や街並み、空気感というものを、三池監督を始めみなさんがうまく創り出しているからかなと思いました。
ジェットコースターに乗っているような感覚でドヤ顔で操縦しています
賀来 僕は三池監督の『クローズZERO』をとてもワクワクしながら見てた世代ですし、周りの俳優仲間からも、「三池さんの組は、俳優をのせてくれてすごく楽しい」と聞いていたので、いつかは出たいとずっと思っていました。
今回はショートムービーで、たっぷり時間があったわけではないのですが、限られた環境のなかでも細やかな気遣いをしてくださり、現場の空気も役者のことも、常に全部を見ている方だなと感じました。
演出も非常に的確で、知りたいことを短い言葉で伝えてくれる。三池さんがちょっと言った言葉が僕はすごく腑に落ちて、勝手に「フィーリングがあった!」と思っていて。だから、もうちょっと長くやりたかったですね。

賀来 僕が全部実際に乗ったわけではないのですが、歌舞伎町の雑踏の中を駆け抜けるシーンのガチンコ感はワクワクしました。ミッドナイトのクルマが超高速で走るクライマックスでは、車体の下から“第5の車輪”が出てきますが、そのシーンはジェットコースターに乗っているような感覚でドヤ顔で操縦しています(笑)。
今回は全編iPhoneで撮影されたので、カーチェイスのシーンでは最新のドローンを使い、クルマとクルマの間の際っきわをカメラがキューン! と抜けるカットもあってすごい迫力でした。
そんな今まで撮影したことのないシチュエーションも含めて、『Midnight』という世界観の異質な感じが面白いですし、途中、大アクションもあって、17分の映像に“全部載せ”した作品だなと思います。
── 映画をiPhoneで撮影されるというのは、役者さんにとってはどういう体験でしたか?
今回はブレーキの真横にもカメラがあって、「iPhoneを踏まないようにしなきゃ!」というのは少し緊張しましたけど(笑)。それに、役者側の意識はさほど変わらなくても、技術側のスタッフさんができることは格段に増えたと思います。
── ご自身は普段iPhoneでどのような写真や動画を撮っていますか? 使用しての感想を教えてください。
賀来 僕は動画を撮ることが多いです。子供が踊っているところを「15 Pro Max」で撮ってみたのですが、フォーカス具合が抜群でホントにぶれないんだな! と思いました。
これから映像をつくりたいという人たちは、カメラを買わなくてもiPhoneで映画が撮れちゃうわけで。カラーグレーディング機能も使えば、かなりクオリティの高い映像が撮れると思うので、今後の映像業界の幅が広がりそうですよね。
僕自身も、映像作品にクリエイターとして携わる時に、ロケハンに行って動画コンテをiPhoneで撮るのは手だと思いますし。実際、映像の現場でも、自然とiPhone、iPadはスタッフの必需品になっていて、現場がどんどんデジタルになっているなと感じます。

もっと効率よく作るためにはどうすればいいかを考えている最中
賀来 今、すごく楽しいですね。自分の意見が言えるようになってきたし、体もまだまだパワフルに動くので、今が一番自信を持って仕事ができる時期。チャレンジしどきなのかなと思います。
── Netfiixで配信中の『忍びの家 House of Ninjas』では原案・主役・共同エグゼクティブプロデューサーも務めていますが、やりたいことがより明確になってきているのでしょうか。
賀来 はい、そうですね。『忍びの家~』もそうですが、ゼロから自分で作品を作るということをこの前、新たに経験して、以前は「できない」と思っていたけれど、「あ、できるじゃん」というのが、もうわかったので、それは今後も続けていきたいし、もっと効率よく作るためにはどうすればいいかを考えている最中です。
賀来 やっぱりワクワクするものをやりたいです。役者って、求めていただける限りはいつまでもできる仕事ですが、年齢を重ねるにつれて、味が出てくる一方、体力面でのパフォーマンスはどうしても落ちてくると思うんです。
そう考えた時に、1年に1、2本の作品に取り組めるとして、本当に元気でパフォーマンスが保てる何十年以内にできる作品数を数えてみたら、実はもう限られていて。
となると、その大事な1年や2年の間に、自分が何をするかというチョイスを本当に慎重にやらないといけない。今までやってきたことをなぞるよりも、ちゃんとワクワクしたり、これまでやったことがなくて自分が「できないかも」と思うようなことに挑戦していきたいという思いはあります。

賀来 僕は作品を通じて人を喜ばせたり、感動してもらったりすることがすごく好きで。たとえ自分が「うまくいかなかったな~」と思う作品でも、見てもらって好きになってくれたり、お客さんが「あれ、面白かった!」と言ってくれたらもう十分なんです。
役者はみなさんそうだと思いますけど、お客さんがいなければ、きっと僕はやりがいの多くを失ってしまうだろうし、正直、自分のためだけには喜んでできないだろうと思います。
── 独立を経て新たに気づいたことはありますか?
賀来 独立して痛感しているのは、仕事というのは結局“人と人”なんだな、ということです。大きな事務所にいた頃は、自分の価値みたいなものがすごく見えにくかったんです。というのは、ひとつの仕事が始まる時も、僕がその役を任される過程で、どこまで会社が動き、どういうオファーのされ方や交渉の場があったのかを僕は知りもしなかったし、知ろうともしなかったからで。
でも今はそれが全部わかるし、「君がいいから、君と仕事がしたいんだ」というふうに信頼を置いて声をかけていただけることが本当にうれしいです。まさに今も、作品との出会いと、そこに関わる人たちとの出会いがとても面白く進んでいるところで。これからもひとつひとつの縁を大切にしながらやっていきたいなと思っています。

● 賀来賢人(かく・けんと)
1989年、東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。09年に『銀色の雨』で映画初主演。NHK連続テレビ小説『花子とアン』(14)、大河ドラマ『花燃ゆ』(15)で話題に。近年の出演作に、ドラマ&映画『今日から俺は!!』(18~20)、ドラマ『ニッポンノワール-刑事Yの反逆-』(20)、『死にたい夜にかぎって』(20)、映画『新解釈・三國志』(20)、ドラマ&映画『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(21~23)、ドラマ『マイファミリー』(22)など。Netflixの配信ドラマ『忍びの家 House of Ninjas』(24)では原案、企画、主演を務めている。

『Midnight(ミッドナイト)』
AppleではiPhoneのみを使って写真や映画を撮影する企画「Shot on iPhone」を世界各国で実施しているが、今回日本では“マンガの実写化映画”を撮影。原作は手塚治虫の最後の週刊誌連載作品となった『ミッドナイト』。舞台は夜の東京。悪徳タクシードライバー「ミッドナイト」は、デコトラを運転していた少女「カエデ」と出会う。カエデがある事情で暗殺者に狙われていることを知ったミッドナイトは、彼女と一緒に逃亡。歌舞伎町を駆け抜け、「第5の車輪」を持つ改造タクシーでのカーチェイスを繰り広げる。監督/三池崇史、脚本/渡辺雄介、出演/賀来賢人、加藤小夏、小澤征悦ほか。
YouTube/iPhone 15 Proで撮影 | ミッドナイト | Apple
©Tezuka Productions ©Apple.Inc