2024.04.15
吉田鋼太郎「80代になってもまだカッコよくいようとしている自分の顔を見てみたい」
ライフワークとも言うべきシェイクスピア劇の新シリーズ(【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】)を、演出・上演台本と出演の二刀流でスタートさせる吉田鋼太郎さん。どのように今の自分を築いてきたのか、お話を伺いました。
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文/浜野雪江 写真/平郡政宏 スタイリング/安西こずえ
シェイクスピアに関しては演出も出演もしたいとずっと思ってきた
人の生き様は顔に出るとも言いますが、果たしてご本人はご自分の顔をどのように思っているのでしょう?
── 吉田さんにとって顔は商売道具でもあると思いますが、特別な思いがありますか?
── ひどく謙遜されていますが(笑)、では、これからでも目指したい顔があるとしたらどんな顔でしょう。
吉田 う~ん、そうだなぁ……やっぱり老いた自分を見るのは基本的にしんどいと思うんです。でも80代になった時に、まだカッコよくいようとしている自分がいるのか、いないのか……。
それは別に人生が刻み込まれた顔になるとかならないではなく、80代になってもまだ一生懸命頑張って、カッコよくいようとしている自分の顔を見てみたい気はしますね。お前、まだカッコよくいようと思って頑張ってるな、という顔であるといいなと思います。
吉田 今65歳で、体力的にももっと落ちるのかなと思っていましたけれど、あまり変わらないので、そこはちょっとうれしいですね。こんなにありがたいことはないなと思いながら、70代に突入しても今の感じでいけるんじゃないかなという気がしています。
── そんな吉田さんがライフワークにしているシェイクスピアの新シリーズ【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】が始まります。「シェイクスピア作品の中でも一番好き」と仰る『ハムレット』の演出と上演台本を担当。ご自身もハムレットの父を暗殺した叔父・クローディアス役で出演されますが、まずは演出と出演という二刀流って、大変ではないですか?
── 吉田さんは劇団を立ち上げた30代の頃から、出演だけでなく演出もされていますが、それはずっとご自身で望んでいたこと?
吉田 僕は18歳の時から大学のサークルでシェイクスピア演劇をやっていて、シェイクスピアの作品は自分の中で特別なものになっているし、演出も自分にやらせてほしいと思うようになったんです。もちろん、仕事としては役者の方が主なので、出演は必ずするという前提で演出もやると決めていたのですけれど。
吉田 幕が開いて2日目以降は、演じることと演出家としての目を自然に切り替えられるのですが、初日だけは他の役者の動向や、舞台の照明の具合、お客さんの反応など、いろんなものが気になってしょうがないです。それは本当に僕個人の問題で、僕個人が右往左往しているだけなんですけど(笑)、初日は演出家と役者の狭間で苦しんでます。
いつかは売れる、有名になるという“根拠のない自信”があった
吉田 それは一回もないですね。芝居が好きだからというのはもちろんですが、自分にはどう考えてもほかにできることがないという消極的理由もあります。例えば会社勤めであれば、たいていの方は朝早く起きて決まった時間に満員電車に乗るわけですよね。それは自分には絶対無理で、1日も続かないと思うんですよね。
吉田 それをものすごく望んでいたし、絶対に食べていくぞという決意がありました。これは僕だけでなく、役者をやっている人の多くは“根拠のない自信”があると思うんです。いつか売れるとか、いつか有名になる、いつか大金持ちになると思って日々生きてるんですよね。それはなんの根拠も保証もないやみくもな目標なんだけど、しっかり信じて前に進むことだけはできるんです。
吉田 41歳の時に『グリークス』(2000)という作品で初めて蜷川(幸雄)さんの舞台に立たせてもらい、そこから蜷川さんの舞台に少しずつ出られるようになった時にちょっと自信がつきました。蜷川さんが手がけるお芝居は集客力もすごくあって、劇場自体もそれまで僕がやっていた小劇場、中劇場とは違う1000人規模の大劇場です。
蜷川さんの舞台に出ることはひとつのステイタスというか、俳優として認められた証みたいなところがあったんです。
── 蜷川さんの演出からはどのようなことを学びましたか?
吉田 いや、もうね……学んだというか、とにかく大変でしたね。蜷川さんはあらゆる意味で唯一無二の演出家で、稽古も俳優に対して何も指図せずに、「はい、やって」というふうに始まるんです。芝居はもちろん、舞台の上手から出るのか下手から出るのかすら俳優の創造性に任せて、「1回お前が考えてやれ」という。俳優にすべてを任されるわけですから、否が応でも自分で考える力が身につきましたよね(笑)。
吉田 「はい、交代」ということもありましたね。弱肉強食の世界です。そこを生き残るのは自信になりますし、やっぱり人間、苦しんだほうがいいのかなとも思いますよね。あの現場を経験したら、もうどんな過酷な現場でも耐えられますから。
相手がわかってくれるまで言葉を尽くして説明する
吉田 僕らはそれで鍛えられましたが、それは僕らの時代まで。やはり言葉を尽くして説明して、ちゃんと導いてあげることを省いてはいけないなと思っています。ただ一方で、自分が演出をする際に、やはり蜷川さんの薫陶を受けた役者たちは、1言えば10とか100、分かってくれるところがある。
でも、そこで蜷川さん頼りでいてはいけないのかなと最近思い始めていて、まったく畑が違う人や、違う場所で学んできた人たちとやることも必要なのかなと。1言えば10分かる役者とやるだけでなく、「それはどういう意味ですか?」と素朴に思う人たちに、きちんと説明をする能力もしっかり身に着けていけなきゃいけないというのは課題です。
今回の『ハムレット』の役者さんたちは、シェイクスピア・シリーズに出るのが初めての方も多いので、新しい風が吹くと言いますか、僕も演出家としてのハードルを上げて取り組もうかなと思っていますね。
吉田 1000人の人がいたら恐らく1000人が、生い立ちも違えば持って生まれた血も違い、 感じ方や考え方もそれぞれ異なると思うんです。そして劇場に行くと、そのまったく違う人1000人が見ているわけで、どうすればその1000人のお客さんのうち、90パーセントの方々が面白いと思ってくれるのか? ということは考えます。
とはいえ、その1人ひとりの思考や感覚をリサーチして、全員の感覚に忠実なものを作るわけにはいかないので、やはり自分が面白いと感じ、自分が納得のいくものを作るしかないし、それはあるレベルのものでないと恥ずかしいという気持ちはあります。
ただ、実際に幕が開いた時に、それが見てくださる方にどういうふうに受け止められるかが怖いところで。だから舞台初日が一番怖いです。
吉田 ほぼないんですけどね。まぁ口で言うのは簡単ですけれど、全身全霊を傾けて1本の作品を作るのは並大抵のことではないので、それができて、万全の状態を自分たちとしては整え、迎えた初日に万雷の拍手が起きると、やはり達成感はあります。
後編(こちら)に続きます。
● 吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)
東京都出身。1997年に劇団AUNを旗揚げ。演出も手がける。蜷川幸雄演出のシェイクスピア作品に多数出演。2016年、彩の国シェイクスピア・シリーズ2代目芸術監督に就任。『アテネのタイモン』『ヘンリー五世』『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』『ジョン王』を演出、『〜タイモン』では主演も務めた。読売演劇大賞優秀男優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。近年の舞台作品に、『シラノ・ド・ベルジュラック』(出演)『アジアの女』『スルース〜探偵〜』『ムサシ』(演出・出演)『ブラッド・ブラザーズ』(演出)、映像では映画「カイジファイナルゲーム」「孤狼の血LEVEL2」「CUBE」「極主夫道ザ・シネマ」「湯道」「ゆとりですがなにか インターナショナル」、ドラマは大河ドラマ「麒麟がくる」「おっさんずラブ」シリーズ「おいハンサム!!」シリーズ「善人長屋」「刑事7人」「監察の一条さん」などがある。
『ハムレット』
蜷川幸雄のもとでシェイクスピアの全37戯曲を完全上演することを目指し、1998年のスタート以来、国内外に次々と話題作を発表してきた彩の国シェイクスピア・シリーズ。シリーズ完結間近でこの世を去った蜷川幸雄から芸術監督のバトンを引き継いだ吉田鋼太郎は、2017年から残された5作品を見事に上演。そしてついに、24年5月、吉田鋼太郎が新たに立ち上げる【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】が始動する。その記念すべき一作目に吉田が選んだのは、シェイクスピア不滅の金字塔『ハムレット』。また、そのタイトルロールを担うのは、吉田からの信頼も厚く、満を持して大役に挑むことになる柿澤勇人。北香那、白洲迅、渡部豪太、豊田裕大ほかが出演。
5月7日(火曜)~26日(日曜)、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
公式HP/https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024
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