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2024.04.06

佐藤隆太「あなただってずっと“善き人”でいられるわけじゃない」

オファーを受けるのに最後まで迷ったという舞台「『GOOD』-善き人-」は、ヒトラーの政権下、親友を裏切ってでも生き延びることを選んだ大学教授の物語。果たして人間の善悪の本質とは? 主人公を演じる佐藤隆太さんに伺いました。

CREDIT :

文/長谷川あや 写真/内田裕介(タイズブリック) スタイリング/勝見宜人 (Koa Hole inc.)   ヘアメイク/白石義人(ima.)  編集/森本 泉(Web LEON)

佐藤隆太 WebLEON
今年、俳優歴25年を迎える佐藤隆太さん。映像、舞台など幅広い活躍で、ベテランとして存在感を増していますが、実際にお会いすると、そのトレードマークともいえる笑顔からは44歳という年齢を感じさせない瑞々しい爽やかささえ感じさせます。

そんな佐藤さんが、人間の善悪の本質を問う舞台「『GOOD』-善き人-」(4月6日~世田谷パブリックシアター)に主演します。オファーを受けるのを迷いに迷ったという難役に挑む佐藤さんに今回の舞台への意気込み、そして、アニバーサリーイヤーを迎えた現在の率直な思いを聞きました!
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最初は僕がこの作品をしょって立つ姿が想像できなかった

── 今年で俳優生活25年、おめでとうございます。

佐藤隆太さん(以下、佐藤) ありがとうございます(笑)。あっとういう間でした。僕は不器用なタイプでして、目の前のことにがむしゃらに取り組み、本当に少しずつ少しずつ前進してきたという感じですが、だからこそ、続けて来られたのかなとも思っています。

── その記念すべき年に、舞台「『GOOD』-善き人-」に主演されます。1930年代のドイツを舞台に、過去に書いた論文がヒトラーに気に入られ、自身の意図とは関係なくナチスに取り込まれてしまう大学教授、ジョン・ハルダーの物語です。自身が生き残るためにユダヤ人の親友を裏切り、変わっていくなど、人間の善悪を問うとても重いテーマの作品ですが、オファーを受けられた時はどう思いましたか?

佐藤 こういった役のオファーをいただけるなんて、自分でも驚きました。戯曲を読んで、自分は本当にジョン・ハルダーという役を演じきることができるのかとしばらく悩み、お返事させていただくまでに1カ月ほどかかりました。ここまで時間がかかったのは初めてだったかもしれません。
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── それほど悩んだ理由と、それでも最終的には引き受けると決めた理由はなんだったのでしょう?

佐藤 最初に台本を読んだ時、非常に難解に感じましたし、僕がこの役を背負って舞台に立っている姿がなかなか想像できなかったんです。自分にとってチャレンジングな作品でも、だいたい直感で、「これは受けたほうがいい」と感じるものですが、今回は迷いました。でも、ほかの仕事をしていても、ずっとこの作品のことが頭から離れなくて。これは何か不思議な縁なのではないか、この縁を手放したくないと思うようになり、最後は飛び込んでみることを決めたんです。
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── なぜ自分にオファーがあったのか、確認されたりしました?

佐藤 それはなかなか聞けないですね。何かしら自分に合うところがあってオファーしてくださったとは思うので、それ以上、聞くのはちょっと欲張りじゃないかと思ったり(笑)。

── たしかに(笑)。

佐藤 でもおっしゃっている意味はわかります(笑)。僕自身、想像もしていなかったキャスティングでしたから。ただ、「なぜ自分を選んでくれたのか」と、確認はしていませんが、今回、オファーを受けるかどうか迷っている時に、(演出の)長塚圭史さんからメッセージをいただいたんです。その中で、2020年1月に上演した僕の一人芝居『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと~』を観てくださったと書かれていて。
── お客さんとコミュニケーションを取りながらストーリーが進行していく、観客参加型の作品だったと聞いています。

佐藤 僕が客席に向かって話しかけたり、お客様に舞台の上にあがってもらったりと、コロナ禍においてもっとも不向きな作品でして、去年、ようやく再演することができました。長塚さんのメッセージには、(一人芝居での)お客様との垣根を超えたやりとりがよかった、今回もお客様に向けて語るせりふがけっこうあるので、その経験をいかしてほしいといった趣旨のことが書かれていました。
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▲ スウェット6930円/O.K.(ADONUST)、パンツ2万8600円/NATAL DESIGN(SCATTER BRAIN)、スニーカー4万6200円/FABIANO RICCI(DIFFERENTLY 池袋東武店)
佐藤 また、長塚さんの「常に開かれたチーム作りを心がけている」という言葉にもグッときて、僕も長塚さんのカンパニーの一員としてモノづくりをしていきたいと参加を決めました。
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── その意外なキャスティングだったという、ジョン・ハルダー教授について、佐藤さんは彼をどんな人間だと捉えていますか。

佐藤 特別に善良なのではなく、僕たちと同じ普通の人だと考えています。その普通の人間が時代のうねりに巻き込まれた時、どう行動し、その結果、どうなっていくのか──。

時代や置かれている状況は違いますが、共感できる部分も多く、そして、ハルダーと同じ立場に立った時、自分ははたしてどこまで“善き人”でいられるのかと“自分ごと”として考えることができる作品でもあると思いました。

── しかし、この「善き人」というタイトル自体が、佐藤さんの笑顔のイメージにぴったり重なります。

佐藤 いやいや(笑)。でも、ハルダーのように、「こんなはずじゃなかったんだけどな」と、自分が思っていたのと違う展開になってしまうことは結構ありますね。
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今は自分がどうしたいかより、家族や周囲の人の思いが大切

── 一人芝居、そして今回と、舞台への出演が続いていますが、佐藤さんにとって舞台の魅力とは?

佐藤 僕はデビュー作が舞台だったんです。宮本亞門さん演出でウルフルズさんが音楽を手がけたミュージカル『BOYS TIME』が初舞台でした。観客の皆さんと同じ空間にいることってやはり強いし、何より舞台はナマモノ。お客様が作り出す客席の空気感によってまったく違うものになるんですよね。
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佐藤 先ほどお話した一人芝居は、客席数200席ほどの小さな劇場で上演しました。当然映像のほうが多くの人の目に止めてもらえますが、舞台での一方通行ではない、人と人がつながりあえる瞬間を、とても幸せに思いました。パンデミックという、他人と距離を置かざるを得ない時間を経験したからこそ、お客様と直接やりとりができる空間を、とても豊かであり贅沢だと感じたんです。

そんなわけで、このところ、舞台に立つことへの欲望が今まで以上に強くなってきました。そういう時に、今回のお話をいただいたんです。やはりやるべきタイミングだったのかな(笑)。
── 普段は、佐藤さんはどんなスタンスでお仕事を選んでいるんでしょう?

佐藤 俳優はオファーをいただいて初めて動きだすことができる職業。たくさんの俳優がいるなかで、僕の名前を思い浮かべてくれるのはとても光栄なことですし、スケジュールが合う限りは、基本的にはお受けしたいと考えています。そして、佐藤隆太を呼んでよかったと思ってもらえるようないいお芝居をしていきたいですね。
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── 今年は記念すべき節目の年ですが、今後の目標を教えてください。

佐藤 最近、あまり個人的な欲がないんですよ(笑)。もしかしたらそれが25年でいちばん変わったことかもしれません。ただ、公私ともに自分がなすべき責任をまっとうしたいという思いは強くなりました。年齢と経験を重ねて、自分がどうしたいかより、家族や周囲の人の思いを大切に感じるようになりました。そして、そう思えるのは、自分が芝居という大好きなことを仕事にできているからなのかな、とも思っています。

自分一人が楽しくても何も面白くありません。家族にしろ友達にしろ、大切な人が楽しそうにしている様子を見ていることが幸せです。時には人の気持ちを考えすぎて、ブレることもありますが……、あ、こういうところ、ハルダーっぽいかもしれませんね(笑)。
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── それにしてもやはり俳優という仕事は佐藤さんにとって天職なんですね。

佐藤 どうなんでしょう。自分には俳優という職業は向いていないなと思うこともあるし、一方で「これしかない」という思いもあります。僕は自分にあまり自信が持てないんですよ。

── そうなんですか! ちょっと意外です。

佐藤 もう俳優をやめるべきなのかなと思ったこともありますよ。

僕は子どもの頃、いろいろな映画を観て、心を揺さぶられ、自分もこの世界に身を置きたいと思うようになりました。そんな風に、僕たちの仕事は誰かの人生を大きく変える可能性がある、そのことを常に考えながらこの仕事をしています。

落ち込んでいる時に映画を観て少し元気になったり、コメディで笑ったり、それだけでもとても意味のあることだと思うんです。
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── 確かに良質な作品は生きていく上で大きな力を与えてくれる気がします。

佐藤 僕が俳優を続けてきて痛感しているのは、本気でモノづくりをしないと人の気持ちを動かすことはできないということ。そして、人の心を動かせる作品を作るのは簡単なことじゃないことも理解しています。

ただ、観た方が少しでもポジティブな方向を向けるきっかけとなる作品を担う一員になりたい、そんな思いで、俳優という仕事に取り組んでいます。だからひとり芝居の時に、直接、お客さまからリアクションをいただけたのはうれしかったです。
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── 最後に、佐藤さんが考える「カッコいい大人」とは?

佐藤 カッコつけない、自然体の人、かな。洋服にしても振る舞いにしても、背伸びをせず、自分のスタイルを持っている人が素敵だなと思います。

── それって、佐藤さんのイメージそのものですよ!

佐藤 本当ですか? でもちょっと緩すぎるんですよ、僕。ガキなんです。もう少しちゃんとしなくちゃと常々思っています(笑)。
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● 佐藤隆太(さとう・りゅうた)

1980年生まれ、東京都出身。俳優を目指し日本大学芸術学部映画学科に進学。在学中の1999年に宮本亞門演出のミュージカル『BOYS TIME』で舞台デビュー。テレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『プライド』(、『海猿 UMIZARU EVOLUTION』などの話題作に次々と出演し、初の連続ドラマ主演作となった『ROOKIES』の熱血教師役でブレイクする。映像作品と並行し、舞台にも積極的に出演しており、主な作品に『ビロクシー・ブルース』『ダブリンの鐘つきカビ人間』『いまを生きる』『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと~』などがある。

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『GOOD』-善き人-

『GOOD』はローレンス・オリヴィエ賞受賞演出家のドミニク・クックがC・P・テイラーの戯曲をリバイバル上演した作品。人間の弱さをあらわにする同作は、ローレンス・オリヴィエ賞ベストリバイバル賞をはじめ4部門ノミネートされ、イギリス演劇界を席巻した。2008年にヴィゴ・モーテンセン主演で映画化もされている。
今回、主演のジョン・ハルダー教授を佐藤隆太が、また、第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第14回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞などさまざまな賞を受賞し、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任した長塚圭史が作・演出・出演を担う。共演は萩原聖人、野波麻帆、藤野涼子、北川拓実、那須佐代子ほか。

舞台は、ヒトラーが台頭し始めた1930年代のドイツ・フランクフルト。大学でドイツ文学を教える“善き人”ジョン・ハルダー教授は、妻や3人の子ども、認知症の母親の面倒をみながら暮らしていた。しかし、過去に書いた安楽死についての論文を読んだヒトラーに気に入られたことで彼の人生は一変。自身の意図とは関係なくナチスに取り込まれ、ハルダーの人生が思わぬ方向へと向かっていく。

4月6日(土)~21日(日)世田谷パブリックシアター、4月27日(土)~28日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールにて上演。
HP/https://good2024.com

※掲載商品はすべて税込み価格です

■ お問い合わせ

ADONUST 03-5456-5821
DIFFERENTLY 池袋東武店 03-6709-1233
SCATTER BRAIN 03-5300-8164

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