2024.04.17
吉田鋼太郎「優しさと知性に裏打ちされた強さを持っている人はカッコいい」
ライフワークとも言うべきシェイクスピア劇の新シリーズ【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】を、演出・上演台本と出演の二刀流でスタートさせる吉田鋼太郎さん。「おっさんずラブ」での50歳を過ぎてのブレイクではどんな気づきがあったのでしょう?
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文/浜野雪江 写真/平郡政宏 スタイリング/安西こずえ
前編(こちら)では吉田さんのシェイクスピア演劇との出会いから、恩師・蜷川幸雄さんの思い出までを伺いましたが、後編では、50代で大ブレイクしたご自身のこと、そして吉田さんが思うカッコいい大人像まで、たっぷりとお話いただきました。
“人を殺すというのはどういうことなのか”という問いがある
吉田鋼太郎さん(以下、吉田) ハムレットのビジュアルにしては珍しいでしょ? 『ハムレット』という作品は非常に有名で、常に憂いを含んだ青年の復讐劇、みたいなざっくりとしたあらすじは皆さんご存知だと思うんです。でもそれだと、当たっていなくはないけれども、僕が考えるハムレットではなくて。
最終的にハムレットは、悩まざるを得ない状況には置かれてしまうのですが、僕が思うに、本来の彼は、明るく聡明で思いやりにあふれ、自分を犠牲にしても人に幸せになってほしいと願う優しい人。こういうどこにでもいるような明るく優しい青年なんだよっていうところをまずは伝えたかったんですよね。
吉田 でも、なかなかしないんです。早く復讐すればいいのに、しないというのは一体どういうことなんだろう? と。もちろん、最終的に敵討ちのシーンになりますけども、それも実はハムレットの意思で起こったことではなく、父の仇が仕組んだ罠に巻き込まれる中で、ほぼ偶発的に復讐を成し遂げる。彼の意思で人を殺めるシーンはひとつもないんです。
となると、それは“人を殺すというのはどういうことなのか”という問いにつながるわけで。人を殺すという行為は、個人対個人の間で起きる場合もあれば、それが大きくなれば国対国の争いにつながるだろうし。つまり、人を殺すということの前で、人は一歩踏みとどまるべきなのではないかと。そのことをハムレットが、身を呈して一生懸命みんなに訴えている芝居なのではないかと僕は感じたんですよね。
── そのハムレット役を今回、柿澤勇人さんに託したのはなぜですか? 柿澤さんとは『アテネのタイモン』(2017)や二人芝居『スルース~探偵~』(2021)で共演され、『スルース~』の大千穐楽のあとに、「柿澤はハムレットができる!」とおっしゃったとか。
今の俳優さんたちの中でも、柿澤くんは圧倒的にパワーがあるし、劇団四季で鍛え上げられた芝居の動きや滑舌といった基礎も素晴らしい。彼の体力と内に秘めた情熱はものすごいものがありますから、見たことがないハムレットをやってくれるはずです。ぜひ、期待していただきたいです。
ちょっと売れてきたからってお前、最近少し怠けてないか? という声がして
吉田 繰り返しになりますが、役者はみんな“いつか売れる”と密かに思っていますので、その流れでいえば、しめしめ(笑)、みたいな思いはあります。でも最初にお話をいただいた時は、どうやって演じていいかがまったく見えず、自分では想像もつかなかったので、決断までに時間を要しました。
吉田 ハードルを受け入れたんですよね。迷いの過程では、頭の片隅で天使が、「ちょっと売れてきたからってお前、最近少し怠けてないか?」みたいなことを言うわけです。そして一方では、「無理しなくていい、やんなくていいって」と悪魔がささやく。でもやっぱり天使の、「ちゃんとやったほうがいいぞ、お前」という言葉のほうを聞いたんです。── 人生初ヒロインを演じて、新たな気づきはありましたか?
吉田 「おっさんずラブ」においては、田中圭くんが役柄の“はるたん”そのもののような人で、優しく気遣いができて、リーダーシップもあるし、何をやっても受けてくれる。彼のその受け芝居がなければ、僕のあの部長の芝居は絶対にできていないんです。
そしてそこに、はるたんのパートナー役の林遣都くんがいて。この3人の組み合わせが今思うと奇跡的で、それぞれのキャラクターが上手い具合に溶け合ったんでしょうね。僕らは微妙に尊敬しあっているし、微妙に「もうしょうがねぇな」とも思っていて、家族みたいな空気が流れているんです。他の現場だったら「ちょっとこの芝居、恥ずかしいからやめとこ」みたいに思っちゃうことも躊躇せずに全部やれるので、そこは大きいと思います。
自分はもうちょっと人間として優しくなれるのかなと思ったり
あとは娘ができたことが大きいですね。今3歳になったばかりで、遊ぶにしてもすごく体力を使います。
── 3歳というと好奇心のかたまりですね!
吉田 外にいる時は一時も目を離せないですし、あれやこれやといろんなことを要求してきますから。肩車もするし、お馬さんにもなるし、ゾンビになって追いかけないといけない。可愛いけれど、もうホントに大変(笑)。
── お嬢さんが生まれてからの環境の変化も、役者としてのご自分に影響がありますか?
娘に対して抱く優しさを、広くいろんな人に向けて持たなきゃいけないのかなとか、もうちょっと自分は人間として優しくなれるのかなとか。今それを、自分で一生懸命感じながら生きています。
── 最後に、そんな吉田さんが思うカッコいい大人像についても伺えますか?
吉田 性別を問わず、優しくて知性的な人に憧れます。優しくて知性的であることは、きっと強さにも繋がると思うので。優しさと知性に裏打ちされた強さを持っている人はカッコいいと思いますね。で、それがね、まさに僕の中ではハムレットなんです。
● 吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)
東京都出身。1997年に劇団AUNを旗揚げ。演出も手がける。蜷川幸雄演出のシェイクスピア作品に多数出演。2016年、彩の国シェイクスピア・シリーズ2代目芸術監督に就任。『アテネのタイモン』『ヘンリー五世』『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』『ジョン王』を演出、『〜タイモン』では主演も務めた。読売演劇大賞優秀男優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。近年の舞台作品に、『シラノ・ド・ベルジュラック』(出演)『アジアの女』『スルース〜探偵〜』『ムサシ』(演出・出演)『ブラッド・ブラザーズ』(演出)、映像では映画「カイジファイナルゲーム」「孤狼の血LEVEL2」「CUBE」「極主夫道ザ・シネマ」「湯道」「ゆとりですがなにか インターナショナル」、ドラマは大河ドラマ「麒麟がくる」「おっさんずラブ」シリーズ「おいハンサム!!」シリーズ「善人長屋」「刑事7人」「監察の一条さん」などがある。
『ハムレット』
蜷川幸雄のもとでシェイクスピアの全37戯曲を完全上演することを目指し、1998年のスタート以来、国内外に次々と話題作を発表してきた彩の国シェイクスピア・シリーズ。シリーズ完結間近でこの世を去った蜷川幸雄から芸術監督のバトンを引き継いだ吉田鋼太郎は、2017年から残された5作品を見事に上演。そしてついに、24年5月、吉田鋼太郎が新たに立ち上げる【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】が始動する。その記念すべき一作目に吉田が選んだのは、シェイクスピア不滅の金字塔『ハムレット』。また、そのタイトルロールを担うのは、吉田からの信頼も厚く、満を持して大役に挑むことになる柿澤勇人。北香那、白洲迅、渡部豪太、豊田裕大ほかが出演。
5月7日(火曜)~26日(日曜)、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
公式HP/https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024
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