• TOP
  • PEOPLE
  • 藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」

2024.07.25

藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」

1962年のスクリーンデビュー以来60年以上のキャリアを誇るレジェンド俳優、藤竜也さん。大島渚監督の『愛のコリーダ』をはじめ数々の記憶に残る役柄を演じ、2000年代に入ってからも、続々と話題作に出演。変わらず激シブでカッコいい姿を見せてくれています。はたしてその魅力の秘密とは?

CREDIT :

文/岡本ハナ 写真/土屋崇治(TUCCI) 編集/鎌倉ひよこ

御年82歳にしてバリバリの現役である藤竜也さん。7月12日公開の映画『大いなる不在』では認知症を患う元大学教授の陽二を演じています。60年以上の長いキャリアで巡り会った様々な役柄と、藤さんはどう向き合い、どのような想いで演じてきたのでしょう── 。本作の話とともに、第一線で活躍する秘訣、理想のカッコいい大人像についても伺いました。
PAGE 2

俳優という職業に飽きていないから続けられる

── 80代にしてなお第一線で走り続けることができる秘訣はなんでしょう?

藤竜也さん(以下、藤) 自分自身では分からないけれど、俳優という職業に飽きていないということが大事なのかもしれないですね。飽きていないから一生懸命取り組める。飽きていてもお金が目的だから仕方なくやる演技と、演じることに飽きることなく、時にはスリルを感じながらワクワクした気持ちで臨む演技とでは全然違いますから。
── 藤さんにとって役を演じることはいつでも新鮮なのですね。

 私は忙し過ぎると駄目なのかもしれない。一つの作品が終わり、ぼちぼち飢えてきた頃に面白そうな仕事がくると腹を空かせた子供みたいに、その仕事にしゃぶりついて喰らいつくすんです。でも、しょっちゅうご馳走を食べていたら満腹になっちゃって“もういいかな”ってなるかもしれませんね。
── 藤さんにとって演じることはご馳走なんですね! ではやはり、藤さんにとって一番大事にしているものはお仕事なのでしょうか?

 家族ですね。若く結婚しているからそれなりのことはありましたし、威張れるようないい夫かって聞かれたらそうではなかったと思う。だけど、夫婦っていうのは長く一緒にいると手のシワまでもが愛しくなるものなんです。ああ、俺のためにこんなシワをつくったんだなぁって。
── 素敵です、世の女性が悶えるような言葉ですね。以前、奥様とは毎日触れ合うようにしているとうかがったことがあるのですが、それは今もでしょうか?

 コロナが始まる前は、手をつないだり握手をしたりしましたが、今はグータッチです! それをやらないと、翌朝どっちかが起きてこないかも分かんないからね(笑)。
PAGE 3

私は“カッコいい”を求めたことは一度もないんです

── 昔から渋くて魅力的な藤さんですが、ご自身が理想とするカッコいい大人像とは一体どのようなものでしょう?

 私が憧れるのは、愚痴を言わずにやるべきことを黙々とやって、笑顔が美しい人。これが理想ですねえ。私は仕事は黙々としていたけれども、笑顔が苦手で……(苦笑)。男でも女でも、そんな人は「カッコいい」と思いますよ。
── 年齢を重ねていくなかで「カッコ良さ」の概念は変わりましたか?

 う~ん……。私は“カッコいい”を求めたことは一度もないんです。褒めていただくことはうれしいけど、私は俳優として自分が納得して完成度が高い芝居をするだけ。作品を褒めてもらえれば「俺の仕事はひとつ終わったな」と安堵するけれど、自分自身が“カッコいい”を追いかけているわけではないかな。それに、カッコよさって無数にあるじゃない。
──カッコ良さは 人それぞれ、みんなにあるということでしょうか?

 そう。私はこうやっていい年まで仕事をさせてもらっているけれど、カッコいいなあと思うのは自分にではなく、他の人に感じます。

── それは役者さんに限らず?

 もちろんです! TVのドキュメンタリー番組などで、堅実な生活をしながら信念を持って生きているお父さんやお母さんの姿を観ると心から尊敬します。一生懸命生きている人はみんな素敵でしょう。
PAGE 4

“カチンコ”を合図に、役が憑依する

── 本作は、第67回サンフランシスコ国際映画祭でグローバル・ビジョンアワード賞を受賞され、日本では公開前から話題になっています。藤さんは、「第71回サン・セバスティアン国際映画祭」で日本人初となるシルバー・シェル賞を受賞されました。おめでとうございます!

 名誉ある賞を受賞できたことはすごくありがたいけれど、私自身にはその実感がないんです。いい脚本があって、監督がつくりあげた器の中に入れてもらったからこその受賞ですからねえ。幸運があっただけ。近浦さん(監督)が一番喜んでいるんじゃないのかな。
── 藤さんご自身は、撮影中やその後で受賞する手ごたえのようなものはあったのでしょうか?

 まさか!(笑) 世界中から選りすぐりの作品が何十本も集まっているわけだから、そんな簡単に傲慢になれたら人生楽ですよ。
PAGE 5
── 藤さんご自身はお元気ですが、この認知症の陽二を演じることにはどういう思いがありましたか?

 実際に認知症になっていたら演じられないけれど、この役ができるのは年寄りの俳優の特権なんじゃないですか(笑)。5年位前にも認知症の役を演じていて、その時に専門家に話を聞いたり、資料を読んだりして調べていたので認知症を患うとどうなるかというのは認識しています。でも、前作とは脚本が違うし、ひと言に認知症の役を演じるといっても全然違いますね。前回は静かでおとなしい役でしたが、今作の陽二はその時々によって理路整然としているような人だから、そりゃあ大変なキャラクターでした。

── 撮影期間が約1カ月間とのことですが、同じ陽二さんでも別人のような表情があり圧巻でした! 長い台詞もありましたが、短期間で台詞をすべて覚えるコツはあるでしょうか?

 皆さんそろって「大変でしょう」とおっしゃいますが、あれは不思議なことに自然と台詞が入ってきちゃうんです。今回の撮影でも、陽二さんが私の中に入ってきたから、私は陽二さんに任せていましたね。私はただ身体を貸しているだけなので「覚えたものを思い出そう」という作業を頭の中でしていないんです。私が喋っているという自覚はないですから。
PAGE 6
── 役が降りてくるのですね。普段から“憑依する”感じなのでしょうか?

 そうですね、役が入ってくるので任せちゃいますねえ。かと言って、撮影期間中はずっと陽二さんというわけではなくて、認知症と同じで、あっちこっちを行き来しています。現実の世界に戻ったり、別の世界に行ったりをオートマチックに。だから、休憩時間にご飯を食べている時は私。陽二さんではないんですよ(笑)。

── すごい! 役のモードに切り替えるスイッチのようなものがあるのでしょうか?

 カメラの前で鳴らす“カチンコ”があるでしょう? あれがカチン! と鳴ると自然と役に入りますね。役から自分に戻る時もカチン! が合図です。
PAGE 7

複雑ながら面白い関係図をつくる登場人物たち

── 主演・森山未來さんとの共演はいかがでしたか? 男親と息子の距離感も絶妙でしたね。

 ぴったりでしたよね。森山さんが演じる卓君は屈折感がある。陽二も屈折しているから、親子でよく似ているなあと思います。私も父親ですから深く考えなくとも自然な空気はきっと出ているんじゃないかな。でもまあ、陽二は最初の妻と息子をおいて、原(日出子)さん演じる直美の元に走っている。息子に対して非常に罪悪感を抱えて自分を責めているし、苦悩に苛まれている。そんなことを考えながら芝居はしてないけれど(笑)、複雑ながらおもしろい関係図だと思います。
── 卓の妻・夕希役の真木ようこさん、陽二の再婚相手・直美役の原日出子さんの印象はいかがでしょうか? 原さんは共演されたことがあるのだとか。

 真木さんは、陽二と卓を柔らかい視点で見守っていて、空気をふわっとさせてくれる存在でした。原さんとは、過去に相米慎二監督の映画『ションベン・ライダー』で共演しています。往年の映画だから、もうかれこれ40年くらい経つんじゃないかな。大昔のことなので原さんは娘さんでした。この年でまた共演できるのはうれしいですね。
── 近浦啓監督とは3回目のタッグでしたね。監督からは本作ならではの要望などはありましたか?

 これまでも近浦さんの作品に対する関わり方を見てきていたので、やっぱり信頼感があります。考え方から進め方、何から何まで真摯な人ですから。脚本を基に私が俳優としてどう役に入っていけるかが勝負ということを、お互いが理解し合えていたから、特にこれといった要望はなかったです。これも信頼関係でしょうかね。
PAGE 8

つまらないことでも面白がるくらいが大事

── いくつになっても渋くて魅力的、そして生き生きしている藤さんですが、人生の楽しみ方を教えていただいてもいいでしょうか?

 生活の中では能動的に動くことかな。“今は動きたくない”とか“面倒くさいな”とか、くたっとした時間の過ごし方をしていると、人生はつまらなくなっちゃう。つまらないことでも面白がるくらいが大事ですよね。

── なるほど。藤さんは、のんびりした時間よりも動いている時間の方が多そうですね。

 まめに動いて楽しまないと! 人に対しても自分から動くことって大事ですよ。なんでもないことだけど、朝は「おはよう」。何かしてもらった時は「ありがとう」。コミュニケーションを大事にすると、人生が豊かになる。何気ない会話があるっていいですよ。あとは私が苦手な笑顔があるといいねえ(笑)。
── そんな藤さんと話していたら、我々から笑顔がこぼれてしまいますね(笑)。

 若い頃はね、何気ない話がまったくできなかったんですよ。そんな話をしても意味がない気がして。黙っている方が楽だったんだけど、今はそうじゃない。小さなことでも話さないと寂しいなって感じるんです。と言っても、仕事場でぺらぺら話しているわけではないんですけどね。

── では、ご自宅で? どんな話をされるのでしょう?

 そう、家庭ではとりとめのない話をいつもしていますよ。「大谷が笑ったよ、カッコいいな!」とか。「今日の試合は雨で中止になっちゃったよ。つまんねぇなぁ」とかね。なんでもない日常で感じるあたたかさって、やっぱりいいものですよ。
PAGE 9

● 藤竜也(ふじ・たつや)

1941年8月27日、北京生まれ、神奈川県横浜市育ち。1962年『望郷の海』で俳優デビュー。1976年、映画『愛のコリーダ』(大島渚監督)に出演。身体を張った熱演により第1回報知映画賞主演男優賞受賞。2015年、映画『龍三と七人の子分たち』(北野武監督)では、第25回東京スポーツ映画大賞の主演男優賞を受賞。80歳以降も続々と主演に抜擢され、2023年には映画『それいけ!ゲートボールさくら組』『高野豆腐店の春』で主演を務める。2024年、映画『大いなる不在』では認知症の父親を演じ、第71回サン・セバスティアン国際映画祭・コンペティション部門で歴史上日本初となるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞した。

『大いなる不在』

主人公・卓(たかし)は、幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二が警察に逮捕されたと連絡を受け、妻の夕希とともに九州の父の元を訪ねる。久しぶりに再会した父は認知症を患い別人のようになり、再婚した義理の母も行方不明になっていた。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが……。出演/森山未来 真木よう子 原日出子 藤竜也ほか 製作・制作プロダクション/クレイテプス 配給/ギャガ 7月12日全国公開
HP/映画『大いなる不在』公式サイト

PAGE 10

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」 | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト