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2024.08.20

注目のマルチクリエイターが語るアートとビジネス

山崎晴太郎「最速で世界に接続するためにはアートしかない」

デザイナー、アーティスト、経営者、文化人と様々な顔を持ちマルチに活躍する山崎晴太郎さんがアーティストとして初の個展を開催中です。ジャンルを軽々と飛び越え、記号化することを拒否しながら拡張を続ける山崎さんの現在地とは?

CREDIT :

文/安井桃子 写真/玉井美世子 編集/森本 泉(Web LEON)

山﨑晴太郎 Web LEON   セイタロウデザイン
デザイナーであり、アーティスト。さらにテレビのコメンテーターでもあり、複数の会社の取締役をつとめる経営者でもある山崎晴太郎さんの個展「越境するアート、横断するデザイン。」が現在開催中です。

空間デザイン、プロダクトデザイン、さらに企業のブランディングからアート制作まで。分野の垣根を超えて仕事のフィールドにしてしまう、山崎晴太郎とは何者なのか。その仕事への秘めたる思いも伺いました。
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すべてのデザインはまず人間を考えることから始まる

東京2020オリンピック表彰式デザインや、レストランのひらまつが開業したオーベルジュ「THE HIRAMATSU軽井沢 御代田」のブランディングなど、さまざまなプロジェクトを手掛け、これまで国内外でデザイン賞を数々受賞してきた山崎晴太郎さん。そのデザインのフィールドは、空間、プロダクト、グラフィック、映像、企業ブランディング他と多岐にわたります。

── これまで空間は空間の、プロダクトはプロダクトの専門のデザイナーが担当することが一般的だったデザインの世界において、異端ともいえるこのビジネススタイル。なぜこの分業制の壁を壊せたのでしょうか。
山﨑晴太郎 Web LEON   セイタロウデザイン
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山崎晴太郎さん(以下、山崎) つくれないものがあるということがそもそも嫌なんですよね。なんでも全部つくってみたい、そういうところからスタートしました。なんでもつくれるデザイン会社って当時はほとんどなくて。それなら自分でつくればいいとセイタロウデザインを立ち上げました。

もちろん、建築、映像、グラフィックなどなど、それぞれの分野で専門知識は必要です。でもメタ化してみてみると、全部が人間に繋がる。この建物の空間に入った人がどう思うか、この本のページをめくった人がどう感じるか。人間の目がどう動くのかをそれぞれの分野で考えていけばいい。

もちろん最初は分業制の壁というのはあります。なんでもつくれますと言っても、やっぱり専門性の高い人にオファーしたいとクライアントは考えますからね。だからまずは、それぞれのジャンルでひとつずつ強い実績をつくっていきました。空間デザイン、CM制作などなど。実績ができてくればクライアントも増えて「この前のあのCMみたいなものを制作してください」という依頼をしてきてくれます。そのなかで、CMだけではない他の解決方法があると、提示してどんどんいろんなものをつくっていったんです。
── それぞれの分野において、専門性という点ではどうしているのでしょうか? 

山崎 例えば私たちの会社では、WEBページのデザインをすることも多いのですが、社内にはWEBサイトのコードを書くコーダーはいません。なぜならコーダーがいたら、『WEBサイトをつくらねばならなくなってしまう』からです。

クライアントの悩みを聞いて、それを解決するプランとデザインをつくることが私たちの仕事。悩みによっては、それを解決するのはWEBサイトではなく、インスタレーションだったり、イベントを仕掛けてみる、ということだったりするかもしれません。フラットにそういう提案ができた方が、クライアントにとっても本質的ですよね。ですので専門性が必要な場合はその都度目的に応じたパートナーと一緒にチームを組む、というやり方をとっています。
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曖昧さのなかにどんな価値を見出せるかがデザイナーの本領

── では、山崎さんへの仕事の依頼は、「〇〇をつくってください」というものでは、今はなくなってきているのでしょうか。

山崎 例えばホテルのブランディングのお仕事だと「ホテルの概念を変えたいです」というような依頼が多いです。めちゃくちゃフワフワしていますが、でもそういうフワフワしている領域こそデザイナーの本領だと思っています。曖昧さのなかにどんな価値を見出せるか。

「オーベルジュTHE HIRAMATSU軽井沢 御代田」のお仕事の場合は、「オーベルジュの新しい概念をつくる」というオーダーからスタートしました。この時は、感覚的な話かもしれませんが、田舎のおばあちゃんの家に泊まった帰り、新幹線に乗る間際に渡される、冷凍みかんとおにぎりをイメージしたんです。

別れた後、新幹線の中でそれを食べながら景色を見る──。その時間も旅。メインの宿泊体験は終わっているけれど、その余韻を楽しむ時間。つまりこれを料理に例えるなら、メインをたっぷり食べた後のデザートかコーヒーみたいなもの。

そういえば旅って、荷物を用意して計画を練ってという時間も、帰って荷解きしてお土産を出す時間も楽しい。だからホテルだって、チェックイン前、チェックアウト後、なんなら朝食もアクティビティも夕食もすべてひっくるめて、ひとつのコース料理のように楽しめないか──。というところから、アイデアを設計してデザインをしていきました。

予約時のアレルギーの有無の確認を単なる確認作業ではなく、もっとサービスの概念を載せて、旅が予約から始められるよう考えたり、運動会のお弁当をイメージして外で食べるようにしたり。一流のレストランが外で食べるということをちゃんと設計して実現させた体験はなかなかないんですよ。

そうしてその体験の存在を知って楽しんでくれたゲストは、次回から「軽井沢に行こう」ではなくて「THE HIRAMATSU軽井沢 御代田に行こう」と思ってくれる。そうすればそのホテルの、ブランドの価値はどんどん上がっていきますよね。
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山﨑晴太郎 Web LEON   セイタロウデザイン
── おばあちゃんの冷凍みかん、運動会のお弁当。ひとりの人間としての体験がデザインに反映されるのですね。

山崎 そうですね。そういう体験のイメージが点としてあって線でつないでいって、そういう感じでデザインはいつもつくっています。

「アート舐めるな」と言われても、気にしたってしょうがない

── 一方で山崎さんはアーティストとしてさまざまなアートワークも制作していますが、作品づくりも同じように行われているのでしょうか?

山崎 いえ、作品はまた違うんです。ふた通りあって、ひとつは自分が社会に言いたいことがあってそれを作品におとしこむ。もうひとつは手が勝手に動いて、そこにあとからメッセージを乗っけていくという方法。そもそも作品づくりは、意思を持って始めたことなんです。

「なんでもつくりたい」そう思って仕事をしてきて、そのなかでやっぱり日本的美意識って独特で世界にも注目されているもの。だから僕自身が最速で世界に接続できる、戦えるようになるには、アートが一番なのかなと考えたんです。だってアートは言葉がいらないし、コンセプトと作品の力で世界と接続できるものですから。
── デザインをつくりながらも、アートの領域へも意図的に進出された。

山崎 はい。僕はいろんなジャンルの仕事をしてきて、そのつど「映像舐めるな」「建築舐めるな」とか各ジャンルで言われてきましたので、「アート舐めるな」と言われても、あぁ何か新しいことを始めるとこれ言われるんだよな、くらいで受け止めています(笑)。最近ではテレビに出はじめた時も言われたし。外野を気にしていたら、他人軸で生きることになってしまうので。
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── 最初につくった作品はどんなものですか?

山崎 30歳の頃に水墨画を始めました。2018年から現代アートに方向転換して、映像、彫刻、写真、インスタレーションと今回の展覧会に繋がるさまざまな作品を作ってきました。

グローバルな現代アートの世界って、大学院出て修士課程持っている人が結構多いんですよね。博士課程の人もいる。アカデミズムを文脈の背景にしながら、この世界に生物学の中でどういう新しい概念を作り上げるかというのが現代アートの文脈の中では大きくなってきているように感じます。だから単純に絵がうまいとか、それは現代アートのコンテキストの中だともう、どうでもいいのかもしれないと。今僕が直近でつくっている作品は3Dプリンターを使った作品が多いですし。
── 3Dプリンターの作品は具体的にはどういうものを?

山崎 例えば『Fossils from the future “NIKE AIR JORDAN Ⅰ』という作品は、ナイキの「ジョーダン1」を写真に撮ってデータ化し、3Dプリンターで出力しています。素材は、砂です。そしてロゴは、アクリルで成形しています。靴の部分は砂なのでアート作品として消費されていくと、風化していき、最後はロゴだけが残る。

僕らが普段消費しているものはなんなんだろう。中身そのものではなくて、ブランドのロゴマークだけなんじゃないか、そう思ってつくった作品で、このシリーズは、スターバックスとかシャネルとか、9作品ほどあります。すでにいくつか壊れてきているものがあるのですが、その風化も作品のひとつとしてそのまま展示します。
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── 今回の展覧会では、この作品も展示されます。他にはどんなものを見ることができますか?

山崎 彫刻、映像などのアート作品から、デザインの方の、クライアントワークまで、雑多に展示しています。僕は曖昧さこそ重要だと思っていますので、特にそれらにラベリングもしていません。なにも知らずに来てくださった方が見たら、どれもアートに見えるかもしれませんし、それこそが面白いと思っています。


デザインもビジネスもあらゆるジャンルを横断、そして同時にアートの世界に越境する山崎晴太郎さん。その世界をまずひと目見ないことには、これからのアートもデザインも語れない。
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山崎晴太郎(やまざき・せいたろう)

1982年神奈川県生まれ。PR会社勤務を経て2008年セイタロウデザイン設立。主なクライアントに国土交通省、JR西日本、ひらまつ、広瀬香美、など多数。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは表彰式をプロデュース。そのほか企業のブランディングなども行う。2018年から現代アートの制作をはじめ、ロンドン、ニューヨーク、ヴェニス、ワシントンDCなどのグループ展にも参加してきた。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。

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山崎晴太郎 個展 「越境するアート、横断するデザイン。」

会期/開催中〜9月1日
会場/スパイラルガーデン
開場/11:00~19:00
山﨑晴太郎のクライアントワークから、海外で発表しているコンテンポラリーアートまで全35種類、110以上の作品を展示。クリエイションのすべてが越境したアート活動であると捉え、網羅的に展示される。
HP/https://seitaroyamazaki.com/exhibition2024/

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