2024.10.04
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で注目のケイリー・スピーニー「父を知らなかった幼少期、そして今の私」
若手ハリウッドスター、ケイリー・スピーニーさん。最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では、若き勇敢な報道カメラマンに扮します。言葉の端々に機知と芯の強さがあふれる、唯一無二な彼女のスタート地点、そして現在地について。
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文/川口ミリ 編集/森本 泉(Web LEON)
ヴィジョンあるユニークな監督たちと組めて幸せに思う
ケイリー・スピーニーさん(以下、ケイリー) 世界観の構築がすごいですよね。主題は、これまでならAIの問題とか、今回でいえば世界の政治状況とか、アメリカとか。いつもある問題を提起していて、それが作品の出発点のようなもの。でも、キャラクターにはちゃんとハートがある。人間やその複雑さ、関係性、ユーモアを中心に物語を描こうとしていると思います。
時々、彼の映画を冷たくて怖いと感じる人もいるだろうけど、実は心がこもっていて。それが彼という人間を映し出しているような気もするんです。つまり一見かなり威圧的ですが、本当は人々や世界のことをとても深く考えている。そんなふうに、アレックスと彼の映画の間にはある種の類似性があって、そこに惹かれるんです。
ケイリー ええ、もう明らかに。でも、彼は観客のことも知的だと想定していて、それが私には新鮮です。だいたいの監督や製作会社は、観客に対して物事をもっと事細かに説明する必要があると感じています。実際、製作会社の人が「観客はそれほど賢くない」と言うのを聞いたことも。すると彼はきっぱり、「いやそんなことない。私は大人のテーマについて、大人と会話しようとしているんだ」って。彼の映画作りで好きなのは、観客を巻き込むところ。だからこそ、あえて答えを与えていないんです。
ケイリー ソフィアとアレックスはまったく性格が違う。二人の映画も、彼ら自身の違いを映し出しています。アレックスはなんというか、ガンガン行く感じ。作品もパンチが効いていて、無邪気で派手。一方で、ソフィアの映画は彼女に似て、多くを語らず、静かで繊細です。
二人をはじめ、これまで一緒に撮影をした多くの監督を愛してやまないのは、彼らがそれぞれに特異な存在だから。ソフィア・コッポラやアレックス・ガーランド、フェデ・アルバレス(主演作『エイリアン:ロムルス』の監督)のような人は他にいない。いわば、彼らは彼ら自身の監督です。自分以外の誰にもなろうとしない、というか、自分以外の何者かになる方法を知らない人たち。
アレックスの映画を観れば、最初の5分で彼の作品だとわかる。それがエキサイティングなんです。縁あって、明確なヴィジョンのある、とてもユニークな人たちと仕事ができてラッキーです。
ケイリー そうですね。私自身、さまざまな種類の映画で、いろんなトーンやキャラクターを演じてみたいし、多種多様な意見や声色をもつ監督たちと出会いたい。たとえば若い女優として、ソフィアのような女性監督と組むのは(男性監督と組むのとは)また全然違う、ユニークな経験です。
アレックスとは親密な関係なので、彼は私がどういう人間かわかっていて。今回演じた報道カメラマンのジェシーという役にも、私自身のことをたくさん書き込んでくれました。私はいつだって何かを変えたいし、常に自分に挑戦していたい。一つのゾーンに閉じこもりたくないんです。
芝居を通して世の中のために何かしたいという使命感
ケイリー ジェシーが新しい世代を代表していると感じるのは、理にかなっています。私自身、新世代だから。ジェシーと同じように、私も将来に多くの不安を抱いていて、何かしなければという使命感に燃えています。彼女にはカメラの才能があり、それで世の中のためになることをしたいと考えている。そして私は、自分の演技を通して、今回のような映画が何人かの人々に会話のきっかけを与え、彼らが心を開き、世界の現状に対して何ができるかを切に考えるようになればと願っています。
アメリカ人であろうとなかろうと、今は誰もが政治的な二極化とその結果に恐れを抱いていますよね。今作が興味深いのは、こんなメッセージを発信しているところです。「どんな政治的見解を持っていようと、こんなこと起こってほしくないよね? この事態は避けよう。そのために、自分たちには何ができるだろう?」。私も同じ気持ちです。より良い未来が欲しいし、そこに辿り着けるという希望もある。私の同世代の多くもそう感じていると思います。
ケイリー えー、わからないです……! 努力はしていますが、自分のことを俳優だって思えないことも多くて。演技がなんなのかさえわからない。(仕事を)時々は面白いと感じます。でも、役をもらうたびに途方に暮れてしまう。何から始めたらいいか、どうアプローチしたらいいかわからないんです。ルーティンもメソッドもありません。
でも、キルスティンもそうだと思う。同じように、できるだけ自分自身を役に捧げ、正直であろうとするというか。共演した瞬間、お互いに「ああ、私たちって似てる!」と感じたんです。
最終的には、自分を信じるしかない。だから、投げかけてくれた質問に対する答えはありません。なぜ自分がこの仕事を続けているかもわからない。わからないまま、新しい作品を契約し続けていて。でも機会に恵まれたことには感謝しているし、このまま続けていけたらとも思っています。
ケイリー ええ、訓練はしていません。でも、した方がいいかも(笑)。
── いえいえ、もはや必要ないと思います!
ケイリー 地元のコミュニティ・シアター(市民劇場)に少し参加していたけど、俳優としてレッスンを受けるような選択肢はなかったですね。故郷では、大人はみんな9時から5時まで働き、同じクッキー型でくり抜いたような生活を送っていて。私は学校での成績があまりよくなかったし、幼い頃から、自分が育ってきたこの世界にいつまでもなじめないだろうという気がしていました。
基本的には、自分の部屋に閉じこもり、映画をたくさん観ていた。その頃、キルスティン・ダンストの、“何もせずとも多くを語る演技”に魅了されました。ちょっとした目線を送るだけで、物語が伝わってくる。キルスティンを見ることが、私のトレーニングだったのかも。
演技や人間、その複雑さに魅了された原体験
ケイリー それはすごく重要なことです。私は子どもの時、自分の父親が誰なのか知らなかったのもあって、常に何が真実かを探究してきました。 自分自身の家庭において、家族や複雑な人生を理解しようとする中で、真実の魅力のようなものを植えつけられた気がします。
真実はなぜ奪われるのか。また、真実は人々の人生をどう変えるのか。きっとそこから演技や人間、その複雑さに魅了されるようになったんじゃないかな。どこから演技に行き着いたのか、これまであまり明確にはしてこなかったけれど、きっと幼少期から来ているんだと思います。
ケイリー スティーヴンとは『DEVS/デヴス』が初対面で、“ありえない組み合わせの親友同士”みたいな役を演じたんだけど、彼と出会った瞬間、私たち自身もそうなると予感しました。二人ともミズーリ州出身だし、前世からお互いを知っていたような感覚で。
スティーヴンはサンタクロースのような存在で、何十年も積み上げてきたキャリアと知識があるのに、決してすべてを知っているかのようには振る舞わない。ある種の子どもっぽさをもった、特別な人なんです。周りから熱心に学ぼうとして、決して人を締め出しません。
スクリーンで彼を観れば、誰もが魔法のようなものを感じるはず。まさに本物の俳優です。いつでも話したくなったら電話するくらい、彼が大好きなんです。アレックスが私たちを引き合わせてくれたことをうれしく思います。
ケイリー キルスティンはタフで愛情深い人です。一番大きかったのは、「頭の中に浮かんだり業界から聞こえてきたりする、ネガティブな声はすべて無視しなさい。自分らしくやり続けなさい」と励まされたこと。さらに「あなたは素晴らしい俳優なんだよ」と言って、たくさんの自信を与えてくれました。
自分の進むべき方向がわからなくなった時も、35年間この業界で働き、すべてを見てきたキルスティンが「ケイリーなら大丈夫。がんばれ」と声をかけてくれた。子どもの頃から憧れてきた、いわば当時の私にとってのすべてだった彼女からの言葉は、全部心に留めています。
ケイリー 俳優としてキャリアをスタートするなら、タフでなきゃ。キルスティンは6歳で演技を始めました。私は18歳で始めたから、事情は違います。でもいずれにせよ、女性がたった一人で、この業界で生きていくには厄介がつきものです。だから、神経は図太くないといけません。
ただ図太すぎてはダメで、脆さも持ち合わせていないと。なぜなら演技は、繊細な心の内をさらけ出す行為だから。私はタフでありたいけど、同時に赤ちゃんのように頼りない存在でもあるんです。なんでも真剣に受け止めてしまうところがあって、バランスをとらなければと思うけど、なかなか難しいですね。
音楽なくして人生なし。役ごとにプレイリストも作成
ケイリー わ~、恥ずかしい(照)。
── (笑)。聴くとテンションの上がるヘビロテ曲はあります?
ケイリー 音楽が映画作りにとって大事であることは言うまでもないですが、実は役作りにも欠かせません。いつもキャラクターがどんな音楽を聴いているのか考えるんです。なので、私のスマホにはジェシーのプレイリストがあって。
ケイリー どれどれ、見てみよう……。PJ ハーヴェイが多くて、コクトー・ツインズ、ニール・ヤングも入れています。それからブライアン・イーノとか、ムーディな曲も。今回の撮影監督であり、『DEVS/デヴス』でも一緒だったロブ・ハーディと二人で、それぞれ曲を足していきました。
── ロブ・ハーディさんも音楽好きなんですね?
ケイリー 大の音楽ファンです! よく覚えているのが『DEVS/デヴス』の撮影前、みんなで集まろうとしていたんです。すると、ロブが「自分はヘビメタのライブに行くから」って。興味を惹かれて「私も行く」と言ってみたら、アレックスから「本気なの? じゃあ彼と一緒に行ってきなさい」と背中を押されて。まだ18歳で若すぎたから、本当はダメだったと思うんだけど、その夜ロブと共にライブ会場のダイブバーへ乗り込みました。いい思い出です。
ケイリー・スピーニー
1998年7月24日、アメリカ・ミズーリ州生まれ。2008年公開の映画『パシフィック・リム:アップライジング』のヒロイン役として抜擢され長編映画デビュー。同年公開の『ホテル・エルロワイヤル』『ビリーブ 未来への大逆転』にも出演し、一躍有望な若手俳優として注目を集める。2020年はアレックス・ガーランド監督のテレビシリーズ『DEVS/デヴス』、映画『ザ・クラフト:レガシー』に出演。2021年、主演作『プリシラ』でヴェネチア国際映画祭最優秀女優賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネート。現在公開中の『エイリアン:ロムルス』でも主役の座を射止めている。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
米国で起きる内戦を描くディストピア・アクション。連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で、激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民のみなさん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落はもう目前。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは大統領に単独取材を行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていく。A24が史上最大の製作費を投じ、2週連続で全米第1位を獲得するなど、大ヒットを記録中。監督・脚本/アレックス・ガーランド。出演はほかに、キルスティン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンなど。配給/ハピネットファントム・スタジオ PG12 ©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
10月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。
公式サイト/https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/