2020.08.11
■パンツェッタ・ジローラモ/「LEON」カバーモデル
女の子にすぐにガッツクのはダメよ❤︎
編集部がピックアップした人たちに「大人のカッコ良さ」を聞いていく本特集。今回はLEONといえばこの人、パンツェッタ・ジローラモさんに話を伺います。
- CREDIT :
写真/菊地 哲 ヘアメイク/古川 純 取材・構成/平井敦貴(LEON.JP) 文/Neko Reset
お茶目さと心の余裕が“大人のカッコ良さ”
ジローラモ “Affascinante(アファシナンテ)”かな。英語の“クール”とは少し違ったニュアンスで “魅力的”という意味のほうが近いですね。年を取ることによって出てくるチャーミングさ、魅力、そういうものを含んだカッコ良さです。あと、ミラノの方言では“GAGA(ガガ)”なんて言い方もありますね。「あなたはGAGAですね!」みたいな感じで使います。
── 見た目だけじゃなく、カッコ良さには「中身」も影響するということですね。
ジローラモ 人生で経験してきたことが、その人の顔や所作、ファッションににじみ出てくるという考え方ですね。だからイタリアでは「大人のカッコ良さ」を自然と身につけている人が多いのかもしれません。あとは「俺はまだイケてるぞ。まだまだカッコいいぞ!」と思っている人も多い。そういった自信がカッコ良さにつながっているのかもしれません。女の人も同じで、イタリア人は年をとっても「私は美人」と思っているから、みんな妙に色気があるんですよ。
── 日本では無理して若作りをする人もいますが……。
ジローラモ そういうのは良くないですね。無理に若者のファッションにあわせようとすると、逆にカッコ悪くなる。若者から見ても「このオジサン、無理してるな」ってなるでしょ(笑)。「大人のカッコ良さ」には余裕がないとダメですね。
── 余裕というと?
ジローラモ 例えば、女の子に対してすぐにガッツクのは、心に余裕がない証拠。ファッションも、キメキメすぎたり、若々しすぎたりすると余裕がないように見えるでしょう。年を取ったら余裕がないとダメですね。例えば、ワタシが友人のファッションでいいなと思ったのが、ジャケットの裏地が一面グッチのロゴパターンになっているもの。表から見ると普通のジャケットなんだけど、脱いだときにその柄が見えるんですね。そういう余裕というか、遊び心はカッコいいなと思いますね。
結婚して日本に住むなら日本になじまないと
ジローラモ 最初のきっかけは、父の友人が日本人の建築家について本を出すことになって。それで資料を集めるために彼と一緒に(日本に)来たんです。大阪とか京都とかで一緒に写真を撮ったりして帰国しましたね。ワタシも建築の勉強をしていたんですよ。
── それから日本に住むようになった?
ジローラモ 住むことになったのは、奥さん(パンツェッタ・貴久子夫人)との結婚からですね。彼女とは飛行機で隣の席になったのが始まりでした。で、結婚するなら日本になじまないと……と思って。それで日本に来て、日本語学校だけじゃなくて大学にも通いました。会社でも働いたし、その後NHKの「イタリア語講座」に出演して、そこからだんだんファッションの仕事をするようにもなりました。
ブランドものの服を着てNHKのテレビに出るというのは当時すごく珍しくて、ワタシたち外国人の先生でそういうムードを一緒に作り上げていきましたね。ちなみに、その頃お世話になった菊池武夫先生とは、今でも仲良くさせていただいてます。当時、日本に来るイタリア人は学者が多かったから、ワタシみたいのはすごく珍しかったですよね。
── 以前、日本人の好きなところは「先輩と後輩の関係」とインタビューで仰っていましたが、イタリアでは違うのでしょうか?
ジローラモ そうですね。日本では先輩が後輩を守ろうとするじゃないですか。その関係が面白いなと思って。イタリアだと逆で、後輩は先輩を追い抜かそうとする。ライバルみたいな感じなんです。
── 逆に日本人の嫌いなところは「遠慮するところ」だそうですが。
ジローラモ そう。あとはミーティングが多い(笑)。
── イタリア人はミーティングをしないのですか?
ジローラモ するけどあんなに長くないね。でも日本人の方が良い部分もたくさんありますよ。例えば、雑誌を一週間かけて一冊作ろう、という会議があった場合、イタリア人だと「僕たちは5日で仕上げられます!」と自信満々に言って一週間後に「やっぱりできません」って言う。でも日本人はきっちり納期内に仕上げてくる。そういう真面目な部分はすごいと思いますよ。
自分の持っているものをもっと大切にしようと思いましたね
ジローラモ 大変でしたね。初めてのことだったからみんな病院に駆け込んじゃって、そこで混乱が起きたんですよ。今はもう対処法が分かっているので、随分落ち着いたと思います。病院に行く人も減って、自宅待機している人も増えました。
── コロナの影響でジローさんの私生活は変わりましたか?
ジローラモ 自分の持っているものを、もっと大切にしようと思いましたね。家に眠ったままのほとんど着ていない洋服とか「これまだまだ着れるじゃん!」って。あとはジョギング中に植物をよく見るようになりました。桜や藤なんかの花を見て綺麗だなって感動したり……。それから、やっぱり食事ですね。今まで外食ばっかりでしたが、コロナがあってからは、ほとんど家で食事をしています。家で食べるのも楽しいですね。
── ジローさんはスポーツが大好きだと思うのですが、コロナ禍の今はどのように身体をメンテナンスしているのですか?
ジローラモ ジムに通えないので、週3~4回自宅にインストラクターを呼んで、庭でトレーニングをしています。意外とこれが、楽でいいな〜って思いましたね。
若い人が「LEON」を読んで「これ、カッコいい!」って思ってもらえるのはうれしい
ジローラモ 「LEON」読者の男性から「カッコいい」と思われるのはうれしいですよ。最近では「LEON」の読者も若者の割合が増えてますよね。
── SNSや電子書籍が普及したおかげで、ネットでも「LEON」が楽しめるようになりましたからね。
ジローラモ 若い人が「LEON」を読んで「これ、カッコいい!」って思ってもらえるのはやっぱりうれしいです。雑誌に載っているのはブランド品など高価なものが多いので、若い人にとっては手の届きにくいものかもしれません。でも、いつか買いたいな、という夢を持たせることはできますよね。若い人に夢や希望を与えるために、もっともっと協力していきたいですね。
気持ちが沈みっぱなしじゃ暗い未来しかイメージできない
ジローラモ 小さい頃から、周りの人たちを楽しませたいという思いは強かったです。自分からたくさん話しかけて、笑って、そうすればその場も明るくなる。明るいと元気が出るし、ハッピーになります。だから昔は電車の中でも知らない人に声をかけたりしてましたね(笑)。
やっぱり、気持ちの浮き沈みは誰にでもありますし、僕にもありますけど、気持ちが沈みっぱなしじゃ暗い未来しかイメージできないじゃないですか。だからなるべく前を向いて、明るい気持ちでいたいんです。そうすることで外からのアイデアもキャッチできるし、元気になる。
僕の義理の母親はもう九十歳近くになるんですけど、動かないと元気もなくなるから、よく散歩に誘うんです。そこで僕が楽しい話をいっぱいすると、彼女もハッピーになる、元気になるんですね。
── なるほど。日本人は大人になると暗い顔をした人が多くなりますよね。
ジローラモ 仕事ばかりだと暗くなりますよ。そこは趣味とか違う世界に目を向けて、気分を変えて、モチベーションを上げないと。たとえば「LEON」を読んで趣味を探すとかね。昔、友達と和食屋さんでご飯を食べていたら、知らないおじさんに声をかけられたことがあって。そのおじさんは「LEON」を読んでファッションに目覚めた、人生変わったよ、っていってすごくうれしそうに話しかけてくれたんです。
よく見ると若々しい格好をしていて、隣にいた奥さんもいつもありがとうって言ってくれて。多分、そのおじさんの人生に楽しみが見つかったことで、前向きになった、ハッピーになったのかなって思いました。その人の中に、もともとファッションへの願望はあったんだと思いますけど、「LEON」がそれを引き出すきっかけになったんじゃないかな。だから人生の中で、何か自分に合うものを見つけて希望を持つことって、すごく大事だと思うんです。
── それはうれしい話ですね。ジローさんのお話を聞いていると、日常のあちこちに楽しいことや希望が転がっているような気がしてきます。
ジローラモ そうですね。ただ、そこにお金は必ずしも必要じゃないんです。女の子と遊ぶとき、お金がないとオシャレなエスコートができないって悩む人もいるかもしれないけど、例えば(ワインショップの)「エノテカ」なら、高級ワインのテイスティングが50ccからできるんです。だからフラッと立ち寄って、良いワインをちょっとのお金で楽しむことができるんですね。
そんな風にデートの中で変わった体験をさせてあげると、女の子からも「この人カッコいいな」って思われたりするんですよ。「カッコいい」というのは、要は見方、考え方を柔軟に変えられるかなんですね。皆さんもちょっとのアイデアでモテることはできると思いますので、頑張ってくださいね。
── なるほど、さすがは我らがジローさん。ありがとうございました!
●パンツェッタ・ジローラモ
1962年9月6日、イタリア生まれ。1988年、貴久子夫人との結婚に前後して日本に移住。NHKなどのテレビ出演を行うかたわら、本誌「LEON」創刊号(2001年11月号)よりカバーモデルを担い、2014年には、「連続して最も多くファッション誌の表紙を飾った数(男性モデル)」のギネス世界記録にも認定される。所属事務所はホリプロ。