2020.12.30
【第6回前編】壇蜜(タレント)
壇蜜「お尻見せるのが、私の仕事なんですよ」
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる美人に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第6回目のゲストは、タレントの壇蜜さん。異色の経歴をもつグラビアモデルとして2010年に鮮烈デビュー。謎めいた美貌と妖艶なエロスで独自のキャラクターを確立している壇さんの素顔に迫ります。
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ 文/井上真規子 ヘアメイク/妻鹿あやこ
第6回のゲストは、タレントの壇蜜さん。和菓子店勤務、銀座のクラブホステス、遺体衛生保全士などを経て、2010年にグラビアデビュー。“美しく妖艶で謎めいたグラビアアイドル”というジャンルの新境地を築き、現在は映画やドラマ、バラエティにも引っ張りだこです。
さらに、昨年には人気漫画家の清野(せいの)とおるさんと結婚を発表。公私ともに絶頂を迎える壇さんのリアルに迫ります。実は、とある番組で共演したことのある壇蜜さんと樋口さん。その日は樋口さんの人生にとって特別な日だったそうで……。
「まかり間違っていたら、壇さんと結婚したのは僕だったんじゃないかと」(樋口)
「手玉に取られたい」というタイトルに、もっともふさわしい人に来て頂きました! 壇さん、僕のこと覚えてますか? 2014年に「久米書店〜ヨクわかる!話題の一冊〜」(BS日テレ放送のブックレビュー番組)でご一緒させていただきました。
壇蜜(以下:壇)
もちろん覚えていますよ。番組で樋口さんの著書『タモリ論』を紹介させて頂いたんですよね。久米さんと樋口さんと3人で、サングラスかけましたね。
樋口 そうそう! あれは確か3月11日でした。なぜ覚えているかというと、あの日は、伝説の映画監督・長谷川和彦さんとのトークショーがあり、その後「久米書店」の収録で子供の頃から憧れだった久米宏さん、そして壇さんとも初めてお会いして、もう興奮しすぎて疲れ果てて家に帰ったんです。そしたら、家の近くで大好きな小沢健二さんのシークレットライブがやっているって聞かされて……。「今日は一体何が起こったの!?」っていうくらい怒涛の日でした。さらに言うと、その日は今の妻にも初めて知り合った日で……。
壇 そうなんですか! 盛りだくさんな日でしたね。
壇 ……(一瞬の沈黙の後)それ、あると思います! 惑星の系列が一緒だとしたら、私だったかもしれないし、小沢健二さんだったかもしれない(笑)。
樋口 あ〜!! 壇さん優しいなぁ。って、僕と小沢さんの線もあったんだ(笑)。それにしても収録では、人生で初めてっていうくらいに緊張しました。普段、緊張とかしないんですけど、久米さんだけは違った。
樋口 そう! 久米感(笑)。長く共演された壇蜜さんは、なおさらそれを感じてたんでしょうね。久米さんは、女性から見てどんなかたですか?
壇 自分が支える立場だったら、とても支え甲斐のある方だなと思います。ただ、朝起きて寝るまでずっと久米感ですから、支えるのに精一杯で仕事なんかしている暇ないですよね。サポートする立場じゃないと、一緒にいることが難しい人だろうな、と。
壇 やっぱり久米感を支えるためには、多少の尻も出しておかないといけないんです。それもギャラに含まれてるんで。お尻見せるのが、私の仕事なんですよ。お尻を出した子1等賞です。
樋口 うまいですね〜。さすがだな〜。
樋口 ワハハ!(笑) 壇さん、久米さんの中の隠れていたエロティックな部分を刺激しましたね〜。そんな感じで、あの頃から天下の久米宏さえも手玉に取ってたんですね。
壇 それは、どうでしょうね〜。でも番組が何年か続いたので、それは本当にうれしいことでした。
「一人亀甲縛りが得意なんです。DVDやグラビアでも大分お金いただきました」(壇)
壇 30〜40社受けて全滅でした。箸にも棒にもかからなかったです。そもそも、面接のルールが全然わかってなくて。「ボランティアやバイトに熱中した」って言わなきゃいけないとかあるじゃないですか。いくつかの会社では「SMに熱中した」って言いました。
樋口 ウワッハハ! いやそれは、尚更受かると思いますけどね! 2次、3次をすっ飛ばしていきなり社長面談くらい行きそう。
壇 競艇の会社の筆記試験では、机に書いてあった落書きが気になって、消しゴムで消しているうちに時間切れになってしまって。その時は、消しゴムって削るとこんなに熱くなるんだ! って驚いてました。とにかくダメでしたね。
樋口 落書きを消すって、すでにボランティアなのに。
壇 就職マニュアルを読んで、嘘でもボランティアで井戸を掘ってたっていえばよかった。
樋口 井戸掘る代わりに、墓穴を掘っちゃったんですね〜。
樋口 そりゃ、そうでしょう! 縛り師さんを別途呼ばないといけないなかで、モデルさん自らやってくれたら助かりますからね! それで結局、就職を断念して、調理師学校に通って和菓子屋さんを目指したんですよね。
壇 それは表向きで。母を悲しませないために、とりあえずは和菓子屋さんとして真っ当に生きるつもりでした。
(和菓子登場)
壇 うれしい! ありがとうございます! 和菓子大好きです。青柳と鹿の子と、黄身しぐれ、黄粉おはぎ、薄皮……と。とっても綺麗ですね。
樋口 さすがわかってらっしゃる! 旦那さんと召し上がってください。
「10代の半ば頃から、剥製やミイラに異様に執着するようになったんです」(壇)
壇 10代の半ば頃から、遺体を腐敗や損傷のないまま留めてある剥製やミイラのようなものに異様に執着するようになったんです。それで剥製を作る仕事とか、それに近い死体と向き合う仕事をしたいと、どこかで思っていました。ただ当時は両親に取り合ってもらえなかったし、現世では無理だろうと諦めていたんですけどね。
樋口 とりいそぎ来世に希望を見出されたんですね。
壇 遺体修復の作業はミイラづくりの工程に組み込まれているので、そこに喜びがありました。腹腔内や脳の水分を取り除く作業があって、ミイラづくりでもほぼ同じことをするんです。
樋口 エンバーミングのお仕事ですね。それだけ死を見つめる、というか、死に目が行ってしまうのはなぜなのでしょう?
壇 7歳か8歳の頃に、亡くなったひいおじいちゃんの遺体と2人っきりで、なぜか長い時間過ごしたことがあったんです。その時に遺体を見て、その後、火葬場で焼かれて骨になる様子まですべてを見届けたことで、何らかの芸術性を感じちゃったんでしょうね。
樋口 ほ〜。幼いながらに、死生観が培われるような大きな影響を受けたんですね。
壇 知識を欲している10代という年頃に、人の死がすっぽり入っちゃったんだと思います。それがお菓子を作る時間だったら、お菓子職人になりたいって思っていただろうし、アイドルに夢中になる時間だったら、アイドルになりたいと思っていたかもしれないです。
壇 死と向き合う仕事を経験しても、やっぱり死は怖いです。肝硬変で亡くなった人の肝臓を見て「パンプキンパイの色じゃん」とか思ったりしますけど(笑)。でも、実際それが自分の体に起きたらキツいと思うし、腐乱死体を見て自分がなったらと思うと怖いですよ。五感に感じる衝撃は、死の恐怖とつながりますよね。
樋口 だけどそれを全部真に受けていたら、精神的にコテンパンになってしまうでしょ?
壇 だから解剖の後は、漫画喫茶のシャワーで体についた腐乱死体の臭いを流してから、水商売やグラビアの仕事をしに行ってました。
樋口 すげ~! 俗世に戻るんだ。まるで『インセプション』って映画(※)の世界みたい。夢のまた夢の夢の夢の奥深くに入っていくという話。僕は見終わった後、自分が本当に現実世界にいるのか怖くなって劇場の隣の丸井に駆け込んで「大丈夫だ。資本主義の消費社会にいる。これが現実だ」と落ち着かせた感じにちょっと近いなと勝手に思いました。
壇 丸井でよかった……。エルメスとかだったら危ないところでしたよ。
樋口 ほんとよかった(笑)。
「銀座のクラブのアフターでは、“突風”って書いたTシャツで行ってました」(壇)
壇 それはどんなファンですか(笑)。そのテンションできたら、完全に逮捕ですよ。
樋口 そういう男性を手なづける方法は、やっぱり銀座で学ばれたんですかね。
壇 銀座の経験は生きていると思います。ホステスって、お金を払って来るお客さんに気持ちよくなって帰ってもらうことが仕事じゃないですか。そこに真剣に取り組んだので、色々学びましたね。ただ、全員が全員を手なづけるのは無理ですけどね(笑)。
樋口 アフターで言いよってくるお客さんとかはどうやってかわしていたんですか?
壇 私服をひどくしてました。「突風」って書いたTシャツで行ったり。「突風」は許されるのか、許されないのかって。だって、着飾って行ったらそのまんま言い寄られちゃいそうじゃないですか。
樋口 いちいちうまいな〜。うまい……。
樋口 マイブームって、例えばどんなことですか?
壇 肩に大きめのバスタオルをかけて出勤退社するとか。リングに入ってくる感じですね。
樋口 なるほど~(笑)。いま僕は完全に猪木を思い浮かべましたね。
壇 私の中では、元K1の佐竹のイメージでした。あと、突っ込まれるのを期待してバスマットを肩にかけてお店に行った日もあったんですけど、誰にも突っ込まれないんですよね。怖いみたいです。「夏目(源氏名)はやべえ」って。
樋口 その頃から孤高の存在だったんですか? スゴイわぁ……。昔、村上春樹がエッセイで「みんな美人が得だとかいうけど、美人というのは往々にして嫌な目に遭っている」って書いてましたけど、壇蜜さんはモノが違いますね。
壇 そうですかね。あと、ビニール傘を識別できるように名前の代わりに「マディソン郡」って書いてました。
樋口 (笑)。さっきから、いつ考えてるの、そういうネタ。
壇 銀座線の中で思いついて、マジックで書きました。
樋口 今度傘立てに「マディソン郡」って見かけたら、お店の中で壇さん探します!
後編(こちら)に続きます
●壇蜜(だんみつ)
タレント。秋田県出身。1980年生まれ。東京の某有名小中高大一貫女子校を卒業後、ホステス、遺体衛生保全士などを経て、29歳で「週刊SPA!」でグラビアデビュー。2012年頃からTBS「サンデー・ジャポン」を始め、多数のテレビ番組で幅広く活躍。女優として、映画やドラマにも出演する。代表作に、主演映画「私の奴隷になりなさい」、「甘い鞭」など。著書に『壇蜜日記』『三十路女は分が悪い』ほか。日本舞踊師範や調理師の資格も持つ。
● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/