2021.01.10
■林 伸次×二村ヒトシ
「ほとんどの男性は非モテ。性的に優秀な一部の男性だけが社会の共有財産になるかも」
時代が大きく変わりつつある今、大人の男が目指すべき理想の恋愛とセックスの形とは? 日本一発信力のあるバーのマスター、林伸次さんとAV界の風雲児、二村ヒトシさんがとことん語り合った対談、その後編です。
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写真/トヨダリョウ 構成・文/木村千鶴 撮影協力/BAR BOSSA
恋愛やセックスは一部の人の特権的な趣味の良い遊びになる
林 「共犯関係、ですか」
二村 「これは橋本治さんの受け売りなんですけど、恋愛って、どんな恋愛であっても結婚を前提としていないものは社会的には認められていないんです。つまり、いい意味で『悪』なんだと思ったほうがいい。いい意味で悪って変ですけど(笑)。悪いことだと思うから共犯して隠す。隠すから興奮するし、楽しいんです」
林 「なるほど。確かにそういう陰の部分がありますよね。だからこそ盛り上がるし、いろんな問題も勃発する、という部分もありますね」
二村 「そうですね。でも、これからは、その悪が許されなくなっていきます。哲学者の千葉雅也さんと美術家の柴田英里さんと一緒に出した本(『欲望会議「超」ポリコレ宣言』KADOKAWA)の中で3人で考えたんですけど、フェミニズムにせよ社会的な『正しさ』にせよ、このままの風潮が続くと、いくところまでいくんだろうなと」
二村 「それで、今のこのモラルが高まっている風潮が進んでいくと、セックスにせよ恋愛にせよ、正しくない行為は完全に“貴族の隠れた遊び”になっていくと僕は思うんです。まともに働いてる人間は、そんな愚かなことしないって前提になるんじゃないかと」
林 「それは僕もそう思います! 恋愛やセックスは一部の人の特権的な趣味の良い遊びになると」
林 「ワハハハ、二村さんがそれを言う!」
二村 「そんなくだらないことをするなんてって!(笑) 子どもを作るのは冷静に計画して、医学の力を借りてなされるようになり、女性のキャリアや精神にあまり負担をかけないように出産や育児も進化していく。欲望のため、愛のためにセックスするなんて生産性が低い、そんなことより大切なのは家族の絆だ!(笑) そういう世の中になれば多くの男性は生身の女性に対してインポテンツになってV R(バーチャル・リアリティ)で性欲を処理するようになるから平気なんです、きっと」
すべての男性は“キモチワルいもの”であって非モテが普通
二村 「男性は意外に満足するだろうけど、むしろ、満足しない女性がたくさん出てくると思います。今の『女性やマイノリティが男性の犠牲になっている』という風潮は、いくところまでいくでしょう。そうなると、まともな男はマウンティングのためや見栄のために女性とセックスする必要がなくなる。でもそうなると今度は優秀なリア充希望の女性が、やっぱり恋愛がしたくて、性的に異常に優秀なごく一部の男をこっそりと奪い合うようになるんですよ。これは個人的な見解ですがね」
林 「なるほど〜。そうすると、性的に優秀な男性は社会の共有財産になるかもしれませんよね。羨ましい〜。僕、それにはなれないけど(笑)。その場合、普通の男性はどうしたらいいんでしょうね」
二村 「頑固に孤独に死んでいくか、そうじゃなければセックスではない部分で、女からも若者からも好かれて愛されるしか生きる道はないでしょうね」
林 「普通に恋愛できるハードルがすごく上がりそうですね」
二村 「そうそう。でも男性って本来、非モテじゃないですか」
林 「そうですね、“すべての男性はキモチワルいものである”って、二村さんの有名な言葉がありますけど(笑)、僕も本当にそう思います。基本的に男性は気持ち悪いですよね」
(※二村さんの名著『すべてはモテるためである』に書いてあります)
林 「辛いけど、それが普通だったわけですね」
二村 「昭和時代あたりは“皆婚規範”が強かったし、高度成長期の時代にはお見合い制度があって、どんな人でも結婚できてたってだけなんです。その後バブルが来て今度は誰でも恋愛ごっこができる時代になり、結婚率も上積みされましたが、それらの『砂の城』が現代の不景気で一気に崩れただけ」
林 「あ〜、たまたま我々はその流れに乗っかれていただけなんですね」
二村 「かつての江戸や大坂といった大都会には独身の男性がものすごく多くて、AVの代わりに春画が使われていた。江戸時代はそれが普通なんですね。だから今の状態が異常なわけじゃない。むしろ我々の若い頃が異常だったんです」
現代はすでに時間差の一夫多妻になっている
二村 「女性の地位が上がっていったら、良し悪しじゃなく絶対そうなるんじゃないでしょうか。現状、すでに時間差の一夫多妻になっているって説もありますよね」
林 「よく言われますよね。結局、魅力的な男性が何度も結婚して離婚してっていうのを繰り返すと。まあ、逆も然りなんですが」
二村 「はい。女性も自分の面倒は自分で見るという考えになってきていますよね。僕自身シングルマザーに育てられたんですよ。母は医者だったんで経済的余裕はあったからなんですけど、父を追い出しちゃった。だから僕はそっちのほうがまともだと思っていて、女性の賃金はもっと上がるべきだと思うんですよ」
林 「女性の地位が上がったら、子供ができて、もうこの男いらないなって思ったら捨ててしまって、自分の稼ぎでやっていくと。何度も結婚したり離婚したりする男性がいて、現代の一夫多妻制に……なりそうですね」
林 「二村さん、そういうAV、作ってますよね(笑)」
二村 「はい。そのへんも江戸時代の基本に還っていくわけです。江戸時代と違うのは、われわれ普通のオジサンもV R世界の中では自分が美女に変身して、セックスや恋愛をすることができるようになる」
林 「それは面白いかも(笑)。あと、女性が強くなると、既婚女性が他の男性と恋愛するということもあるわけですよね。実際に、既婚女性がとても浮気しているのはよく聞く話ですし、女性から『私、不倫してるんです』って相談もすでに凄く多くて。日本人の既婚女性って結構浮気してるんだなって、この仕事して初めて知りました。最後までしなくても食事してキスするくらいだったら、している人が多いんだなって」
二村 「いい国ですよね、自由で。結婚しても女性であるということを認められたい、それはいいことだと思います」
林 「そうなんですよね、先ほどの二村さんの友人の話もそうですが、夫の反応を見て、『あれ、私最近ダメになってきたかな』って思った時に、男性から好きって言われたら、『あ~、私モテるんだった〜』って思って、ちょっと転んじゃうんだって」
林 「あ、復讐はダメよと」
二村 「そう、当て付けですね。そういう不倫や浮気は必ずバレますよ。配偶者を憎んでいる人はさっさと別れたほうがいいと思うんです。ヨーロッパでは、セックスレスになったらさっさと離婚する考えがありますよね。でも日本では、多くは情が残っていて、セックスレスになったとしても離婚できないし、基本的にしたくない」
林 「お互いの情もあると思いますし、今の日本の状態では、女性が経済的な自立をずっと続けていくのは難しい気もします」
罪の意識はもたないけど、偉そうにもしない
林 「それはありますね。今、本当にそう思った。みんながセックスを楽しむためにも、ジェンダーギャップは無くした方がいいですね」
二村 「ウーマンリブの時代のフェミニズムは、そういう考えだったみたいですね。もちろん本当に被害を受けた人たちは必ず救済されなければいけません。でも、今はどうなんだろう。被害者ではない人までが被害者意識をもって、逆に世の中のジェンダーギャップを強化していないか? という考え方もあるんです」
林 「なるほど。今は正しさみたいなことばかり過剰に求められる世の中になっているようにも感じますね」
二村 「それは、みんなが傷つきすぎているからです。というか、傷ついていると声に出して、それが認められる世の中になったから。確かにオヤジさんたちは存在しているだけで女性や子供やマイノリティを傷つけてきました。それは本当にそうだと思うんです。でもね、責められるべきは加害者だけです」
林 「今は誰かれなく、反省させようって流れですよね。でも僕たちずっとシュンとしたままで良いのでしょうか。
二村 「責任は社会全体にあります。今までオヤジたちは資本主義社会に下駄をはかされてきたんです。男の方が偉いのではなく、そういうことにしておいたほうが世の中がうまく回っていただけ。でも、そういう世の中は終わる。それは間違いないことなので、我々はしっかり自覚するべき」
林 「その流れは止めようがありません」
林 「最近は無闇に人を断罪して正しさを主張する人たちも多いですからね」
二村 「まあ、僕は僕と仲良くしてくれる女性や男性と仲良くしていきますので、喧嘩していたい人は喧嘩したい人同士で憎み合っていてくれても別にいいんですが(笑)」
林 「責め合うのではなく、仲良くした方がいいですよね。本当にそう思います。そろそろ最後の締めに入りますが、二村さんの考える、大人の条件、本当の意味でモテるってどういうことでしょう」
二村 「自分の欠落や依存性を自覚している人、自分のマイノリティ性に気づけている人、それで逆ギレしない人ですかね。そういう人間同士の恋愛やセックスのほうがエロティックです。大人になるということは、林さんも僕もそれぞれ自分の本の中で同じように書いていますが『いばらない』『自分の話ばかりしない』『他人に優しくなる』ということ。僕自身もなかなかできないんですけどね。モテたいので、がんばりたいと思います!」
林 「今日はどうもありがとうございました」
● 二村ヒトシ (にむら・ひとし)
1964年六本木生まれ。アダルトビデオ監督、作家。慶應義塾幼稚舎卒で慶應義塾大学文学部中退。監督作品として『美しい痴女の接吻とセックス』『ふたなりレズビアン』『女装美少年』など、ジェンダーを超える演出を数多く創案。現在はソフトオンデマンド若手監督のエロ教育顧問も務める。 著書に『すべてはモテるためである』、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(ともにイースト・プレス)、『淑女のはらわた 二村ヒトシ恋愛対談集』(洋泉社)などがある。
● 林 伸次 (はやし・しんじ)
1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CD ライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセー「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。近著に小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)など。最新刊はcakesの連載から大人論を抜粋してまとめた『大人の条件』(産業編集センター)。