2019.08.16
ヨーロッパの男女が生涯トキメキ続けるワケ
- CREDIT :
文/田中 美貴 (イタリア在住ライター)
フランスの新首相に就任したエマニュエル・マクロン氏の話が出る度に、なにかとついて回るのが、その26歳年上の妻ブリジットさんの話。日本ではババ専、マザコン男子といったネガティブな意見も多いようだが、ヨーロッパ、少なくともイタリアにおいては比較的ポジティブにとらえられていたように思う。
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確かにイタリア男のほぼ100%がママのことが大好きだと言っていいだろう。美味しいご飯を作ってくれて、部屋をきれいに掃除してくれて、パンツにまできれいにアイロンをかけてくれるママ、小さい頃からずっと「あなたは世界で一番美しく優秀な子」といって褒めちぎってくれるママ。
そりゃ、誰でも好きだろう。かくしてイタリアではナルシストなマザコンがこの瞬間にもどんどん増殖している。ちなみに昨年秋の調べによると、イタリアでは成年男子(18~34歳)の67%が実家で(多分ママの庇護のもとに)暮らしているのだそうだ。
こうして年上の女性をリスペクトする土壌は少年の頃から形成される。ただ、だからと言ってイタリアの男たちが恋愛において母の面影を年上女性に重ねるというのとはちょっと違う(繰り返すが、イタリア男は若い女も大好きだ)。
イタリアにおいて、年上の女と若い男の恋愛が成立するのは、女が年をとっても常に現役の女でいられるからだ。日本の場合、母になった時点で“●●君のママ”になり、子供の友達には“おばさん”と呼ばれるのが普通だが、イタリアの場合はいつまでたっても私は“Miki”なのだ。
敬語を使われることもない。私の息子はまだ子供だけれど、彼の友達(中にはウィーン少年合唱団のような金髪青い目の超美少年もいる)から、「ミキ~、君のワンピース、素敵だね」なんて言われると(そんなことをいうガキがいるのである、イタリアには)、ドキッとしてしまうではないか。遠い将来の恋愛対象にするかは別として。
だから年をとっても恋愛の土俵から退場させられた感がなく、若い男も十分ターゲットになり得るのである。これは先生と生徒の間でもそうで、先生に対しても名前呼びつけの“ため口”だ。
これがもしフランスでも同様なのだとしたら、マクロン少年とブリジット先生が恋に落ちたのも容易に理解できる気がする。さらに前出のママの褒めちぎりは別に男の子に対してだけではなく女の子に対しても同様なので、イタリア女たちは総じて自分が一番美しいと思っている。
これらの要因が交錯して若い男と年上の女との恋愛に作用するわけなのだが、そんな恋愛もママがお相手にダメ出ししたら簡単に破局を迎える場合も少なからずある。
または母親が別れさせるわけではなくても、「ママとの相性がよくないから」と言う理由で、息子のほうから彼女を捨てるパターンも。つまり、“ネズミの嫁入り”的にめぐりめぐるとやっぱり一番強いのはママ、ということか。
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● 田中美貴(イタリア在住ライター)
イタリア・ミラノ在住。日本で雑誌編集者として出版社に勤務した後、イタリアへ。現在は主に編集&ライターとして、各雑誌・新聞等に寄稿。一児の母でもある。