2021.04.03
「水卜アナ」の‟ぶっちゃけ力”に理想の上司像をみた!?
この4月から「ZIP!」の総合司会に抜擢された、水卜麻美アナ(33歳)。日テレの朝の情報番組で女性がメイン司会になるのは史上初という、彼女の評価の高さは、‟自己開示パワー”によるらしい……。
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文/平賀充記(ツナグ働き方研究所 所長)

理想の女性上司といえば誰?
3月末まで司会を務める朝の情報番組「スッキリ」で、水卜アナは「本当に、まじめに言って、後輩のおかげだなって思っていて」と慕ってくれる後輩に感謝のコメント。メインMCの加藤浩次さんに、そういう言葉が理想の上司に選ばれる理由であるとツッコまれ、水卜アナ本人は「いいこと言っちゃったみたいになっちゃった!」と照れました。こうしたトークにも彼女の人柄がにじみ出ています。
仕事ぶりも高く評価されています。存在感はあるけれど出しゃばらない。番組では自らの役割はきっちりとこなす。アナウンサーとしての技術も確か。スッキリの番組スタッフや共演者と交流のある人物の話では、「水卜アナへのスタッフ、共演者の信頼は絶大」。この4月の改編で3年半務めた「スッキリ」を卒業し、「ZIP!」の総合司会に就任することになったのも、こうした評価の賜物でしょう。
実は、日テレの朝の情報番組で女性がメイン司会になるのは史上初です。日テレの朝番組といえば、あの「ズームイン!! 朝!」。初代の徳光和夫さんはじめ、福留功男さん、福澤朗さん、羽鳥慎一さんと日テレを代表するアナウンサーが代々司会を務めてきました。局の看板番組の系譜を継ぐ「朝の顔」に抜擢されたわけです。
ぶっちゃけキャラの好感度
しかし水卜アナが支持される本質は、「変顔」や「食いしん坊」といったキャラによるものだけではないと私は思います。自身が「食いしん坊」であることを素直に認めていること、もっというと、全面的に「食いしん坊」な自分を受け入れているわけではない、ということさえ包み隠さずにいること。これが水卜アナの“ぶっちゃけ力”の半端ないところ、と私は見ています。
アナウンサーという職業柄、“もっと自己管理すべきだと思っているのに、食欲に負けてしまっている”という本音を、水卜アナはものすごく正直にさらけ出します。誰でも感じたことのあるような“身近な悩み”を、テレビに出ている有名人が“女子会ノリ”で話してくるわけです。親近感を持たないはずがありません。
これが「自己開示」の持つパワーです。自己開示とは、自分に関するプライベートな情報を相手に話すこと。とくに少し恥ずかしいと感じるくらいのことを正直に打ち明けると、「そんなことまで話してくれるなんて、自分に心を開いてくれているんだ」と相手は認識し、心の距離が縮まりやすくなります。
転んだアザまで自己開示
2019年6月、女性芸人の頂点を決める「女芸人No.1決定戦 THE W 2019」の記者会見でのこと(決勝は同年12月に日テレ系で生放送されました)。MCでタッグを組むチュートリアルの徳井義実さんと2人で出席することになっていたのが、徳井さんが開始予定時刻に間に合わないというハプニングが発生。相方の到着まで時間を埋めるべく、水卜アナが急きょ“前説”を行うことになったのです。
水卜アナは、そこで「本邦初公開です」というネタを披露しました。それは「マンホールで滑りまして、ここにえげつないアザを作ってしまったんです」というもので、右ひざにできた痛々しいアザを披露。「転んだときはあんまり痛くないじゃないですか。“転んだことの恥ずかしさ”でその場を逃げ出したいということだけが頭いっぱいで、『私、全然今転んでないですからね』みたいな顔をしてバーっと立ち去って、次の日に普通に『スッキリ』に出ようとしてスカートをはいたら『何これ!?』って……」と、 “アザあるあるネタ”を明かしたのです。
さらに水卜アナは続けます。「どうしようと思って『スッキリ』にずっとロングスカートで出ていたんですけど、今日はさすがにちょっとドレッシーに決めようと、結婚式でいつも着ている一張羅の黒いワンピースを着たら、ひざが意外に出るスカートで、皆さまに『あいつはいったいどうしたんだ?』って思われる前に、先に発表しておこうかなと思いました」。
こうして流れるようなトークで場を盛り上げ、「本当に私の超絶しょうもない前説にお付き合いいただいて、ありがとうございました!」と謙虚にあいさつ。会見のピンチを救った水卜アナに、報道陣からは大きな拍手が沸き起こりました。(「水卜アナ、初公開の自虐ネタで会見ピンチ救う『えげつないアザが……』」、マイナビニュース、2019年6月19日配信より)
自分のすべてをネタにしてでも場をつなぐ。もはや芸人顔負けの自己開示力です。
自己開示は、信頼関係を築くうえで欠かせないコミュニケーションです。企業でも政治の世界でも、ディスクローズ(情報を明らかにすること、発表すること)の重要性が高まっているのはご存じのとおり。情報が開示されないと透明性がなくなり、信頼・信用が得られないからです。これはリーダーシップにも当てはまります。
部下から信頼を得たかったら、リーダー自身が、自分がどういう人間なのかを真っ先に明らかにする必要があります。この第一歩が信頼関係を築く礎となるのです。水卜アナが理想の上司に選ばれる理由は、(意図して行っているのではないにせよ)このものすごい自己開示力のおかげと私は見ています。
自分の情報をさらけ出してくれると、“心の壁” が取り除かれ、安心感が生まれます。積極的に自己開示をすることで、好感や信頼感を与えられるのです。
そして相手から自己開示されると「こんなにさらけ出してくれたんだから、私も自分の話をしなきゃ」と感じ、自己開示をお返ししたくなる心理が働きます。自己開示は相手を信じて渡すプレゼントですが、もらうとお返しもしたくなるのです。これを「自己開示の返報性」といいます。
上司の自己開示は部下の自己開示を促す
こうした職場は、まさに「心理的安全性」が担保されている環境に他なりません。心理的安全性(Psychological Safety)は心理学用語で、 “他人の反応におびえたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境を提供すること”を意味します。あのグーグルが、最もパフォーマンスを発揮するチームの条件として発表したことで、一気に注目を集めるようになりました。
水卜アナ自身も、「アナウンス部に帰って先輩・後輩の顔を見ると安心するし、居心地がいい。アナウンサーって、1人勝負なところがあるんですよ。すれ違いで顔を合わせなくても、テレビで後輩の顔見ると安心したり、笑ったり。会社の人がみんな知り合いで、エレベーターで「最近どう?」って話しかけてくれる。それが自分の心のよりどころになっています」と心理的安全性を意識した発言をしています。(「30代は悩み世代、ポジティブに選択肢があると思うようにしています」OTEKOMACHI、2017年4月10日配信)
リーダーの自己開示は、組織に心理的安全性をもたらす一丁目一番地なのです。
最近、組織マネジメントにおいて注目を集める「1on1」といった1対1の面談でも、上司の自己開示がスムーズな対話につながるとされていますし、読者のなかには「日々、自分から率先して自己開示している」という人も少なくないかもしれません。
しかしながら、実は、リーダーがきちんと自己開示できているかというと、やや疑問符が付きます。本人は自己開示しているつもりでも、自分をよく見せることを目的とした “自分語り”になってしまっていることがしばしば見受けられるからです。
たとえば、ある人が「ある有名大学に入ったものの、周りが優秀すぎて友達ができなかった」というエピソードを披露したとしましょう。「大学になじめなかった」という失敗談を打ち明けているようで、実はこれ、「有名大学出身である」というアピールにも聞こえますよね。
このように“相手からの褒め言葉や承認欲求の充足を主な目的”としたコミュニケーションは、自己開示ではなく、「自己提示」と呼ばれる行為です。上位管理者であるという立場から、部下から尊敬を勝ち取りたいとか評価されたいといった心理が働くのも理解はできますが、それだと「自慢している」「虚勢を張っている」と解釈されてしまうことも多々あります。
自己開示の達人として、私が水卜アナを取り上げたのはココです。私は彼女から必要以上によく見られたいという邪心をまったく感じません。彼女が組織マネジメントの観点から戦略的に自己開示しているかどうかはさておき、特筆したいのは、彼女の“ありのままに正直な”自分をさらけ出すコミュニケーションスタイルです。
正直に話す自己開示の3ポイント
【1】 仕事と無関係の話を仕掛ける
【2】 返答にプライベートな要素を混ぜる
【3】 ときには部下に弱みを見せる
もっと砕けた表現だと、「趣味」であるとか「笑える失敗談」とか「自信のないところ」とか。そういったちょっとした自己開示から始めていけばよいとされています。しかし職場という名の戦場で、日々「鎧」を着て戦ってきたビジネスパーソンには、そのちょっとしたことが、意外と難しいのかもしれません。