2021.04.20
恋愛学の教授が、科学的に明かす。「モテる条件」が昔とは違う理由
「いいオトコ」という少々抽象的な概念を、科学で定義して研究対象としているのが早稲田大学で恋愛学を教えている森川友義教授。科学的に見た「いいオトコ」の条件って何でしょう?
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文/井上真規子
「人間の恋愛は、ほかの動物の恋愛より容易に科学的に研究できるのです」と森川教授。
「人は言葉によってコミュニケーションが取れます。だから観察も実験も可能なのです。『恋愛学』とは恋愛を科学的に分析し、若者を異性にモテさせ、結婚させることで恋愛の立場から少子化問題の解決を図ろうという学問です」
森川教授は2008年から恋愛学の講義を始め、今や学内でも人気の授業になっています。で、恋愛学を学ぶとモテるようになるんでしょうか?
「もちろんです。講義ではモテ方も教えていますよ。上手なデートの誘い方で言えば、ビジネスや心理学の理論を応用して導き出した例が15個程度あります。例えばその一つに、ダブルバインドという誘い方があります。『イタリアンとフレンチ、どっちが好き?』『時間があるのは、今月?来月?』というように、相手に2択を提示して選ばせることでノーと言わせず、さらに相手が自分で選んだ錯覚に陥る誘い方で、非常に有効です」
なるほど。かなり実践的(笑)な授業のようです。しかし誘い方ひとつにも論理的に成功率を高める方法があるとは恐れ入りました。これは使える! ということで、まずは「いいオトコ」について考える前に、大前提として、人はどのようにして相手を好きになるのかを科学的に教えていただきました。
人を好きになるのは、五感的魅力をクリアしてから
自分の意識下では、明確な理由もなく相手を好きになっているように感じていても、脳は五感を使ってしっかりとジャッジしているのだそう。
「恋愛・結婚・不倫の市場においては、これらの五感的魅力に加え、性格の良しあし、経済力の多寡、社会的地位、男性なら男らしさ、床上手といったスキルなど、これらを総合的に勘案した集合体がその人の“魅力度”となり、“商品価値”となって、これらを男女の間で物々交換するのが恋愛と考えられます」
普遍的な“いいオトコ”は存在しない!?
「そもそも普遍的な“いいオトコ”という者は存在しません。それを説明するためには『恋愛均衡説』という考え方をご理解いただきたいのですが。前述のように男女がそれぞれの“魅力度”をやりとりする物々交換の市場では、お互いの魅力度は均衡するようになっています。例えば100点満点で表すと、60点の男性は60点の女性と付き合い、80点の女性は80点の男性とカップルになるということ。
誰も自分を安売りしたくないので、より魅力度の高い異性を求めますが、相手も同じことを考えているので、落ち着くところ(均衡点)は、相思相愛の男女の魅力度でバランスしてしまうということです。これを『恋愛均衡説』と言うのです」
出会い系アプリなどで高望みの異性を求めても相手にされず、結局同じレベルの異性と一緒になったというのはよくある話ですが、無意識に点数で相手をジャッジしていたとは……。
「つまり、自分の(考える)魅力度より点数の高い人が“いいオトコ”であり“いいオンナ“になるということ。例えば80点の女性にとっては、80点以上と思われる男性が“いいオトコ”なのです」
そうすると自分の魅力度によって「いいオトコ」「いいオンナ」は変わってくるというわけですね?
「はい。自分を95点と思っている女性には、ほとんど“いいオトコ”は存在しないのです」
要するに自己評価の高い人ほど、自分にとっての「いいオトコ、いいオンナ」の数は少なくなるということ。これはいいんだか、悪いんだか……。
「例えば異性から見た点数が80点の人が、自分の点数を90点と考えてしまうと、85点の異性は眼中にないと切り捨ててしまう。でも実際は80点なので、85点の人は素晴らしいはずですよね。ですから、異性から見た点数と自分の考える点数が合致していないとうまく恋愛が始められない。この部分の齟齬がないことが非常に大切なのです」
ちなみに女性の場合は「ベースライン思考」というものを持っていて、自分の点数を最低ラインとして考える傾向があるそう。これは身長、学歴、年収などが“自分より”も上であって欲しいという考えで、特に女性はこの思考のせいで高望みしてしまうことが多いのだとか。
対する男性には、自分と釣り合わない高嶺の花とわかっていても頑張って落とそうとする健気なところがあるわけで。いずれにしろ、より多くの女性にとっての「いいオトコ」になるためには、まずは自分の魅力度を少しでも上げるしかないということ。それでは、実際のところ、自分で上げられる魅力度とはどの部分なのでしょうか。
バブル前後で男女ともモテ筋が変わった
時代の変化に伴って変わってきた部分は、自分が変化することで魅力度アップへ繋げられる可能性があるかもしれません。では、バブルの前後で何が変わったのでしょう?
「(1)年収の増加の停滞、(2)女性の経済的自立の促進、(3)共働きの増加、この3つが大きいと思います。バブル崩壊以前に“一億総中流”と言われた人たちは、男性が会社で働き、女性は専業主婦になるのが一般的でした。したがって、恋愛・結婚の市場では、男性には、安定した経済力が求められ、結婚後は家庭を大切にする、不倫はしない、ギャンブルをしない、一戸建てが買えるといった価値が優先されてきました。他方、男性が女性に求める資質としては、家庭を守り、子育てに専心し、炊事洗濯上手・やりくり上手・料理上手など。この時代は男女の家庭内分業体制を前提にした恋愛であり、結婚だったのです」
ところが、1991年のバブル崩壊、デフレの進行、リーマンショックによる不況等を経て、社会情勢は大きく変わったと言います。
「年功序列・終身雇用制度が崩れ、男性一人の年収では家庭を維持できない状況になってきました。他方、女性の学歴が上昇し、経済的・社会的に進出して、女性が自立することが可能になった。それによって結婚市場において男女に求められる資質も変化してきたのです。
男性のモテ筋は、従来の経済力に加えて、女性の新しい生き方に賛同し家事を分担してくれる男性に。女性のモテ筋は、従来の五感的魅力(特に視覚的な魅力)に加えてキャリアを大切にして夫婦ともに稼ぐ『二馬力』、『パワーカップル』になれるかどうかが重要になりつつあります」
男性は視覚的な魅力がますます重要になってきた
「昭和の時代は、女性のほとんどが専業主婦でしたから、男性の商品価値は定職に就いて収入があるということに集約され、容姿は二の次だったのです。しかし平成から令和の時代にかけて女性が男性と同収入を得るようになり、女性は異性に対して昔ほど収入を求めなくなった代わりに、男性の容姿や清潔感が重視されるようになっています」
女性は妊娠・出産する立場なので、本来バクテリアに対してすごくセンシティブなのだそう。男性の容姿や清潔感が重視されるのは、そうした根源的な理由があると森川教授は言います。
「またアンチエイジングの技術進歩が加速されることから、見かけからも体力からも“エイジレス”な時代が到来して、容易に年齢が判断出来ない男が“いいオトコ”になるでしょう。平成は“年齢不詳”や“美魔女”が話題になりましたが、これからは全員がそのような状態を目指すことになると思います」
一方で、男女の出会いを考えるうえで一番大きな問題が人口構成なのだとか。
「今の日本の人口構成は逆ピラミッド型になっています。つまり若者が少なくて老人になるほど多い。例えば前回の東京オリンピックの時(1964年)は普通の三角形。当時の日本人の平均年齢は28.5歳で、街にも職場にも若者がたくさんいました。だから出会いもすごく簡単でした。でも今の平均年齢は46歳。街を歩いても、私のようなおじいさん、おばあさんにしか出会わない(笑)。若者同士の出会いが難しいのに、さらにパワハラ、セクハラ防止で社内恋愛も困難だし、恋愛に至る機会が圧倒的に少ない。だからこそ恋愛学は時代の要請なのです」
ここで、さらにLEONの読者が魅力度を増して、若い女性を虜にしては申し訳ない気もしますが、弱肉強食は動物界の常。
経済力を誇示するだけでなく、女性の生き方を理解・尊重し、内面のサポートに努めつつ、清潔感と若さを保って、コツコツと点数アップに邁進し、気になる彼女に「いいオトコ」と評価されようではありませんか!
● 森川友義 (もりかわ・とものり)
早稲田大学国際教養学部教授。政治学博士。1955年12月21日、群馬県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1984年、ボストン大学政治学修士号取得。1993年、オレゴン大学政治学博士号(Ph.D.)取得。政治学者として少子化対策を考え、独自に恋愛を学問的に分析する「恋愛学」を確立し全国で講演中。大学で開講している「恋愛学入門」は学生から絶大な支持を得ている。恋愛にまつわる著書多数。テレビや雑誌など各種メディアでも幅広く活躍中。