2021.04.23
女子が好きな「いい男」は昭和から令和でどう変わった?
いつの世も女性たちを魅了してきた「いいオトコ」。その魅力は時代によってどう変わってきたのか? そして令和の時代に求められる「いいオトコ」の条件とは? 世代・トレンド評論家の牛窪恵さんにお話を聞きました。
- CREDIT :
文/井上真規子
「もともと“いいオトコ”像は、10〜15年のサイクルで変化していました。しかし、最近はインターネットが普及し、SNSが文化の中心になってきたことで、価値観の多様化が進み、変化のスピードも加速。短い周期でどんどん変わり、いまやコレと絞るのが難しい時代になっています」と牛窪さん。
そうしためまぐるしい変化の全体像を掴むべく、まずは経済が復興を遂げた1960年代、戦後の高度成長期のいいオトコ像から辿っていただきました。
寡黙で不器用な男からエスコート上手でセクシーな男へ
この時代の“いいオトコ”と言えば、顔つきよりもどちらかというと立ち姿がカッコいいといった石原裕次郎さんのような人物が人気でした。内面的な部分では、寡黙で不器用だけど、ここぞの時には守ってくれて、迷わずに決断を下せるような人。三船敏郎さんなどは、そうしたいいオトコ像の代表的な存在でしょう」
その後、1970年代の経済安定期から80年代後半のバブル期ぐらいまではテレビが一番元気だった時代。人々の生活はテレビ中心に染まっていきます。
「テレビに出るタレントや俳優などはとても身近な存在となりましたが、今と違って画面以外の情報は極端に少ない時代。そんな中ではむしろ私生活の見えないミステリアスな男性が“いいオトコ”と考えられるようになります。田村正和さん、沢田研二さんのような日常生活の匂いがしない男性たちですね。
またこの頃は、好景気の恩恵で会社の接待交際費やタクシーチケットなどもかなり自由に使えた時代。会社の力を借りて女性をエスコートする男性も多かったそう。
「だから大企業で会社の権力を駆使できる男性や、女性の扱いに慣れていた男性が“いいオトコ”とされていました。バブルはエスコート文化。女性をお洒落なレストランに誘った時にどうやってエスコートできるのか、どこまで遊び慣れているのか、それが重視された時代。そういうことができる人が人気が高かったのです」
おウチデートで料理を作ってくれるような優しい男が人気
「終電まで働いて会社に尽くすような働き方は終焉を迎え、世の男性たちはプライベートに重きを置くようになります。同時に会社の接待経費などの恩恵を受けられなくなり、女性を派手にもてなすことが難しくなっていく。こうして経済力を失った男性たちは、自信を無くしていきます。デートでも、派手なレストランにエスコートするより、おウチでまったりするような過ごし方が主流になっていきます」
テレビでは、1996年にドラマ『ロングバケーション』が放送され、ロンバケ現象と呼ばれるほどの社会ブームに。木村拓哉さん演じる瀬名秀俊と、山口智子さん演じる葉山南がルームシェアをしていく中での恋愛模様が描かれ、おウチデートへの憧れはより強くなっていきました。
「木村拓哉さんがドラマ『あすなろ白書』(92~93年)で見せた「あすなろ抱き」(背後からハグ)が、おウチデートの憧れに。女子はおウチでふたりきりの時にバックハグされたり、お味噌汁を飲みながらボソッと『愛してるよ』と言われるようなデートに憧れたのです」
「社会進出で疲れた女性のメンタルをサポートして、等身大に寄り添ってくれるような男性が“いいオトコ”とされたのです。人気番組『SMAP×SMAP』では、メンバーによる料理コーナーが人気に。男性が家事を手伝うのは当たり前、料理ができればなお良しという時代に突入していくのです。おウチにふたりでいる時は心地よく、外での振る舞いはスマートでカッコいいというような男性が求められました」
女性を成長させてくれるインテリジェンスのある男が“いいオトコ”
「『LEON』が創刊した2001年はちょうどその始まり頃。IT起業家と言われるサイバーエージェントの藤田晋さん、楽天の三木谷浩史さんなどが注目を浴びます。今で言う港区男子みたいに都心のモダンな高層マンションに住んで、仕事も最先端の職業に就いている男性がモテ始めたのです。青年実業家という言葉が盛んにメディアで聞かれるようなり、タレントや女優も多く交際、結婚しました」
この頃から女性たちは自分が成長したいという思いが強くなり、博識でさまざまな面でサポートしてくれたり、引っ張ってくれる男性に憧れるようになったのだそう。
「年上の男性ブームが到来し、いいレストランに連れて行ってくれることより、知識や嗜みを教えてくれるような男性の需要が高まりました。ワインの美味しい飲み方を教えてくれたり、仕事のアドバイスをくれたり、女性は自分たちを成長させてくれるインテリジェンスのある男性を“いいオトコ”と評価するようになったのです」
こうした女性たちの中の“いいオトコ”像の変化によって、男性自身も変わっていったのだと牛窪さん。
「それまで男性にとっての女性は、トロフィーガールフレンド的な『いい女を連れていることが男の勲章』というニュアンスがありました。しかし男性も自分に自信がなくなり、むしろ女性をサポートしたり、女性から感謝されることで満足感を感じるようになります。
当時は竹野内豊さんや佐藤浩市さん、阿部寛さんなど、知性を醸し出す俳優が圧倒的な人気を誇りました。ジャニーズで高学歴アイドルが登場し始めたのもこの頃ですね」
同性が憧れるのはマルチで活躍しながらブレない軸を持っている男
「例えば今の若い人たちにとっては、これまでの仕事の業種分け、家電メーカーとか、商社とか、広告代理店とか、そういう枠にはまった生き方自体が、会社や仕事に縛られているという感覚です。そういう人への憧れがすごく弱い。求められるのは肩書ではなく人間力。理想的なのは、いろんなことができて、それでいて芯がブレない人間像です。俳優であり、ミュージシャンであり、本も書ける星野源さんなどは、典型的な現代のいいオトコ像と言えるでしょう」
「若い子たちにとって、有名人の浮気や不倫は攻撃の対象でも、自分たちが一人に全部を求めることは、イタいし、重いと考えている子が多いんです。セックスはセフレとして、ご飯は年上のオジサンと行って、と使い分けが明白になっていて、プロ彼氏、レンタル彼氏なんてものも登場しています。パパ活でも、悩み相談したり、オジサンに美味しいお店に連れて行ってもらったり、目的を持って利用している子が大勢います。SNSも同じで、趣味話や恋愛話、仕事話と、内容ごとに相手やコミュニティを変えているのです」
こうなってくると、もはやひとりに絞った理想的な「いいオトコ」像など求めるべくもないのではないでしょうか。
「確かにここまで価値観が変化し多様化してくると、誰もが憧れるような“いいオトコ”象を求めるのは難しくなってきます。世の中にはその時々でアイコンとなるような人気者はいるけど、天下は取れない。言ってしまえば千差万別の時代です。
恋愛対象も、例えばマッチングアプリを使えばAIがその人に合った相手を選んでくれます。しかも一度で見つからなければ、合う相手が見つかるまでは何度でも試すことができる」
以前のように限られた理想の相手を奪い合って勝ち取る必要はない。
「自分から相手に合わせるより、自分に合う相手ををシーン別に“着替えれば”いいわけです」
令和の“いいオトコ”は自分らしさを突き詰めて自分でつくる
「大事なのは自分を知り、自分の軸をブラさないということ。無理に自分を作ったりするより、自分自身と向き合って、自分はどんな生き方がしたいのか、どういう女性を求めているのか、そういうことを明確にして自分の軸を作っていく。仕事だけでなく、社会の中でどんな情報発信をしていくのか、社会のためにどうありたいのかといったことも含めた自分軸を持つことがすごく重視されるようになっているのです」
言うことがブレていると、言葉の信憑性が薄れて信用もなくなってしまいます。いくら取り繕ってもSNS文化の中では結局、化けの皮が剥がれてしまうのです。
「令和の今は、自分がどういうキャラでありたいか、キャラ設定をどこに置くかがすごく大事になります。そうやって定めた自分の軸をブラさずに突き詰めた先に、その人にとっての“いいオトコ”像が見えてくるのではないでしょうか」
つまり、これからの“いいオトコ”像は自分で作っていかなければならないということ。今は100人いれば100通りの「いいオトコ」がありうる。その中で自分なりのスタイルをブレずに極めていく。それが令和の「いいオトコ」を目指す唯一の道なのかもしれません。
● 牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
世代・トレンド評論家、マーケティングライター、インフィニティ代表取締役。立教大学大学院客員教授。「おひとりさま(マーケット)」や「草食系(男子)」などを世に広める。『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』(光文社)、『若者たちのニューノーマル』(日経BP社)など著書多数。「所さん!大変ですよ」(NHK総合)、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)他でコメンテータを務めるなどテレビ出演も多い。
牛窪恵オフィシャルブログ「気分はバブリ~」
URL/https://ameblo.jp/megumi-ushikubo