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2021.04.30

テレビプロデューサー佐久間宣行の仕事論。「信頼」と「クリエイティブ力」の秘訣は?

この4月でテレビ東京を退社し、フリーランスのテレビプロデューサーになった佐久間宣行さんは、既存の枠組みを超えてマルチに活躍するまさに令和の「いいオトコ」。スタッフから絶大な信頼を集め、ヒット企画も生み出し続ける、佐久間さんの仕事観とは?

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写真/トヨダリョウ 文/井上真規子

『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『考えすぎちゃん』など、テレビ東京でさまざまな人気バラエティ番組を産み育ててきた、プロデューサーの佐久間宣行さん。無名芸人の発掘に長け、2019年には現役テレビ局社員でありながら『オールナイトニッポン0』のレギュラーパーソナリティに抜擢されたことでも話題を呼びました。

テレビ番組の制作からラジオパーソナリティ、イベントのプロデュースに至るまで、既存の枠を超えてマルチに活躍する佐久間さんは、まさに令和の「いいオトコ」と言えるのではないでしょうか。芸人やタレント、局からの信頼が厚く、世間での評価も高い佐久間さんのキャリアや人間関係は、どのようにして作られてきたのか?

フリーランスになった今だからこそ聞ける、佐久間さんの想いと仕事観に迫りました!

どんな仕事にもクリエイティブが宿ってるのかもしれないと気がついた

── 佐久間さんにとって、テレビマンとはどんな仕事ですか?

佐久間宣行さん(以下:佐久間) 僕はもともと漫画や映画、音楽などエンタメがすごく好きで、今でも色々なものを見ます。だから前提として、自分はソフトの受け手だという自覚があって、作り手をやってるのは“たまたま”という感覚なんです。

番組を作る時は自分が面白いと思うものを作るけれど、まず客の立場として「好きなものが増えた方がうれしい」って気持ちでやっています。好きな芸人やバンドに出演してもらうのは、好きな店を潰したくないから紹介するって感じに近いですね。だから、自分が儲かって好きな店が潰れるようなことは絶対したくない。それじゃあ、人生楽しくないじゃないですか。

── 消費者としての目線があるから、佐久間さんのコンテンツは面白いんですね。著書『できないことはやりません〜テレ東的開き直り仕事術〜』(講談社)では、「仕事は楽しんでやる」と書かれていましたが、そう思えるようになったのはいつ頃ですか?

佐久間 新入社員の頃、ドラマのADの仕事として小道具の“女子高生のお弁当”を作って行ったんです。それが監督の目に留まって現場の流れが変わり、お弁当がそのシーンのメインになって。その時に、「もしかしたらどんな仕事にもクリエイティブが宿ってるのかもしれない」って気がついたんですね。

そこから仕事が楽しくなってきて、どの仕事をやる時も自分なりの色を出そうと考えるようになりました。フロアディレクターをやる時は、できるだけ段取りが見やすいように同じカンペを2枚作って、上手・下手両方から出した方がいいかな、と工夫したり。

そういう事を少しずつやっていたら、タレントさんからの評判が良くなって、「佐久間はフロアがうまい」と色々な大御所芸人からフロアの指名が増えていったんです。自分の仕事に付加価値をつければ、自分の価値も上がるんだ、と知りました。段々と顔と名前を覚えてもらえるようになり、「あいつに好きなことやらせてあげようかな」っていう空気ができていった感じですね。

── そういったことが“佐久間カラー”のようなものになっていったのですね。

佐久間 そうですね。それぞれの仕事で自分の色をちゃんと出そうとか、自分がこのチームに加わっている意味を一個でも持とう、という思いが積み重なって、そういうものになったのかもしれません。いまだに自分のチームに協力してくれるスタッフがいるのも、これまでの積み重ねがあってこそと思っています。

例えば『ゴッドタン』のカメラマンはみんなチーフクラスだし、ディレクターも他の番組ではゴールデンの演出をやるようなメンバーばかり。若手に渡さずに自らやってくれているのは、番組が好きというのと、僕との仕事が楽しいと思ってくれているからだろうなって。それは一朝一夕では築けない関係。これまでの仕事は全部繋がっていると感じます。
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世界各国で放映できるフォーマットバラエティを作っていきたい

── 3月末日にテレビ東京を退職されたばかりですが、今の時代の空気と佐久間さんがフリーになったことがすごく符合しているような感じがしました。

佐久間 周囲の人にも、辞めることを伝えたら「ジャストタイミングじゃない?」と言われました。自分ではそんなに意識していなかったんですけど、ディレクターとしてテレビ東京に対してある程度の実績を残してきて、同時に社外の人に仕事したいと思ってもらえるキャラクターもできあがってきた時期で。会社を裏切る辞め方もしていないし、メディアの環境的なことも考えて、テレビ以外にも色々製作できる時代になったという意味でも、ベストじゃないかって。

テレビ東京に居続けたら出世して役員を目指すべきなのだろうけど、僕自身はずっと現場で働きたいんです。それから、テレビ東京の社員の立場では受けられなかった仕事をやりたかったという部分もありますね。

── テレビ東京ではできない仕事とは、どんなことでしょう?

佐久間 この4月はたまたまドラマをやらせてもらっていますが、今後はバラエティもドラマも両方やっていきたいんです。テレビ局のセグメントの中ではそれが難しいので。今まで温めていたけどなかなかできなかったバラエティや映画の企画もやりたいし、世界各国で制作・放映できるフォーマットバラエティも作っていくつもりです。

今、テレビ業界は大きな過渡期にありますが、色々な場所で仕事ができるようになって全体の風通しも良くなってきています。You Tubeや配信、地上波などさまざまなメディアを横断的に繋げていくことも可能になっている。だから「佐久間が知り合いだからやろう」とかってことがきっかけで、テレビ東京ではできないヒット作を作ったり、その人脈を局まで繋ぐことができたら、一番の恩返しになるかなと思っています。
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好きなことをやるために会社を儲けさせる必要があるってことは常に考えてきた

── 常に“自分より相手”という佐久間さんの信条のようなものを感じます。円満退社かつ、番組プロデュースも継続されるということで話題になっていますが、そうした佐久間さんの姿勢がテレビ東京に伝わっているんですね。

佐久間 はい。どんな人と仕事する時も「自分が利用するだけにならないようにしよう」ということは決めています。例えば、新人芸人に本人たちが望まないことを無理に押し付けないとか。自分と相手の両方に得があるようにしたいんです。

それから、楽しい現場が大事。楽しいといっても、和気あいあいっていうだけの意味じゃないから難しいですが……。というのも、僕が20年ぐらい前にテレビ東京に入社した頃は、信じられないくらいパワハラ、セクハラが横行している現場もあったんです。最初は我慢していたけど、「やっぱりおかしい、一人ずつ抹殺していこう!」と決めたんです(笑)。あいつはダメだからって追い出したり、他の番組でハラスメントに遭ってる後輩がいたら自分のチームに引き取ったりして。

その時に「パワハラする奴よりも絶対いい番組作ってやろう!」って心に決めました。これ、カッコつけすぎなのであまり言いたくないんだけど……(笑)。もちろん、僕の見えないところで何か問題があって見逃している可能性はあるので、完璧とは言えませんが。
── いろんな部分で会社に貢献されてきたわけですね。

佐久間 僕は、プロデューサーとディレクターを兼任していますが、プロデューサーはあまり向いてなくて。テレ東のようなバジェットの小さい局では、プロデューサーとしてチーム編成や予算管理を握ることで、ディレクター業務もやりやすくなるんです。

それと同じで、僕自身サラリーマンとしての偏差値がすごく高いとは思ってないし、偉くなりたかったわけでもないですが、「好きなことをやるために会社を儲けさせる必要がある」ってことは常に考えてきました。ただ好きなことをやりたいだけの人間ではなかったと思います。

それに、その方が話が早いんです。例えば、『ゴッドタン』はテイストを変えたくないから深夜枠のままがいい、となったらスポンサーが必要になるから見つけてくる、それとDVDを作るなどマネタイズを先んじてやる、とか。「結果を残すことで誰にも文句を言わせない」ということは、常に考えていました。そこは会社を利用している側面もあるし、会社に僕を利用させたって側面もありますね。

── 会社と対等でフラットな関係性を築かれてきたんですね。なかなかできることではないと思います。

佐久間 それなりに対等でやってこれたので、会社を辞める時も揉めることなく、番組継続の話も頂けたと思います。まだこいつを雇っておいた方が得だな、って思ってもらうことができた(笑)。

ただ、本当にテレ東の懐は深いんですよ。もちろん合わなくて辞めた人もたくさんいるし、組織である以上、会社すべてをオールグリーンとは言えないですけれど、向き合い方と順序をきちんとすれば、フェアに接してくれる組織だなと思います。
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彼らがもっている違和感を“腐り”として見せることが、多くの人に響くんじゃないか

── 佐久間さんは、才能の発掘が得意という世間の評価があります。ご自身ではどう考えていますか?

佐久間 三四郎やEXITは、たまたま自分が面白いと思って最初に番組に出てもらっただけで、放っておいても売れたと思います。だから、僕が発掘したとは思ってなくて。おぎやはぎや劇団ひとり、バナナマンも、彼らが売れる少し前にちょうど自分もディレクターを始めて、一緒にやってきたという感じがあるけれど、彼らが売れたのだって僕がきっかけではないですから。

芸人って時代の先を行く思考を持っていると思っています。一方、僕らは凡人なので、その思考に少し補助線を引いてあげて、「ここが面白いんですよ」ってわかりやすいように作ることが役割だと思います。

── 東京03の「飯塚大好き芸人」やハライチ岩井さんの「腐れ芸人」なども、佐久間さんならではの視点ですよね。
佐久間 東京03は、放送作家のオークラさんの紹介で単独ライブを見たのが最初でした。こんなに面白いのに無名なの!? って、衝撃を受けたんです。彼らはテレビバラエティが得意じゃないけれど、こういう人たちが一生食っていけた方がいいよねってオークラさんと話して、その一助になれるように演出を考えました。

「飯塚大好き芸人」(※1)は、テレビ朝日の加地さん(※2)と千鳥、若林くんと飲んでる時に思いついたんです(笑)。東京03は、自分の価値観に対して誠実だからこそ、どこかパンクさのようなものももっていて。誠実だからできないことはできないって言うし、だから多分ニュースのコメンテーターとかもやらない。メインストリームみたいなところに自分を置かないんです。そういう意味で、彼らにしかできないお笑いがたくさんあるなと思ってます。
(※1:番組『雨上がり決死隊のトーク番組アメトーーク!』内の企画。※2:同番組のエグゼクティブ・プロデューサーの加地倫三さん。)
「腐り芸人」は、彼らの中の世の中に対する見方の面白さを何かで括れないかなと考えて思いついたキーワード。ただ、“腐り”ってこっちが勝手に言っているだけで、彼らは別に自分の見方が腐ってるとは思ってない。だからこそ正義だし、面白いんですよね。自分の考えが世の中と合わなくて悩んでいる人って他にもきっといるし、彼らのそういう違和感を腐りとして見せることが、多くの人に響くのでは、と考えたのがきっかけでした。
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「傷つけないものなんてない」ってことに自覚的になれるかどうか

── 最後に、佐久間さんが今の時代に「いいオトコ」だと思うのはどんな人ですか?

佐久間 この時代に、ブレないとか言っている人は信用できないですね。カリスマ性を高めるために言ってるんでしょ、って思っちゃいます。僕としては、「ちゃんと悩んでる人」が一番魅力的だなと感じます。自分のことも疑って、悩み続けている人の方が信用できるし、カッコいい。

オードリーの若林くんなんか、まさにそうで。自分のことも疑って、世の中の価値観も信じすぎないで疑っている。藤井 隆さんも、すごく時代の心理をついている人だと感じます。初めはおかま風の笑われるキャラだったけど、いつからかこれで傷つく人がいるかもしれないとか、コンプラ的に難しくなった意味を考えて、一度お笑いから一線引いてドラマの仕事を増やした時期とかもあって。藤井さんも誠実だから、いろんなことを考えながら活動されてます。本人はきっと大変だろうけど、僕はそういう人に惹かれるし、そういう人が作るものを見たいなって思います。

── 考え続けることが大切なんですね。お笑いは色々な意味で、一番難しいジャンルではないでしょうか。

佐久間 小説家の西 加奈子さんが言っていたんですが、「傷つけない表現や、傷つけない笑いなんてない」んです。何かを笑うってことは、何かをバカにしていることでもあるから。だからこそ、傷つけないものなんてないってことに自覚的になれるかどうかが大切。考えるのをやめるのが一番ダメですよね。

僕自身も毎週、「この表現は笑いと傷つきどっちが多いのかな」って考え続けています。社会的にも、そういう遊びを受け入れる度量がなくなってきているし、騙されているってことにもすごく敏感だからステマとかって批判も出る。だから「これはPRで、こういう気持ちで仕掛けてる」「製作側はこういう気持ちで作ってる」って今の時代はハッキリ言っちゃった方がいいのかもしれないと考えたりもします。

例えば、映画監督って制作の裏側の話を当たり前のようにするじゃないですか。そして、それに対して誰も冷めたりしない。業界の常識だから誰も違和感を抱かないだけなんですよね。そういう常識についても改めて考えていきたいし、だから、今日のようなインタビューも包み隠さず話させてもらいました(笑)。

● 佐久間宣行(さくま・のぶゆき)

1975年、福島県生まれ。99年、テレビ東京入社。『ゴッドタン』『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』といった人気番組を手掛ける。在社中からニッポン放送『オールナイトニッポン0』のパーソナリティとしても活躍。2021年3月に退社しフリーランスとして活動中。
Twitter/@nobrock

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